顧客満足論 第8回
質問への回答
 
 
1.CRMの基本的な考え方について
(1)基本的な疑問
・CRM戦略は関係性マーケティングの一つと考えてもよいのですか?違うのであれば、違いはなんですか?
 関係性マーケティングの発展と考えてください。
 
・顧客と「個客」の違いがいまだにわかりません。
・今までの顧客満足と、CRM戦略との違いがよくわからないので、次回に説明していただけたらうれしいです。CRMは個人に重点を置いた戦略ということなんでしょうか?
 マスで捉えたのが顧客で、それに対して一人(一件)ずつへの対応を重視すると言うことで「個客」という言い方をするわけです。
 
●CRM基本戦略のところの「個客エージェント型へ」のところですが、ずっと前から実現されている気がしました。CRMの考え方は前からあったのでしょうか。
 個客エージェント的な発想自体は以前からありましたが、特に大企業において市場をマスでとらえるのではなく、一人一人を捉える必要があるということから、さらに発想を逆転させないと「こちらから何かを提供する」ではすまないことがわかってきたわけです。
 
・「いい魚」といっても、高級料理店が求める「いい魚」と、小料理屋が求める「いい魚」はその店に来る客や、料理の値段によって違うと思う。これがCRMなのかなと思う。
 それはまさにその一つの事例ですね。
 
・セグメントがぼやけている場合に、企業側でさらに細かいドットに分けて形を作るということですか?
 セグメントをいくら細かく分けても見えてこないものを考えようと言うわけです。たとえば、顧客生涯価値という発想は、市場を静態的に捉えたセグメンテーションからはみえてきません。
 
・ファーストフードのような速さの求められる企業に、「個客」の考え方はあてはまるのですか?
・個人旅行等を扱っている旅行代理店は、CRM基本戦略を行っている代表的な業界といえますか?
 CRMの発想は、個々人にカスタマイズした製品を提供していればCRMという訳ではありません。ファストフードは、商品やサービスは定型的ですが、そのシステムを設計する際に、一人一人の個客のニーズやウォンツをアタマに描きながら設計するのと、単に個々の商品が販売されていくとイメージするのとではまったく違うことになるはずです。逆に、カスタマイズした製品を販売していても、たとえば個客エージェント的発想が充実していなければ、それは単なるバラ売りにすぎません。
 
(2)実践は難しい
・自分が何がほしいのかわからず、買い物していることが確かにある。こういうとき、顧客を満足させるのは難しいと思う。
 そうしたときこそまさに個別的なソリューションを、ワークショップ型で解決する必要があるわけです。この場合ワークショップといっても会議室に集まって議論するわけではなくて、店頭で一緒に考えることをワークショップ的発想でやると言うことです。
 
●One to Oneマーケティングが重要であるとは思うが、コスト面など難しい課題が多いと思う。
 一方で価格競争の時代であるからこそ、価格競争に巻き込まれず、個々人の消費のなかに占める自社シェアを高めるために継続消費を実現することが必要です。多くの消費者は自分が納得する価格を支払うのであって単に低価格だけを求めているわけではありません。コスト削減の努力は必要ですし、いわゆるIT化でそれは可能になっていますが、コストがかかるからできないという建て方では、個客を継続的に獲得することはできないという発想の転換が求められているのです。
 
・CRMの理論は当然であり、説明するのも簡単だと思ったけど、簡単な理論だから、簡単に実践できるということではないと感じました。どこまで顧客の立場に立って考えるのか、またそのニーズに応えていくのかが難しいと思います。
・顧客の側に立って考える、とよく聞きましたが、具体的に何をしたらいいのかわかりませんでした。
●顧客の思いを理解する能力は確かに求められていると思いますが、それは不可能ではないでしょうか?
 顧客の「思い」ということを、情緒的に捉えないでください。マーケティングの視点から捉える顧客の「思い」とは、最終的に何らかの消費として表現されるものです。それをその顧客のおかれている環境についての洞察や、消費性向などをふまえて、顧客自身とともに考えることによって顧客の「思い」を実現する消費を提供しようと言うわけです。その具体的な把握のための情報は、顧客データであったりするわけで、経験的に蓄積されたものだけではないということです。
 また、もう一つの観点としては、個客の「思い」を軸に考えれば、単一のサービスや製品だけでは対応できない、場合によっては個客のニーズはその製品など自体にはない、という場合もあるわけです。レストランで食事をする人は、食事自体が目的の人もいるでしょうが、誰かの誕生日のお祝いだったり、失恋の傷を癒すためのやけ食いだったりもするわけです。そうなると、ただおいしい食事を提供するだけでは不十分なことになります。
 
 
(3)限界あるのでは
●CRM戦略もいいと思うが、いろいろ探してやっと自分の好きなものが見つかった時の喜びやうれしさがなくなってしまうような気がする。
●私は「個客」扱いされることで、逆にその店に行きにくくなってしまいます。よほど特別であったり、高価な買い物をしない限り、一律に見てくれたほうが気持ちが楽なのですが。
 エンターテインメントとしての消費、というのもまた一つの顧客のニーズであり、それを提供するのもサービスです。実際に、100均の店内がごちゃごちゃしているのは、ごちゃごちゃが生み出す「わくわく感」や「宝探し感」の演出に役立っているという見方が強くあります。あるいは、「ほっておいて!」というのもまたニーズです。そうしたことを念頭においてサービスや製品の設計をするのもまたCRM的発想なのです。
 
2.具体的課題に関して
<買う気になっている客をみつけるとは>
●買う気になっている客を見つけるには、どうすればいいのですか?経験ですか?
・買う気になっている客を効率的に見つけるのは、タイミングをうまく計らないといけないと思いました。
 店舗で接客する瞬間だけを念頭におかないでください。たとえば、「ジャストタイミング」というキーワードは、個客情報からまさに個客がそれを「買おう」とする瞬間に商品やサービスを提供するということが重要だと言っているわけです。ある米屋さんは、個客の家庭で通常どのペースで米が消費されるかをデータに基づいて把握し、なくなる頃合いをはかりながら販売員を派遣します。かつてであればご主人が経験とカンでやっていたことをデータベース化することで、店員誰でもが対応可能になっています。
 
<顧客への適切な対応は可能か>
●One to Oneマーケティングの例で、顧客登録は全販売体制全体で統一とありましたが、顧客は本当にいろいろなルートで購入するのかなと思いました。バラバラの方が、個別に大切にしてもらうように消費者が受け取ることもあるかもしれないと思ったりしました。よく理解できなかったので、他の例も知りたいです。
 店舗、Eコマース・・・という例をあげましたが、これはあくまで例です。しかし、実際にパソコンを家電店で購入した人が、附属オプションを追加購入する際にはメーカーの直販サイトから購入し、消耗品はコンビニで買う、というのは普通でしょう。そうした購買の全体を把握して初めて個客が把握できると考えれば、個客の情報を総合的に把握することの必要性は理解できるのでは。また、複数店舗を利用する個客もいるわけです。たとえばチェーンホテル。
 
<儲かる客はみつかるか>
●顧客には儲かる客と儲からない客がいると言っていましたが、どこで判断するのですか?儲からない客には適切な対応をしなくてもいいということですか?儲からない客に適切な対応をして、儲かる客に変化させることが重要だと思うのですが。
・儲かる顧客に適切に対応する能力が必要とあるが、その能力は経験でしか生まれないと思うのですが、それをバイトに求めるのは矛盾ではないのでしょうか?
・儲からない客が何かのきっかけで、儲かる客に変化することはないのでしょうか?
 これも、店頭で接客する瞬間だけを念頭におかないでください。リピート率、反復購買率の高い個客、自社の製品やサービスの適合性の高い個客、付加価値の高いものを購入する傾向のある個客、こうした個客は従来から重視されてきたわけですが、それをデータベースなどを活用してより正確に把握し、かつ経験に左右されないで対応できることで取引を安定させようというわけです。もちろん、リピーターだけ相手にしていても個客の絶対数が増えませんから新規顧客の開拓をしなくていいとはいっていません。しかし、労多くして利益の少ない新規顧客の開拓に重点をおくのではなく、まず既存個客からの利益をいかに伸ばすかをかんがえるべき、というのがCRMの発想です。また、このことは当然、自社の利益にならない客は排除する可能性を否定していません。サービスがよいことで有名なサウスウェスト航空は、自社に不適合な乗客については次回以後の搭乗を薦めないということを明言します。
 
<顧客生涯価値について>
●顧客生涯価値について、よくわかりませんでした。これを行っている企業はあるのですか?
 たとえば、なぜ新車のディーラーが中古車も売っていると思いますか? 
 
・顧客生涯価値について、情報化が進むと、ここまでできるのかと感心した反面、プライバシーは守らなければという怖さを感じました。
・顧客の個人情報を共有化することは、規模が拡大すると、個人のプライバシー侵害になりえないでしょうか?
 こうした危険は大いにあります。アメリカのネット通販会社が倒産した際に、その負債の弁済のために個客データが販売され問題になったことがあります。消費者の立場としてこうしたことに監視を強めていく必要があります。
 
<個客エージェントについて>
●個客エージェントについて、もう少し具体例を知りたいです。
 具体例を紹介しましょう。
 カスタマイゼーション:リーバイス
 ワンストップ:Auto by TEL
 マッチング:インターネットテレビガイド
 ジャストタイミング:佐野屋
 レコメンデーション:アマゾン
 メタプロダクト:Parents Place
 
・CRN基本戦略の「個客エージェント型」を実行するには、顧客の側に立つ3つの能力は必要であるとは思うのですが、これは科学的運営法よりも人間的運営法を重視したやり方と捉えてよいのでしょうか?
 必ずしもそうではありません。人間的運営法の科学化といってもよいでしょう。
 
・マクドナルドの商品価格の変更や、新製品は、節目需要を狙ったCRMと考えてよいのでしょうか?
 価格変更や新製品自体がそういえるかどうかは疑問です。個々の新製品にはそうしたねらいのあるものがあるかもしれません。
 
・個客エージェント型の6つは、6つ全部を含んで提供することを目標としているのですか?場合によってそれぞれの項目を使っていくのですか?
 場合によりけりといってよいでしょう。
 
<その他>
・アフターマーケットがいまいちよくわかりませんでした。
 アフターサービスとか、上述の新車ディーラーが中古車を扱う例などです。
 
・セグメンテーションを需要に直結させる段階がよくわかりません。どうやって情報を収集するのかがわかりませんでした。
 単にニーズをもとに静態的にセグメンテーションを行うのではなく、自社にとって利益になる需要があり、かつそれがいまの瞬間購買に結びつく可能性があるというセグメントを見つけることが重要と言うことです。
 
・紹介利益、学習利益とは何ですか?
 紹介利益とは、ほんとうにロイヤリティの高い個客は自ら口コミなどで伝道者になってしまうことによって新たな顧客を呼び込んでくれるということ。学習利益とは、ある顧客の情報を詳しく分析することで今後のトレンドがつかめたり、新製品のきっかけ、あるいは現在の問題点がわかるということです。こうした顧客をつかむ/作り出すことが重要だというわけです。
 
3.応用的な質問
<One to One マーケティング>
●顧客は以前ほどモノに対して必要性がなく、購買意欲や目的意識が薄い気がする。だからこそ企業は、顧客にモノやサービスを購入させて利益を上げるために、顧客の意欲を喚起し、顧客の意志を明確化し、それを満たすものやサービスを提供していることが現状だと思う。CRM戦略を実践するにあたっては、顧客のサインを確実かつ鮮明にキャッチするために、企業は顧客にもっと接触すべきではないだろうか?
 接触することももちろんですが、要はもっと情報をつかむことです。
 
●One to Oneマーケティングとは、「広告」の考え方と思っていました。どうしても、メディアを使った宣伝は、One to massになってしまうので、One to Oneに近づけるにはどうすればいいのでしょうか?
・インターネット広告はターゲットを絞って広告できるというのを学んだが、これは、買う気になっている顧客を効率よくOne to Oneにつなげるものと考えていいのでしょうか?
 「広告」というものの発想も変化しつつあるでしょうね。
 
・電気屋で買い物をしたときに、会員カードを忘れたのですが、電話番号を言ったらデータが出てきて、対応されました。これも、One to Oneマーケティングですか?
 One to Oneマーケティングそのものとまではいえませんが、その実践のための一つの手法ではあります。
 
<私はこう考える>
●CRMについて学んだが、今は口コミの時代だし、どれだけファンを作るかが重要であると思う。ニーズにあった製品を作って売るのは確かにコストがかかるが、強い熱狂的ファンを作ることができると思う。たくさんは儲からないかもしれないが、つぶれない企業になると思う。
 ファンをつかむことは非常に重要です。ぜひ和田充夫『関係性マーケティングと演劇消費』を読んでみてください。
 
・情報量が多くなると、消費者は適当にサービス(商品)を選ぶと言っていましたが、そうではないと思う。情報量が多くなると、選択肢が増え、迷ってしまうので、情報量の調節も必要だと思う。
 迷ってしまうからこそ適当(いいかげん)に選ぶ羽目になるのです。選択肢をコントロールするということ自体を提供しないといけないのです。
 
●それぞれの顧客に差をつけて対応するのを一歩間違ったら、クレームが出るものになる。いかに同じに見せるテクニックが必要と考えますが、どうですか?
 同じに見せるというのは、機械的平等と言うことではないと考えます。要は自分がちゃんと扱われていると納得してもらえるかどうかです。
 
・マイラインでNTT以外にも選択肢は増えたが、面倒くさいのでNTTにするといった感じで、スイッチングコストを高めることによって、その企業と関係を長期的に維持せざるを得ない様な状態に顧客を持っていくのも、関係性マーケティングの1つと言えるのではないでしょうか?
 いいかどうかはともかく、それはあるでしょうね。
 
<わからない>
・金融機関のRMと、ここでのCRMやRMマーケティングと大きく違うと感じたのですが、先生の金融機関のRMに対する考えを聞かせてください。
 金融のRMについてはあまり情報をもっていませんが、ここでのCRMの発想は決して無縁ではないと思います。
 
・セグメントをするためにどんな方法がありますか?人々が複雑になって、セグメントが錯綜しているけど、どう解決すればよいでしょうか?
 CRMはまさにそうした時代の考え方です。詳しくは参考文献を読んでください。
 
●インターネット通販の利用が増えるということは、販売員やスタッフの存在価値が薄くなっていくのですか?
 役割が変わっていくと言うことです。単なる販売実務員や情報提供者、「売り込み屋」は不要になります。しかし、個客エージェントの機能をもつ人材は必要でしょうし、仮にネット通販であってもそのエージェント機能を設計する人材はむしろ高度な販売スタッフとしての能力が求められるでしょう。
 
4.講義以外の点に関して
・バーコードつきのレポート用紙は、事前に必要な枚数をコピーしておいてもいいのですか。授業のその日にプリントアウトしなくてはいけないのですか?
・バーコード部分の番号は、学生証番号にひとつ余計についていますが、これで大丈夫ですか?
 事前にコピーしておいてけっこうですが、孫コピーは避けてください。番号はコンピューター処理用ですので問題ありません。手間だと思いますが、作業の迅速化と処理ミス根絶のためによろしくお願いします。
 
・今更ですが、教科書は購入したほうがいいのですか?
 教科書を使った講義はだいたい5、6回ぶんです。使ったのは教科書の2/3くらいです。教科書を使った部分について講義でよくわからなければ購入してください。ただし、講義をうけるというのは、講義を聞き、教科書や参考文献を参照して、最終的に自分の頭の中に作り出す作業全体を指します。ただ聴いていればなんとかなるというものではありません。
 
・一の湯の資料がなかなか見つからないのですが、何を参照したらいいでしょうか?
『日経流通新聞』2003/04/12付一面を参照してください。
 
・板書してもらえるのはありがたいのですが、書く時間をとってほしいです。
改善に努力します。