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上瀧真生「今日の教育改革と階級・階層の再生産
―学校教育の実質的複線化路線のゆくえ―」
(1999清野良榮編『分析・日本資本主義』所収)



上瀧 真生 19991015 「今日の教育改革と階級・階層の再生産──学校教育の実質的複線化路線のゆくえ」,清野編[1999]*
*清野 良榮 編 19991015 『分析・日本資本主義』文理閣 245.p 2,835円 ISBN: 4-89-259337-0 [amazon]
cf.http://dom.umds.ac.jp/tea/meiboweb.nsf/0/492569bb003a2803492569b40014fcac?OpenDocument


◆現在、提起され推進されている学校教育の実質的な複線化路線を分析して、その根拠、その特殊性、そのゆくえを明らかにすることを課題としている(本文p.202より)

◇はじめに
・学校の機能が資本主義化と国民国家化との関係に述べられている
・社会的階級・階層の再生産装置

・資本主義的生産様式の発展と就学期間延長
・中等・高等教育が、労働者階級の競争の場であり、支配的エリート層の自己形成の場となる
・学校は諸個人を階級的・階層的地位に振り分ける装置
・諸個人の置かれている条件がどこまで学校教育を受けられるのかに影響する

・戦後の日本資本主義社会における学校も、諸個人を階級的・階層的に振り分ける装置として機能してきた
 @学歴・学校歴と就業上の地位が明示的に対応すると考えられた
 A高学歴化と学歴から学校歴へ
 B学歴競争の受験競争化
 C受験競争の知識の集積競争化
 D偏差値の導入で競争から降りることが難しい構造になった
 E学校の集団主義
 →戦後日本の資本主義的発展を支えた「人的資源」を生み出してきた一要素と言われる

 1990年代半ば以降の「教育改革」の動き
 ・中央教育審議会
  1996年、1997年の「21世紀を展望したわが国教育のあり方について」第一次・第二次答申
  1998年の「幼児期からの心の教育の在り方について」の答申
      「今後の地方教育行政のあり方について」

 ・大学審議会
  1998年「21世紀の大学像と今後の改善方策について」

 ・教育課程審議会の答申とそれにもとづく学習指導要領の改訂

*学校教育の実質的複線化
 =誰もが小学校・中学校・高等学校・大学と進める可能性を有した単線型の学校体系を維持しながら、それぞれの教育段階では学校の 「多様化」を通じて実質的にコースのふるいわけをおこなうやり方である。
→激しい受験競争の弊害と世界的に展開する日本金融資本の蓄積から要請される「人的資本」の養成ということについての支配層の対応である
(*教育改革は経済構造の変化の要請であるという視点)

◇第1節 学校の実質的な複線化路線とはなにか
○1 制度としての単線型学校体系の維持とそのもとでの進学率の上昇のもくろみ
 ・実質的複線化路線の特徴
  @複線型の学校体系は否定する
  A単線型の学校体系の上位の学校に多くの子供が進学することを容認する
  B同じ高等学校・大学などの学校段階の内部に、性格の異なる多様な学校および教育内容を持ち込み、それを子と親に「主体的に選択」させる
→実質的に支配的なエリート候補生と将来の労働者階級とを分離して教育することを目指す

・大学審議会の大学・短大への高卒進学率の想定…55.1%などがその証左
・「大学学部教育の再構築」大学審議会=標準的な労働力として最低限の質を大学に担保してほしいという要請
・大学院の拡充

○2 学校教育の複線化の推進
・実質的複線化の証左
 @「ゆとり」化と「学校のスリム化」=家庭や地域の教育力の差が出やすくなる→再生産
 A「生きる力」「新しい学力観」「個性尊重の理念」=階級ごとに分をわきまえた能力
 B共通教育部分の削減と選択科目の拡大=思考方法を身につけられる人間に格差が出る
 C学校や教育コースの多様化を通じた実質的複線化、大学の種別化と飛び級制

◇第2節 なぜ、学校教育の複線化が推進されるのか
○1 今日の教育が抱える矛盾に対する支配層の対応
・教育に対する危機感
 @オウム事件
 Aエリートの不祥事
 B若者の企業秩序への不適応と離職
 C若者の荒れの非例外化

→支配層は「人的資源」の再生産という視点からこれらの問題に対応しようとしている
 =エリートを目指す競争に労働者階級の子供が参加し、競争が激化していることを原因と看做す
 →「個性化」の名の下で分を知ることを強要

・労働者階級が学歴競争に向かうのは、それ以外に子供の経済的安定を保障させるものがないからである
 =こうした構造こそ問題にすべきである

・学校を「多様化」「種別化」して複線的な学校教育を実現することは、「過度の受験競争」を「是正」する方法であるが、他方では、支配層にとって「適正 な」受験競争を維持する方法でもある

○2 日本資本主義の構造改革と「人的資源」に対する要請
・新しい質の「人的資源」の必要性(経済企画庁経済研究所「教育経済研究会」)
 @創造的な科学技術にかかわる人材の確保と養成の重要性
 Aグローバル化の進展
 B情報処理における技術進歩による普遍的技術の必要性
 C人口構成の高齢化による雇用システムの変化、労働市場の流動化
 =アメリカ資本主義をモデル化したもの

 Robert.B.Reich,The Work of Nations, 1991
 @新しい使用価値を発見できるような創造的な科学技術エリート
 A世界的に展開する資本の意思決定ができる経営的エリート
 B資本の運動を支える政治的・行政的な枠組みを作り出せる政治的・行政的エリート
 =「シンボリック・アナリスト」(ライシュ)

 そして彼らを支える中間管理者層・専門技術者層、労働者層
 →このモデルの日本なりの取り込み
 =通産省産業構造審議会総合部会基本問題小委員会の「中間とりまとめ」(1997年)
  「世界の母工場(マザー・ファクト リー)」=日本資本主義の剰余価値生産における優位性を生かそうとしている

・個別資本には人材育成の余力がない→日本経営者連盟『新時代の日本的経営』
 @長期継続雇用の絞り込み
 A専門家の流動的な活用
 B流動的な非正規労働者の拡大
→個別資本による能力分化を容易にするためには、個人的能力の特性が社会的に明示されている方がいい
 =学校の多様化による種別化が必要

◇第3節 なぜ、学校教育の制度的複線化は否定されるのか
・ドイツの複線型の否定=日本の同一性志向の維持
 @単線的な学校体系は階級闘争を抑制する機能を担ってきた
 A単線的な学校体系の中の受験競争が、従順で柔軟性・協調性に富み、しかも競争意欲を持った労働者階級の一群を再生産してきた
 B制度的に明確化された複線的な学校教育では、急激な技術革新に対応できない

◇第4節 学校教育の実質的複線化路線のゆくえ
 内在的・外在的問題点
・学校教育の実質的複線化路線が想定しているような進学率の上昇を支えるだけの経済的基盤があるのか?
 ←親の経済的基盤が破壊されようとしている

・一方でこれまでどおり知識量が豊富で柔軟性に富んだ優秀な労働力を大量に育成するという方向を追及しながら、他方で新たな問題を発見し新たな問題解決法 を発見する能力を持った新しいエリートの養成を追及するということが両立するのか?
 =中途半端に映る

・受験競争の圧力を抑制することを目指すものでありながら、今以上に受験競争を早期化し、激化させる契機となるのではないか?
→諸問題をはらみながら推進されている




製作:橋口昌治 20041102
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db1990/9910um.htm
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