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2013年11月9日 講師:西 成彦

「山椒大夫」から「耳なし芳一」へ

 「さんせう太夫」といえば、古くは「説経」の名で呼ばれ、日本津々浦々を訪ね歩く旅芸人の出し物として人気を博した庶民にはなじみの物語でした。明治期の「文明開化」を経ながらも、いまから百年前にはまだまだ盲目の三味線弾きが、「さんせう太夫」などを語り歩いていたことは、作家、水上勉の回想などからも明らかです。目の見えない母親の「開眼」場面にクライマックスを持っていくこの物語は、1915年、森鴎外によって近代小説の装いとともに巷に出まわるようになりますが、「小説」として書きなおすにあたっては、さまざまな変更が加えられました。なにより、盲目の旅芸人の声を通して語られたものが、文字文芸として黙読されるようになったことが決定的でした。  同じように、「耳なし芳一」の話もそもそもは、「平家物語」と同様に盲人が語り継いでいたものが、江戸期代に「怪談」として拾われるようになり、これがラフカディオ・ハーンという来日外国人の目に留まり、そしていまわれわれの知る形になりました。  「語り物」から「近代小説」へ、その変化を見きわめながら、「近代」とは何かを考えたいと思います。

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