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ロナルド・ドゥウォーキン 『平等とは何か』 木鐸社


Dworkin, Ronald 2000 SOVERIGN VIRTUE: The Theory and Practice of Equality Harvard University Press  = ロナルド・ドゥウォーキン 小林公・大江洋・高橋秀治・高橋文彦訳 20021010 『平等とは何か』 634p. 6500+税 木鐸社 ISBN : 4833223279 [amazon]
*ここでは、第8章第9章を紹介する。

〈目次〉
序 なぜ平等は重要なのか


II
III

第 I 部 理論篇
第1章 福利の平等

I 二つの平等論
II 最初の考察
III 福利の平等の諸概念
IV 成功理論
V 喜びの平等
VI 客観的な福利理論
VII 統合論への示唆
VIII 高価な嗜好
IX 身体障害
X 福利主義
第2章 資源の平等
I 競売
II 考察すべき課題
III 運と保険
IV 労働と賃金
V 不完全就業と保険
VI 保険料のしての税金
VII 他の正義理論
第3章 自由の地位
I 緒論:自由と平等
II 二つの戦略
III 自由を競売にかけることができるか
IV 抽象化への原理
V 他の諸原理
VI 現実世界への帰還
VII 自由と不正
VIII 回顧
第4章 政治的平等
I 民主主義のための二つの戦略
II 権力の平等とは何か
III 参加上の価値
IV 分配上の価値
V 立憲主義と原理
VI 結語
第5章 リベラルな共同体
I 共同体と民主主義
II 共同体と配慮
III 自己利益と共同体
IV 共同体との統合
V リベラルな共同体
第6章 平等と善き生
I リベラル派の人々は善く生きることができるのか
II 哲学的倫理
III 倫理から政治へ
IV 結び
第7章 平等と潜在能力
I 二つの異論
II 偶然性と選択
III 中毒者と我々
IV 人間と運
V 平等と潜在能力

第 II 部 実践篇
第8章 正義と高いヘルスケア費


II
III
第9章 正義・保険・運
I 序論:正義にとって苛酷な時代
II 戦略的問題
III 保守派の議論
IV お馴染みの非連続な回答
V 仮想保険事業計画
VI くじ運
VII 運・社会階層・世代
VIII 保険と効用
第10章 言論の自由・政治・民主主義の諸次元
I 序
II 提案された改革
III 民主主義とは何か
IV 民主主義と自由な言論
V 法の記録
VI 真理に向けての議論
VII 提案の再考
VIII 結論
第11章 積極的差別是正措置は成功しているか

II
III
IV
第12章 積極的差別是正措置は公正か

II
III
第13章 神を演じる:遺伝子、クローン、運
I はじめに
II 診断と予後
III クローンと遺伝子工学
IV 後記:倫理的個人主義のインパクト
第14章 性と死に関わる裁判所

II
III
IV

初出
あとがき
人名索引
事項索引


  
第8章 正義と高いヘルスケア費

 アメリカではヘルスケアは不公平に分配されている。最小限のヘルスケアはどのようにして決定されるべきか。
■ 1993年 クリントン政権のヘルスケア計画の挫折
「必要かつ妥当である」場合に限り、医療費保障を行う。国家健康委員会という機関で諸決定される予定だったが、どのようにして決定するのか不明瞭。
「かつて安く買えた薬に高い金を払っているわけではないのだ。今や買うべき薬が多く現われすぎたのだ」p414
「妥当な」医療の範囲は、支出がかさむという理由で医療を行わないことが不正義となる範囲。

II
■ 伝統的な医者たちの正義理念(救命原理)
1.生命および健康は最も重要な財である。
2.ヘルスケアは平等に分配されなければならない。
 実際には、救命原理はほとんど役に立たず、益よりも害を生み出すことさえある。過去において、救命原理と医学的にできることの隔絶はなかった。今では、医療保障の 必要度をどのように計測すべきか、「必要」とはどの範囲かを決定する困難がある。

■ 救命原理によらない正義
 アメリカでは、医療費を払うのは保険会社であるために、診療価格を抑える直接的誘因を当事者が持っていないので、病者が診療価格に注意を払わない。これは、賢明で ないやり方であり、不合理。

■ 保守的経済学者の意見を受け入れ難い理由
1.アメリカでは、富が非常に不公平に分配されている。
2.多くの人々が健康や医療技術について、不正確な知識しか持っていない。
3.規制されていない市場では、保険会社は特定の人々に高額な保険料を課す。

■ 仮想共同体での考察
1.富の分配、所得分配が可能な限り公正である社会。
2.最新の医療知識の情報を大衆がすべて知っている状況。
3.罹患率や事故遭遇率に関する情報を持っていない状況。

■ 仮想共同体から導かれること
1.当該仮想社会が医療保障に対してどれだけの額を投下しても、道徳的に妥当である。
2.当該仮想社会でヘルスケアがどのように分配されても、当該仮想社会においては正しい。
 「公正な分配とは、きちんと情報に通じた各個人が自ら選択することによって作り上げるものであり、そうした選択がなされる共同体での経済機構や富の分配はそれ自身 公正なものなのである」p419

■ 「平均的な」人物を想定した考察
 この場合、将来の最悪の帰結を考えても、特定の保険に加入することはないだろう。

 「可能な限り快適で痛みのない状態を可能にする安価な医療措置を保障する保険には、彼らは進んで加入するだろう」「(略)そうした保障がなされない人々の存在こそ が社会的不公正の根拠となる。よって、すべての人間にそうした保障がなされるよう、普遍的なヘルスケア機構が是非とも確立されなければならない」p421
 「ほんの少数の人々を除いた大多数の人間が妥当と考える前提に基づいて強制的保険制度を創設することは公正だと見なされる。特別な延命措置に金をもっと掛けたいと 思う少数の人々がいれば、彼らの資金に余裕がある限り、追加的な保険によってそれを認めればよい」p422

■ 賢明保険基準から主張されること
1.各個人が支払う金額を、国家として集合的に支払うべきである。
2.公正な自由市場下で各人が所有するであろうものを、現時点でもすべての人間が所有できるよう、総費用を使うべきである。

III
 「自らの人生にとって最善であるものについての決定を各自がなしうるために、資源の平等を志向する共同体とは、個人的責任に関する適切な原則を壊すものではなく、 むしろそれを実行するものだ」p426


  
第9章 正義・保険・運
I 序論:正義にとって苛酷な時代
 悪用を広範囲に認めてしまう福祉プログラムも、福祉を必要としている人々に福祉を認めない福祉プログラムも避けたい。

■ 考えるべきこと
受取資格(merit) 誰が公的援助を受ける資格を持っているのか。
基準(level) どの程度の援助が受けられるのか。
管理運営(administration) 管理運営のためにどのくらいの費用を費やすべきか。
扶養家族(dependency) 政策は請求者でない人にどこまで介入できるか。

II 戦略的問題
■ 選択と環境
 人々が置かれている状況は、選択と環境の相互作用による。これらを区別することは困難である。当人が責任を負わねばならないものと、共同体がその影響の緩和に 関して責任を負うものとを、どのように区別すべきか。

III 保守派の議論
A 受取資格を根拠とする議論

 生まれつきの優れた才能を持つ者は、他の人々よりも多く貢献しているのだから、それだけ多く得るのは当然である。
◇支持できない理由
1.ある性質を賞賛すべきであるとしても、その賞賛は物質的な形をとるべきという結論は導かれない。
2.賞賛すべき性質であるという想定は、何が富を獲得する才能となるかは多くの面で偶然的である。
 なぜ報酬の測定基準が商業市場でならないといけないのかも不可解である。

B 心理学的議論
◇人格を優勢要因する議論

 共同体のアリにキリギリスの援助をさせるのは公正でない。「依存の文化」を永続させる。まずは、誰しも仕事に専念すべきである。福祉を必要としない人々を 罰するためには、どんなに少数であろうとも、福祉を本当に必要とする人々の福祉を拒絶することを容認しうる。だが、それに反対するリベラル派も説得的な代替 戦略に欠けている。

IV お馴染みの非連続な回答
A 効用

 功利主義は福祉プログラムのモデルとしては、不適切である。功利主義的アプローチでは、効用に関する適当な観念は見つからない(第1章)。効用の意味を明示した とき、功利主義は倫理的個人主義の第二原理に違反するために、不公正である。功利主義的分析が、不適格な人々に多くの補償を与えすぎる事態以上にありそうなのは、 適格な人々に少ない補償しか与えない、という事態である。
B 格差原理
 ジョン・ロールズの格差原理は、最も貧しいグループを想定するが、これは伸縮性が大きすぎて、福祉事業計画を作り出せない。また、格差原理は、一般的な期待値が 上昇している時代には相応しいが、一般的な賃金水準が低下傾向の今日、効果的でないと考える。

V 仮想保険事業計画
A 物語

 再び、富や機会が公正に分配されている理想的な社会を想像する。仮想世界と現実世界の違いは、富が公正に分配されていない、推定リスクの相違など、環境の違いで ある。ゆえに、ある特定の人は保険に入らない。

B 市場の具体像
◇四つの失業保険

1.厳格な保険証券
最も低い保険料。「たかり屋」の厳格な排除。だが、長期の失業を除外した場合、あまり売れない。
2.寛大な保険証券
審査手続が煩雑になる分だけ割高。「たかり屋」を一定数抱えることになり、その分も保険料は高い。
3.任意加入主義的な保険証券
保険加入よりも就職を望む。就職すれば担保額以上の給料がもらえるので、最も人気がない。
4.強制加入主義的な保険証券
長期的に見れば、いくらか高くても任意加入主義的保険証券より人気が出るかもしれない。

C 扶養家族
 十代の妊娠を減らすために扶養手当を打ち切るべきだという主張がある。だが、そういう政策を取ったとしても、十代の妊娠が減少する見込みはないばかりか、子どもに 重大な害悪がもたらされることは確実である。仮想保険アプローチは、「本人」の選択や行動に倫理的な要求をするが、それが別のグループ(子どもたち)に影響を与える ような使い方をしてはならない。

D まとめ
◇仮想保険アプローチ

1.人々の人生は等しい重要性をもつ
2.各人は自分自身の人生を管理する責任を負う
 という二つの原理によって、仮想保険アプローチは福祉プログラムの範囲を確定しようとする。

VI くじ運
 仮想保険装置は、失業による不平等を緩和しても、根絶することはない。あまりにも多くのことが運によって左右されている。
◇リスクの考察
 誰が発病するかをすべての人が知っているとき、保険に加入する人はごく一部になる。このような状況下で、政府が保険アプローチをとるとき、反対する者が存在する。 そこで政府はすべての人のために集合的決定を下さなければならない。

VII 運・社会階層・世代
 世代間における不平等を緩和するために、相続税は支持される。

VIII 保険と効用
 保険アプローチを取る方が救命アプローチを取るよりも、大きな集合的福利をもたらす。しかし、この戦略は、最終的に個々人に対する公正さの実現を目指している。


作成:北村健太郎(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
UP:20050114 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db2000/0000dr.htm
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