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曽良中清司・長谷川公一・町村敬志・樋口直人(編著)
『社会運動という公共空間−理論と方法のフロンティア』成文堂

曽良中清司・長谷川公一・町村敬志・樋口直人(編著)20040500『社会運動という公共空間−理論と方法のフロンティア』成文堂 270p ISBN:4792360811 [amazon][bk1]

目次
はじめに
序章 社会運動と社会運動論の現在/長谷川公一・町村敬志
 1 社会運動研究の隆盛―1990年代以降の研究動向
 2 日本の研究の現状と本書の課題
 3 変容する市民社会と社会運動の形
  3.1 日本における市民運動の特徴
  3.2 市民運動の限界
  3.3 サブ政治のなかの社会運動
 4 「対決の政治」contentious politicsと社会運動の制度化

第1章 争議のサイクルとレパートリーから見る社会変動/中澤秀雄
 1 はじめに
 2 近現代日本におけるレパートリーとサイクル:可能性の提示
  2.1 レパートリーとサイクルの意義
  2.2 近現代日本におけるサイクルとレパートリー
 3 Tillyにおける社会運動とレパートリー
  3.1 集合行為の形態変化
  3.2 国家化・都市化・資本主義化とレパートリー
  3.3 レパートリー概念の汎用化と手段化
 4 Tarrowのサイクル形成論とその展開
  4.1 Tarrowによる理論化
  4.2 資源逓減と抑圧モデル:R.Koopmans
 5 サイクルとレパートリーの関係論理を求めて
  5.1 サイクル上の位置とレパートリー
  5.2 伝播(Diffusion)の論理を求めて
  5.3 時間軸の問題
 6 結語にかえて

第2章 社会運動と集合的アイデンティティ−動員過程におけるアイデンティティの諸相−/川北稔
 1 はじめに
  1.1 アイデンティティ概念の変容―多元化と脱自然化
  1.2 社会運動とアイデンティティ概念
 2 新しい社会運動とアイデンティティ・ポリティクス
  2.1 新しい社会運動と自己への問い
  2.2 アイデンティティ運動への政治的論難
  2.3 アイデンティティ運動への経験的反駁
 3 社会運動の合理性問題とアイデンティティ
  3.1 資源動員論とフリーライダー問題
  3.2 社会運動論における不満・感情の再導入
  3.3 Melucciのアイデンティティ概念
 4 集合的アイデンティティの分析レベル―連帯・運動・個人
  4.1 アイデンティティ概念の文脈と広がり
  4.2 連帯・運動・個人のアイデンティティ
  4.3 交錯するアイデンティティと運動の動態
 5 動員過程の分析とアイデンティティ概念―発生・展開・帰結
  5.1 運動過程とアイデンティティ
 6 むすびにかえて
  6.1 小括
  6.2 集合的アイデンティティ概念の有効性

第3章 イベント分析の展開−政治的機会構造論との関連を中心に−/山本英弘・西城戸誠
 1 はじめに
 2 イベント分析とは何か
 3 政治的機会構造とイベント分析
  3.1 政治的機会構造の理論的視座
  3.2 政治的機会構造論とイベント分析
  3.3 イベント分析の確立
  3.4 小括
 4 日本の社会運動を対象とした分析
  4.1 使用するデータ
  4.2 社会運動のダイナミクス
  4.3 政治的機会構造と社会運動
 5 結語に代えて

第4章 社会運動のフォーマルモデル−政治的機会構造のメカニズム−/渡辺勉
 1 問題の所在
 2 フォーマルモデルの特徴と前提
  2.1 なぜフォーマルモデルなのか
  2.2 社会運動研究におけるフォーマルモデル
  2.3 行為論的前提としての合理性
 3 社会運動のフォーマルモデル
  3.1 集合行為と社会運動
  3.2 政治と社会運動
 4 政治的機会構造のフォーマルモデル
  4.1 政治的機会構造研究の課題
  4.2 政治的機会構造の類型化
  4.3 交渉モデル
 5 結論

第5章 モダニティの変容と社会運動/大畑裕嗣
 1 はじめに
 2 モダニティの潜在力の担い手としての社会運動
 3 モダニティの高次化
  3.1 ハイ・モダニティ(高度近代)(Giddens)
  3.2 リキッド・モダニティ(流体近代)(Bauman)
 4 自我の変容
  4.1 自我のディレンマ(Giddens)
  4.2 個人化という宿命(Bauman)
 5 「運動」の変容
  5.1 現代の運動と動員の特徴
  5.2 市民社会と社会運動の関係
  5.3 「政治」概念の変化
  5.4 「新しい共同体」、公的経験、差異の媒介
  5.5 まとめ
 6 おわりに

第6章 グローバル化と社会運動/樋口直人・稲葉奈々子
 1 問題の所在
 2 1990年代以降における「グローバル化と社会運動」の諸相
  2.1 相互依存の強化としてのグローバル化
  2.2 地域統合と反グローバリズム
  2.3 コスモポリタン民主主義と民主主義の不在の間
 3 フロー空間に対抗するアイデンティティ
  3.1 新しい社会運動論の問題構制と限界
  3.2 プログラム社会からネットワーク社会へ
  3.3 歴史的行為主体の不在―90年代以降のトゥレーヌ学派
  3.4 「ネット」と「自己」―ネットワーク社会における抵抗の拠点
 4 トランスナショナルな機会構造と動員構造
  4.1 グローバル市民社会の形成
  4.2 機会構造と動員構造のトランスナショナル化
 5 グローバル化と社会運動をめぐる争点
  5.1 2つの主体
  5.2 グローバル市民社会の鋳造
  5.3 オルタナティブなグローバル化へ

終章 社会運動論の回顧と展望/曽良中清司
 1 はじめに
 2 伝統的社会運動理論の系譜
 3 資源動員論的接近法と政治過程論的近接法の登場
 4 闘争のレパートリー、フレーム調節過程、およびプロテスト循環
 5 「新しい運動」の理論とアイデンティティ
 6 今後の課題

索引
執筆者紹介



はじめに
「1990年代以降、ヨーロッパにおける冷戦構造の解体や国際社会のグローバル化の動きなどに規定され、国際的にみると、社会運動論はきわめて多産で豊穣の時代を迎えたといえる。しかし日本では、90年代に入って社会運動研究はむしろ相対的に停滞気味だったという感が否めない。」(@)
→『思想』1985年11月号(737号)「新しい社会運動」

序章 社会運動と社会運動論の現在/長谷川公一・町村敬志
1 社会運動研究の隆盛―1990年代以降の研究動向
「1990年代欧米では、D.McAdamやS.Tarrowなどが牽引車役となって数多くの著作が刊行されるとともに、1996年には半年肝の社会運動研究の専門誌Mobilizationが創刊された。オランダのB.Klandermansをシリーズ・エディターとするミネソタ大学出版局の『社会運動、抗議と対決』シリーズも、1994年に第1巻の刊行が始まり、2003年末までに計18冊を数えるに至っている。2001年からは、McAdam、Tarrow、C.Tillyがエディターとなって、ケンブリッジ大学出版局から、この3人の共著によるMcAdam et al.(2001)をはじめとするCambridge Series in Contentious Politicsの刊行が開始され、2003年末までに5冊を数えている。」(1頁)

「争点と地域、戦略・戦術の多様化がすすんだのが、90年代以降の社会運動の国際的な趨勢といってよい。」(2頁)

*理論的な特色
 第1 国際交流の進展
 第2 H.Kitschelt(1986)以来の国際比較研究の進展
 第3 政治学、政治社会学との交流の活発化
 第4 社会運動と文化に関する研究の進展

「Melucciらの新しい社会運動論的な研究がもたらしたインパクトの1つは、集合的アイデンティティや動員過程における文化的要素の役割など運動の文化に関する研究である。」(3−4頁)
 
第5 グローバル化と社会運動を主題化する研究の急速な増大
 第6 社会運動研究の多様化・総合化
 第7 社会運動研究の射程のひろがり
「社会運動が一つの公的空間であることは、西欧世界と非西欧世界を問わず、現代世界のほぼ共通の前提となりつつある。」(5頁)

「社会運動論が、理論的・方法論的に細分化が進む社会学にあって例外的に、領域横断的な研究の足場を確保することに成功してきたことにあろう。」(5頁)
 2 日本の研究の現状と本書の課題
 3 変容する市民社会と社会運動の形
  3.1 日本における市民運動の特徴
「「市民」という概念はこのように一見とても抽象的な内容をもっている。だがそれは同時に、きわめて実践的なねらいをも伴せもっていた。第1に市民とは、国民国家における「国民」とは異なる次元で定義される。第2に市民とは、経済構造によって規定される「階級」とは異なる次元で定義される。第3に市民とは、現代において、マスメディアや消費主義の発達した大衆民主主義という前提の下で定義される。」(9頁)

「市民運動は当初から既成社会運動との競合―競争・協力・対立―という状況のなかで、自らを形成し発展を遂げてきたのである。」(10頁)

「第1に、工業化や都市化、環境破壊や高齢化によって、既成運動では十分に対応できない矛盾や社会問題が多発したことが、市民運動に新しい活動の余地をもたらした。第2に、生産点に基礎をおく運動の中にはうまく居場所を見つけられない潜在的支持層―たとえば高学歴ホワイトカラー層、消費者、女性など―を、市民運動はその支持者層の内側に引き入れることに成功した。第3に、集合的目標達成を最優先するあまり参加者を組織の歯車と見なす傾向の強かった既成運動に対して伊、市民運動は、参加者一人ひとりの多様性や自由を尊重する開放的な活動としての特徴をより色濃くもつことによって、より広範な社会層の支持を集めることに成功した。第4に、マスメディアを利用したり、既成組織との連携を図ったりすることによって、相対的に少ない資源でより大きな成果を挙げることに成功した。」(10頁)

「おおまかに言えば、第1に平和をめざす市民運動(1950年代〜)が口火を切り、続いて第2に、居住点に基礎を置いて地域を変える住民運動(1960年代〜)がそれに続いた。やがて、第3に、「社会的弱者」とされてきた多様な主体によるアイデンティティ志向型の社会運動(1970年代〜)が、活動の裾野を拡げていく。これら活動の成果が累積していく中で、市民運動と呼ぶことが可能な社会運動センターの活動空間が次第に拡張されてきたのである。」(11頁)

  3.2 市民運動の限界
*90年代以降の大きな変化
第1 活動の主要なアリーナとしてきた「政治」の意味自体を再定義する必要性 
→「政治的なるもの」
第2 東西冷戦・保革対立の「第3勢力」としての市民運動のアイデンティティの揺らぎ
第3 「市民」概念の再検討
第4 心理主義化する社会における個化された集合的実践の再定位

  3.3 サブ政治のなかの社会運動
「第1に、従来前提とされてきた公共性概念が、一国主義的な「国家−市民社会」観に立脚していたことをまず確認しておく必要がある。」(14頁)
「第2に、冷戦体制の崩壊、テロと戦争の時代の出現を経て、政治空間全般が変容していく中で、社会運動の位置全体をもう一度大きな視点から再検討する必要に迫られている。」(15頁) 

「社会運動がなぜ社会学において重要な関心の対象であり続けているのか。その理由のひとつが、社会運動の果たす「先駆け」的な役割、すなわち、個人の痛みや社会的な矛盾をいち早く察知し、公的に呈示し、その変革に向けていち早く回路を開いていく「先駆け」としての役割にあったことは、おそらく多くの人々が認める点だろう。社会運動は、「構造的ストレーン」の表出であれ、あるいはまた「社会的予(預)言」であれ、何らかの社会変動の前触れとしての意味をもつものと期待されきた。」(16頁)

「「遅滞」であるしかない社会運動論は、やがて到来する変動の本流に飲み込まれ、たいていは常態を扱う制度分析へと変化を遂げていく。」(16頁)

 4 「対決の政治」contentious politicsと社会運動の制度化
→Tarrowの「集合的挑戦」「運動社会」
→長谷川「不満と変革志向性と集合行為を要素とする」
「contentious politics「対決の政治」が、先進産業社会の現実政治においてはグローバル化をめぐる問題などをのぞいては、社会変革の中心的な契機としてのリアリティを次第に失いつつあるにもかかわらず、社会運動研究者達は繰り返し、contentious politicsの幻想を追い続けているのではないか、という疑問を生じよう。」(20頁)

「社会運動の効果研究、社会運動と政策形成は、国際的にも社会学的な研究の希薄な領域であり、現実の運動の方がはるかに先を行っているというべきである。研究上の大きな領野が横たわっている。contentious politicsの視座は、1960年代的な問題設定の残存であり、1990年代以降のNGO的な社会運動の政策志向性を十分捉え得ていないのではないか。」(21頁)


第1章 争議のサイクルとレパートリーから見る社会変動/中澤秀雄
 1 はじめに
 2 近現代日本におけるレパートリーとサイクル:可能性の提示
  2.1 レパートリーとサイクルの意義
  2.2 近現代日本におけるサイクルとレパートリー
 3 Tillyにおける社会運動とレパートリー
  3.1 集合行為の形態変化
  3.2 国家化・都市化・資本主義化とレパートリー
  3.3 レパートリー概念の汎用化と手段化
 4 Tarrowのサイクル形成論とその展開
  4.1 Tarrowによる理論化
  4.2 資源逓減と抑圧モデル:R.Koopmans
 5 サイクルとレパートリーの関係論理を求めて
  5.1 サイクル上の位置とレパートリー
  5.2 伝播(Diffusion)の論理を求めて
  5.3 時間軸の問題
 6 結語にかえて


第2章 社会運動と集合的アイデンティティ−動員過程におけるアイデンティティの諸相−/川北稔
 1 はじめに
  1.1 アイデンティティ概念の変容―多元化と脱自然化
  1.2 社会運動とアイデンティティ概念
 2 新しい社会運動とアイデンティティ・ポリティクス
  2.1 新しい社会運動と自己への問い
  2.2 アイデンティティ運動への政治的論難
  2.3 アイデンティティ運動への経験的反駁
 3 社会運動の合理性問題とアイデンティティ
  3.1 資源動員論とフリーライダー問題
  3.2 社会運動論における不満・感情の再導入
  3.3 Melucciのアイデンティティ概念
 4 集合的アイデンティティの分析レベル―連帯・運動・個人
  4.1 アイデンティティ概念の文脈と広がり
  4.2 連帯・運動・個人のアイデンティティ
  4.3 交錯するアイデンティティと運動の動態
 5 動員過程の分析とアイデンティティ概念―発生・展開・帰結
  5.1 運動過程とアイデンティティ
 6 むすびにかえて
  6.1 小括
  6.2 集合的アイデンティティ概念の有効性


第3章 イベント分析の展開−政治的機会構造論との関連を中心に−/山本英弘・西城戸誠
 1 はじめに
 2 イベント分析とは何か
 3 政治的機会構造とイベント分析
  3.1 政治的機会構造の理論的視座
  3.2 政治的機会構造論とイベント分析
  3.3 イベント分析の確立
  3.4 小括
 4 日本の社会運動を対象とした分析
  4.1 使用するデータ
  4.2 社会運動のダイナミクス
  4.3 政治的機会構造と社会運動
 5 結語に代えて


第4章 社会運動のフォーマルモデル−政治的機会構造のメカニズム−/渡辺勉
 1 問題の所在
 2 フォーマルモデルの特徴と前提
  2.1 なぜフォーマルモデルなのか
  2.2 社会運動研究におけるフォーマルモデル
  2.3 行為論的前提としての合理性
 3 社会運動のフォーマルモデル
  3.1 集合行為と社会運動
  3.2 政治と社会運動
 4 政治的機会構造のフォーマルモデル
  4.1 政治的機会構造研究の課題
  4.2 政治的機会構造の類型化
  4.3 交渉モデル
 5 結論


第5章 モダニティの変容と社会運動/大畑裕嗣
 1 はじめに
 2 モダニティの潜在力の担い手としての社会運動
 3 モダニティの高次化
  3.1 ハイ・モダニティ(高度近代)(Giddens)
  3.2 リキッド・モダニティ(流体近代)(Bauman)
 4 自我の変容
  4.1 自我のディレンマ(Giddens)
  4.2 個人化という宿命(Bauman)
 5 「運動」の変容
  5.1 現代の運動と動員の特徴
  5.2 市民社会と社会運動の関係
  5.3 「政治」概念の変化
  5.4 「新しい共同体」、公的経験、差異の媒介
  5.5 まとめ
 6 おわりに


第6章 グローバル化と社会運動/樋口直人・稲葉奈々子
 1 問題の所在
 2 1990年代以降における「グローバル化と社会運動」の諸相
  2.1 相互依存の強化としてのグローバル化
  2.2 地域統合と反グローバリズム
  2.3 コスモポリタン民主主義と民主主義の不在の間
 3 フロー空間に対抗するアイデンティティ
  3.1 新しい社会運動論の問題構制と限界
  3.2 プログラム社会からネットワーク社会へ
  3.3 歴史的行為主体の不在―90年代以降のトゥレーヌ学派
  3.4 「ネット」と「自己」―ネットワーク社会における抵抗の拠点
 4 トランスナショナルな機会構造と動員構造
  4.1 グローバル市民社会の形成
  4.2 機会構造と動員構造のトランスナショナル化
 5 グローバル化と社会運動をめぐる争点
  5.1 2つの主体
  5.2 グローバル市民社会の鋳造
  5.3 オルタナティブなグローバル化へ


終章 社会運動論の回顧と展望/曽良中清司
 1 はじめに
社会運動研究の「祖」―L.Stein(1850)
R.Heberle(1949,1951)
「(1)Steinから―1920年代に「社会運動」を構築しようと試みた―W.Sombart(1924)まで、プロレタリアートによる社会変革の努力を指すものと理解されてきた社会運動の概念を外延的に拡大したこと。」(230頁)

「(2)1970年代に入ってA.Touraine、A.Pizzorno、A.Melucchiなどフランスやイタリアの、そしてまた90年代中頃からはRucht、K.-U.Hellmanといったドイツのいわゆる「新しい社会運動」の理論家たちによって強調されることになった集合的アイデンティティの観念を先取りして重視したこと。Heberleによれば、多数の人々の間で別個に生ずる似通った感情や行動は運動を構成しない。集合的アイデンティティと連帯性の感覚が要求される。行動する諸個人が共通の社会感情と目的をもっている事実に気づき、自分たちは共通の目的を追求する行動において互いに結びついていると考えるようになった時、はじめて社会運動の存在がみとめられる(Heberle1949:340)」(231頁)

「(3)1980年代も半ばを過ぎてドイツの運動研究者たちが注視し始めた社会運動と政党の関係を、1951年の段階で詳しく論じていたこと(Heberle1951:290−4)。」(232頁)

 2 伝統的社会運動理論の系譜
・大衆社会論
・集合行動論的運動理論
・社会心理学的理論
「相対的価値剥奪とは、「特定の比較対象―過去あるいは将来のある時点における自分を含む―の現実的あるいは想定された状況複合〔A〕と、比較者自身の現実的あるいは想定された状況複合〔B〕とくらべ「A」または「B」に価値を付与し、これと相対的に「A」または「B」から価値を剥奪する動態的プロセスを指す(曽良中1996:57)。」(234頁)

「Davies(1962)のJ曲線理論は、比較的良好な経済状態が続いて、人々の現実的欲求充足度が高まり、これに伴い期待される欲求充足度も上昇しているときに経済が落ち込み、困苦欠乏の時期がくれば、当然、現実的欲求充足度は下降するのだが、期待される欲求充足度の方は上昇し続け、この2つの充足度の差が耐えられないものになった時点で革命が起こるとする。つまり、人々は現実的欲求充足度と期待される欲求充足の比較認識から生じ得る不満によって革命に向かうとみるのである。この比較認識が相対的価値剥奪という心理的メカニズムを構成するいくつかの作業のうち中心的なものであることは、前掲の拙著で詳しく説明しておいた(曽良中1996:58−80)。」(234頁)

 3 資源動員論的接近法と政治過程論的近接法の登場
・McAdam ―「政治過程的(PP)接近法」
「この概念を借用した基本的目的は、2つの事実を明らかにすることにあった。1つは、社会運動が心理学的現象ではなく、政治的現象であること、換言すれば、制度化された政治過程を形成する諸要因が、社会運動の説明に同じ分析効果をもつことである。もう1つは、社会運動は発生から衰退に至る連続的諸過程の全体を指すのであり、したがって運動の特定の段階(たとえば発生)だけに焦点を合せる分析枠組みを作るのでは、運動を十分適切に説明できないことである。」(236−237頁)

「この2つの事実認識を基盤にした、McAdamの政治過程モデルは、3つの要因を運動の発生に重要なかかわりをもつものとして認める。第1は、不満を抱く人々における組織化のレベルであり、第2は同じ人々が反抗に成功する見込みについてもつ集合的評価、そして第3は幅広い政治環境における集団の提携関係である。McAdamは第1の要因を「少数集団の共同体における組織の準備性」、第2の要因を「運動の大衆的基盤における反抗意識」、第3の要因を―P.K.Eisingerの用語を借りて―「政治的機会構造」とそれぞれ名づける(McAdam1982:40) 」(237頁)

「McAdam(1996)は1996年になって、この概念の再検討を試み、それがもつ3つの問題点―(1)政治的機会と他の種類の「機会」との相違、(2)政治的機会を構成する次元、および(3)この概念が適用されてきた様々な従属変数―を明らかにして、分析的明確化に努めていた。 」(237−238頁)

 4 闘争のレパートリー、フレーム調節過程、およびプロテスト循環
「Crossleyによれば、功利主義者と合理的選択論者に通低するのは、「社会」のようなものは存在せず、ただ個人がいるだけという個人主義である。」(239頁)

「フレーム調節(frame alignment)。社会運動研究の領域にこの概念を持ち込んだのは、基本的には、資源動員論の系譜に属するD.A.Snowとその共同研究者たちである。彼らは、伝統的運動理論の社会心理学的接近法も、それに対する批判から生まれてきた資源動員論的接近法にも、共に、不満解釈の過程―つまり状況や経験の主観的解釈が不満を発生させること―を無視していると主張する。前者は強度の不満と運動参加への動かされやすさの間にほとんど自動的な結びつきを仮定し、主観的解釈についてはリップ・サービスをするだけで、真正面から取り扱ってはいない。
 後者は、不満動員の偏在性と恒久性を仮定することで、やはり主観的解釈の問題に関する考察を回避してしまう。この無視は重大な盲点である(Snow, Rochford, Worden and Benford 1986 :464-5)」(239頁)

「フレーム調節の概念は、McAdamのいう「認知解放」や「基本的帰因エラー」(McAdam1982:48−51)と密接に結びつく内容をもっており、社会運動組織が、支持動員のために、その活動、目標、およびイデオロギーを、潜在的支持者の利害、価値、および信念と調和的、もしくは相補的なものにする試みを指す。」(240頁)

「Snowたちは、マスターフレームは特殊なフレームと同じ諸機能を「大きな規模」で果たすと主張し、これらの機能を「中核的フレーム課題」として説明する。元来彼らのフレーム論は、伝統的社会運動理論に続いて台頭した米国の資源動員論の接近法も、ヨーロッパの「新しい社会運動研究」のそれも、共にイデオロギー的諸要因―価値、信念、意味―と運動参加との関係を体系的に追及していないという、批判的認識から生まれてきた。」(241−242頁)

・Tarrow―「プロテスト循環」説
「Tarrowはこれら2組の集合行動を分析した結果、それらが共通した次の諸過程から成る循環的現象を示していることに着目したのである。(1)人々に反抗を呼びかけようと考えている者たち―Tarrowはこれを「早期叛徒」と名付ける―に要求行動を開始する政治的機会が開かれる。(2)彼らの要求が人々の共鳴を呼び、紛争が高まる。(3)紛争は地理的および社会的境界を越えて広がる。(4)闘争のレパートリーが拡大する。(5)新しい運動組織が出現し、古い運動組織はその力を強化する。(6)新しいマスター・フレームが作り出され、異なる諸集団の行動が相互に結びつけられる。(7)挑戦者と当局との相互作用が強まる(Tarrow1994:92)。」(244−245頁)

 5 「新しい運動」の理論とアイデンティティ
「Ruchtの表現を借りれば、Touraineは「みずからを記述的分析に限定する研究者ではなく…、どのようなタイプの社会を未来に期待すべきか」を理解しようとする社会学者である(Rucht1991b:366)。労働社会学的研究に焦点を合せていた時期の彼は、この「未来に求めるべき社会」の実現につながりそうな努力を労働運動に見ていたのだが、5月運動はこの見方を変えさせた。」(246頁)

「(1)Touraineのいう新しい社会運動は、現に存在する運動ではなく、「未来に求められる社会」を生み出すと期待される将来出現するはずの運動である。(2)Touraineは初期―彼が労働社会学者であった時期―に労働階級意識の構成要素と見たものを、運動分析にも適用し、社会運動を成立させる3つの原理にした上で、(3)これらの原理を基準にして社会紛争の分類を試み、社会運動の「特殊なタイプの社会紛争」に限定した。」(247頁)

「だが、1980年代末頃のMelucciは、個人が自分の置かれている環境を査定したり、自分の行為の損得を計算したりすることがそれによって可能になる認知枠を作り出す過程を指して集合的アイデンティティと呼ぶようになり、3つの次元を含ませる。第1は行為の目標、手段、および環境にかかわる認知枠を形成する次元。第2は意図を伝達し合い、協議し、そして決定を下す行為者間の関係を活性化する次元。第3は行為者が互いに各人を認識するのに必要な情緒的投資をおこなう次元である(Melucci1989:35)。」(251頁)

「そして90年代の末になると、ドイツの研究者たちは、米国の研究者たちが開発してきたフレーミング、資源動員、および政治的機会構造の3つに接近する方法に、構造的緊張と集合的アイデンティティの2つに接近する方法を加えた、5つのアプローチから成る基本的分析枠組みを構築するのである(Hellman1998)。」(251−252頁)

 6 今後の課題
「集合的アイデンティティについては、K.McDonald(2002)の提言にも耳を傾けなければなるまい。今日のネットワーク社会の脈絡においては、集合的アイデンティティという概念によっては、グローバリゼーション紛争の重要な次元を説明することができない。分析の視点を連帯性から流動性へ、集合的アイデンティティから公的自我経験に移さなければならない。そいうのである。」(252頁)



製作:山本崇記(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
UP:20050318 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/db2000/0405sk.htm

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