> HOME >DATABASE 大山 博・炭谷 茂・武川 正吾・平岡 公一 編 20000120 『福祉国家への視座──揺らぎから最構築へ』 ミネルヴァ書房,MINERVA福祉ライブラリー35,305p. 3600円 pp.99-118 作成:20030421 小林勇人(立命館大学大学院先端総合学術研究科1回生) *アファーマティブ・アクション=以下AA 第一節 福祉国家の規範理論 規範的討議が必要な時 1:社会の多数派が共有している価値前提と、自らの、あるいは他者の差異から出発する場合 例)ロールズの「正義論」、60年代末の異議申し立ての季節 ・・・北米 2:制度が前提としている価値が社会の多数派から疑われる場合 例)70年代後半からの「福祉国家の危機」 ・・・英 *この論文では2に焦点が絞られる cf:それらの時代日本では討議がほぼなかった→今こそ必要 メリット 1:自ら制度を構想するための土台と、「経済諸制度や諸政策を評価する基準」 2:社会政策を考えるときの市民の内省の手引き 第二節 再分配とAA 「再分配の規範理論」:ロールズやセンの議論 ロールズの基本財と「財産所有の民主主義」 ・「無知のヴェール」→正義の二原理 ・「才能のプーリング」:才能は個人の所有物ではなく、社会の共同資産であるという人間−社会観 ・「リベラルな社会主義」:生産手段の所有と才能などの人的資本の所有とを、広く分散させる センの能力 ・財と効用との中間にfunctionings(機能)を発見し、その選択肢集合としてのcapability(能力)に注目 AAとの関係 〜規範理論と現実の社会政策がどのように関わっているか AAを支える規範の推移:1〜5段階(byネーゲル) ・ひとびとの間での規範:第四段階の二つの規範が争っている(逆差別のジレンマ) ・規範理論:第五段階 →再分配の規範理論は、実は第五段階の立場に立たない限り、AAを十分に正当化できない 第三節 承認とAA 「承認の規範理論」:C・テイラーとI・M・ヤング 背景〜様々な少数者集団(人種的、セクシャリティーなど)の要求や異議申し立て(多分化主義、承認の政治、差異の政治、アイデンティティー・ポリティックス) →これらを根拠付ける規範=承認の規範理論の構築 承認(recognition):自らと異なる他者を、尊重すること テイラーの多文化主義と承認の政治 ・実態的な自由主義:価値の平等性に積極的に関与 ・差異の政治:他者から押し付けられた不名誉な自己表象を正す要求 ・平等:差異を承認することによって達成 ヤングの「分配パラダイム」批判と差異の政治 ・ロールズなどの規範的議論を「分配パラダイム」として批判 ・抑圧(oppression)の概念:被害者や彼・彼女らが置かれる状況に焦点 ・平等:全ての手段が諸制度に参加すること AAとの関係〜逆差別のジレンマの乗り越え テイラー:平等が再定義されているため逆差別は回避 →ひとびとの間で必ずしも受けいられないかも ヤング:参加により諸制度に埋め込まれているバイアス解消=逆差別回避 →なおさらひとびとの間で優勢でないかも、だが第五段階の規範よりは受け入れられる可能性あり 第四節 福祉国家の規範類型と再分配−承認のジレンマ 「再分配」「承認」:福祉国家を根拠づける規範、社会政策の方向性としての二つの軸 ・再分配:必要による分配←→功績による分配 ・承認:同質化←→差異化 →このマトリックス化:福祉国家の規範類型 *必要による再分配を行うためには、他者の必要を同定しなくてはならない。これは適切な承認を伴って、はじめて十全に行われ得る。 再分配-承認のジレンマ ・社会的に不利益を強いられている集団が、平等な再分配を得るために、主流派の市民と「同じ」であることを強調することが必要な場面が存在 ・多数派が自らは変わらないまま、一方的に少数派の差異を劣ったものとして「承認」する事態 *多数者と少数者に線引きされるあらゆる問題に存在 「差異化」の中身の吟味→フレーザーの変革的戦略 ・本質主義:集団を実体化する立場→「肯定的な(affirmative)」な承認 ・構築主義:集団の境界を問う立場→「変革的な(transformative)」な承認 マトリックス化:福祉国家の戦略類型 ・肯定的再分配→「自由主義福祉国家」 ・変革的再分配→「社会主義」 ・肯定的承認→「主流派多分化主義」 ・変革的承認→「脱構築」 再分配-承認のジレンマの乗り越え →「自由主義福祉国家」×「脱構築」の組み合わせvs「社会主義」×「脱構築」の組み合わせ 例)ジェンダー:リベラル・フェミニズム×文化フェミニズムvs社会主義フェミニズム×脱構築フェミニズム ・前者:承認の不正義というバックラッシュ ・後者:最良だが実現可能性低い 脱構築の可能性:実際の少数者の異議申し立てが、さしあたり二分法を強化するような実態的、本質主義文法のもとに展開されるにしても、その二分法を問う契機に開かれていくということがある →前提条件としてではなく、実際の運動や政策の出会いのなかで起こりうる可能性として捉える ヤング:「・・・ある視座や歴史を有する個人が、他の集団特有の視座及び歴史を担っている人々の観点を、完全に理解したり採用することは決して有り得ないのである。しかし、社会政策を共に決定していこうとする欲求や望みを真剣に持ち続けることにより、それらの差異を横断するコミュニケーションが育まれるのである。」 「差異を横断するコミュニケーション」→それぞれが複数の境界に関して多数者/少数者の立場にいることが自覚され、境界の流同化も起こり得る。 第五節 再分配と承認― 一つの試論 日本 ・再分配:必要という方向性希薄 ・承認:この規範自体未成熟 福祉国家という規範的構想力が、差異をめぐるせめぎ合いにとってもつ意味を模索する一試論 →差異に敏感な社会政策の議論、福祉国家という規範的構想力の可能性と限界と捉え返す作業に繋がれば幸い 作成:小林勇人 UP:20030421 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db2000/0001yt.htm ◇山森亮 ◇Young, Iris Marion ◇BIBLIO. ◇WHO |