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ブレア政権の労働政策に関するメモ



■伊藤大一20030600「イギリスにおける「アンダークラス」の形成」

◆「以上述べてきたように,現在のイギリスにおいてはこれまでの「労働者階級」像から大きく異なった「アンダークラス」をめぐる議論が盛んに行われてい る。「アンダークラス」をめぐる議論では,各論者によって,「アンダークラス」の対象もその規定も異なる。しかしブレア政権の雇用政策との関わりで述べる ならば,「アンダークラス」とは1980年代以降現れた若年失業者,長期失業者が身につけている新たな特徴をめぐる議論であるといえる。この特徴とは,各 論者によって強調する側面が異なるが,「リテラシー」「ニューメラシー」などの基本技能が欠如している点,就労意欲を欠き長期間社会保障制度の中に固定化 している点,そして彼らがこれまでの「労働者階級」像とは異なる価値観(values)や諸活動(activities)を身につけている点である。この ような特徴を持つ若年失業者,長期失業者が増大したために,ブレア政権は基本技能の習得や労働経験を強調するニューディールを,政権の「中核政策」として 実施せざるを得なかったのである。」(p.7)





■伊藤大一20030800「ブレア政権における若年雇用政策の展開」

◆「よく知られているように,ブレア政権の金融政策は,保守党政権の政策を引き継ぎ,インフレ抑制を第一義的な目的にしている。だが,現在のイギリス労働 市場は,失業率約5%程度と,非常に良好な状態を示すと同時に,労働力需給関係は逼迫した状態にあり,賃金上昇圧力が増しているはずである。しかし,これ ほど良好な労働市場を誇りながら,この好景気においても賃金上昇がほとんどみられないという現状はイギリスでも議論となっている。賃金インフレの発生を防 ぎ,マクロ経済の安定と発展のための手段として,ニューディールは位置付いているのである。つまりニューディールは,労働供給を増大させ,賃金上昇圧力を 緩和させるための手段としての役割も持たされているのである。」(p.8)

◆「ブレア政権のもとで実施された最低賃金制度の再構築は,メイジャー政権時に廃止された最低賃金制度を「復活」させたものとして,またこの最低賃金制度 は,保守党政権が受け入れを拒み続けた欧州検証受託によって導入されたという経緯からブレア政権の独自性を示す政策として注目を集めた。
 最低賃金制度は,一般に賃金水準を下支えし,その上昇をもたらす効果があるとされており,また確かに,ブレア政権が導入した最低賃金制度は,全労働者の 約4.5%にあたる,約130万人の労働者に正の効果を与えているとされている。しかし,この最低賃金の導入は低賃金層の賃金水準に正の効果を齎したばか りではなく,パートタイマーなどの不安定雇用を積極的に作り出したのである。」(p.9)

◆「このようにブレア政権の諸政策は,失業者や長期的に社会保障制度に固定化している階層を,低賃金パートタイマーなどの不安定就労層として,労働市場へ 参加させることを基本としている。確かに,「有給雇用=社会的参加=完全な市民」という構図のもとにおいて,ニューディールをはじめとするこれらの諸政策 は,労働市場から長期間離れ,また一度も労働市場に参入したこともない階層に対して,就労経験を積ませ,労働規律を身につけさせ,次の就労への可能性を広 げるという側面を持つ。しかし,労働市場の分極化を前提とするとき,この構図は,あくまでも短期的な就労と失業を繰り返す不安定雇用層として「社会的参 加」を実現し,その範囲内で「完全な市民」として認められるということになる。つまり,ブレア政権の若年雇用政策は,欧州委員会において議論されていた内 容を一定含みつつも,その基軸はあくまでも,若年失業者や非労働力化している階層を,不安定就労として活用する新自由主義的な政策なのである。」 (p.10)





■小玉徹・中村健吾・都留民子・平川茂20030210『欧米のホームレス問題(上) ―実態と政策―』法律文化社

◆「1997年,ブレア首相は内閣直属の社会的排除対策室を設立,これまで各省が個別に対応し効果があがらなかったこの問題に各省の関係者が共同で取り組 むことになった。同対策室が最初にその課題としたのは野宿者問題である。ブレア首相は「みずから好んで野宿しているものはわずか5%にすぎない。いった ん野宿にいたると彼らが抱える諸問題への対応が困難になるばかりか,仕事と家庭生活への夢も遠のいてしまう」と明言,“ノー・ホーム,ノー・ジョブ”のサ イクルを断ち切り,野宿者を社会復帰させる具体的な対策を同対策室に要求した。これによって野宿者を含めた失業者の就労をサポートするプログラム (ニュー・ディール)がスタートした。」(p.52)





■渋谷望20031025『魂の労働 ネオリベラリズムの権力論』青土社

◆「ニュー・レイバーのコミュニタリアニズムの本質をよく物語っているのが、「ウェルフェア・トゥ・ワーク」と呼ばれる雇用政策である。このヴィジョンは 失業手当を条件付権利として再構成する。つまり、失業者に対して、「求職活動」や「職業訓練」の義務と引き換えに失業手当を受ける権利を与えるのである。 これによって、いわゆる「市場原理」と「セイフティ・ネット」の二重構造を前提とする社会保障を、かつてのベヴァリッジ・プランにおいてそうであったよう な、一方における能動性、他方における受動性という両者の対抗関係として構想することはもはや不可能となる。このヴィジョンはセイフティ・ネットを資格 化、条件化することによって、それを限りなく市場原理に近づけようとする。」(p.51〜52)





■樋口明彦2004「現代社会における社会的排除のメカニズム――積極的労働市場政策の内在的ジレンマをめぐって」

◆「(…)一時雇用,研修,職業訓練という非正規雇用を何度も繰り返す失業者にとって,労働倫理は脆弱な状態にある.そのため個人の就業能力向上を目的と したイギリスのワークフェア政策では,労働に対する動機づけが道徳的観点から要請され,失業の原因を個人の責任能力や行為能力に帰責する傾向が強くなって いる.ワークフェア政策とは,賃労働を要求する雇用政策とアンダークラス論に端的に見られるように,福祉制度に過度に依存する人々への道徳的非難が組み合 わさった体制とみなすことができる.(…)」(p.9)





■アジット・S・バラ/フレデリック・ラペール20050420『グローバル化と社会的排除』昭和堂

◆「@ 社会的排除対策室は,(a)社会的排除の主な特徴とそれに対する政府の政策の影響について理解を深めること,(b)解決策を推進し,政策,組織, あるいは実施のメカニズムを変えるための提言をすることを目的としている。その活動の最初の1年間における3つの優先事項は,(1)不登校を減らすこと, (2)街や都市における野宿者の数を減らす,あるいはなくすこと,(3)犯罪,麻薬,失業,コミュニティの衰退,学校の荒廃などをふくめて,最悪の住宅団 地がかかえている諸問題への総合的なアプローチを開発すること,であった。1997年12月8日の就任演説で,トニー・ブレア首相は,イギリスの刷新にか かわる中心的なテーマを次のように強調した。「イギリスは,ひとつのまとまった国として再建されるのだ。その中では,1人ひとりの市民が尊重され,各々の 役割を担う。その中では,誰も自分の潜在力を開花させるための機会から排除されることはない。その中で,私たちはもう1度,社会的な分裂と不平等に取り組 むことを私たちの国民的な課題に掲げるのだ」(ロンドン南部のストックウェル・パーク・スクールにおける1997年12月8日の演説)。社会的排除対策室 は,さまざまな省(環境,運輸・地域,社会保障,教育・雇用,保健,内務,通商・産業,財務)の大臣のネットワークによって構成されている。対策室は,外 部の専門知識や調査を広範囲にわたって活用するとともに,関連した外部のネットワークにもつながっている。これは,排除に取り組んだ経験を有している地方 自治体,企業,ボランティア団体やその他の団体または個人から意見を聴取するためである。」(p.153)





■(社)部落解放・人権研究所編20050425『排除される若者たち』解放出版社

◆「ここまで「学校をつくりかえる」方向について指摘してきた。その重要性と同時に、そうした方策がはらむ危険性についても言及しておかねばならない。
 学力面の重視については、そうした志向が被排除層をさらに疎外してしまう危険性を指摘できる。イギリスでは学校ごとに成績が公表され親の学校選択がそれ にもとづいてなされているが、そうした競争的環境のもとでは、学習面生活面で困難を抱えた子どもを厄介者として学校・教師が扱う事例が指摘されている。 「低学力」が不安視され親の「学校選択」も導入され始めた日本において、同様の事態が生じることが十分に予想される。困難を抱えた「しんどい」層の子ども に学力をつけることを主眼においた「効果のある学校」研究と実践が日本でも積極的に取り組まれる必要があるだろう(鍋島,2003b)。」(p.208)






■参考文献
◇伊藤大一20030800「ブレア政権による若年雇用政策の展開 若年失業者をめぐる国際的な議論との関連で」『立命館経済学』52-3
 http://ritsumeikeizai.koj.jp/all/all_frame.html?stage=2&file= 52303.pdf
◇伊藤大一20030600「イギリスにおける「アンダークラス」の形成」『立命館経済学』52-2
 http://ritsumeikeizai.koj.jp/all/all_frame.html?stage=2&file= 52204.pdf
◇小玉徹・中村健吾・都留民子・平川茂編著20030210『欧米のホームレス問題(上) ―実態と政策―』法律文化社
◇渋谷望20031025『魂の労働 ネオリベラリズムの権力論』青土社
◇Bhalla, A.S., Lapeyre, F., 2004 “POVERTY AND EXCLUSION IN A GLOBAL WORLD, 2nd edition”, Macmillan Publishers Limited
=福原宏幸・中村健吾監訳20050420『グローバル化と社会的排除 ――貧困と社会問題への新しいアプローチ――』昭和堂
◇樋口明彦2004「現代社会における社会的排除のメカニズム――積極的労働市場政策の内在的ジレンマをめぐって」『社会学評論』217: 2-18
 http: //slowlearner.oops.jp/paperarchives/higuchi_akihiko_social_exclusion_2004.pdf
◇(社)部落解放・人権研究所編20050425『排除される若者たち』解放出版社



製作:橋口昌治 UP:20051114
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