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クリストファー・ピアソン『曲がり角にきた福祉国家――福祉の新政治経済学』田中浩・神谷直樹訳、未来社


Pierson, Christopher, 1991, Beyond the Welfare State?: The New Political Economy of Welfare, Cambridge: Polity Press(=19960229,田中浩・神谷直樹訳『曲がり角にきた福祉国家―福祉の新政治経済学』未来社). 435p ASIN: 4624300890, [amazon]


*序論、第一章、第二章、第五章、第六章を小林が、第三章、第四章を山本が担当。


目次

序論
第一章 資本主義、社会民主主義と福祉国家(1)―産業主義、近代化と社会民主主義
第二章 資本主義、社会民主主義と福祉国家(2)―政治経済学と福祉国家
第三章 資本主義、社会民主主義と福祉国家(3)―新しい社会運動と福祉国家
第四章 福祉国家の起源と発展 1880年〜1975年
第五章 先進福祉国家における矛盾と危機
第六章 福祉国家は曲がり角にきたか?
結論 福祉国家の擁護




序論


・「戦後の[福祉国家にむけての国民的]コンセンサス」→異議申し立てと「福祉国家の危機」→「先進資本主義社会が、ある意味で福祉国家[の限界]を乗り越えるような社会的・政治的体制へとみずからを移行させる再編過程の途上にある」という主張

・この主張の検証と評価、社会民主主義と福祉国家の関係と変化

命題1 福祉国家は、長期的には、健全な市場経済とは両立しえない。ただ、戦後期における経済成長を可能にした例外的に良好な環境のみが、経済成長と福祉国家の拡大とを同時に許容したにすぎない。国際経済の諸条件が変化した現在、政治的右派がこの[命題1の]ように主張するときには、経済成長は、経済の活力をそぐ福祉国家の浪費をきびしく削減することをつうじてしか回復されないという意味がこめられている。他方、左派がこのように主張するときには、福祉国家の理念のなかにふくまれる福祉目標は、社会主義にむけての社会変革によってしかかなえることができないという意味がこめられているのである。

命題4 戦後の福祉国家は、資本の諸力および利益と、組織された労働の諸力および利益とのあいだの「歴史的妥協」を意味した。かつて、福祉国家の諸政策は、どちらの利益にもかなったが、いまやそれは、どちらにとってもますます魅力のないものとなっており、やがて双方の陣営内で、福祉国家政策への支持が減少していく可能性がある。こうした環境のもとで、現代に社会民主主義運動にとっての唯一の適切な戦略は、かつてケインズ主義的福祉国家にかんする(暫定的な)妥協のさいに「保留した」、投資機能の社会化*というみずからの伝統的公約を復活させることである。

* ここでいう「投資機能の社会化」とは、具体的には,基幹産業の公有化、労働組合の経営参加、消費生活協同組合の活動、私企業にたいする政府の統制などの手段をつうじて、投資機能を公共的な目的に従属させていくことを意味する。その場合の目的について、トーニーは、「生産的な仕事をしている人びとを、金銭的利得[不労所得]のことしか考えていない人びとの統制から解放することである。それはまた、かれらが、自由にそのエネルギーを産業の真の目的に充用しうるためであり、産業の目的とは諸サービスの提供であって配当金の供給ではない」と述べている。



第一章―資本主義、社会民主主義と福祉国家―T―産業主義、近代化と民主主義


・資本主義 「私有にもとづく商品の生産と交換を基礎とした経済的(かつ社会的)システム
・社会民主主義 「先進資本主義経済において、労働者を組織することによって利益の増進を求める、改良主義者の主張を基礎とした、政治運動、イデオロギー、およびその実践」
・福祉=社会福祉、経済的福祉、国家による福祉
・福祉国家=資本主義のもとにある福祉国家を社会の独特な一類型という意味でとらえ、生活上の機会を、個人対個人のあいだにせよ、階級対階級のあいだにせよ、再分配するために、国家が経済的再生産と分配の過程に介入する社会

■福祉国家と両立しない資本主義:マルクス
・「資本主義のもとにある国家は、社会的諸関係の再生産に介入することはできるが、(1)資本主義の論理を根底からくつがえすようなやり方で、市場経済に介入したり、(2)資本家階級の長期的な利益に反するような行動をとることはできない。資本主義のもとでの国家は、制度上どのような形態をとっていようと(たとえそれが、社会民主主義権力の統治下にあろうとも)、本質的には資本主義的な国家にすぎない。マルクスにとって、広範な労働者人口の真の福祉を確保し、かれらが真に必要とするものを明確にすることは、資本主義的な経済構造とは、絶対に相容れないものであった。」

■資本主義と福祉国家:共生と補完
・19世紀末の先進資本主義社会の構造の根底的変化→「福祉国家と資本主義とが共生の関係にあるという論理」が定説に
・「産業主義の論理」:「介入主義的な国家が台頭し、自由主義的資本主義の『ゆきすぎ』を抑制するようになったのは、産業社会の発展が生みだした新たな『必要』に対応した結果」[福祉]供給を社会事業や家庭生活をつうじておこなってきたそれまでの伝統的[生活]形態の崩壊などなど(p38)


テーゼ1 福祉国家は、産業社会の発展によって生じた必要の産物である。


■コメンタリー:産業主義のテーゼ
・セルボーン すべての発展した産業社会(資本主義社会だけでなく)が必然的にとるべき国家形態としての「福祉国家の、現代的普遍性」。「労働力の再生産を確保するという点での市場の失敗」から必然的に発生
・反論
人びとが公共財にたいする「ニーズ」の変化を認識しさえすれば、そうした必要にみあった新しい制度を発展させていく、という仮説は誤っている。
「潜在的な公共財の必要が新たに認識されるとすると、なぜ福祉の供給について、なんらの問題も提起されずに(その限度もきめずに)継続されるようになるのかということが明らかにされていない。公共選択理論は、ひとつの公共財が供給されることが社会のあらゆる成員の利益となるとしても、そのような公共財が生産される保証はないということを明らかにしている。」
「国民最低基準」や「社会的市民権」といった福祉国家制度の隆盛を可能にした政治的・歴史的なアクターについて明らかにしてない。


■近代化と福祉国家
・産業主義のテーゼ+[普通選挙権の確立による大衆民主主義の興隆という]政治的な視点
・政治的組織化は、組織労働者の階級的野心というよりは、完全な市民権を求めて自然に生じた現象
・形成期の福祉国家による社会保障は、労働者階級の政治的成功を意味するだけではなく、労働者階級が、階級的立場からの政治的行動を強めようとする要求を弱体化させるものでもある
・T・H・マーシャル 近代化過程=市民の諸権利の拡大の歴史であり、市民という地位を与えられた人びとの増大 市民的権利→政治的権利→社会的権利 政治的権利(おもに選挙権の拡大)→労働者階級への参政権付与→社会民主主義的大衆政党の勃興
・福祉国家の登場 広い意味での社会民主主義のあと押しのもとで、拡大した政治的市民権が行使された結果


テーゼ2 福祉国家は、産業化という状況において、完全な市民権の獲得を目的として成功した、政治的組織化の産物である。


■伝統的社会民主主義と福祉国家
・伝統的な立場の特徴
@社会民主主義者は、資本主義の誕生により、生成期の労働者階級が過酷かつ抑圧的な影響をこうむったことを認めるいっぽうで、資本主義のさらなる発展が労働者階級の相対的な地位を決定的に低下させた、というマルクス主義者の批判的主張を認めない。・・・自由な資本主義のゆきすぎがもたらす不公平な状態は、立法的措置により、すなわちますます介入主義的になる「社会国家」により、抑圧されてきた。
A階級構造は両極化せず、拡散し階層分化がすすんだ。資本の所有権と実際上の管理との分離がすすみ、階級としての資本の力は弱められた。同時に、国家による介入主義が拡大したことにより、労働社階級の地位が向上したばかりか、公的な雇用部門が創設され拡大することになり、ますます市場の論理が排除され、そのことが階級構造をさらに複雑にし分化を促進した。
Bより一層の社会的進歩は、経済成長が持続的に増進されることによってのみ達成可能
C議会制大衆民主主義の勝利が決定的に重要。産業[資本]の所有者の経済的な力の減少と選挙によって成立する政府の政治的な力の増大とのあいだで社会勢力の均衡が生じる。

・斬新的な変革 労働者階級の政治的および産業的大衆組織により、国家の民主主義的な管理の確保→そのような国家権力によって社会的および経済的変革が達成される。「社会国家」(福祉国家)は、斬新的変革の政治戦略遂行のための主軸となるメカニズム

■社会民主主義とケインズ主義的福祉国家の到来
・社会民主主義のジレンマ 「どのようにして経済を支配する私的資本と対立することなく、社会民主主義の広範な支持層のために改革をおこない、社会主義へむけての長期的な展望をもちつづけるか」
・ケインズ主義の「管理された資本主義」
・「趨勢は、マルクス主義的社会主義の"生産手段"の国有化とは対照的に、"消費の国有化"のほうにむかいつつある」(バートヒル・オーリン)


テーゼ3 福祉国家は産業的・政治的動員の産物である。福祉国家はまた、資本主義の斬新的な変革を目的とする社会民主主義の政治的な計画の成功をあらわしている。


■権力資源モデル
・先進資本主義社会における経済的な力の行使と政治的なそれとをはっきり区別することで、しばしば市場[における階級関係]と政治[における階級関係]とを対比的にあつかう
・経済:決定的な権力資源=資本財的資産のコントロール、メカニズム=(賃労働)契約、受益者=資本家階級 政治:権力は数の大きさから生じ、民主主義的過程をつうじて動因、「数の上で大きな集団」とくに組織された労働者階級に有利にはたらく
・先進資本主義の[資本化団体と労働組合とのあいだの]制度化された権力闘争は、市場の論理と政治の論理とのあいだの闘争としてよりよく理解できる。「この市場と政治との緊張が、社会的市民権や福祉国家の発展に反映されるであろう」
・社会民主主義左派
@「福祉国家は、労働者組織と、労働者政党の政治的支配の産物」
Aそれは「それゆえ社会主義への第一歩を意味」 民主主義、社会民主主義正統、福祉国家などが実現しても、先進資本主義社会の社会的政治的性格は変わらない。福祉国家の名のもとの労使間の妥協はたとえどんなに長くつづいたとしても、本質的には一時的なもの。


テーゼ4 福祉国家は、社会民主主義の政治的力と資本の経済的力との闘争の産物である。社会民主主義のヘゲモニーのもとで福祉国家がさらに発展すれば、資本主義から社会主義への斬新的な移行が可能となる。


■コメンタリー:近代化・社会民主主義・労働者階級の[政治的]力量
・福祉国家の発展の原因 政治的要因vs[たんに経済的要因のみにその原因を求めようとする]産業主義の主張
・「いかにして政治のあり方が影響を及ぼすのか」 社民の政治的影響力、右派[保守]政党の脆弱さ、カトリック政党の政権保持期間・・・
・批判
@「階級政治の必要性をなくすような、階級政治」などというのは幻想
B「階級」概念にもとづく分析は粗雑。労働者間の利害対立(限定的な福祉、年金の拠出制か無拠出制か)や使用者間の対立(資本集約的な大資本の雇用主、労働集約的な資本の雇用主)
・市民権の本質への異議
・ケインズ主義の破綻 「市民権のたんなる普遍化とか合意の実現とかという観点よりも、それがいかに多くのさまざまな社会的成員を同時に満足させることができるかという観点からのほうが、より的確な理解をえることができる」
・福祉国家の政策=社会民主主義の基本的な支持者たち、つまり(広義の)労働者階級全体の利益を保障する。なぜなら福祉国家政策は、労働者を、市場の原理から保護しているという点で、市場に対抗するものだから。しかし、多くの福祉国家の政策、とくに初期福祉国家の社会政策は、市場に対抗的なものではなく、市場に味方していた(p76)
・「権力資源」モデルによる説明と問題 素朴な進歩主義は退けるが「労働者の利害を等質なものとみる仮定や、労働者階級の人口比率が、かならず高まっていくという仮定、また労働者による組合運動に直面して、資本主義的権力が弱体化するといった仮定」
・社民への批判
@階級政治に力点をおく偏った見方(利益集団や「社会的・職業的地位に帰属する」集団や国家機構の影響力の見落とし)
Aジェンダー、「民族」差別の認識の欠如
B[福祉国家]は本質的に、資本の利益のために労働者に社会的統制を加えるひとつの手段でしかない。



第二章 資本主義、社会民主主義と福祉国家U 政治経済学と福祉国家


・ニュー・ライトとマルクス主義の共通点:福祉国家および福祉資本主義の矛盾(p99)
〜伝統的な社会民主主義社が想定する「安定状態[steady-state]」の福祉資本主義を擁護することはできない。
前者:「民主主義および社会主義のゆきすぎ」
後者:「資本主義の矛盾」

cf:ミリバンド―プーランツァス論争(p102)
前者:「道具主義」〜国家エリートと資本家階級のインターパーソナルな関係の分析に力点をおいて国家の階級性を論証
後者:「構造主義」〜ブルジョア階級と国家との関係は客観的な関係があり、国家装置への支配階級の参加は原因ではなく結果であると反論。国家は社会構成体のレベルにおける凝集性の要素をなすという特殊な機能をもち、資本家階級の組織化と労働者階級の非組織化とうすぐれて政治的な役割ははたすとした。

・国家による手当支給行政 → (中堅クラスの)役人に大幅な自由裁量権や、調査権、決定権をもたせる
ex ピヴンとクロワード
「アメリカでの福祉手当て支給の目的は、いつも"貧困者の行動を規制する"ことにあった。すなわち、国家が福祉施設に力を入れるばあいというのは、(大衆がそれを必要としているからというよりは)むしろ大衆が既成の秩序に反抗的な行動を示すときなのである。しかし、ひとたび既成秩序の崩壊という[政府にとっての]直接的な脅威がなくなると、政府は、[福祉手当ての]受給者にたいし、(かれらを福祉対象者のリストからはずすことによって)労働しようの締め付けを、ふたたびきびしくする。」(p108)

・1935年 国家の救済措置 ≠ 広範囲にわたる経済的困窮への対応
              = 政情不安の高まりへの対応

・「国家の福祉政策が、公的扶助ではなく、むしろ社会保険を基礎として導入された国では、(限定された範囲であるにせよ)公的福祉を受ける権利もまた確立された」(p111)

・ゴフ(『福祉国家の経済学』) 福祉国家=「資本主義社会において、労働力の再生産を調整し、非労働力人口を維持するための国家権力の行使」 福祉国家の矛盾=「社会福祉を増進して、個人の能力発達させ、市場における無秩序な活動にたいして社会的統制をおこなう傾向と、民衆を抑圧し統制して、かれらを資本主義経済の要求に順応させる傾向とを同時にそなえているから」(p114)

・「ますます増大する国家予算の財源を、インフレの昂進やさらに進行する経済の縮小、あるいはその両方を覚悟することなしに調達することは、従来にもまして困難となることは明白である。というのは、福祉国家の財源調達が、資本蓄積にかんして中立的でありうるのは、福祉国家の財源をまかなう租税の全体が、家計部門において負担されるばあいに、換言すれば、租税の圧倒的な部分が広範な労働者階級によって負担されるばあいにかぎられるからである。」(p115)

・福祉国家=「"私有を基礎として調整された"資本主義経済と、このような経済がもたらす危機の誘因を社会的に解決していく(矛盾した)過程を調和させ」ようとする制度的・行政的形態(オッフェからの引用、p116)

・福祉国家の危機管理戦略にとっての主要な問題は、実際には、「資本主義発展の力学が商品という価値形態を無効にする傾向をつねに示すようにみえる」こと、したがって国家の主要な収入源を危険にさらす傾向をつねにもっているようにみえることなのである。オッフェによれば、「資本主義経済の発展は、規制を欠くかぎり(不完全雇用や資本の不完全利用をつうじて)営利的取引の場から、労働力や資本などの生産要素を機構的に排除していく傾向がみられる。」(p119)

・しかし、じっさいには、「行政をつうじての再商品化」は、商品化そのものをそこなうという弱点をもち、脱商品化[decommodification]のプロセスを促進するのである。(p120)

・時代がすすむと、組織化された資本主義=フォーディズムの構造(それは、ある面では、労働者階級が自衛する力を制度的に保障することを意味したから)が、長期的な資本蓄積のための諸条件をくつがえす傾向をもつようになった(p123-4)

・オッフェによれば、福祉国家による[階級間の]調整機能が「疲弊」していった原因は、なによりも、伝統的な階級秩序がくずれ、階級間に確立していた同盟関係が解体してしまったことに求められる。

★「労働戦線の分裂[De-massification]。脱組織的資本主義は、賃金労働者全体のあいだで、生活上の機会[均等を破壊し、そ]の格差を増大させる。もっとも重大な問題は、労働者勢力が、熟練労働者という中心部と、未熟練および半熟練労働者という周辺部へと二分化され、後者が「増大する失業者」の予備軍となっていることであり、これは「福祉国家が提供する[所得]移転やサービスにもっとも切実に依存している人びとが、政治的にはもっとも弱い立場にある」ということを意味している。労働者階級の「中心部」は、恵まれない「余剰階級[surplus class]の物質的な利害を、自分自身の利害とみなす理由を、もはやもちあわせていない。」(p125)

★中間層の福祉国家からの離反
「福祉国家が提供する地位や収入が上昇すればするほど、人びとは、(将来にわたってあてにできるとはかぎらない)国家規制のもとにおかれた[福祉を享受する]特権に固執しなくなり、国家福祉を支持する合理的な動機はじょじょにうすれ、むしろ、民間市場における選択をのぞみ、後者の政策を提示する党派を指示する傾向がしだいに強くなる。」(p126)

・・・・は、個々人のレベルでは、動機づけの危機としてあらわれ、個々人は、資本主義経済が前提としている所有的個人主義[possessive individualism]を基礎にした動機づけにもとづいて行動しなくなった。このような危機が解決されるには、組織化された資本主義が変形されるか、あるいは、「総管理」体制のもとで、個々人にたいする巧みな操作がいちじるしく強化されるか、どちらかによるしかないであろう(ハーバーマスを参照、p128)

・ハーバーマスの「新しい曖昧性」:「福祉国家計画が、生活様式を集団的に改善し危険性を減少させるような、将来の可能性を展望する力を失いつつある、という状況の一端なのである」("The New Obscurity:-" p129)

・「国家には、蓄積過程に直接介入してそれを組織する能力がない、という問題である。それゆえ、ハーバーマスの論じるところによれば、福祉国家が、労働者の利益を確保することに成功すればするほど、その成功を維持させる諸条件、福祉国家が長期間存続しうるための諸条件が、しだいにそこなわれていくことになる。なぜなら、戦後、社会民主主義や「福祉国家党」を支持し、福祉国家の発展によってもっとも恩恵を受けてきた投票者たちは、[経済成長の停滞とともに]自分たちよりも地位に低い落伍者にたいして、しだいに自己防衛的な動きを示すようになる可能性があるからである。」(p130)―「これと同じ論理が、労働組合の場合にあてはまる。つまり、労働組合が完全雇用と賃上げ闘争に成功すれば、その結果、結局は、自らの力と団結をうしなっていくことになる。」(p132)



第三章 資本主義、社会民主主義と福祉国家―V―新しい社会運動と福祉国家


■フェミニズム
家父長制・資本主義という視角からアプローチ。男性と資本の利益のために女性が犠牲にされているという共通点。
◇「利益」とは
労働力の再生産費用の低減、産業予備軍の供給、再生産サービスに安価な労働力を供給

■最近の修正意見
◇家父長制をもっと強調すべき
◇国家以前の男女差別イデオロギーの構造を重視すべき

■フェミニストが明確にしたこと
(1)家庭という、福祉のほとんどがそこでまかなわれる生産と再生産の場としての領域は、伝統的な説明においては一貫して無視されてきたこと
(2)公式に経済統計にあらわれるような福祉サービスや、国家福祉サービスのような、より公的な諸制度は、それらと家族=世帯制度内でなされる福祉サービスとの 関係を無視しては理解されえないこと

■根拠
1 福祉国家による給付により大きく依存しているのは女性である。
年金受給者、低賃金、貧困家庭の世帯主は女性が多数。「貧困の女性化」。
「現実には、社会的・経済的制度自体に根強い性的差別があるため、[これら既存の制度に]「男女差を考慮しない」規則を適用したばあいのほうが、格差のどあいが 大きくなる」という指摘も。
2 女性の家庭内労働に報酬が支払われない。
企業の経済負担を肩代わりするだけでなく、パートタイム労働という形で、都合よく搾取されてもいる。第3に繋がる。
3 安価な労働力資源である。

テーゼ9
福祉国家は、女性の犠牲において、資本と男性の利益を確保する、先進資本主義国家に特徴的な国家形態である。福祉国家は、公式経済統計にあらわれない諸制度[家庭内 分業]あるいは公的給付以外の諸制度に大きく依存しており、女性たちは、そうした諸制度をとおして、ただ働きもしくは低賃金で、福祉サービスを提供させられている。 (139頁)

■反人種差別
フェミニストの批判との類似性がありながらも、独自の視点がある。
民族的マジョリティか国際資本か、という利益を得ている主体の置き方が異なることがあるが、「二重の不利益」を被っているという点で共通している。

1 福祉国家の給付に依存するが、差別的に位置付けられている。根本的に、国家の市民であること(=市民権)が、十全な給付を得る条件となっている。
「福祉国家はつねに、国民にかぎられた市民権を与える、国民だけの制度であった」(161頁)
2 安い労働力の源泉という位置付け。
フェミニストと少なからぬ共通点がある。労働力の再生産コストを引き下げるという点でも共通。違いとして、「黒人女性」などが置かれる状況が典型的。

■根拠(女性の従属低地位が資本の利益に役立っているという理由3点に合わせて)
1 50年代以降、非熟練労働部門への安価な労働力として、移民労働者に注目。
2 70年代、「政府による経済政策の一環」としての移民労働者の禁止・送還。
「一方向型移民」(戦前)から「循環型移民」(戦後)へ。フェミニズム批判との差異。
3 移民および少数民族の労働者たちが、労働の再生産費用を低く抑える役割を果たしている
保険、教育、年金などの社会的サービスが必要ない。おまけに税金は払っている。移民労働者は「コスト高」という論は間違い。

■不利益の再生産
◇民族的少数派のこどもと低学力
◇民族的少数派の女子の二重の抑圧

テーゼ10
福祉国家は、民族的少数派(とくに女性)の犠牲のうえに、資本家と白人(とくに男性)の利益を保障するという、先進資本主義国家に特徴的な性質をもっている。 (158頁)

■グリーン 環境保護主義者による福祉国家批判
◇産業主義の論理
 「資本主義的経済成長の促進を基盤とした妥協の産物としての福祉国家に加担する」社会民主主義(者)を批判。また、同時に、「一国主義的」となることに対しても 批判。
◇社会統制
 福祉制度を通じて、専門家が私的生活にまで介入し、個々人の自律性を喪失させる。「国家が定めたニーズをもとに規格化された国家管理の合法的な独占」が 生じる。

cf. ラッシュ、イリイチ、マルクーゼ…etc

テーゼ11
福祉国家は、産業資本主義国家に特有の形態である。たとえ社会民主主義に支えられたものであっても、福祉国家は、とどまるところをしらない経済成長の論理と 官僚主義的な形態によってそこなわれるのである。(184頁)

■その他(研究上の方法論)
◆利益集団政治
(1)福祉国家政策が出現してくる政治過程それ自体の重要性
(2)(初期)福祉国家の構造における既存の国家構成の重要性
(3)福祉国家の発展が国によって異なる原因となった社会的、政治的勢力の歴史的に独自な相対的位置関係
非階級アクターの強調、民主主義的手続きと集団利益の機能性の強調など

◆国家中心アプローチ
「国家機構の能力の増大」

テーゼ12
(不確定な要素をもつ)福祉国家の発展過程は、比較分析と、歴史分析にもとづく文脈で理解されるべきである。こうした福祉国家の発展をもたらすもっとも重要な 源泉は、利益集団の行動、その国に特有の政治形態、そして国家組織のさまざまな類型にみいだすことができる。(195頁)




*[以下、小林による補足]

・福祉国家の保育施設や保健サービス:資本の長期的な利益を確保するものとしてだけ理解されるべきではなく、むしろ女性と資本の双方にとって「次善の戦略」とみなしうる施策として理解されるべき。・・・。女性が、「男性が主たるかせぎ手である家族形態を当然なものとする福祉国家と、まったく国家の援助がない状態とのあいだで」選択を迫られる状況をつくりだすにすぎない(p138)

・「[企業年金など]受給資格を必要とする[副詞]プログラムから受けとる報酬に、分配面での格差が生じるのは、そのプログラムがもつ適格者規則のためである。資格要件にかんする規則は、法解釈上は、性別に関係ないが、実際には、男性労働者の就業パターンをモデルにしたものである。同一の勤務先に勤務しつづけたことの報償として、長期の福祉サービスおよび高給が約束されるのであって、これらの規則により、男性よりも短くまた不規則な勤務歴をもつ女性は、すべての資格要件を満たして、満額の給付を手にすることはむずかしい。」(p149)(Quzdagno, J., "Race, Class, and Gender in the U. S. Welfare State: Nixon's Failed Family Assistance Plan", American Sociological Review, 55(1), pp.11-28, 1990. p. 14)

・「この種の保育が有給でおこなわれているばあい、とりわけ、『インフォーマルな』保育関連の経済活動(たとえば、無認可の託児所といった事業)としておこなわれていれば、それは低賃金で、福利厚生や雇用にかかわる諸権利もほとんどもたない女性によりいとなまれている」・・・「労働市場における、きわめて顕著な性区分が示しているように、女性労働は、ふつう、男性の仕事に直接とってかわるものではないからである。しかし、だからといって、女性が安い労働力資源ではない、ということにはならない。」(p151)

・「イギリスの雇用者年金制度の加入者を1987年に調査したところ、フルタイム労働者のうち、男性の62%、女性の51%が加入していた。これにパートタイム労働者を加えたばあい、加入率は、男性59%、女性33%に下がった」(p152)

・「すなわち、この妥協は、資本家と、大都市に住む組織された労働者階級に属する白人男性とのあいだの、主としてその他の労働者集団の犠牲のうえに成り立つ和解を意味している」(p155)

・「移民労働者の失業問題への『最善の』解決策は、かれらを本国に送還することであろう。それができないばあいには、解雇された移民労働者たちは、国家の[恩恵としての]福祉的給付に、つまり[社会の多数派集団に属する労働者が受けとったあとの]おこぼれの給付[the residual provision]にますます依存しなければならない」(p156)

・「おそらく、もっとも重要な点は、そうした形式的平等が、たいていの人びとにとって、共通してもっとも重要な福祉の源泉―すなわち労働市場―での差別をくいとめることができなかったということである。」(p165)

・「南部のコットン・ベルト地帯全域にわたって、公的給付額[rates]は白人より黒人のほうが低く、また、それは、南部において綿花生産州のほうが非綿花生産州よりも低くなっている」(p167)

・「ニクソン元大統領は、就労貧困者[working poor]にたいして最低年収を保障しようとする福祉制度改革(家族扶助計画)を策定したが、それは、南部においては黒人労働者の賃金の上昇を第一に目ざすものであり、それゆえ、その伝統的な低賃金経済をおびやかす改革であったために、結局、不成功に終わった。クワダーノは、そうした政治過程を検討することによって、その改革案にたいして、もっとも強硬な反対論を主張し、また、もっとも熱心に反対運動を展開した人びとのうちに、『南部パワーエリート』たちがふくまれていたことを検証している。つまり、ジョージア州選出下院議員のフィリップ・ランダムの反論によれば、『[そのような改革案が通過すれば、]一輪車を手押ししたり、また、ワイシャツにアイロンをかけさせるための人手がなくなってしまうであろう』というのである。」(p168)

★「移民労働者は、国内労働者と競合関係に立つことがなかったばかりか、経済活動全般の水準を高いレベルで保つために不可欠な非熟練労働力を充足させることによって、国内の他の労働者のためにより高い技能を必要とする仕事を新たに作りだしたのである。」(p169)

・「移民のなかで、若年で単身の、健康で働き盛りの者が多数を占めるということは、かれらが保健、教育や年金など、福祉国家においてもっとも支出がかさむ部門での需要がきわめて少ないということを意味している。」(p173)

・「彼女たちが、(経済的に恵まれない境遇にあるが、不安定な低賃金労働力として雇われている)黒人男子と結婚しているという事情や、また、とくに合衆国にみられるように、かなり多くの女子が、貧困状態にある単身家庭の世帯主となっている」(p178)

・「福祉国家はまた、資本主義的形態の産業組織によって生みだされた、余計な社会的ニーズにもこたえなければならない(たとえば、資本主義的な強制のもとでの就労のストレスによって生みだされた神経症やアルコール中毒など)。」(p181)

・社会保険導入への着手は、「産業労働者階級の機先を制して、かれらを体制内にとりこむ巧妙な努力として理解するのがもっとも妥当」(スコッチポルとアイケンベリー)(p193)



第四章 福祉国家の起源と発展:1880年〜1975年

■福祉国家 第2次世界大戦以降の産物?
ベヴァレッジ卿(1942)、テンプル大司教(1941、1942)、ツィンメルン(1934)

■福祉国家以前
◇福祉国家−資本主義・国民国家以降の国家形態である。
◇自由主義的資本主義−「予定調和」は自然状態から生じたのではなく、それ以前に国家が行っていた社会福祉への介入から離脱することによって、意識的につくり だされた。

「これらの初期の[近代]国家の関心は、基本的には、社会秩序の維持とともに、貧困者の福利(the well-being)よりもむしろ浮浪者を処罰し、労働市場を管理する ことに向けられていた。工業化が拡大するにつれ、19世紀国家の多くは、公衆衛生の維持や、雇用条件や一定の公教育のための条件を規制することを考慮するように なっていった。これらの国家はまた、自国民を日常的に監督し、管理することにますます関心を示すようになっていった。」(203)

■福祉国家の起源
1.社会保険の最初の導入−ビスマルク(1871)
2.市民権の拡大と公共福祉の脱救貧化−給付、選挙制度
3.社会費の増大−GNP3%

■福祉国家の誕生:1880年〜1914年
労災・健康・老齢・失業保険の給付が確立(表を参照、208・209・301)
第1次世界大戦前後に市民権(選挙権)の拡大・社会費のGNP3%以上に増大。

■福祉国家の成長期:1920年〜1975年
◇社会予算の絶対的規模の増大
背景としての生産額の増加・持続的成長
◇受給適用者枠の拡大/死亡率の低下と余命の伸びによる人口統計学的変化

■福祉国家プログラムの段階的増加
1.プログラム:労働災害補償→医療保険→老齢年金→家族手当(「母性を養うための基金」)
2.適用範囲:基幹産業・危険職種(鉱業など)→工業労働→農業労働→扶養家族・遺族→自営業者
3.拡張:均一給付→所得比例給付、任意加入→強制加入

■「統合」と発展:1918年〜1940年
1920−1930年代の社会費の増大=1914年以前に創設された保険・年金制度の成熟
「この戦間期(第1次大戦から第2次大戦の間)こそ、福祉制度を創設したり運用するにあたって、政府が、従来みられなかった介入主義的手法を採用したきわめて 画期的な時期であり、その手法は戦後の福祉国家にも継承されたのである。」(223−224)〔括弧は引用者〕
ダグラス・アシュフォードの指摘も(223)

◆第1次大戦がもたらしたもの
戦争年金の要求、新しい水準の公的支出の慣れ、政府による管理統制の新しい形態の不可避

◆大恐慌(最初の「福祉国家の財政危機」)
社会福祉給付の大幅な削減。
1 深刻な不況下で、保険数理上、社会保険を維持することは不可能
2 社会費に対する需要は、経済能力と逆比例の関係
3 社会費の削減では、1・2の問題は解決しない

■アメリカとスウェーデン
大恐慌への対応における共通点―福祉国家の共通の起源
公共支出の増大、政権党(民主党と社民党)の特質

◆アメリカの福祉国家の誕生−1935年、ニューディール(社会保障法)以降
1.州営の失業保険プログラム
2.州営の扶助にたいする連邦補助金
3.州の支出に応じた連邦補助金
4.連邦政府直営の老齢保険プログラム
の確立。供給主体、租税体制、適用除外など今だ後進的なところを温存してはいたが。

◆スウェーデン福祉国家の変動−1932年、北欧で初の社会民主党内閣。
歴史的妥協=社会政策の革新から、ケインズ主義的経済政策の重視
「資本家は、職場での経営上の特権をそのまま保持し、団結権をはじめとする労働基本権の保障を条件に、資本主義的経済成長の促進がはかられることになった。同時に 社会民主党政権は、完全雇用を維持するために、ケインズ主義的経済政策を遂行しようとした。また、経済的不平等をへらすための累進課税制度を採用し、教育・保険 医療・住宅といった集団的ニーズに応じた政策を推進しようとした。」(234−235)

■社会政策(立法)の事例
失業保険制度の改善(組合主導に国家が介入)/新雇用創出プログラム/多子家庭のための、家賃補助と低利融資つきの住宅供給プログラム /農村部と都市部との生活費格差に対応した年金の地域加算制度/母親全体のおよそ90%に対する出産手当/無料の妊婦・出産サービス/新婚夫婦にたいする国家による 融資/すべての民間・公共部門の被用者のための2週間休暇の導入…

◆戦後は、インフレと国際競争力の低下に対して「レーン」モデル(@「積極的な労働市場政策」と「連帯」賃金政策)を採用。その他、デンマーク、ニュージーランド、 カナダ…etc、「基礎固め」の期間。

■福祉国家の「黄金時代」? 1945年〜1975年
◆この時期の一般的特徴
1.市民権の共有を基礎として、大幅に拡充・普及した福祉国家を目指す改革が急速に進行
2.福祉制度の枠内で、給付額と給付範囲の拡大のため、財源増強が公約として掲げられる
3.混合経済、社会福祉制度の拡充を用語する政治的合意が広範囲に浸透
4.経済成長と完全雇用という公約が掲げられる
◆基本認識
政府の権力・権能の拡大/公的給付の新方式の誕生/戦中の悲惨・危険体験の共有/市民連帯の向上/ベヴァリッジの改革の救世的性格/労働党政府の樹立/労資双方の利害 妥協の優先/超党派の合意/政治的妥協点としての福祉国家…という説明

政府の有効性の欠如、連帯より恐怖を重視、市民層ではなく労働者層の圧力、改革案の体系化的性格、合意範囲の狭さを強調する批判がある。が、インド憲法、世界 人権宣言によってその「基本認識」は体現されていく。

ただ、公的支給が増加したのは確かであり、社会政策は発展したとは言え、それは、福祉国家の進展というより、戦後資本主義の発展による、というのも事実。その 意味で、「労資協調」(アメリカ)・「戦後合意」(イギリス)を強調する議論もある。

「この見解によれば、戦後の新しい社会的・政治的・経済的秩序は、次のような考え方を基礎にして確立された。それは、(1)本質的に自由主義的・資本主義的である 国際市場の諸条件と調和する範囲内で、自国の完全雇用と経済成長を確保するというケインズ主義的経済政策をとり、(2)そうした市場経済から生じる機能不全に対処 するため、規模の大小はあれ、「制度化された」福祉国家を構築し、(3)そうした基礎的な社会制度(市場経済と福祉国家)にかんして、左右両勢力、および労資間に 合意を確立し、(ほんらいは)競合するはずの両勢力間の利害をエリート・レベルの交渉をつうじて妥協させる、という三点である。」(244−245)
◆階級間と政党間の合意

核として、「国際的には、開放された国際市場と「西欧世界の集団防衛」(ともにアメリカのリーダーシップのもとにあるのだが)を是認すること、国内的には、 (1)包括的な福祉国家を維持し、(2)「私企業および公企業」からなる「混合経済」を支え、(3)完全雇用と持続的経済成長をめざす政策をとることであった。」 (246)

◆「合意」の「一体性」を批判する意見も出てきている(ピムロット、ディーキン)
労資対立の激化
◆「ポジティブ・サム・ゲーム」という「前提」
「福祉国家の黄金時代」といわれた時代は、資本主義経済が国際的に空前絶後の成長を遂げた時代とぴったりと重なり合う
1950−1960 成長率・雇用率の上昇
1960−1970 成長率・雇用率の低下

◆中産階級のための福祉国家
消費者・供給者として、戦後福祉国家の最大の受益者は、旧来の貧困者と異なり中産階級となった。

◆福祉国家に関連する雇用の増大
サービス産業(公的福祉産業)と女性労働者(専門職)の増大に、福祉国家は寄与した。

■戦後期の社会政策の変遷
◆復興期 1945年〜1950年
社会政策の拡充−イギリス、フランス、フィンランド
復古−イタリア、オーストラリア
西欧福祉国家の保証人−アメリカ
◆相対的停滞期 1950年〜1960年
需要供給の安定期・改革の停滞期
◆大拡張期 1960年〜1975年
人口統計学の変化−高齢者(受給者)の増加
経済的豊かさの増大
労働運動/社会主義政党の躍進
利益集団の圧力の増加

1975年以降、現在の政治経済体制に繋がる「福祉国家批判」「福祉国家危機」が、始まっていく、とされている。




*[以下、小林による補足]

・C・B・マクファーソン:「公正な価格」や「公正な賃金」、「適正な分配」といった観念は、「社会的・政治的目的に、経済関係を従属させるという、近代以前のすべての人間社会がもっていた機能を擁護するもの」(p199-200)

・「この重商主義的政策のもとでは、国家は、国家的繁栄を促進することに積極的な役割をもち、国富の主要な源泉である働く貧民にたいして責任を負うものと考えられていた。この考えは、たとえば、エリザベス朝における救貧法の改正および法典化が示すように、[貧民への労働の]強制および統制という、きわめて近代的な処置となってあらわれていた」(p200)

・「(拠出制)の各種年金を導入するという各国共通の施策は、法的にも承認された政治的介入により制度化されたものであったが、年金の導入は、じゅうぶんな保険料が積み立てられ、保健数理上破綻をきたさない健全な財政基盤が確立する以前におこなわれたのである。『すぐさま年金を導入せよ』という有権者の要求は、民間保険に頼る典型的な国であるアメリカ合衆国においてさえ、強力な要求であった。」(p217)

・「1908年から1923年にかけての時代は、工業発展のレベルというよりもむしろ、すでに存在する福祉国家と地理的に近いことが、新たな福祉制度を導入するさいの決定的な要因になっていたようである。」(p220)

・「1920年代から1930年代はじめに社会費が伸びたのは、まさに、1914年以前の時期に創設された保険・年金制度が、第一次世界大戦後になって受給資格面での成熟期をむかえたことの結果であると考えられる。」(p225)

・ニューディール政策と歴史的妥協(p227-232)

「地方政府レベルでは、公的福祉の登録簿は、社会・政治体制の変化に応じて無原則的に目まぐるしく書きかえられた。連邦による給付は、おおむね南北戦争の(北軍)退役軍人にたいする年金にかぎられていた。しかし1900年までには、これらの連邦退役軍人年金は、社会福祉の代用物となるきわめて大規模なシステムになっていった。この時期には、『高齢の、合衆国で生まれた北部の白人男性のすくなくとも2人に1人、そしてかれらの未亡人の多くが連邦政府から年金を受けとっており』、『年金は連邦予算のなかで、国債につぐ最大の支出となった』。」(p229)

「20世紀初頭に退役軍人である年金受給者とその扶養家族の数が減少したために、ルビノー、シーガーやアメリカ労働立法協会(American Association for labor Legislation)といった年金推進者が結集したにもかかわらず、退役軍人のための[恩給]プログラムをより普遍的な老齢年金におきかえる試みはみられなかった。」(p230)

・「合衆国の軍事力と経済力こそが、戦後のヨーロッパの復興と、福祉国家体制をその不可欠の特徴とする新しい政治・経済秩序を担保するものであった。アメリカは、西欧に『定着した自由主義』(国家介入を前提とする経済的自由主義)の保証人であり、また後援者であった。したがって、『皮肉にも、アメリカの覇権こそが、ヨーロッパにおける福祉国家の発展と拡大の基礎を与えたのである』(p259)



第五章―先進福祉国家における矛盾と危機


・エイサ・ブリッグス(社民より)「たび重なる財政危機を背景として、"全員に公正な分けまえを"とい[市民権の平等に基礎をおく]スローガンが、"サービスには代価を"という[受益者負担を強調する]近年の政治的スローガンにとってかえられた」(p267-8)

・「ブリタンは、そのすぐれた論文「民主主義における経済的矛盾」の冒頭の脚注で、以下のことを認めている。『厳密にいえば、矛盾が生じるのは、できごとやその進展ではなく、主張だけである。この論文の題名には、マルクスが"資本主義の矛盾"を論じたさいに、かなり広い意味で使った「矛盾」という語の適用範囲が、そのままのかたちで示されている』」(p275-6)

・「端的にいえば、資本蓄積と国家自身の正統化というふたつの不可避的要請[imperatives]は相互に矛盾しているとみなされる」(p279)

・「新保守主義にとっての主要な問題が、社会統制と社会における権威の低下であるとするなら、公共選択理論のあとをうけた新自由主義にとっての主要な問題は、代表制自由民主主義と市場経済との関係にある」(p283)

・「財政支出の増加と、福祉需要の充足が悪化しているという記録が併存するという、いっけん逆説的とも思われる現象は、しばしば以下の理由との関連で説明される。すなわち、(1)老齢人口[増加]による人口統計上の圧力、(2)これまで以上の治療を可能にする新しい医療技術の発達にともなう『技術的圧力』、(3)医療・保健サービスの労働集約的な性質からくる相対的高価格のもたらす効果、(4)[福祉の]供給側が[福祉の]生産を管理していること、などである。」(p317-8)

・福祉国家についての国際世論調査としてもっともくわしいものは、クーリンの『イデオロギー・世論・福祉政策』(p318)

・「民衆の福祉政策にたいする支持のレベルは、スウェーデンやフランスといった『福祉支出大国[big spenders]』とアメリカやオーストラリアといった『福祉支出小国[low spenders]』とのあいだでは差がある。一般的には、『一国の経済的集産主義との混合のていどは、その国の社会支出、租税、そして、政府介入の実際の規模に見合っている』。しかし、[福祉政策にたいする]支持のパターンが類似していることは、多くの国で確認された。つまり、多くの国ぐにをつうじて、年金、公的医療保険、家族・児童手当といった領域は、共通してもっとも人気がないのである。国家の相違のみならず、社会階級間の相違や、また政治的立場の相違を超えて、だれもが年金を好み、だれもが『たかり屋[scroungers]』を好まないように思われる。」(p319)

・「人気の高い福祉分野では、増税をまねくことが明白なときでさえ、財政支出増大にたいして支持がある。もっとも人気がないのは、社会的少数者にたいする福祉施策の領域―たとえば、単身世帯給付、失業手当―である。というのは、ほとんどの納税者が、自分たちがそうした政策から利益をうけるとは予想しないからである。」(p322)

・「全体としては豊かになりつつある社会における長期的な高失業率や、しだいに分割されつつある労働市場、および消費の新しい形態によって、社会支出の構成は変化するであろう。社会支出の規模が増大し、福祉国家においてすでに普及している諸原則にたいする世論の支持が継続しているということは、連帯主義的で、普遍主義的な、市民権を基礎とする福祉国家から、保険方式の受給資格にもとづく給付を増大させ、貧困者というスティグマを押された人びとの地位をさらに悪化させる方向をとる社会支出の内容的変化とよく符号しているといえよう。」(p329)



第六章 福祉国家は曲がり角にきたか?


■「福祉国家の危機」というイデオロギー(p333の五つの理由)→「福祉国家の新の限界が、経済的能力の衰えによってではなく、むしろ政治的な意図や政治的な支持のパターン(が変化すること)によってもたらされる可能性があることを示唆」という論点。社会民主主義との関連。

■福祉国家レジーム(体制) 「福祉国家が、あたらしいかたちの権利や利益を反映するように、多種多様な『再構築』がおこなわれる可能性のほうがずっと高い」
例)80年代のイギリスの保守政権(サッチャー)の公約と実際 アメリカのレーガン政権下での大衆の福祉支出への支持

■福祉国家レジームの類型論(ティトマス→セルボーン→アンデルセン)
1自由主義的福祉国家
2保守主義的・「コーポらティズム的な」福祉国家
3社会民主主義的な福祉国家

■福祉国家体制の動揺?「救貧的」で「市場志向」で「自由主義的」な福祉国家体制への移行か?

@世界経済の諸変化は国民福祉国家の発展の機会を奪った
→福祉国家の市場介入が効率の良い結果をもたらせば介入の増大、超国家的機関、「脱組織的資本主義」の妥当性

A労働と資本との利害の「歴史的妥協」に基づく福祉国家的合意の破棄(サッチャリズムの台頭)
→福祉国家は単に「平等を推進するための手段」ではなく、社会的諸勢力の均衡と市場の権威(の変化)の反映。国家の福祉への権限の回復が、労使の片方あるいは双方の利益にそぐわないわけではない。世論の支持=供給されるサービスの質にかんする不満の増大と、普遍主義的な原則への支持の増大との並存(ウォルツァー)

B福祉国家の当初の成功がゆえのその継続条件の崩壊という矛盾
1)雇用形態の区分の変化と税制の再編→(所得や雇用が)主として福祉国家に依存している労働者と、福祉が主として民間部門に依存している労働者という社会的区分に分裂→投票行動への反映
2)中間層(主に公務員)の豊かさの享受→国家給付による福祉からの離反→普遍的な福祉国家から救貧的なものへ。
→福祉国家の公的福祉から民間による福祉への支持の変化を証拠だてるものはない
1「再構築」に影響を与えるのは、世論以上に他の政策上の要因や目的
2福祉を民営化するには福利厚生を国家によらずに配分する方式の確立が必要
3「民間の」福祉≠福祉サービスの選択(例 民間の医療保険=職域福祉)。租税にもとづく支出助成による国家の介入→民間の福祉の魅力
→市民権や大衆的支持にもとづく普遍的な福祉国家を擁護するという同盟が、確固として形成されているわけではない

★福祉国家の「再構築」=社会民主主義への挑戦→代替策の検討
@市民権の原理を拡張したり、市民社会の領域を再生することによって国家権力を抑制
A何らかのかたちでの投資活動の社会化

■福祉と市民権の拡張 
ニュー・ライトの成功=自由や選択を擁護する言説の能力、社民=「過保護な国家統制主義」の権化
@市民権の増強

1)個人の自立 国家と主要な市場アクター(資本とともに、ときに組織された労働も含む)の双方の持つふつうの諸個人に対する優越性
⇔社会的市民権=諸個人のもつ力を拡大させるメカニズム
・ホブハウス、T.H.グリーン(→T.H.マーシャル)の「積極的」自由(新自由主義の系譜における先駆者)
・社会権=階級的利害を回避する手段。目的=最低限の社会生活の確保により全ての個人が自ら定めた様々な「人生計画」を追求するために自立性を享受できるよう保証。個人の自立=市民権の前提。
・アルバート・ウィル(政府の持つ最低限の福祉の義務=自立原則)、ビル・ジョーダン(諸個人が自らの責任で立てた人生計画を追及する能力をもつ事を保証する観点「市民権という言葉を再定義する」には基礎的な所得保障が必要)

・「権力を、国家から権利行使の主体である個人へと再配分することによって、ニュー・ライトと、しだいに幻想からめざめつつある大衆の双方が、官僚主義的で傲慢な福祉国家にたいしていだいている敵意に対抗する」

2)ロールズ『正義論』 市民という資格にもとづいた包括的で再分配的な福祉国家を原理的に擁護できる=ニュー・ライトの公正や自由の議論を撃退するために用いられる

A市民社会の再建 ジョン・キーン(国家の強引な介入+市民の受動性)、ハーバーマス(目標と手段の内在的な矛盾) もたらした結果が不十分+市民の日々の経験 ピエール・ロザンバロン
→教訓:国家と、(福祉国家によっていったん再編された)市民社会との関係の捉え直し 「現実の市民社会」→福祉の機能を「法的に保障され、民主的に組織された」市民社会において、個人や社会諸団体へ

B福祉多元論 ボランタリーな福祉供給の役割の強化 →政治的立場を超えての魅力 新保守主義者 他の立場   +α(p374)

■福祉市民権の評価

@市民権強化への反論 新自由主義に依存しすぎ
・マーシャルへの批判(イギリス中心、進化論的、歴史主義的)
・市民権の闘争以外の利害関係や行動の見落とし、国家権力の「影の」側面、権利に伴う義務(フランスの共和制理論や、ソビエトの憲法理論)
・「国家は一般に、市民権的諸権利の[保障]を請け負う唯一の機関」=「市民的諸権利の範囲が拡張されたとしても、国家の権力と権威が強化されることをつうじてしか、その目的は実現されないであろう」
・「真の問題は、市民が、みずからの市民としての権能がそこから由来する国家にたいして、どうすれば有効なコントロールをすることができるかということ」

A市民社会の再建の困難
・「福祉国家=国家社会主義の一形態」という誤解
→「国家管理型社会主義」対「新保守主義的資本主義」(「国家対市場」)という対立は、国家と市民社会の再構築という代替戦略で乗り越えられるという帰結 
・キーン 福祉国家の基礎となる経済力を相対的に軽視
「市民社会」と「経済」の関係
・「キーンにとっては、経済的諸関係は、市民社会のなかにふくまれるものであり、市民社会のなかで『民間営利資本の力をうまく制御する』ことが、[市民社会を]効果的に改革するための必要条件の一つ」
・「市民社会のなかには、社会的性別と民族の区別に起因する深刻な不平等が存在するということ、そして、社会[福祉]の機能を、保証人や裁定者の役割をはたす(改革された)国家をぬきにして、たんに市民社会の手に再度ゆだねるだけでは、その市民社会は、『強者が弱者の腕をへし折る自由を享受する戦場』になってしまうおそれがある」
・「多元主義的で複合的な平等のシステム」は仲裁者や裁定者としての国家を必要
→「私的資本の力をうまく制御する」方法も、国家(やそれに依存した)権力[構造]の改革提言もなし

cfウォルツァー 「複合的な平等が社会で実現される条件は、その社会に、ひと握りの男性または女性の集団によって独占される顕著な利益や、ある社会的地位から他の社会的地位への『転換を可能にする』ほどの顕著な利益が、どちらも存在しないことである」
・資本主義社会(資本=その二つの特性を備えた顕著な利益)で、複合的な平等と自由の実現には「私的資本の問題」
→キーンの限界 私的資本がもつ力の部分的な把握(cf労働運動の役割:国家に要求することをつうじて、私的資本の力にある種の制約をおよぼすことを可能にするひとつの媒介)

Bボランタリズム強化への留保
1)ボランタリー部門が国家よりも良好なサービスを提供できるかは定かではない 2)国家が最も有力な福祉の仲介者であることへの承認 3)自助努力という非現実的な想定

■福祉国家と投資の社会化
・ケインズ理論 経済の管理は政府の操作により可能「資本所有者たちにも社会民主主義にもとづく長期的な利害に合致して行動するよう誘導できる」=私的資本の強制的な収用という冒険をおかさないですむ
・アンデルセン 現在の福祉国家の戦略はもはや社会主義へむけた発展とは合致しない。「社会民主主義における指導的な運動は、一連の諸理由により、社会的市民権を追求する政策(すなわち福祉国家政策)から、経済的市民権を追求する政策[すなわち自由主義的経済政策]の方向に英断をもって進路を変えるべき、重大な岐路に立っている」。
・社会民主主義が労働者階級のわくを超えた政治動員能力をもつこと
・完全雇用と福祉政策の実現を通じた労働の脱商品化をながらす戦略の展開(国家権力をいかに使用するか)
・福祉国家的解決策の支持低下の理由
@階級的基盤の侵食
Aケインズ的戦略の行詰り
→ホワイトカラー中間層との提携に基礎をおく戦略へと転換しなければならない。しかし非効率化する福祉国家支出の増大の負担はホワイトカラーに
→主要な意思決定を直接的に社会化していくという課題

■労働者基金と社会民主主義のジレンマ
労働組合の連帯賃金政策が、生産性の高い企業に「超過利潤」をもたらしたという問題
→マイドナーによる労働者基金 アンデルセンの評価:地域社会または労働組合の管理が経済の意思決定にたいして直接的に影響及ぼす。資本の海外流出の脅威や過少生産による経済の停滞、社会不安を避けようとする漸進的形態

■社会民主主義の戦略としての労働者基金
@世界経済の国際化の過程でもたらされる総体としての労働に対抗する資本の諸力の増大 労働運動や社会的市民権は一国内の保障 国境内での「民間資本」を前提とする戦略は困難に 資本の私的所有の集中は社会民主主義者自身の労働市場政策が意図せずにすすめたもの

Aホワイトカラーの新中間層が、ある種の賃金労働者の同盟の呼びかけに応じるかどうかは不確実。 労働者基金には資本主義的な経済成長の利益を中断なく享受しつづける可能性や、資本から、それが私的所有形態をとるばあいに生じる弊害をじょじょにとりのぞく可能性もあるが、単なる形式的な所有権の変更のための技術的な(そして統制経済的な)戦略であって、この戦略が社会変革のための大衆運動とどのように結びついているかは示されていない。

B労働者階級と中産階級の労働者との広範な同盟があるにせよ、いかなる賃金労働者の同盟が社会の利害を効率的かつ広範に代表するのかは、はっきりしない。 労働人口の内部の「プロレタリア化」と賃金労働や資本のカテゴリーの外側におかれる人々(高学歴者や、老齢年金受給者) 福祉国家をめぐるポスト物質万能主義の問題と選挙にみられる浮動性(例 原子力利用) 労働者基金は生産者の政治的立場に重点を置きすぎ→民間や軍の核政策、環境政治、ジェンダー政治の無視、労働人口の外部にあって増大している市民層も無視


結論:福祉国家の擁護

・福祉における国家の役割の部分的擁護



解説

・「著者は、環境保護派が提唱する自主管理的福祉体制も、それ自体『国家』の支援を必要とし、クライアントの匿名性が保持され、自由裁量の余地のない国家機構をつうじた福祉供給のほうが、地域社会に基礎をおく福祉の供給より効果的な場合もあると指摘している。まして、福祉財源を調達するために必要な強制力を国家以外の機関が代替できるとは考えにくい。むしろ経済成長と環境保護との関係、地球資源の公正な配分、真のニーズにそくした福祉の実現などの問題は、国家レベル、そして超国家(国際)レベルでの、集団的意思決定のしくみと強制力の拡張をますます要請している、というのが著者の結論である。」(p427)



製作:山本崇記(立命館大学先端総合学術研究科) 小林勇人(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
UP:20060808 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db1990/9100pc.htm REV:20060822
福祉国家

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