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>HOME >2006 2005/12/15 大津市人権啓発誌 葛城 貞三(NPO法人滋賀県難病連絡協議会) 2005年9月27日の介護メモから 2005年9月27日(火)午前4時、意思伝達装置(伝の心)の緊急音に起こされる。一字一字かすかに動く左人差し指、中指、薬指の3本で打たれた「したべるとひだり」を「下ベルト左」と読み取り、鼻マスク式人工呼吸器(バイパップ)を支えているベルトを左にほんの少し移動したとたん、苦痛に顔をゆがめながらフアーフアー言って怒る。『そんなこと言ってもあかん。自分の意思を介護者に分かるように!』と語気を荒く言ってしまう。「ばいぱっぷひだりしたべるとも」との再度のメッセージに、鼻マスクとベルトを一緒にほんの少し左に動かしたら、やっと落ち着いてくれた。続いて「あつい」「みぎあしまっすぐ」「ひだりみみのばす」「ありがとうおわり」等のメッセージにサービスを提供し、横になったとたんまだ伝の心を打つ音がするではありませんか。「ふとんかえて」「みぎあしまっすぐ」「さんきゅう」やっと横になったのが午前4時45分。 Yさんは2002年1月筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しました。病名が確定したのは翌2003年2月です。この病気は10万人に2〜3人が発症、手足の筋肉が萎縮し、数年で四肢麻痺となり、球麻痺や嚥下困難を来たし、言葉も発せられなくなります。やがて呼吸もできなくなります。気管切開をして人工呼吸器をつけないと生きられません。何回も痰の吸引が必要になってきます。感覚や知能に障害は無いため、四肢の違和感、しびれ感、関節の痛みを強く感じるため、これを和らげるため細かな体位変換や枕の位置、手足の位置等々24時間の介護が必要です。 今日本には7000人余の患者が居られます。そのうち7割は気管切開をせず、人工呼吸器も付けないで緩和ケアが行われ、3割の患者は気管切開をして、人工呼吸器を付けて生活をされています。 Yさんは一分一秒でも生きたい。そして孫の行く末を見てやりたいといっています。79歳の夫との二人暮らしです。その夫もヘルパーさんに来てもらっての生活の身です。主たる介護者は夫です。病状の進行に伴い近い将来呼吸困難になるでしょう。そのときには、Yさんが一分一秒でも生きたいと望むように、気管切開をして、人工呼吸器も装着して、孫の成長を見せてあげたいのです。Yさん自身が望む人生を送らせてあげたいのです。 しかし、無条件に患者本人の意思を実現することが困難な現実があります。何故か。 多くの医師は患者本人の意思もさることながら、家族の意思に耳を傾ける現実があります。何故かと言いますと在宅療養を希望しても、家族介護が主で、24時間の介護サービスを保障できる制度がなく、社会資源も不足しています。また、ALSに限りませんが、重症の難病患者が長期に入院できる病院も施設も無いからです。呼吸困難に陥った時、気管切開や人工呼吸器を選択しないということは、死を意味します。 生きる手段があり、それを患者本人が望んでいるのに、それが保障されないというのは「人権侵害」や「人権蹂躙」といえないでしょうか。「人権蹂躙」を広辞苑で引いてみました。「国家権力が憲法の保障する基本的人権を侵犯すること。」と書かれています。日本国憲法には生存権として第25条に「全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は全ての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と謳われています。 この世に生を受けた人間は人生を全うするまで生きる権利が保障されてこそ近代国家と言えるのではないかと思います。足を骨折すれば松葉杖をつき、脊椎を損傷すれば車椅子を使用するように、ALS患者が球麻痺となれば気管切開をして、人工呼吸器を付けることが普通になされてこそ、生きる権利を保障したことになるのではないでしょうか。 この世に最も尊いものは命だと思います。どのようなことがあっても命は大切に扱われなければなりません。滋賀には「この子らを世の光に」とおっしゃった糸賀一雄先生の発達保障の思想が脈々と流れています。今こそ、「難病患者を世の光に」を全国に先駆けて、この滋賀県で花咲かせたいものです。 (参考) 厚生労働省が難病の治療研究をしているのは121疾患です。実際に難病は三百とも五百とも言われています。医療機関で『あなたは○○という難病です。治療方法も原因も分かっていません』と告げられたら、どのようにされますか。多くの難病患者さんはおっしゃいます。『目の前が真っ暗になり、愕然として、大きなショックを受ける』と。『何故、私が、何をしたというの』と。何時、誰が罹るか分かりません。そうした時に、何時でも、何でも相談できる、仮称「難病相談支援センター」が必要と考えます。2005年3月末で、まだ設置されていない府県が16あります。滋賀県もそのうちの一つです。私ども難病患者の患者会「NPO法人滋賀県難病連絡協議会」は滋賀県に一日も早い設置を願って要望し続けています。 UP:20070119 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/2005/1215kt.htm ◇葛城 貞三 |