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ウィリアム・J・ウィルソン『アメリカ大都市の貧困と差 別』明石書店



Wilson, W.J., 1996, “WHEN WORK DISAPPERS: The World of the New Urban Poor”, Alfred A. Knopf
=川島正樹・竹本友子訳19990331『アメリカ大都市の貧困と差別 ――仕事がなくなるとき』明石書店,p.454,¥4800,ISDN : 4-7503-1141-3 [amazon]


■目次

謝辞
序文
第T部 新たな都会の貧困
 第一章 制度化されたゲットーから職なし状態のゲットーへ
 第二章 社会の変化と無防備な居住区
 第三章 ゲットー関連行動と機会の構造
 第四章 消えゆく都市中心部の家族
 第五章 人種の意味と意義――雇用者と都市中心部の労働者

第U部 社会政策への異議
 第六章 貧困と福祉に関するアメリカ的信条体系
 第七章 人種的反目と人種に基づいた社会政策
 第八章 より広範なビジョン ――全国民を視野に入れた社会性政策の選択肢

付録A 貧困の集中の全体像
付録B 都市不平等研究センターでの研究に関する方法論的覚書
付録C 「都市の貧困および家庭生活に関する研究」調査の表

訳者あとがき
原註
参考/引用文献
索引

■作成者による引用

◆「本書は、都市中心部の貧困者の職なし状態やその他の経験を理解するためには社会構造的要因が重要であること、とはいえこのような要因では説明できない こともたくさんあるということを示そうと試みたものである。人種は明らかに都市中心部の黒人の社会的所産の重要な変数ではあるが、ある一つの役割を果たし ているが、都市中心部の職なし状態と貧困を適切に説明するには、他の変数も考慮にいれなければならない。社会心理学的変数――一般に今日の論争において欠 けている一組の要因――も、社会構造的変数や文化的変数と結びつけなければならない。都市中心部の住民の経験と人生における機会を決定するには、すべての 主要な変数を包含し、なお重要なことにはその相対的な重要性と相互作用を明らかにするようなより広いビジョンが必要である。以下に報告する調査を私が解釈 し、まとめる上で指針となるのは、そのようなビジョンである。」(p.15)

◆「たとえばハーンスタインとマレーは「アンダークラス」の子どもたちのための早期の介入プログラムはほとんど見込みがないと主張する。なぜだろうか?  就学前教育プログラム期間中に統一テストの点数が相当な伸びを示しても、子どもたちがそれを離れると急速に低下してしまうからである。(…)ヘッドスター トのような外部からの介入プログラムは、それが認知能力の低さに関連する諸問題に取り組んでいないために当面は効果がないであろう、と著者たちは主張して いる。
 都市中心部のゲットーの過酷な環境をよく知っている人なら、ヘッドスタートのフェードアウトに関する調査結果に驚くことはないであろう。ヘッドスター ト・プログラムによって得られた進歩がそのような環境でも維持されるとすれば、その方が驚嘆に値するだろう。都市中心部のゲットーの子どもたちは、想像力 に欠けるカリキュラム、すしづめの教室、不十分な施設や設備、そして生徒を信頼し、彼らが学ぶことに期待しているのは一握りの教師にすぎないという状況が 蔓延する公立学校と闘わなければならないのだ。都市中心部のゲットーの子どもたちはまた、職なし率が圧倒的に高い居住区で成長するのだが、そのことは子ど もの健全な成長や知的発達の助けとならないその他の一連の問題を引き起こすのである。その中には、家庭の崩壊、反社会的行動、社会的ネットワークがゲッ トーの境界を越えて広がらないこと、そしてその地区の子どもやおとなの振る舞いや行動に対する、法律や規則によらない社会的統制が欠けていることが含まれ る。」(p.16)

◆「一九七〇年代の初期にゲットーに関する本格的な研究が突然停止した後、かつてダニエル・パトリック・モイニハンを憂慮させたいくつかの傾向がはるかに 顕著なものとなってきた。第一に貧困がより都市的になり、地域的に集中し、大都市、とりわけ隔離の程度がきわめて高い黒人とヒスパニック系の膨大な人口を もつ古い工業都市により深く根ざしたものとなっていた。
 この時期にはゲットーの生活についての本格的な研究はほとんど行われなかったとはいえ、時折メディアで報じられるように、事態がだんだん悪化しつつある という一般的な認識は存在した。たとえば広範囲に及ぶ略奪を引き起こした有名なニューヨーク市の電力不足の後、『タイム』誌は一九七七年の八月にシカゴと ニューヨークのゲットーの状況を劇的に描いた特集記事を掲載した。「アメリカのアンダークラス――マイノリティの中のマイノリティ――」と題したこの記事 が流行の仕掛け人となったのは、「アンダークラス」という用語を初めて大々的にとりあげた大手の大衆誌であったというだけでなく、それがアンダークラスの 世界についての以後のメディアの報道の傾向を決定したからである。「豊かな人々はこの世界についてほとんど知らない」と『タイム』誌の報告は述べている。 「絶望がどっと噴き出して新聞の一面や七時のテレビニュースに表れる時以外には。ぼろぼろに崩れた壁の向こう側にほとんどの人々が想像するよりも扱いにく く、社会的に異質で敵意にみちた人々の大集団が住んでいる。彼らは手の届かない人々、アメリカのアンダークラスである。」(…)」(p.258-259)

◆「メディアによる「アンダークラス」の価値観や態度の捉え方が都市中心部のゲットーの住民によって実際に表明された見解とどれほどくっきりと対照的であ るかということに注目するのは興味深い。たとえばシカゴの大規模な公営住宅に住む、非婚で二八歳の生活保護を受給している二児の母親は、彼女の公営住宅に 住む人々がみな不道徳であったり悪漢や殺し屋であるという印象をメディアがどのようにしてつくりだすかということについて、UPFLSのインタビュアーの 一人に語っている。」(p.264)


◆「繰り返しになるが、ウィルソン教授の前著は、リベラル派やコミュニティ重視派から、歴史的な人種差別の持続力を重視している点が批判され、一般社会と 異質な都市中心部の黒人コミュニティの「病理」にさいなまれた特異性を強調する風潮に拍車をかけかねないと懸念される向きが目立った。本書では一九九二年 のロサンゼルス暴動の原因となった警察の横暴やその三年後に問題化したO.J.シンプソン事件への反応におけるアフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリ カ人の間で顕著な相違、さらには『ベル曲線』のベストセラーが示したアフリカ系アメリカ人への劣等視が依然として根強い現状を踏まえた上で、もっぱら歴史 的な人種差別の糾弾に集中したり「ゲットーの自律性」のレトリックを称揚する傾向を踏み越えて都心部の破壊的窮状を直視するように訴え、より根本的な原因 として、製造業から情報・サービス業への産業構造の変化と経済のグローバル化といったアメリカ合衆国民全体にも関わる構造転換の影響が重視され、それが もっとも先鋭的に表れた結果が都心部の「アンダークラス」であるとする、従来の立場が貫かれている。日本やヨーロッパの公共政策が参照されるなど、都心部 の問題解決のために合衆国政府がとるべき公共政策の提言に向けてその立場はいっそう補強されている。」(p.367,「訳者あとがき」より)

◆「これはウィルソン教授が主張する「アンダークラス」状況の構造的原因説を補強すると同時に、一〇%を推移し続けたままのアフリカ系アメリカ人の失業率 が依然として白人よりもはるかに高い値を示している事実は、ウィルソン教授が長年訴え続けてきたように労働市場の好転のみでは都心部の集中した貧困が解決 し難いこと、すなわち中央政府たる連邦政府の責任には好景気の維持だけでなく、都心部の職なしの人々に労働市場へのアクセスを保障するより積極的政策が含 まれねばならないことも示している。」(p.368,「訳者あとがき」より)



製作:橋口昌治 UP:20051114
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