2002/06/07
 
 
 
 
 
顧客満足論
−第9回 顧客満足の実践、その他−
 
 
 
 
 
 
0.前回講義への質問などから
(1) 顧客満足をこえて
@ 例えばある商品に対して「こういうものだ」という固定観念がある場合、顧客の潜在的ニーズを引き出すために、エージェントはどのような“翻訳”をするのだろうか。
 「同じ商品だと思わせない」ことがカギになるでしょう。ベビーパウダーの例など。
A “エージェント”の意味はなんですか。
 「代理人」です。
B 顧客情報から将来を予測するとは、具体的にどのようなことですか。
 例えば流行は、いきなり爆発するものは少なく、水面下で動きがあったものがあるとき急に浮上してくるような場合が多いことは経験的に知られています。ポケベルなど。顧客の嗜好や購買動向を注意深くつかんでおくことで、こうした水面下の動きを察知できる場合があります。
C One to One マーケティングについて・・・
・本当に有効なのか。情報量が限られることや、コスト面で効率的でないなど、デメリットも多いのではないか。
 同じ商品を多数の消費者に売る、という発想から、一人の消費者の多様なニーズを獲得する、というように考えれば、マス・マーケティングのほうがかえって不効率である場合も多いのです。
・実際に実行している事例が知りたい。
 プレゼンでぜひとりくんでみてください。
・なぜ、Many to One マーケティングより重視されているのですか。Many to One はすべての場面において望ましくないのだろうか。
・百貨店のように個々の店の集まりのような形態は、Many to One か。
 ビジネスは「あれかこれか」ではないので、百貨店のようなMany to One の形態にも意味がないわけではありません。
D やはり、理想は“1人の顧客に1人の売り手”ですか。1人が何人もの顧客を持つと、十分なサービスができない気がした。
 究極はそうですが実際には無理なので、それを仮想的に実現させるマーケティングが必要です。
E “個客”という発想について、もっと詳細が知りたい。
 参考文献を参照してください。
 
(2) CRM戦略
@ 情報があふれすぎて『自分自身で何がほしいのか、必要なのか、わかってない。』というのは、顧客に問題があるのではないか。
 「顧客に問題がある」という傍観者的な視点を捨ててください。仮に顧客に問題があったとしても、その顧客に対して商品やサービスを我々は売っていかなければならないのです。
A “マッチング”と“レコメンテーション”の違いが理解しにくかった。
 マッチングは系統的・継続的に探して情報を提供することです。レコメンテーションは、一回一回ごとに顧客の嗜好などにこたえて具体的に商品やサービスを提供することです。
B “セグメント”、“セグメンテーション”とはなんですか。
 セグメントとは特定のニーズやウォンツを共有する顧客の層のことです。その層を特定することをセグメンテーションといいます。
C 図1−6CRMモデルの見方がわからなかった。
 戦略的な方向性をトップにおき、これに基づいて顧客を理解し、かつ自分たちにとって必要な顧客情報を識別します。そうした顧客理解・顧客情報をもとにマーケティング、セールス、サービスなどの活動を行い、それが具体的な店頭やサイバー・マーケットでの事業展開になっていくわけです。ただ、これは一方的なトップダウンではなく、実際に顧客に接する現場からのフィードバックをもとに顧客情報も蓄積され、それにもとづいて戦略的な判断も行われるという双方向的なプロセスです。
D “個客エージェント型”は、管理面などから見て負担が大きいのではないか。
 負担が大きいからやらない、ではすまされない問題だということです。
E CRM戦略について、参考文献を挙げてください。
    アクセンチュア『CRM 顧客はそこにいる 増補改訂版』東洋経済新報社、2001年。
 
(3) その他
@ POSとはなんですか。
 現代用語辞典などを参照してください。
A 顧客満足の成果をはかる方法はケースバイケースだと思うが、何か指標のようなものがあるのか。
 あとで説明する顧客満足度調査などがあります。
B “顧客情報”は、顧客のプライバシーの侵害にならないのか。
 きちんと管理するかどうかが問題です。
C “顧客満足”という考え方は、例えばデザインを提供する立場の職についたとき応用することが可能ですか。
 クライアントの満足をどう実現するか、という発想が必要でしょう。
 
 
−前回の続き
2.CRM戦略
(2)CRM基本戦略
  A収益基盤を「顧客生涯価値」におく
    「顧客生涯価値(LTV)」〜図2−10
       1.個客シェア(それぞれの個客の消費にどれだけ食い込んでいるか)
       2.商品範囲(品揃え)
       3.顧客時間(タイミングと継続性)
       4.顧客範囲(誰に売れたかの把握と潜在顧客の掌握)
         この4つの軸を組みあわせて、企業の成長のチャンスをつかむ
  Bセグメンテーションを需要に直結させる
    どうせ顧客は押しても買わない
      →買う気になっている客を効率よくみつけよう
         →タイミングをうまく計る
         →その客の情報収集をてつだう
 
 
[ 顧客満足活動の実践
 
1.顧客満足向上のプロセス
(1)システム構築段階
   @理念の制定:初めての場合、いままでのあれこれの全社運動とは違うという理解が重要
   Aトライアル:小さな規模で試行錯誤を行い、組織の風土、状況に適合したやり方を検討
               ※最初は対象を限定し、完結したサイクルでテストする
           a)調査手法の確立:顧客の言いたいことを聞く 
           b)分析手法の確立:いろいろな分析ツールを試す
               ※顧客満足度と売り上げのミスマッチをどう見るか
           c)アクションプランニング手法の確立
(2)実践段階
   @ベンチマーク調査:自社だけでなく広範な顧客について調査し、自社の問題点を解明する
   Aアクションプランニング:ベンチマーク調査で解明された問題点から課題を明確化し、
                さらに実行の戦術を策定する。
(3)発展段階
   @システムの微調整
   Aサブシステムの開発:新たな評価制度や成果の普及のための仕組みづくり
  
2.CS調査
   CS調査は問題発見型調査・・・「問題点」が何かが表面的にわかる
     →調査結果を分析して初めて解決の課題が明らかになる
(1)調査対象
@エンドユーザー調査が優先する
流通段階では卸売りや小売りもある種の顧客としてとらえることができるが、まず重要なのはエンドユーザー(最終消費者、その製品やサービスを実際に利用するもの)の満足度調査が重要。
    例)テレビ・・・エンドユーザーの評価基準は本質的な機能が重視される
            販売店にとっては「売りやすさ」が重要
      マンション・・・建設会社にとっての直接の顧客は建築主
              しかし、最終消費者は建築主ではないことのほうが圧倒的に多い。
A意思決定者
  しかし、購入者と使用者が異なる場合には、購入意思決定者を調査対象とする必要
    例)子どもの使うものは親を調査する必要
      注文住宅に組み込むシステムキッチンはどうする?
Bタイミング
  買ったばかりの人と、購入後何年も経過した人では評価が異なる
    例)自動車の調査では時期ごとに異なったテーマで調査を行っている
        購入後3ヶ月   :販売時満足度、初期品質→販売店、商品の完成度
           1年〜1年半:ディーラーサービスについてのCSI調査
           4〜5年  :信頼性調査
(2)調査項目
@評価項目と実態項目
  ・評価を問うだけでなく事実関係を明らかにする項目を含めること
  ・網羅的であること
  ・簡単に答えられるものであること
  ・自由回答欄が必要
A評価スケール
  ・4段階評価の必要性
(3)調査手法
  調査対象、目的、コスト、どの程度の回収率を期待するか、によって異なる
(4)サンプル数
  求める精度により決まる
   例)1000サンプルでCSIを算出すると、プラスマイナス1.6程度の誤差があるので、2以上の
     開きがないと変化があるとは判断できない。が、サンプル数を二倍にしても精度は二倍
     にはならない。
 
3.アクションプランニング
アクションプラン=顧客満足を獲得するための実行計画
アクションプランの役割:全社的な戦略目標に対して、
             @それを具体的な活動に置き換える戦術の立案
             Aその戦術の実践
(1)アクションプランを推進するための留意点
@ラーニングオーガニゼーション
組織が、各単位ごとで自律的に思考し、実践する組織のあり方がラーニングオーガニゼーション。顧客満足を実現するのに求められる組織のあり方=現場単位で独自のアクションプランを考える
  ・自分たちで考えたアクションプランのほうが実行可能性が高い(押しつけはダメ)
  ・アクションプランを考えるためのディスカッションを通じて問題が共有できる
     ※雀の学校か、めだかの学校か
Aアクションプランの条件
 全社的な方針は戦略として提示されているから、その範囲内で考えられることが前提
 a)特定の意味を持つこと(Specific)
   それを実行することで一定の成果が達成できることが明示的に明らかであること
 b)測定可能なこと(Measuable)
   どれだけできたかを数値で表現し、達成度をチェックすることができること
   ※指標は、測定がタイムリーにできる、わかりやすい、プラス評価、であること
 c)遂行可能なこと(Achievable)
   過大な労力を必要としない、かつ達成感がある(=比較的すぐに成果がでる)
 d)現実的なこと(Realistic)
   日常活動のなかに組み入れて違和感のないもの
    ※特別なキャンペーン、ではかえってダメ。持続的なものが必要
 e)タイムリーなこと(Timely)
   「今それをやらないといけない」ことが納得できるものでないと後回しになる
B小さく始める
 いきなり大規模に始めず、試行錯誤する
 
(2)アクションプランの手順
@問題発見     :通常CS調査によって解明
  ↓
A課題の抽出    :問題の原因を究明する(仮説の抽出→仮説の検証→仮説の集約)
  ↓          
B実行計画の作成  :アクションプランをたてる
             (多くのアイデアの優先順位を決める必要)
  ↓         目的、目標、手段、達成度の指標が必要
C実行計画の実践
  ↓
D実行計画の見直し :1ヶ月くらいしたら微調整をはかる
 
 ※参考文献 佐野良夫『CS「顧客満足」の実際』日経文庫、1996年。