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岩田正美/西澤晃彦編著『貧困と社会的排除 福祉社会を蝕 むもの』



岩田正美/西澤晃彦編著20050210『講座・福祉社会第9巻 貧困と社会的排除 福祉社会を蝕むもの』ミネルヴァ書房,p.323,¥3,675, ISBN: 4623041387 [amazon]

■目次

『講座・福祉社会』刊行にあたって
序章 貧困・社会的排除と福祉社会  岩田正美
 1 貧困と社会
 2 「われわれの貧困」と「彼らの貧困」
 3 本書のねらいと構成

第T部 現代の貧困からみる視点
第1章 政策と貧困  岩田正美
     ――戦後日本における福祉カテゴリーとしての貧困とその意味――
 1 政策カテゴリーとしての貧困
 2 貧困の「一般救済」政策と「被保護層」の位置
 3 稼働年齢男性への特殊貧困対策
   ――「浮浪者」および「寄せ場」から「ホームレス」へ
 4 女性への特殊貧困対策――「母子」および「特殊夫人」
 5 戦後日本における貧困の位置とその意味

第2章 排除による貧困  西澤晃彦
     ――東京の都市下層――
 1 国民化と排除
 2 隠蔽
 3 都市下層の再編
 4 都市下層の存在形態
 5 福祉国家と隠蔽
 6 野宿者
 7 「国民」の変容と排除

第U部 貧困の分布と諸相
第3章 収入からみた貧困の分布とダイナミックス  濱本知寿香
     ――パネル調査にみる貧困変動――
 1 貧困動態研究の動向
 2 分析の枠組み
 3 貧困の実態
 4 貧困タイプ別にみた実態
 5 慢性貧困化と今後の課題

第4章 住宅からみた高齢女性の貧困  泉原美佐
     ――「持ち家」中心の福祉社会と女性のハウジング・ヒストリー――
 1 「高齢者」の定義
 2 調査の手法と分析枠組み
 3 高齢者と住宅
 4 高齢女性と持ち家
 5 高齢女性(の住宅)の貧困と日本型福祉社会

第5章 健康と貧困との相互関係  早坂裕子
     ――健康と社会・経済的な状況――
 1 欧米における健康と貧困
 2 日本における健康と貧困

第6章 大都市における貧困の空間分布  山口恵子
     ――1975〜2000年のセグリゲーションの様態――
 1 大都市の空間構造と貧困への視点
 2 貧困の空間分布とその変動
 3 貧困地区の三類型
 4 貧困化とセグリゲーション

第V部 貧困と政策展開
第7章 「被保護層」としての貧困  岩田正美
     ――「被保護層」は貧困一般を代表するか?――
 1 生活保護制度による貧困の捕捉
 2 「被保護層」の特徴
 3 「被保護層」という排除

第8章 福祉政策と女性の貧困  川原恵子
     ――ホームレス状態の貧困に対する施設保護――
 1 貧困と社会政策・福祉政策
 2 女性と貧困
 3 ホームレス状態の女性への福祉政策の展開――東京を事例に
 4 ホームレス状態の女性の貧困と福祉政策

第9章 単身男性の貧困と排除  北川由紀彦
     ――野宿者と福祉行政の関係に注目して――
 1 野宿者と福祉行政
 2 一般福祉体系からの排除と日雇労働市場への吸収
 3 自立支援システムにおける選別と排除
 4 包摂される者/切り捨てられる者

第10章 外国人労働者をめぐる貧困の排除  山本薫子
      ――就労・居住・消費の局面で――
 1 外国人労働者は「貧困」か
 2 外国人労働者をめぐる居住の状況
 3 超過滞在者をめぐる医療・社会保障の状況
 4 出稼ぎと消費を循環しつづける外国人労働者

第W章 福祉社会への模索
第11章 檻のない牢獄  西澤晃彦
      ――野宿者の社会的世界――
 1 檻のない牢獄
 2 距離の思想
 3 野宿者の社会的世界

第12章 貧困地区の改善戦略について  平山洋介
      ――島団地再生事業の経験から――
 1 島団地再生事業の特質
 2 誰を救うのか?
 3 誰が決めるのか?
 4 何が望ましいのか?
 5 貧困地区の改善を目指して

あとがき
人名索引・事項索引

■以下、作成者による引用

□序章 貧困・社会的排除と福祉社会  岩田正美

◆「このような貧困を「別の社会」の問題としてみる眼差しが変化したのが19世紀半ばから20世紀にかけての時代であった。ここではまず「貧民」と労働者 の切り離しが行われたうえで,憐れみや統制はまだ市民として扱われていない「貧民」に限定され,そののち,社会の完全な構成員となった労働者の貧困,市民 の貧困が社会問題として提起され直すというプロセスを辿ることができる。労働者や市民の貧困は,「無秩序」や外観ではなく,所得や消費水準という貨幣量に よって一元的に把握可能なものとみなされ,貧困はまさに「われわれの社会」の出来事,産業社会の落とし子として注目を集めることとなった。むろん,「われ われの社会」という同質空間の中で,同じ貨幣量のどこからを貧困と呼ぶかの「閾値」問題は,一層困難を極める貧困裁定の課題となったのだが。ともあれ福祉 国家は,このような「われわれの社会」が生み出した貧困に対して,「われわれの社会」を維持するために,主に所得保障によって予防コントロールするものと して期待されたわけである。」(p.4)

◆「社会的排除は,1980年代に若者の長期失業など従来の社会保障制度では対応できない集団の存在に直面したフランスに起源をもつ言葉だとされている (Madanipour et al. 2000)。これが次第に長期失業層だけでなく,地理的空間的に区分された大都市の周辺部やゲットーに暮らし,経済,政治,文化のあらゆる側面で,通常の 機会や制度から切り離された特定集団の問題全体を指すものとして使われるようになった。ヨーロッパでは近年この用語をヨーロッパ連合(EU)の新しい社会 統合の中心にすえようとする政治戦略が現れ,「社会的排除との闘い」という共通目的や社会的統合のための計画策定が加盟国に課せられたために,この概念が 貧困に代わるものとして急速に普及している。なお,この排除された層を,アメリカでなかつての「下層社会」アンダークラスというラベルで呼んで,19世紀 型貧困の復活という意味を印象づけた。
 むろん,社会的排除論の背景にあるのは19世紀への逆行ではなく,欧米では1973年の石油危機と為替変動相場制への移行を期に急速に進んだ「ポスト工 業化社会」とグローバリゼーションによる「われわれの社会」自体の根本的な変容だといわれている(Harvey, D. 1989)。ブースやラウントリーの把握した貧困は工業社会の労働者の貧困であり,さらに福祉国家は,大量生産体制を基本とする工業常用労働者とその家族 の生活変動を制度設計のモデルとした。そこでは主に雇用と賃金の安定維持,また子供の養育費や高齢期のニーズなどライフサイクル上のリスクが考慮された が,ポスト工業化社会は金融や情報などの新しい部門を膨らませるとともに,これらの部門を資本が次々と移動するため,これらを支える労働市場の再編が,不 正規雇用の拡大,外部化や下請け化というかたちで進行した。グローバリゼーションによる世界市場での競争がこれらの「変動」をさらに加速させていると理解 することもできる。また離婚や未婚の増大など家族の変容も指摘されている。
こうした変化のもとで,中間層の膨らんだ「気球型社会」から「砂時計社会」のような貧富の差の大きな両極社会へ移行していることや(Lepietz et al. 2000),貧困の期間の長い「貧困経験者」の増大が,同一集団をくりかえし調査するパネル調査の結果から明らかにされはじめた。この「貧困経験者」の構 成では従来の高齢層の比率が減って,代わりに若年者,一人親世帯,移民層の比率が高まっていることから,これらを「新しい貧困」と呼ぶ人びともいる。社会 的排除論は,この「新しい貧困」の一部を,社会総体との空間的,制度的位置関係において,捉え直そうとした概念であるともいえよう。空間的にも、制度的に も「排除」されて,社会の周縁に蓄積された「彼らの貧困」は,同質の労働者階級,市民層の中の連続する生活水準レベルの,ある「解決すべき」閾値だけで判 断されるものではなく,「われわれの社会」総体の排除と統合の動態的プロセスの中でしか把握されない,ということのようやく社会の関心が向けられるように なったわけである。」(p.6〜7)

◆「たとえば日本において,国民や地域社会の福祉供給における「主体と責任」が問われるとき,まず,一体誰が国民と地域社会として認識されているのか,さ らにその国民や地域住民の中で貧困や排除によってその「主体と責任」を全うできない状況におかれている人びとがどのくらいいるのか,等についての関心はほ とんどない,といってよいのではなかろうか。あるいは「フリーター」の労働意欲の希薄や貧困層の制度への依存を「主体と責任」の観点から問題にするとき, 彼らがその「主体と責任」を全うできる条件を獲得しているかどうか,に強い関心が注がれることもまた少ないように思われる。」(p.8〜9)

□あとがき

◆「日本の社会福祉や社会政策の議論において,貧困,貧困地区,ホームレス,外国人労働者などの問題は,「理論・思想」や「システム・制度」,あるいは 「高齢者や家族」のような主流ではないけれども,触れておいた方がよいもの,といった程度の扱いでおかれることがよくある。ちょうど,貧困者やその居住地 区,ホームレス・外国人等が社会の周縁におかれているのと同様に,貧困や排除の研究それ自体も――とりわけ日本においては――周縁化されてきたのである。 本巻の執筆者による研究打ち合わせの際に,この巻がもしそのような周縁化されたものを,一種のアリバイ証明として,一括して押し込んだようなものであるな らば困る,という発言があったことを覚えている。本巻の執筆者たちは,そのような気概で,21世紀福祉社会の議論の「真ん中」にある課題として,貧困や社 会的排除を議論した,ということを,まずここに記しておきたい。」(p.313)



製作:橋口昌治 UP:20051114
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