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白川静記念 東洋文字文化研究所

研究事業

漢字学習における手書き電子教材を用いた自学システムの開発

深谷 圭助

 「学校は、もともと文字の読み書きを中心として社会に蓄積された文化財の継承のために作りだされたものである〔柴田(2003)〕」というように、「読み・書き・計算」とよばれるリテラシーこそ、万国共通の初等教育内容であるという点は、いかなる立場の教育実践者、教育研究者の間においても異論はないところであろう。興味深いことに、これらのリテラシーは、どこの国においても、おおよそ同年齢で、同程度の「読み・書き・計算」の能力を習得させるためのカリキュラムを用意している。このリテラシーは、主に紙と鉛筆(筆)を使って反復練習を行わせる手法による習得をめざしており、そのスタイルは、19世紀江戸時代の寺子屋・手習い塾の頃から、基本的に変わっていない。こうした古典的な教育方法を、現代のコンピュータ技術の進歩により、革新できないのかという点が、本研究への問題関心である。

 近年、手書き入力型パーソナルコンピュータ(以後、「タブレットPC」と表記する)の進化により、コンピュータのディスプレイ上に自由にひらがなや漢字で手書き入力できるハードウェアとそれに対応する「手書き電子教材」が開発され、これまでの19世紀型の読み・書き・計算の教育方法が、大きく転換する可能性が高まっている。これまで、コンピュータの入力は、キーボードにより操作されていたが、タブレットPCでは、かな、漢字による手書き入力が可能である。日本語の文字認知度の向上はめざましく、小学校低学年児童の書く、つたない文字にも十分対応することができるようになってきた。コンピュータの普及で、大きく社会が変わりつつある中で、これまでの学校現場へのコンピュータの導入は、ハードの面(PCの学校への導入・設置)はともかくとして、ソフトの面(PCの教育への活用)においては、決して十分な成果を挙げてはいない。未だに、ワープロソフトの使い方、お絵かきソフトの使い方、表計算の仕方、インターネットの使い方など、ITの技術を習得する目的のために用いられる場合が多く、PCが、教育が抱える本質的な問題解決のためにコンピュータが活かされていなかった。このタブレットPCおよび手書き電子教材の初等教育現場への導入によって、教育の本質的な問題解決に活かされる可能性は高い。

 本研究の成果により、19世紀以来の「読み・書き・計算」の教育手法が、ペーパーベースからPCベースへ転換する契機となる可能性がある。すなわち、紙と鉛筆による反復習熟学習から、PCによる反復習熟学習となることで、どのような教育的利点があるのか、教育成果の質としてどのような変質がみられるのかについて、本研究において実証できるのではないかと考えた。

 本研究では、タブレットPCおよび手書き電子教材を活用し、授業におけるさまざまな学習履歴の管理および学習履歴情報の学習者へのフィードバックと、これを活かした児童の自学のシステムを、新時代の教育方法的な立脚点から構築することを目的とする。

 開発するシステムの特徴および設計方針は次の通りである。

  1. ペーパーベースの漢字学習からタブレットPCベースの漢字学習へ移行することで、学習者の学習履歴を活かした漢字習得学習を展開する。静的学習履歴を活用した学習(書き終わった漢字を教師に見せ、指導を受ける学習)から、動的学習履歴を活用した学習(漢字を書く順序〔筆順〕も学習履歴として残し、その結果として、学習者へ正誤を示し、次の学習へフィードバックさせる学習)へ転換する。


  2. 即時的に行う自動採点機能により、一人の教師が、複数の児童の採点をすることで生じるタイムラグを解消したり、子どもの進度に合わせた採点をPCがすることにより、一人ひとりの児童に的確な漢字指導を展開する。


  3. 指導者が学習者の筆順を観察していなければ指摘できなかった、筆順の指導を、学習履歴の管理・運用により的確に行う。


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