2001/05/28
顧客満足論Q&A−第6回(5/21)分−
一 運営スキルと相互不可侵性について
1 松下の件で、理念の唱和はあまり意味がないと合ったが、従業員のやりがいや意欲に繋がる源泉となるものが企業の組織理念と一致するのがいいと理解しているが、理念の唱和とはまた違うのだろうか?
究極のあり方としては、組織理念や文化ということをスローガンとして全社員が唱和する、などということをしなくても、いわば「不文律」のように適切な組織文化・理念が浸透することが理想です。「気がついたら、そういう生き方になっていた」というような。「唱和」というのはやはり形式陶冶でしょう。
たとえば、時々例に出すヤン・カールソンの場合、彼がCEOに就任して行ったスカンジナビア航空の経営改革に当たって、彼自身が全社員に対して演説をしたり社員向けに冊子を配ったりもしていますが、同時に、決まりを破ってでも乗客に機転を利かせたサービスをした従業員をルール違反で処罰するのではなく逆に賞賛したり、発着時間厳守を徹底するにあたって社長室にモニターを設置したり、ある日自分が自社の飛行機に乗るにあたって社長からまず乗ってもらおうとした乗務員を制して全部のお客さんを先に乗せてから自分が最後に乗ったりといったことをしています。こうしたことを通じて、社長がどのような基準でもって仕事にあたっていることを示して社員の規範となるようにしています。ほかにもいろいろありますが、たとえばトップのこうした姿勢など、自然に従業員の意識が変わるようし向けていくことが必要でしょう。
2 人間的運営法で拡大できた例はない?
3 チャレンジャーやフォロアーはどのようなサービス戦略を立てたらよいのだろうか?マーケティングでは、チャレンジャーは差別化戦略、フォロアーは模倣と習ったが、サービス戦略でも同じ事が言えるのだろうか?
基本的には同じです。ただ、サービスの場合は同時性という特徴があり、まったく同じサービスでも立地がまったく異なることでなりたつという場合がありますから、チャレンジャーでも模倣戦略があり得るでしょう。つまり、東京で成功しているものを大阪でだれもやってないとすれば、それを大阪ではじめてやるのはある種のチャレンジャーとなりうることがあるでしょう。
4 相互不可侵性と運営の戦略方向の中間型の追求は矛盾しているような気がするが?
一見矛盾するのは確かです。ただ、「同時に追求はできない」ということをおさえながら、人間的方法を基礎にして徐々に拡大していこうとする場合にどのようなやり方が考えられるか、ということだと理解してください。
5 もし、アート的な人がサイエンス的な企業に入って仕事をしていきたいと思ったら、その人はその企業でその人のスキルを十分に発揮することができずにつぶれていったしまいがちなのだろうか?これから先、どちらの運営方法が多く出てくるのだろうか?
サイエンス的な企業においても、新たななにかを作り出すにあたっては、パイロット的に事業を立ち上げたりすることはよくあることです。その場合にはアート的なセンスが求められることもあるでしょう。そういう人材をうまく活用できるかどうか、という課題ととらえることもできます。ただ、確立してしまったオペレーションを量的に拡大することが中心的課題になっている場合には難しいでしょうね。どちらがすぐれているというものでもないので、それぞれが深化していくと考えられると思います。
6 人間的運営法においても、科学的運営法に基づく管理システムのような存在が必要不可欠なのではないだろうか?確かに個人にかかる負担は大きいが、ニッチにおい
ても、サイエンスの要素をかねるのではないだろうか?
例にはかなり職人的なものばかり前回は出しましたが、実際には基盤的な管理システムについては可能な限りサイエンス的なものを導入し、ほんとうに必要な部分で人間的なスキルをとぎすますというやり方がとられることがほとんどです。たとえば、職人的な仕事ぶりが人気のレストランでも、レジには最新の会計ソフトが導入されていたりとか。
7 サービスの運営スキルは人間的と科学的の2つしかないのか?他にはないのか?これから新しいスキルは登場するのだろうか?
8 未来の戦略方向で中間型をやっている企業はどんなのがあるのか?
9 アート型がサイエンス型をぬいて、サービスの中心になることはないのだろうか?現在はアート型よりサイエンス型のほうが会っているのだろうか?
10 サイエンスで個性を生かすことがこれからの大企業のついてもいえるのだろうか?
それぞれの手法のどちらがすぐれているわけでもないですし、それぞれサービスの内容などによってそれにふさわしいやり方がとられることになるでしょう。ただ、5のように大企業においてもアートの部分が必要になることはあるでしょう。
11 中間型サービスで運営する場合、リーダーにはなれず分野の中でも中間の位置になるということ?
12 一般的に最も優れた科学的手法を取っているものがリーダーになるとあるが、他のアート型や中間型ではリーダーになった例はないのか?
市場をどう定義するかにもよりますが、業界を全体としてとらえた場合、規模と利益の面で主導的な立場に立つのは一般にサイエンス型ということになります。ただ、市場をごくせまいニッチ市場でとらえた場合は、そのなかでリーダーとなる場合はほかの場合でもあり得るでしょう。
13 科学的運営法を選択した場合、企業規模を増加させなければ、CSは上昇しないのであれば、事業開始の資本金は大きいものになるのか、それでなければ展開していけないのか?
14 アート型とサイエンス型それぞれで市場が成り立っているのだと思うが、やはりサイエンス型のほうが多いのだろうか?中間型が一番成長しそうな気はするが?
15 大規模化を進めながら個性をだしていくのは難しいが、小規模なままではいくら個性があっても生き残れないのか?
16 ニッチ戦略は本質機能が強いのか?モスシステムはどっちかというと表層?
ニッチであるかどうかということと本質・表層は必ずしも関係していません。また、モスについてはどういう部分でマクドナルドと差別化しているか、と評価する視点の取り方によります。近藤としては本質部分の差別化であると考えています。それは、そもそもターゲットとしているセグメントとコンセプトが異なっているので、「おなじハンバーガー屋で、接客の部分で違いを出している」という次元ではないと考えるからです。
17 アートとサイエンスの中間がやっぱりよくわからない。
18 相互不可侵性があるのならば、その中間にあたる企業はどちらも兼ね備えていて優良といえるということなのだろうか?
19 サイエンスは機能的で単価が安くて、アートは時間も人も必要で付加価値がつくと考えてもいいのか?
20 理念による価値ベクトルあわせと合ったが、時代の変化とともにその理念が時代遅れになったものとなることがあるのか?
21 科学的運営法の下では優れた人材を育成するのは困難なのでは?サイエンスを基準にしつつ一部でアートを取り入れながらやるのがベストな方法なの?
必ずしもそうではありません。科学的運営法で必要とされる「優れた人材」と、アート型運営法で必要な「優れた人材」は異質のものです。科学的運営法では、直接サービスに従事する人などは特別優れた技能を持っている必要はないので、むしろ企画力やマニュアルづくり、規格的な人材育成などに長けている人材が必要です。
22 サイエンス型に対して、ニッチを発見していくのは至難の技であると思う、将来性は小さいと思うのだが、どうなんだろうか?
23 サービスを重視するのはよいがそれを方向性を誤るとむしろマイナスになる場合があると思う、決定する際、何が基準となっていくのか?
24 ニッチは隙間というのはいいのだが、ニッチャーとはどういう意味?隙間の人?!
25 個性が求められる時代にはシステムマニュアルのラインを新たにたくさん設けてラインを何本も作るのか?
質問者が「ライン」という言葉でなにをさしているのかわかりませんが、マニュアルをたくさん用意して多様な事態に対応しようとする場合もあります。TDLでは、一説によると300冊くらいのマニュアルがあるといわれています。ただ、あらゆる可能性に対応するマニュアル化は不可能ですし、多様な柔軟性のほうが重要になるようなサービスの場合は、むしろアート的なやり方を追求することが合理的になることも多いでしょう。
26 リーダーは科学的運営法を行うものになるのか?
ここでいうリーダーとは市場のなかで他の競争者との関係で主導権を握るものということです。前回も述べたように、市場の枠組みを大きくとらえれば科学的運営法をとって規模を拡大していく企業が、市場のなかで主導権ととっていくことが多いということです。
27 個人と企業の理念が一致した宗教団体のようなカルト的企業はどのようなもの?
28 人間的運営法がサービスの差をつけると考えるのが、むしろ逆行した技術のみなどはこれから衰退してゆくのだろうか?
29 概念図で企業規模の少ない場合のアート的運営と企業規模の多い場合のサイエンス型運営とでは顧客満足は同じだが、どちらの場合も顧客満足は同じなのだろうか?
30 同企業で、サイエンスとアートで進出していくことも可能?
たとえば、高級レストランと居酒屋チェーンを同時に経営し、前者で得たノウハウやメニュー開発を後者に生かしたり、後者でのスケールメリット(たとえば大量仕入れによる原価の削減など)を前者にも生かしたりすることは現にあります。
二 具体例について
<モスとマクド>
1 ハンバーガー業界ではマクドとモスのどちらの運営法が適しているのだろうか?
どちらが適していると一般的にはいえないですね。ただ、現時点で企業としてどちらがより成功するかという点では一定の結論はでているように見えます。これは、サービス運営法の違いだけによるものではないでしょう。
2 モスは中間型?
3 やはり数の多さが質に勝つのだろうか?
4 マクドのように大規模になってしまうと、なんかの時にミスを犯し、その信頼性が崩れたときどうなるのか?
5 モスが人間的運営法だといっているが、私はチェーン店なので科学的な部分が大きいと思うが、マクドと比べ、たとえばどのような部分が人間的なのだろうか、モス独特の雰囲気を作れているなど?
ハンバーガーショップのチェーン展開という科学的な運営法の上に立っているという意味ではたしかにそのとおりです。そのうえでしかし、一方が科学的な方法を徹底すること、一方が人間的な方法も導入する、というところが決定的な両者の違いになっているので、そこを対比して説明したわけです。人間的な部分というのは雰囲気が人間的とかそういうことではなくて、個々の店のオーナーなり店員なりの個人的なスキルに依存した運営のあり方になっている(差し替えがきかない)ということです。
6 人間的運営法を行ってきた企業が規模拡大をするときに、なぜ困難性が生じるのか?モスは現在ではマクドと同じような方針をとっていると思うが、この過渡期をどのように乗り越えてきたのか?
7 マクドの一部店舗では違ったサービスをしてるところがある、サービスの違いは店舗の運営に差別化が生じる原因にならないのだろうか?
具体的なところがわかりませんが、一般論としては標準化を進める上では違ったやり方は混乱をうむ危険があります。どの程度違うかにもよりますが。なお、質問者の「差別化」という言葉の使い方は間違いです。「差別化」とは一言でいえば「違いを出す」ことで、具体的には他社の製品やサービスとは異なった「なにか」をつくりだすことで市場のなかでポジションを確保・拡大していこうとすることです。
8 マクドよりモスは経営が現在悪いのだが、マクドのまねをしてもっと簡単に経営をよくすることはなぜしないのか?
9 CSとの関係の図であった規模が大きくなるほどCSが低下するという話でいくとモスはCSが低いのか?
10 現在のマクドとモスの戦略はどうなっているのか?中間型を取り入れたのか?
11 低価格で、味のほうもモスのほうが評判がいいのにマクドのように規模が拡大しないのはなぜなのだろうか?効率化を果たしていけるのだろうか?
12 マクドとモスは異なる方針の下で共存できているが、他にもそのような企業はあるのだろうか?
13 かつてのモスは各店舗のオーナーの個性を打ち出していた、との事で、フランチャイズ方式というマニュアルによって画一化された運営形態でオーナーの個性を打ち出した店舗運営は可能なのだろうか?店員を顔なじみになるという以外に具体例はある?
14 モスはなかうでもアート的なマネジメントをしているのだろうか?
15 モスの場合フランチャイズ方式なのでどちらかといえば分権制に近いものではないのか? グラフでいうCSが下がる状態とはどういうものなのか?
モスは分権というほど各店舗に運営の自主性を任せているとはいえないでしょう。たとえばメニュー一つとっても基本的には一律に本部の決定に支配されています。
後者の質問は、グラフのどの部分をさしているのかわかりませんが、たとえば科学的運営法で規模を拡大して行ってあるところからCSが下がり出すというのは、規模の拡大がサービス提供水準を支えられなくなる状況を指しています。しかし、これは規模拡大に必ず限界があるといっているわけではなくて、マクドナルドが現にそうであるように、規模拡大に応じた経営のあり方を追求することで、この閾値を際限なく延ばしていくことも原理的には可能です。
16 モスのオーダー制では今マクドが行っている平日半額でしかも早いという体制には勝てないと思う、モスは抜本的改革が必要なのではないか?
単に「高いから」「遅いから」だめだという単純な理解ではだめです。自分の一消費者としての感覚で判断しないでください。ターゲットとコンセプトが違う、ということを理解してください。もちろん、商品自体が同じですからマクドナルドの戦略が市場に受け入れられることの影響は少なくありません(たとえば、「ハンバーガー」という製品自体の価格の一般的水準が大幅に下がるので、それには対応しないといけないなど)。しかし、モスがマクドナルドと同じことをしても単なるフォロワーになってしまい、逆に既存の顧客を失うことにもなります。モスはどのような事業の再定義を行っていくのかが課題になっていると思われます。
<その他>
1 業界の最上位以外の企業はどうたちうちするのがよいと考えられるのか?
2 セルフサービスのドトールとそうでないサービスのスターバックスの比較は正しいのだろうか?
比較できる部分とできない部分があります。それは、市場をどう定義するかによって違ってきます。ファストフード的なコーヒーショップという市場では競合しており、その視点からは比較できます。しかし、味の違いなどを考えればまた別です。
3 ミスタードーナツはフランチャイズだけど、モスと同じアート?CMもたくさんしてるからサイエンス?
4 ロッテリアの例とかも聞かせて。
なんで? ロッテリアは基本的にマクドナルドのフォロワーであり、この講義で取り上げる意味はありません。
わたしたちが理論的であれ実践的であれ具体的なケースから何かを学び取ろうとする場合、そこで学ぶべき対象は常にもっとも「典型的」なケースである必要があります。そして、「典型的」なケースとは優れたケースの場合はもっとも成功した例であり、悪いケースの場合はもっとも露骨に問題がでている例でなければなりません。
5 ディズニーランドの運営方法は中間的といえるのだろうか?
6 ディズニーランドは大人も引き込まれるのはなぜなのか?「子供心」を持った大人が多いということなのか?
7 スターバックスも、マクドもアメリカの企業で科学的運営法で成功している企業だが、ヨーロッパのほうで科学的運営法でうまくいっている企業はあるのか?
8 スターバックスはマニュアルがないが、科学的運営法なの?
9 働いている側としてはとても肩がこるのだが、顧客はそういうものを求めているのだろうか?
これはどこでのこと? 顧客は別にあなたの肩がこることを求めてはいないだろうと思いますが、顧客の求めるサービス内容を提供した結果働いているほうがしんどくなるのなら、経営者やマネージャーはしんどくならない方法を考えないといけないでしょう。
10 ガストでは注文受けてから45分以内に届けないとただになると聞いた、そうすることも顧客を満足させるためのサービスといえるのか?届けられないようなサービスはサービスとして問題外なの?
45分以内に届けるということが決定的な(つまり本質に含まれる)ものであれば、それは当然サービスに含まれるでしょう。ガストの場合は45分以内に届けることを公約しており、注文した顧客はそれを当然のこととしているわけですから、届けられなければ「問題外」です。顧客を満足させるためのサービスという表現はちょっと問題ありかもしれません。この場合の45分、は表層ではなく本質だと思いますから、何か追加して満足度を向上するというのではなく、達成されなければdissatisfactionになる問題です。
11 カラオケルームに必要不可欠な顧客満足とはいったいなんだろう?システムが店によって違うが、一番効果的に売上増が望めるスキルは何かないだろうか?
12 ヨーロッパでサービスの工業化が遅れているのはサイエンスの運営を受け入れない気質が企業、顧客ともにあるから?
13 米国のGAPはある程度のライトをキープし、色が多く海外進出も活発だが、ユニクロと比較するとどうなるのだろうか?
14 顧客満足について、披露宴で、お客さんが料理を勝手に持ち帰ろうとして、バックの中へ入れているのを見てしまった。後で問題が起きると困るので、持ち帰りは断っているのだけれど、それでも持ち帰った人の自尊心を傷つけてまでいうべきか?それとも問題発生を覚悟して見逃すべきか?持ち帰ることができたら顧客満足なのか?
15 大規模が小規模を吸収していることが多いことについて先生はどう思われるのか?
ベンチャービジネスは規模拡大することは望ましい形なの?
16 アートとサイエンスは、店の場所によって多少変わるか?繁華街でもアート方は可能なのか?
17 ロッテリアは味が店によって違うということは科学運営法のできそこないという事?
18 コンビにのチェーン店個々の店長の裁量で在庫のアイスを安くしたり、他のチェーン店では売ってないようなものを取り扱ったりしている店を見かけるこの場合はアート的な経営になると思うがこれはサイエンスとアートの相互不可侵にそう反するものとはいえないだろうか?またこういう店が立地条件はぬきにすると生き残っている実感があるのだが、どうなんだろう?
その程度ではアートとはいえないでしょう。アート型運営法における「人」のスキルとは「他の人では代替できない」というものです。また、生き残れるかどうかは多面的な要因が関わるので、いちがいにはいえません。買い物客という立場で見ていいサービスをしてくれているからといって商売としてうまく行くかは別問題です。
三 その他
1 講義終了後のグループ代表者会議があるときはもう少し早く講義を終了してほしい、出席カードも書かないといけないし、最後のほうばたばたするから。
2 グループ発表は人グループあたり何分間の発表時間を設ける予定なの?