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「再分配から承認まで?──ポスト社会主義時代における公正のジレンマ」
Fraser, Nancy 1995
"From Redistribution to Recognition? Dilemmas of Justice in a 'Postsocialist' Age",
New Left Review 212 (July/August 1995):68-93
=200101 原田真美訳,『アソシエ』5:103-135
(特集 グロ-バリゼーションとジェンダ-――承認・「公正」・資本主義,御茶の水書房)



Fraser, Nancy 1995 "From Redistribution to Recognition? Dilemmas of Justice in a 'Postsocialist' Age", New Left Review 212 (July/August 1995):68-93
=200101 原田真美訳,「再分配から承認まで?──ポスト社会主義時代における公正のジレンマ」,『アソシエ』5:103-135

 承認についての"批判的"理論を展開することを目的とし、「今日の正義は再分配と承認の"両方"を必要とすると考える」(104)

 *翻訳p.106のロールズへの言及のところの「第一次産物」は「基本財」と訳されることが多い。

1 再分配と承認のジレンマ

社会の政治経済構造に根差した社会経済的な不公平−搾取・経済的周辺化・剥奪
→救済グループを「再分配」

表現・解釈・コミュニケーションという社会的パターンに根差した文化的・象徴的な不公平−文化的支配・非承認・軽蔑
→救済グループを「承認」

再分配に対する要求は集団の脱分化を促す傾向にある。
         緊張関係→再分配と承認のジレンマ
承認に対する要求は集団の分化を促す傾向にある。

「承認に対する要求がしばしばどのような形態を取るかというと、まず、ある集団のものとされている特異性に注意を喚起する。たとえそうすることによってその特異性自体を創り出さないまでも。そしてその特異性の価値を肯定する。こうして、承認に対する要求は集団の分化を促す傾向にある。対照的に、再分配に対する要求は、しばしば集団の特異性を補強している経済上の取り決めの廃止を求める(一例としては労働におけるジェンダー区分の廃止を求めるフェミニストの主張があげられるだろう)。このように、再分配に対する要求は集団の脱分化を促す傾向になる。したがって二種類の主張は互いに緊張関係にある。両者は互いに干渉し合い、悪影響を与え合う可能性すらある。
 という訳で、ここにジレンマが生じる。今後このジレンマを、再分配と承認のジレンマと呼ぶことにしよう。」(p.108)

※ 文化的不公平と経済的不公平に縛られている人は、再分配と承認を必要とする。では、このジレンマをどう解決するのか。

2 搾取される階級、嫌悪されるセクシュアリティ、二価共同体

概念スペクトルの両極端
マルクス主義で言う労働者階級は、資本主義社会において、余剰生産物を個人的な利益に充てる権限を資本家に与えるような取り決めの下に労働力を売らなければならない人々の集合体である。(109)
救済策→階級構造自体の廃止。集団を集団として廃止すること。

ゲイ・レズピアンなどの同性愛者の共同体は、異性愛に特権を与える権威的規範構造=文化的評価な社会構造に根差した形で、差別され否定される。
救済策→文化的な承認。集団の「集団性」の価値を定めること。

上記の概念スペクトの中間に位置するのが、二価的な共同体としての「ジェンダー」と「人種」である。

「ジェンダーには政治経済的な面があり、それによって再分配の領域に踏み込む。しかしジェンダーには文化評価的な面もあり、それによって同時に承認の領域にも踏み込む。むしろ、双方は互いに入り組み、弁証法的に互いを強化している。性差別と男性中心主義の文化規範が国家や経済の中に制度化されている一方、女性の経済的不利が女性の「声」を制限し、文化創造、公共の場、日常生活における平等な参加を阻害しているように。その結果生じるのは、文化と経済の従属の悪循環である。したがって、ジェンダーの不公平を是正するためには、政治経済と文化の両方を変える必要がある。
 しかし、ジェンダーの二価的特徴はジレンマの源である。[…]二つの救済策はそれぞれ反対の方向に引き合っている。この二つを同時に追求するのはそうたやすいことではない。再分配の論理がジェンダーそのものを廃止しようとするのに対し、承認の論理は、ジェンダーの特異性の価値を設定しようとするからだ(22)。そこでフェミニスト版の再分配と承認のジレンマが生じる。どうしたらフェミニストは、ジェンダー区分を廃止するために闘うのと同時に、ジェンダーの特異性を評価するためにも闘うことができるだろうか。」(113)

「人種も・・・・」(114−115)同様である。

「ジェンダー同様に、「人種」の二価的特徴はジレンマの源である。有色人種が少なくとも二つの分析的に異なる不公平を(p.114)被っている限り、少なくとも二つの分析的に異なる救済策が必要な筈であるが、この二つを同時に追求するのはたやすいことではない。再分配の論理が「人種」そのものを廃止しようとするのに対し、承認の論理は集団の特異性の価値を設定しようとするからだ(26)。そこで反人種差別主義者版の再分配と承認のジレンマが生じる。どうしたら反人種差別主義者は、「人種」を廃止するために闘うのと同時に、「人種」としての集団の特異性を評価するためにも闘うことができるだろうか。」(114-115)

つまり、フェミニストは、ジェンダー区分を撹乱させる政治経済型の救済策を求めるのと同時に、共同体の特異性を評価する文化評価型の救済策も施行しなくてはいけない。
同様に、反人種差別主義者も、双方の救済策を同時に施行しなくてはいけない。

どうしたらよいのか?

3 肯定か変容か? 救済問題の再考

再分配と承認を横切る、「肯定」と「変容」と呼ぶ二つのアプローチを識別する必要がある。
→肯定と変容
 最終結果 対 それを生み出す過程

 「不公平に対する肯定的救済策とは、不公平を生じさせる基礎構造を乱すことな(p.115)く、社会的取り決めによる不公平な結果を修正することを意図した救済策のことである。対照的に、変容的救済策とは、不公平を生み出す基礎構造をまさしく再構築することによって、不公平な結果の修正を狙う救済策である。」(115-116)

◇文化的不公平
 肯定的救済策=多文化主義 対 変容的救済策=脱構築
 →基礎となる文化構造を変容させない 対 変容させる

「同性愛嫌悪や異性愛至上主義に対する肯定的救済策は現在、ゲイ・アイデンティティ政策に結びついているが、これはゲイとレズビアンのアイデンティティを再評価しようとするものである(29)。対照的に、変容的救済策には、「クィア理論」のアプローチが含まれるが、これは同性−異性の二分法を解体し得るものである。[…]変容の目標とするところは、ゲイのアイデンティティを強化することではなく、同性−異性の二分法を解体し、全ての固定化された性的アイデンティティを動揺させることである。」(116)

「肯定的承認型の救済策は、現存する集団の分化を促進し、変容的承認型の救済策は、長期的には分化を動揺させ将来の再編成のための余地を作ろうとする傾向にあると言える。この点についてはまた後で触れたい。」(117)

◇経済的不公平
 肯定的救済策=自由主義福祉国家(米・ニューディール政策) 
 対
 変容的救済策=社会主義

・変容的救済策
 「変容的な救済策は、歴史的に社会主義と連なってきている。この救済策は、基礎となる社会経済構造を変容させることにより、不公平な分配を是正しようとする。生産関係を再構築することにより、最終結果として生じる消費シェアの分配を変更するのみならず、社会的な労働区分も変化させ、こうして全ての人の生活ぶりを変えてしまう。(34)」(117)
 「(34)[…]本論文の目的にとっては社会主義の観念に正確な真意を与える必要はない。むしろ、表面的な再配分に対照的に、政治経済構造の深部の再構築によって分配の不公平を是正する、という一般的な概念を引用するだけで十分である。」(132)
 「変容的な救済策に典型的に連合して含まれるのは、ユニバーサリスト的社会福祉政策、急激に進歩的な税制、完全雇用の創生を目指したマクロ経済政策、労働市場に含まれない大規模な公共部門、割合的に大きい公共/共同所有、基本的な社会経済上の優先事項に関わる民主的な意思決定である。」(118 進歩的な→progressive=累進的な)
 「変容的救済策は社会的不公平を改善するに当たり、特別な贈り物の受益者としての汚名を着せられた弱者階級を創り出すことがない(38)。したがってこれらは、承認の関係において相互依存と連帯を促す傾向にある。こうして分配の不公平を是正するためのアプローチは、承認の不公平(の幾つか)を是正するのにも役立つ。」(118)
 「変容的救済策は社会的不公平を改善するに当たり、特別な贈り物の受益者としての汚名を着せられた弱者階級を創り出すことがない(38)。したがってこれらは、承認の関係において相互依存と連帯を促す傾向にある。こうして分配の不公平を是正するためのアプローチは、承認の不公平(の幾つか)を是正するのにも役立つ(39)。」(118)
 「(38)私は意図的に、社会主義は確固たる社会民主主義の違いを曖昧にしている。[…]Marshallは、たとえ完全なスケールの社会主義が存在しくても、「社会市民権」に基づくユニバーサリスト的な社会民主主義制度は、階級の文化を損なうと論じている。」(132)
 「より正確には、変容的再分配は、政治経済構造に起因する誤承認の形態を是正するのに役立つ。対照的に、文化構造に起因する誤承認を是正するには、独立した承認の救済策を加える必要がある。」(133)

・肯定的再分配の救済策
 「この手の救済策は、必要とされる物質援助を供給するのも確かだが、強烈な敵対心に満ちた集団分化も創り出す。
 ここでの論理は肯定的な再分配一般に当てはまる。このアプローチは経済的不公平の是正を目指すものであるが、階級の不利益を生み出す深部構造には手を付けない。したがって、表面的な再分配を何度も繰り返さなければならない。結果として、最も不利益を被っている階級は、本質的に不完全で飽くことを知らず、いつも更に要求を重ねてばかりいるというイメージで捉えられるようになる。やがてそのような階級は特権的にさえ見え出す。特別扱いと分不相応な贈り物の受け手という訳である。こうして、分配の不公正を是正するためのアプロ(p.117)ーチは承認の不公平を創り出す結果を生じかねない。」(117-118)

 →「肯定的再分配は、不利を被る者に汚名を着せ、剥奪という傷に誤った承認という侮辱を摺り込むことがあり得る。反対に、変容的再分配は連帯を促し、ある種の誤承認を正すのに役立つことが可能だ」(118)

4 ジレンマの回避−ジェンダーと「人種」の再考

 再分配と承認、肯定と変容という縦横の軸の組み合わせで、文化・経済双方の不公平を可能な限り救済することができるのか。
 自由主義福祉国家の肯定的再分配政策と主流の多文化主義の肯定的承認政策との親和性
 「ジェンダーに関わる不利益を生み出している深部構造には手を触れないでおくので、肯定的再分配は、表面的な再配分を何度も繰り返さなければならない。その結果、ジェンダーの分化が強調されるばかりでなく、女性は、不完全に飽くことを知らず、いつも更に要求を重ねてばかりいるというイメージで捉えられるようになる。やがて女性は特権的な存在にさえ見え出す。特別扱いと分不相応な贈り物の受け手という訳である。こうして、分配の不公平を是正するためのアプローチは、反動的な承認の不公平を煽る結果を招きかねない。
 この問題は文化的フェミニズムという肯定的承認型の戦略が加わったときに更に悪化する。このアプローチは、一般に女性のものとされている文化的な特異性や違いにしつこく注意を喚起する。たとえそうすることでその特異性や違いを創り出すまでいかなくても。状況に拠っては、そのようなアプローチは男性中心主義の規範を偏心化する方向に貢献できるだろう。しかし、現在話を進めている設定では、アファーマティブ・アクションに対する憤りの炎に油を注ぐ効果の可能性の方が強い。この見方で読み解くと、女性の違いを肯定する文化政策は、人の平等な道徳価値という自由主義福祉国家の公約に対する公然たる侮辱のように見えてくる」(121)

 −
 変容的再分配と変容的承認の親和性
 −社会主義フェミニズムと脱構築フェミニズム

 ※欠点があるとすれば・・・
  大部分の直接的利害やアイデンティティからは遥かに隔たっているという点。今現在、文化的に構成されているものであるし、ある種の自尊心の拠り所となっている。例えば、抵抗のナショナリズム。

5 結論

  →社会主義的経済が脱構築的文化政策と組み合わせることが、実際の効果をもたらすかどうかが次の課題となる。

 ジェンダー・セクシュアリティ・階級・人種は複雑に交差している。再分配と承認のジレンマがその複雑さに最も適応するものであると言える理由として、
@ 二価的共同体には、社会主義的経済と脱構築的文化政策の救済策が最も相応しい。
A 階級・「人種」・ジェンダー・セクシュアリティの交差するところでは、殊更に変容的な解決が必要となり、社会主義と脱構築の組み合わせが一層魅力的となる。
B 政治経済と文化の両方の深部構造を変容させる計画こそが、不公平に対する現在の全ての闘争を公正に扱うことができる。つまり、連合の構築を最も促進する。

  →現代のアメリカにおける経済的・文化的従属の悪循環に対しては、自由主義福祉国家と多文化主義の組み合わせではなく、社会主義的再分配と脱構築的承認によってのみ、公正を実現できるのである。

 

◆向山による紹介

 分配と承認それぞれについて α「肯定(是正)」→β「変革」

A分配について:β:社会主義の戦略
 「表層的な所得の再配分に限定されず、集団=階級の差異化を引きおこす生産関係に焦点を合わせ、搾取的な分業体制それ自体を廃止することを正義とみなすものである。」(向山[2001:139])

B承認について:β:脱構築の戦略
 「アイデンティティを集団固有の属性として本質主義的に肯定するのではなく、むしろ、特定の権力関係における一方の項と位置づけることによって、そうした関係それ自体を改訂することを正義とみなすものである。」(向山[2001:139])

◆立岩 真也 2003/11/22 「アイリス・ヤングの勉強会のためのメモ・2──再分配と承認のジレンマ?」
 アイリス・ヤング勉強会
◆立岩 真也 2003/11/22 「アイリス・ヤングの勉強会のためのメモ・1」
 アイリス・ヤング勉強会


製作:山本崇記 UP:20030806 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db1990/9500fn.htm REV:1120,21
Fraser, Nancy  ◇BIBLIO.  ◇WHO 

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