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『アルコホリズムの社会学』日本評論社

野口裕二 19960325 日本評論社 198p. ISBN:4-535-58201-7 2100


野口裕二 19960325 『アルコホリズムの社会学──アディクションと近代』日本評論社 198p. ISBN:4-535-58201-7 2100 [amazon][bk1] ※


序章・第1章・第2章部分の要約

【目次】
序章 アルコホリズムへの社会学的接近
I 逸脱と医療化
第1章 アルコホリズムとスティグマ
第2章 アルコホリズムの医療化
II セルフヘルプ・グループ
第3章 家族療法としての断酒会とAA
第4章 セルフヘルプ・グループの機能
第5章 セルフヘルプ・グループの原点:AA
III 臨床社会学
第6章 集団精神療法
第7章 集団精神療法の微視社会学
第8章 地域ケアとネットワーク・セラピー
IV アディクションと近代
第9章 共依存の社会学
第10章 アディクションと近代
あとがき


 
I 「序章 アルコホリズムへの社会学的接近」のまとめ
「アルコール中毒=社会病理」という一見分かりやすい図式が、それ以外の検討に値する多くの問いを封じ込めてきた点こそが反省されなければならない(p.2)。
「序章に続き、第1章は、アルコホリズムに付着するスティグマの成り立ちを問うもので、今まで述べてきた四つのアプローチの中では、逸脱論的アプローチに属する。第2章は、アルコホリズムの医療化の過程をアメリカでの歴史的展開に基づいて検討するもので、医療社会学的アプローチに属する。第3章、第4章、第5章はセルフ・ヘルプ・グループに関するもので、臨床社会学的アプローチに含めることができる。第6章、第7章、第8章は、集団精神療法と地域ネットワークに関するもので、これも、臨床社会学的アプローチに位置づけられる。最後に、第9章と第10章では、「共依存」と「アディクション」という二つの注目される概念が、近代社会の成り立ちという大きな枠組みのなかで論じられる。これは…近代社会論的アプローチに属する。」(pp.14-15)

封じ込められた問い:「アルコール中毒はなぜ社会病理なのか」、「どこが社会病理なのか」

1.アルコホリズム(alcoholism)とは
疾病概念としての側面を強調する場合を除き、英語圏で最も一般的に日常的な言葉。もともと「アルコール主義」と訳せるような意味合いをもっている。アルコールを最も大切なものと考える態度や生き方という意味。
では、アルコホリズムが、社会病理でないとすれば、それはいったい何か。

2.アルコホリズムに対する社会学的アプローチの4つの側面
1)逸脱論的アプローチ
 従来の社会病理的アプローチが、アルコホリズムを社会の病んだ部分そのもの、あるいは、病んだ部分の反映や帰結として捉えるのに対して、逸脱論アプローチは、アルコホリズムを病理とみなす考え方がどのように社会的な信憑性を獲得し、われわれの「常識」となされてきたのかを問うものと規定できる。
逸脱論の説明図式
逸脱者の性格や身体的特徴などの個人的属性に原因を求めるところ(古典的犯罪学)から出発し、逸脱者を生み出す家族背景や地域社会などの環境要因や制度的要因への注目(社会病理学)へと視点を移し、さらに、統制者側の対応の仕方や執行装置など統制者側の要因を重視する視点(ラベリング理論)を経て、ある種の現象が逸脱現象として社会的に構成される過程に注目する方向(構成主義)へと視点を移動させてきた。
 どのような日常的な相互作用やドラマテゥルギーがこの信憑性を支えてきたかがまず検討されなくてはならない。その際、スティグマの成り立ちとその現実的な意味とが重要な手がかりとなるはずである。
この常識の成り立ちに、どのような社会運動やキャンペーンが関与してきたかを明らかにしなくてはならない。→アルコホリズム概念の歴史的検討に繋がり、医療社会学的アプローチと大きく重なる

2)医療社会学的アプローチ
2つの区分
・医療の社会学(sociology of medicine):医療の制度や実践を研究対象にする側面
・医療における社会学(sociology in medicine):医療実践に社会学的知見や分析を応用する側面

医療化(medicalization):ある現象が、医療によって問題だとみなされるようになること

アルコール依存症がいつから病気とみなされたか?
専門病院とクリニックの誕生と日々の診断や治療が行われている点で、病気とされる一面、人の心構えや性格の問題ともされ、道徳的な問題であり、病気とは違うのではないかという思いもある。

アルコホリズムにおける病人役割のありよう、さらに、それに対する社会的な相互作用が、社会のマクロな構造レベルとの関連において検討される必要がある。これは、アルコホリズムにおける「医師−患者関係」の特質分析や「専門家支配」への分析へと繋がる。

3)臨床社会学的アプローチ
 臨床社会学は、医療や福祉などの臨床実践に社会学の理論や知見を応用するアプローチ。
・セルフ・ヘルプグループの存在:A A(alcoholics anonymous)
このグループの中で、何が起こっているのか?
回復という変化がどのように生じるのか?
社会システムにおいて、どのような意味を持つのか?
・病院やクリニックにおける集団精神療法の社会学的考察
「病院完結主義」から「地域連携主義」への移行の過程で何がおこっているのか?

4)近代社会論的アプローチ
ひとはなぜ、繰り返し、酔いを求めるのか、そして、なぜその状態からの脱出が困難なのか?

アルコホリズムが問題視されるようになったのは、主として近代以降である
→近代社会においてわれわれは近代的個人である事を強制されるということと、これらのスティグマやアンデンティティの変容、そして、「回復」と呼ばれるアイデンティティの再構成の過程は、近代社会を貫くいくつかの基本原理と関係している。
→近代社会においてわれわれは近代的個人である事を強制される。

離脱症状を生むほどの過度の飲酒がなぜ生じ、かつ、そこからの脱出がなぜ思いのほか困難であるのか、そして、そこからの脱出がなぜ、セルフ・ヘルプグループにおいていち早く成功したのかということが社会学的に説明されなければならない。
・アルコホリズムに対する独特のスティグマの存在
・そのスティグマをめぐって繰り広げられる独特の攻防戦、アイデンティティの変容
・「回復」と呼ばれるアイデンティティの再構成の過程
アディクション(嗜癖)とよばれるさまざまな現象と、「共依存」という概念装置の誕生が、アルコホリズムと同じ原理から生ずるものであるかどうかという問題を射程に取り込む。
→その文脈を近代性と脱近代性という文脈において検討すること。

5)アルコホリズムの社会学のために
「社会病理」そのものを括弧に入れる。大切なのは、現象に対する認識はすべて歴史的な構成物であるという視点。
どれほど科学的と称する研究でも、そうして歴史的構成物を素材にして出発せざるを得ず、また、結局は歴史的な構成物の中へと回収せざるを得ない。

 
II 「第1章 アルコホリズムとスティグマ」のまとめ

「アルコール依存症」という言葉は一見スティグマを脱色したように見えならが、「結局、アル中のことか」と翻訳されるとともにスティグマをよみがえらせる。

1.なぜスティグマを伴うか
 4つのイメージからスティグマ化される。
・自業自得のイメージ:好きで飲んだから仕方ないとするイメージ
・とらわれのイメージ:とらわれたら抜け出せないとするイメージ
・逃避のイメージ:辛い事や悲しい事を酒で癒す、よって忘れる演歌のイメージ
・落伍者のイメージ:アル中=落伍者というイメージ

2.「意思の病」というスティグマ:その状態を克服できないとするスティグマ
「回復」の第1歩は、どんなことがあろうと決して1滴の酒にも手をださないことが必要条件。

「意志薄弱」の判断は、アルコホリックをしらない専門家も、きわめて当然のごとくにこの判断を下し、強い意志をもち、それを持続させるために、「頑張らないといけない」と説得が繰り返される。

「意思の病」という信念が誤りである事が、決して証明されない論理的構造になっている:飲むにしろ飲まないにしろ、いずれの場合にも、アルコホリズムは「意思の病」と規制される。

アルコホリズムに関するスティグマは、単なる現象記述ではなく、因果的・解釈的な評価により補強され、社会に根深く浸透していく。

3.「意思の病」というフィクション
 ほとんどのアルコホリックは、世間一般の評価どおり、自らを意思の弱い人間と自己規定している。あるいは、少なくとも他人に対してはその様に自己規定して見せるべきだと思っている。
「アル中」と呼ばれたくない意識が、アルコホリズムに対する防波堤となって、日常的な飲酒行動を何らかの形で規制しようとしていると考えられる。

1)3つの重要な落とし穴
・意思のつよさなるものが客観的に測定できない
・仮に測定できても、意思を強くする方法と呼べるものが確立されていない
・意志が強くなったことの確認が極めて困難

2)自らに難題を課して挑戦する。
過酷な実験の開始:酒を飲まずにテーブルの上にウイスキーを置いておくとか…
この実験は、意思がどれくらい強くなったか確認したいという切実な欲求から発したものである。

4.スティグマと回復
「意思の病」は、回復の阻害要因として機能する。
逆に言えば、「意思の病」という考えを捨てる事が、回復の第1歩と考えられている。
AAの存在もそれを宣言する事、「われわれは、アルコールに対して無力であり、生きていく事がどうにもならなかった事を認めた」という一文から始まる。

付与される「精神病院帰り」というスティグマ

「意思の病」というスティグマは、それを克服した人に対しては、逆に尊敬の念を抱かせる可能性も持っている。社会復帰に際しては、ただ偏見と闘うだけでなく、その逆用という方法も考慮する必要がある。

5.おわりに
アルコホリズムとは、まさに、スティグマ。
「欲求を意思で制御する」という考え方は、まさしくわれわれの生きる時代を支配する理性主義にも他ならない。
同時に我々の常識を形作っている近代合理主義とも精通している。
意思の敗北を認める事が自己否定を意味してしまう時代にわれわれは生きている。
だから、「意思の病」というフィクションが、ある種の信憑性をもって成立してしまう。

 

III  「第2章 アルコホリズムの医療化」のまとめ

医療はどこまで関わり、どこまで関われるのか?
医療の歴史の側面
医療化(medicalization),道徳化(moralization)
司法化(criminalization),脱医療化(de-medicalization)

1.米国におけるアルコホリズムの医療化過程の特質と今後の方向性
コンラード(Conrad,P.and Schneider)の医療課の歴史を考察するキーワードのうち、アルコホリズムは論争的モデル。
・非論争的モデル(uncontested model)
生理学的な機序に関する明確な定義を持ち、それが社会的にも疑いないものとして認知され、それに基づく各種の社会的な統制が正当なものとして支持されている場合
・論争的モデル(contested model)
明確な定義が確立しておらず、疾病概念への疑義が提出される余地のあるもの


■禁酒法以前
 習慣的酩酊が個人の自由意志に基づく結果とされた。
 狂気という個人の素因と深く結びついた解釈枠組みなしに、物質の体内摂取が生み出す生理学的現象としての解釈枠組み、すなわち、非論争的モデルの追及という方向づけがなされた。

Rush,P.(合衆国独立後の初期の内科医)
アルコホリズムを意思の病気と規定し、飲用する酒類のアルコール度の強さと道徳的な下落の度合いとを一時的に対応していることを示す

■19世紀
禁酒運動ないし禁酒団体が相次いで登場:最初の1杯の危険性という一般市民の経験的判断が正当化されて、進行性という概念に正当性が付与されていく。
1826年 アメリカ禁酒会
1840年 ワシントニアン運動
1874年 キリスト教婦人禁酒連盟
1990年まで全米に50箇所Inabriate Asylum(習慣的酩酊者のための収容施設)が全米各地に誕生。

■ ジェネリックとイエール・グループ
1940年 イエール大学の医者及び生理学者のグループによる活動(Yale Research Center Ob Alcoholic Studies)に集まる生理学者を中心とするグループ
1940年 Quarterly Journal Of Studies on Alcohol創刊
1943年 一般市民を対象にしたアルコールに関する夏期講座の開催
1944年 アルコホリズムの専門治療を行うYale Plan Clinic開設
1945年 夏期講座にて、NCA(national council on alcoholism)を創設する。
1946年 ジェリネック(jelinek,e)による疾病概念の定型化
第1に、コントロール喪失という概念を中核にして疾病構造が構築されたこと
第2に、4期43徴候からなるアルコホリズムの過程による進行性の意味内容を定型化した事
第3に、こうした図式を裏付けるデーターがAAのメンバーから集められた事

■ AA(アルコホリックス・アノニマス)禁酒法時代の誕生


cf.
◇立岩 真也 2002/07/25 「出口泰靖・野口裕二」(医療と社会ブックガイド・18),『看護教育』2002-07(医学書院)
 http://www.arsvi.com/0w/ts02/2002007.htm

□内容説明[bk1]
アルコホリズム(アルコール依存)につきまとう独特の汚名、「回復」とよばれるアイデンティティの再構成、これらは近代社会による強迫の反映に他ならない。アルコホリズム臨床から近代を衝く野心作。


作成:仲野真由美立岩真也
UP:20040501 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db1990/9603ny.htm
アルコール依存症/アルコホリズム  

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