2010年度研究会報告
第1回(2010.4.24)
テーマ | 観光からみる離島社会―隠岐諸島西ノ島と小笠原諸島父島の事例から― |
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報告者 | 古村 学(宇都宮大学国際学部専任講師) |
報告の要旨
[内 容]
1. 江口信清・藤巻正己編著『貧困の超克とツーリズム』(明石書店、2010年)の合評会
2. 2010年度の研究活動について
3 5月8日開催の国際ツーリズム・セミナーについて
4. 研究報告
[研究会報告]
1.江口信清・藤巻正己編著『貧困の超克とツーリズム』(明石書店、2010年)の合評会(略)
2.2010年度の研究活動について
2010年度立命館大学「研究成果の国際的発信強化」プログラムからの活動資金等を原資として、以下の(1)~(4)を柱とする取組みを推進する。
(1)アジアにおけるツーリズム研究者プラットフォームの構築
① 5月8日(決定)および11月6日(予定)の2回、国際ツーリズム・セミナーを開催。
② 11月のセミナーを「立命館創始140年・学園創立110周年・APU開学10周年記念」事業として位置づけ、インドネシア・ウダヤナ大学(バリ)および立命館アジア太平洋大学などから研究者を招聘。
(2) ツーリズム関係文献データベースの構築とその出版事業
(3) 京都府綾部市の「限界集落」の再生に向けたホームスティプログラムを伴うコミュニティ・ベースト・ツーリズムの可能性に関する教育・研究実践プロジェクト
(4) ツーリズム研究の理論化に向けた取組み
以上の取組みを具体化するために、立命館大学による研究助成金のほか、トヨタ財団など外部資金の獲得に向けた取組みを行うことを確認した。
3.5月8日開催の国際ツーリズム・セミナーについて
予定通り'Progress in Tourism Studies: Comparative Study in Asia'をテーマにセミナーを開催(主催:立命館大学人文科学研究所、後援:立命館地理学会、立命館人文学会)。韓国・マレーシアからのゲストスピーカーおよび3名の日本人研究者、計5名による、韓国・マレーシア・タイ・日本におけるツーリズム研究の回顧と展望についての報告とそれらをふまえた総合討論を行う。セミナーの成果については『立命館大学人文科学研究所紀要』No.97に「国際ツーリズム・セミナー報告」として寄稿するほか、当日のスピーカーによるフルペーパーを人文地理学会機関誌『人文地理』63巻6号(英文)に掲載し(掲載決定)、国内外に発信する。
4. 研究報告
同報告では、主に隠岐諸島西ノ島を事例に(小笠原諸島父島などとの比較を通じて)、離島における観光の実態とその意味について検討が加えられた。西ノ島では、1963年の「大山隠岐国立公園」の指定(1963年)や日本全国に現象化した「第一次離島ブーム」(1960年代初頭)、次いで「ディスカバー・ジャパン・キャンペーン」(1970年)に誘発された「第二次離島ブーム」により最盛期には100軒もの民宿、年間16万5千人の入込客数を得たが、1973年のオイルショック以降、観光客数は減少の一途をたどり、2006年には民宿数は29軒、入込客数は8万4500人へと激減したうえ、宿泊率も26.4%にとどまる通過型の、しかも夏季偏在型の離島観光地となった。住民の多くは高齢者が多く、観光産業専従者ともいえる年齢層の島民が少ない、加えて住民の観光に対する意欲は低下している。依然として行政は観光による島の振興を推進しようとしており、西ノ島の住民は「(観光振興に対して)やる気がない」と批判的だが、西ノ島の住民の多くは「観光は生きていくための便宜のひとつにすぎない」と考えている。本研究報告は、離島観光へのローカルの人々による「主体的」「住民参加型」の取組みを強調するこれまでのツーリズム研究のありかたに再考をうながす、あるいは疑義をとなえようとしたものである。(参加者:7名)
藤巻 正己