FDフォーラム

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2009年度・第3回FDフォーラム報告

2010年3月2日(火)16:40~
朱雀キャンパス・中川会館205号教室
テーマ コア・カリキュラムについて
報告者 1.「コア・カリキュラム」策定の経過と位置づけ 
市川正人教授
2.各分野の「コア・カリキュラム」第一次案の特徴
民法分野 松本克美教授
刑法分野 浅田和茂教授
商法分野 村田敏一教授
法曹倫理 藤原猛爾教授
  「将来法曹となるにふさわしい法律学の学識を確実に修得していることができるよう」(「共通的到達目標モデル案作成の基本的考え方」)との狙いから、「法科大学院において修得すべき学習内容・水準に関するミニマム・スタンダード」(同上)としての「コア・カリキュラム」の策定が進められている。今回のフォーラムでは、各分野の「コア・カリキュラム(案)」の特徴の分析や、このような「コア・カリキュラム」が策定されることの意味、それへの対応のあり方等について意見交換を行った。各報告の概要は、以下の通りである。
 
報告1 報告者:市川 正人 教授

「「コア・カリキュラム」策定の経過と位置づけ」

 「コア・カリキュラム」を作ろうという動きが出てき経過を見ると、その狙いには2つの異なるものがある。すなわち、日弁連は「教えすぎを防ぐ」点を考えていたのに対し、文科省は「法科大学院の中にはちゃんと教えていない法科大学院があるのではないか。だからこれを示すことによってちゃんと教えさせよう」と考えている。公表された「コア・カリキュラムモデル案(第一次案)」は、あくまでミニマムスタンダードであり、すべてを授業で行う必要はなく自学自習に任せる部分もあるとされている。また、学生に暗記型学習を助長しないよう十分な配慮が必要であるという。
 法科大学院協会が法科大学院にアンケートを行っているが、コア・カリキュラムの設定に対する賛否に関しては、賛成18、条件付賛成28、反対1であった。その条件としては、「これが各法科大学院の主体性を害しないこと」とか「ミニマムスタンダードとしての性格を確保せよ」、「すべてを授業で教えるものではないことを確認せよ」などがあったようだ。
 また、当初、コア・カリキュラムと新司法試験と結びつけることが想定されていたが、現在では消極的になっており、これに対しては、弁護士から「結びつけるべき」との声もある。
 日弁連からは、到達目標の主たる目的を「習得すべき知識の最低限の範囲を確定することによって、学生がいたずらに知識の暗記・詰め込みに走る弊害を予防し、もって、実質的な法的問題解決能力の涵養に力を注げる体制を整えることにある」とすべきであり、案は、「詳しすぎる」、「ミニマムにしては膨大すぎる」という意見が出されている。
 今後は、どの程度詳しいものあるいは簡単なものでなければならないかが議論になるだろう。さらに、法科大学院を縛る拘束力は実際どの程度があるのか、認証評価との関係、新司法試験にもどの程度反映されるのかが懸案となるが、コア・カリキュラムを作った委員はこれに対する返答を避けてきている。それゆえ、これを考査委員がどの程度受けとめるかによって大きく異なってくるのではないかと考える。

 

報告2 報告者:浅田 和茂 教授

「共通的到達目標モデル(コア・カリキュラム)案から感じること」

 そもそもロースクールはそれぞれ特色を持つということが趣旨であったはずだが、もし国定教科書などのように統一への動きが進むのであれば問題であろう。「刑法」モデル案について見ると、普通の教科書の目次とほぼ同じであり、「事例に即して」といっても判例百選程度である。ミニマム・スタンダードであるが、モデル案さえできていれば新司法試験は大丈夫ともいえず、中途半端なような気がする。
 刑事訴訟法分野を見てみると、本文だけで29頁ありかなり分厚い。刑事訴訟法の講義においては、「当事者主義」「職権主義」など刑事訴訟法の基本原理を話さないとはじめることができないが、この辺りの記載がない。また、刑法に比べて「判例を踏まえて」が多く、学説が書かれているところが少ない。さらに、刑事訴訟法は、裁判員裁判の導入により大きく変わるが、その配慮が少なすぎる。
 「到達目標に達した者を全員合格させる」というシステムを構築することが前提として必要である。モデル案だけやっておけば新司法試験通しますというのであれば意味があるだろう。でないと結局モデル案に従ってもどうなるかわからないことになる。

 

報告3 報告者:松本 克美 教授 

「民法分野におけるコア・カリキュラム(第一次案)の特徴」  

 今回の案の特徴として、到達目標が低い、実践的視点が薄い、特別法との関係が未整理という点があげられる。
 今回のコア・カリキュラムは、「ミニマム・スタンダード」であるというが、この意味は何か。法科大学院修了生は「新司法試験受験資格」を有し、合格後司法修習を経て法曹となる。「受験資格を有する」という意味でのミニマム・スタンダードなのか、法曹としてのそれなのかが、非常にあいまいである。ミニマムス・タンダードというならば、法科大学院修了と新司法試験受験というものを基準に考えるべきではないだろうか。また、予備試験との関係で、ミニマム・スタンダードも予備試験に連動するのかも問題となる。しかし今回は脇に置かれており、中途半端である。
 報告者自身は、ミニマム・スタンダードとは「新司法試験合格水準」の教育内容であるべきと考える。それらは、授業内容に取り込まないといけないが、民法のように非常に領域が広いと難しい。そこで、「メインテーマ」では取り上げられないようなものを「予習課題・復習課題・関連課題」として取り上げるということが必要であると思われる。しかし、それだけではミニマム・スタンダードをカバーすることは難しいと思われるので、課外活動等を通じて行うことも考えられる。

 

報告4 報告者:村田 敏一 教授 

「共通到達目標(コア・カリキュラム)第一次案に関する意見」  

 商法は、論文試験において問題となる会社法に加えて、商法総則・商行為、手形小切手の三分冊になって、手形小切手はまだ案が出てきていない。現在のところ、1000項目のうち、黒印がついているのは700項目。これに商法総則・商行為・手形小切手をいれると100頁近くにのぼる。
 総論についてみてみると、新司法試験との結びつきがわからないというのはそのとおりである。これまでの状況を見ていると、商法総則・商行為・手形小切手は基本的に短答対応と考えられる。しかし問題は会社法である。短答対応と見ることもできるが、1000項目もあり、他方これを全部やったからといって論文試験に対応できるわけでもなく、中途半端な水準である。論文試験についてみてみると、もっと高度な問題演習を行う必要がある。そのため、「知っていなければできない」という意味では最低限なのかもしれない。そこで、論述対策としては限界があるということを前提としつつ、一定程度有用な活用方法を考えなければならないだろう。

 

報告5 報告者:藤原 猛爾 教授 

「コア・カリキュラム「法曹倫理」モデル案について」  

 法曹倫理についてはおおむね網羅されている。しかし、その後に作成された第二次案になると白ダイヤ印を全部落としている。理由は、「基本的な考え方に不一致がある場合」を基本的に落としたからである。「説明することができる」という項目が多いが、これは法曹倫理の特殊性である。当事者間の紛争の中でも法曹倫理は問題になる。そういう意味では考え方を知るだけでなく、実践的に一瞬一瞬の判断を考えさせる必要があるが、そのようなマインドのようなものについては触れられていない。裁判官倫理・検察官倫理については、あまり介入してほしくないという傾向がある。今後の展望としては、「仮にコア・カリキュラムを提示するとしても、できるだけ控えめの項目、内容とし、法曹の実態を踏まえつつ、ロースクールの多様性と工夫創造を重視すべきである」と考える。
 質疑応答では、報告されて以外の分野からの意見が紹介されたのち、「ミニマム・スタンダード」ということの意味、今後の授業等でどう対応していくべきかといった点について、活発な意見交換が行われた。