顧客満足論 質問への回答
第6回
 
 
1.人間的運営法がよいか、科学的運営法がよいか
・科学的運営法が重視されるのも分かるが、古来の人間的運営から学ぶものも大切にすべきだと思う。
・科学的運営の方が均等でいいかもしれないけど、属人的な、人のあたたかさが必要とされるものは存在としてなくならないと思う。(同趣旨多数)
 人間的運営法によるサービスの提供が必要でないとは一言も言っていません。以下の二点をよく理解してください。
 第一に、顧客のニーズやウォンツ、事業の性格によっていずれのほうがより的確なサービスを行うことができるのか、次第でいずれの運営法が適切かは決まること。
 第二に、事業規模を拡大しようとした場合には、科学的運営法のほうが容易であること。個別的なサービスを行う上では、人間的運営法のほうが一般的であること。
 
・私は定型化したサービスを大量に提供すると、顧客満足度は落ちると思う。
 そんなことはありません。定型化したサービスを提供されることを顧客が求めていれば、そうしたサービスの内容について高い質を達成すれば顧客満足度は向上します。たとえば、全国ほとんどの店舗で品揃えの考え方、店舗設計、接客マニュアルがすべて共通しているコンビニはなぜこれだけ支持を得ているのでしょうか。
 
・マニュアルどおりのサービスは、覚えるだけで簡単だが、個人の気持ちでレベルの高いサービスを行うことが、高い顧客満足を得るために重要であると思う。
・いくら大量の経験があっても、マニュアル化されたサービスを基本として、本当によい個客サービスを行うことは可能か?私は、個客と呼ばれる以上、マニュアル化は不可能だと思う。
個客サービスというのは、マニュアルに従わない、マニュアルが存在しない上でのサービスと理解してよいのですか?
 どんなサービスでも、定型化できる部分というのはあります。そして、そのサービスを求める人が多い場合、事業を拡大しようと考えるのはごく自然なことです。そのときに、定型化できる部分を定型化して合理化し、より人間的な対応が求められる部分に力を集中することで、より効率的に人材育成やノウハウの移転をすすめようと考えるわけです。定型化できる部分を定型化・マニュアル化してしまえば、むしろ個別的な対応のために時間や神経をさくことができます。
 
2.人間的運営法に関して
<人間的運営法は規模拡大できるか>
・人間的運営法のサービス運営をしてきた企業が規模拡大をするのは困難だと思うが、規模拡大を行わなくても、個別性の高いサービスを売りにすればいい企業もあると思う。
 それはもちろんです。規模拡大しなくてはならない訳ではありません。しかし、同じようなサービスで合理化して質を維持しながらより大規模に、低価格で進出してくる競争相手が出てきたらどうしますか? 常に競争環境で考えることが重要です。
 
・私が2000人の顧客のデータを持つドアマンなら、自分の持っている知識(情報)をあっさりと新米にとられるのは、モチベーションが下がりそうで嫌だ。
 本当にお客さんのことを考えているのなら、自分が退職してからも、あるいは自分のいないときでもお客さんに喜んでもらおうとは思わないでしょうか。
 
・2000人の顧客の名前と顔を覚えているクラークもいれば、そうじゃないクラークに出くわすこともある。そうすると客は満足しない。有能なクラークの存在が、逆に会社に対する満足を壊してしまうような恐れはないでしょうか?
 だからこそ、人間的運営と科学的運営を統合する必要があるのです。
 
<モスバーガーは人間的運営法か?>
・モスバーガーにほとんど行ったことがないので、なぜモスバーガーが人間的運営法なのかよくわかりません。モスバーガーはマニュアル運営ではないのか。
・モスバーガーでバイトしていたときに、「いつもの」と注文する顧客がいた。マクドナルドはマニュアル通りにすればいいのかもしれないが、モスでは客の顔を覚える必要があるし、個別に軽い挨拶も要求されるので、アートとサイエンスの違いだと思う。
 上の質問の答えは、下の意見ですね。
 
3.科学的運営法に関して
・ハードテクノロジーの導入は、高齢者や携帯電話を持たない人にとっては必要ないと思う。高齢者などのことをもっと考えるべきだと思うが。
 従来のハードテクノロジーが高齢者や障害者を置き去りにする傾向があったのは確かです。しかし今日、ユニバーサルデザインなどの発想でむしろハードテクノロジーの支援によってこうした人がより高度な社会生活を営めるようにする仕組みの開発が進んでいます。技術先にありきではなく、なにが人々にとって必要で、それを技術と人間のくみあわせでより適格に、合理的に提供する仕組みを考えることです。
 
・科学的運営法は「愚か者の方法」と書いてありましたが、自動化して楽になったから「愚か者の方法」と呼ばれるようになったのですか?
 違います。誰でもできる、という意味です。
 
・サービスの工業化の話で、定型化したサービスを大量に提供するほうが平均的な顧客満足度は高い、とありましたが、サービスが大量生産システムに近づけば、その分サービスが安っぽいイメージになってしまうような気がするのですが?個別性の高いサービスに比べて、クオリティが低くなってしまうのは避けられないということはないですか?
 一番最初の質問の答えと同じです。
 
・複数店舗を持つ企業は、提供するサービスを統一して、アルバイトを持っている。アルバイトが業務を行うのを全て科学的運営法による運営と言い切っていいのですか?
 そうではありません。アルバイトに高いインセンティブを与えて高度な個客サービスを展開している事例はあります。
 
<TDLは科学的運営法か>
・TDLが定型化したサービスを大量に提供する例で挙がっていたのは、引っかかった。TDLは一人一人に行動の自由があると思うし、キャストのレベルも高いので、相互不可侵に当てはまらないと思うのですが。
・定型化したサービスを大量に提供しようとするという戦略について、TDLを挙げていましたが、キャストのモチベーションや技量によっても、消費者の感じる満足度は変化すると思うのですが?
 個々のキャストの行動ではなくて、サービス全体がきっちりしたシステムの設計のうえに成り立っています。いわゆる「ディズニーランドの謎」についても、そのほとんどは緻密な検討によって考え出されたものだと思われます。そして、キャストの「自由」も、いわばお釈迦様の手のひらの上の孫悟空の状態であり、膨大なマニュアルに支えられているからこそ初めて可能な自由なのです。まったく何をしてもよい、と言われて自分の頭だけで考えてあのような高度なサービスのレベルを提供できるでしょうか?
 
4.運営の未来戦略に関して
・大量生産システムと個客サービスを統合するのは難しいと感じた。多様なニーズに対応していかなくてはならないが、全てのニーズに応えることは、不可能ではないか、思いました。
 だからこそ「選択」が必要なのです。
 
・4.運営の未来戦略方向の(1)(2)(3)について、(1)と(2)は逆だけど、(2)と(3)は組み合わせ可能だと思う。
 全部組み合わせ可能です。
 
・「中間型」人間的運営を基盤にしながらサービス水準を落とさずに規模拡大を目指す折衷方式、とありますが、ある程度のところで妥協していると考えてよいのですか?
 妥協とは違います。高い次元で統合するのです。
 
・飲食店において、「マニュアルとは最低基準を示すものである」と聞いたが、これは、マニュアルによる接客をベースとしながらも、顧客にニーズに応える臨機応変なサービスで、顧客満足が実現できるということだと思う。すなわち、未来戦略の(3)中間型の逆パターンだと理解できると思いますが?マニュアルが基盤になることはないのですか?
 結局、人間的運営を基盤にしながら、というのは事業についての考え方のことで、実際のサービス設計においては上でも述べたように定型化できるところは定型化することが必要です。
 
・競合企業が「定型化されたサービス」を大量に提供していた場合、今後はそれをマスカスタマイゼーションすることによって、差別化することが必要ということでしょうか?
 一つの重要なポイントですね。DELLは、それ自身メーカーですが、まさにこうしたサービスの発想をとりいれることで成功したわけです。
 
・サービスマンがそれぞれが持つ良さを全面に出したサービスでやっていくことは難しいですか?個性の欠如という事態は発生しませんか?
 個性が求められる場合と、誰がやっても同じ内容が求められる場合があります。マクドナルドのハンバーガーに店長の個性を求めますか? それとも世界どこでも同じ味の安心を求めますか?
 
・大量生産システムをより追求して、質をある程度保ちつつ、顧客を納得させる「安さ」を提供することも、運営の未来戦略方向のひとつだと思うのですが?
 これは結局科学的運営法に進むか、ある種の中間型をめざすことになります。
 
・ノードストロームの例などを見ると、各従業員の属人的サービスにより運営されているが、大規模化しているように思われる。これは、人間的運営法でも大規模化は困難ではあるものの、可能であるということですか?
 まさにそのとおりです。属人的なサービスを一定の水準で「大量につくりだす」仕掛けをノードストロームはもっています。
 
・伝承型拡大のフランチャイズについて、支店によってFCの店と、本部運営の店とあるのですが、どちらも伝承型なのでしょうか?その違い、メリット、デメリットは何か?
 フランチャイズがすべて伝承型ではありません。また、直営店をフランチャイズとはいいません。チェーン展開企業は、伝承型であれベクトルあわせ型であれ、基本的にはFCも本部直営店も同じやりかたのはずです。
 
・理念による価値ベクトルあわせ、がわからない
 コトバが難しいですが、要するに理念や価値観を共有することで、たとえ直接ノウハウを体得しなくても、同じような質のサービスを行うことが可能になる場合がある、ということです。テキストに出ている「朝夕全員で理念の唱和をし」というのは手法として正しいとは思いませんが。むしろ、仕事に対する明確で的確な評価(何を賞賛し、何を問題視するか)や、基準の明示などが必要でしょう。スカンジナビア航空の例が参考になります。『真実の瞬間』をどうぞ。
 
 
5.従業員満足との関連
・定型化したサービスと、個別性の高いサービスのどちらを提供するか、選択するのが難しいと思った。マニュアル化したサービスを提供している従業員はどういう状態なんだろうと考えると、従業員満足も無視できないと思う。
 マニュアル基本のサービス業においては、そこに即した従業員満足のあり方を考える必要があります。
 
・サービス業の比重が高まっているのに、サービス業の給料が下がっているのはなぜですか?
 これは私も問題だと思ってます。サービスの社会的評価が低すぎるのです。
 
・従業員満足を高めようと施策を施したが、その施策が顧客満足に結びつかない場合、その施策はどのように捉えるべきか?(その施策にある程度投資している場合)
 それは、単にやり方がまちがっているだけです。別に他の投資の失敗と違いません。
 
6.その他
・日本の老舗旅館のサービスのレベルは、世界で見ても高いレベルのサービスなのですか?
 形式的な内容で見れば、これほどていねいにやっているところはあまりないでしょう。しかし、本質的な意味で水準が高いかどうかは別問題です。
 
・NECや富士通がシステム構築の会社、家電の会社と分社するのも、事業分権制に当たるのでしょうか?
 事業分権制というコトバでは同じですが、その目的はここで取り上げた話とは異なります。