2001年度顧客満足論試験
優秀回答と解説
2001/9/13
問題1  回答例 解説
問題2a 回答例 解説
問題2b 回答例 解説
総評
 
問題1.なぜ今日「顧客満足」が重視されるようになっているのかについて論ぜよ。
 
(回答例1)
 なぜ今日「顧客満足」なのか?を考える上では、その歴史の背景も考えなければならない。
 1950年代−認識の時代では、「利潤」ではなく「顧客創造」に事業の役割があるとされ、1960年代ではその認識が定着、1970年代には成長のツケが会社をとりまき社会における企業の責任が発生し、1980年代には開花し始めた顧客創造の認識は消え、競争結果として顧客満足がとらえられた。それらを背景にし、事業が成功するためにはまず事業を生かしてくれる顧客に喜んでもらえなければならない。顧客満足という概念こそがビジネスの唯一の目的である顧客創造に直接結びつく経営テーマであるからである。
 現代の顧客満足ではディスサティスファクションとアンサティスファクションという概念がある。先に挙げた70年代の企業が生み出した社会的悪影響にタイする消費者、生活者側からの不満に対応していた時代がディスサティスファクションそのものであり、マイナスからゼロへの修復に関わる顧客満足であった。80年代に競争優位性が必要であることを認知したと同時に、企業はゼロからプラスに向けたアンサティスファクションを考え、それに関わる表層サービスを充実させる必要があるのである。
 
(回答例2)
 まず、企業が主導権を持っていた時代から顧客が主導権を握るようになってきたことがあげられる。具体的には1980年代からの「マーケティングの時代」では、市場の成熟により消費者のニーズを把握することが重要な役割を持つようになった。この消費者のニーズというものを把握した上で需要を作り出すことが前提となってきた。そして現在は、消費者が十分な情報と判断力を持つ時代であり、消費者自身が選択する時代である。そもそも顧客とはサービスや物財を提供する側から見て自分たちの提供する物事を消費する可能性がある存在のことである。ここで注意すべき点は、一般的な「消費者」ではなく自分たちにとっての「顧客」であり「可能性」であるという点である。従って、競争があれば顧客の「消費」は他へ行くこともあるし、どの程度「消費」が行われるかは「顧客」の選択にかかっている。つまり、サービスや物財を生産する側は客観的に把握できる「欲望」の内容ではなく自分たちにとって個々の「顧客」が自分たちを「選択」するようにする必要性に迫られている。このような客観的条件により、今日「顧客満足」が重視されるようになっていた。
 
<解説>
 回答例1のように、ディスサティスファクションからアンサティスファクションへという問題の性格の変化から論じてもよいし、回答例2のように顧客の「選択」のあり方の変化から論じてもよい。回答例2は、まず端的に問題に対する答えを述べているという点でもすぐれている。ただ、単に歴史的変化を記述するのではなく、だからなぜ「顧客満足」なのか、ということについて少しでもふれているかどうか、が重要であり、そこがないとかなり減点している。全体としてひどい勘違いは少なかったが、効果的効率主義についての解説を書いてだから顧客満足だ、と書いているものが若干あった。このタイプの回答でも正解の可能性はあったが、なぜかすべて「なぜ今日」という点に答えていないので大幅に減点されている。
 満点25点、標準点20点、平均19点
 
問題2a.現在顧客満足が不満足空間にある状況の際に、どのような戦略をとるべきか。テキストに記載されたもの以外の具体的な例をあげて論ぜよ。
 
(回答例1)
 不満足空間への対応は本質機能・サービスにおいては改善戦略、表層機能・サービスについては無関心戦略があるが、現在かなり多くの人が持つようになった携帯電話業界において具体例を考えてみたい。まず「通話すること」を本質とした本来の考え方において、生じる不満足空間が「利用者の増大で通話の音質や電波の状態が悪化した」であるとすれば、会社はこの不満足空間への改善戦略として「アンテナを多く設置することで通話エリアの拡大をはかる」ということを行うべきであると思う。またドコモのiモード、j-phoneのj-skyなどのコミュニケーションツールとしての本質を考えたときに生じた不満足空間が同じく「利用者の増加で接続が困難」であるとすれば、会社は「アンテナ・中継局の強化やあたらしサービスの開始」などの改善戦略を行うべきである。(表層機能についての記述がないのが惜しい。対策の是非はともかく、回答のパターンとしてはこれで十分である)
 
(回答例2)
 顧客満足が不満足空間にある場合の対応は、本質機能に関しては改善戦略をとり表層機能に関しては無関心戦略をとる。例えば新しくレストランをオープンしようとしてチラシを配り大々的に宣伝をした。その宣伝などが功を奏して期待が高くなりオープン後お客さんがたくさんやってきたが不評が多かった。その理由として味があまりおいしくないこと、店がやや街はずれにあって不便なことなどがあげられた。ここでこの店では味に関しては腕利きのシェフを呼んでくるなりいま現在のシェフが味の改善をするなりして、その店の料理をおいしく改善すべきである。この味というのは先ほど述べた本質機能のことであり、改善戦略をとるのが適当である。しかし、立地が悪いということに関してはコストがかかるため、街の中に移転したりするのは不可能と考え、宣伝する場合にも「少々遠いところにございますが、味には自信がございますのでぜひおこしください」などと書き加えたりしてあらかじめ立地が悪いことを知らせておいて顧客の期待値を下げる。これによって期待水準を低下させ、潜在的な不満に変えることができる。この立地というのはレストランにおける表層機能であり、先程述べた無関心戦略をとるのが適当である。(カンペキ!)
 
<解説>
 「不満足空間」とは、テキストp81の図11「消費者満足の単純化モデルと戦略対応例」に示されている4象限の図の左上のことである。これについての解説は、うえの回答例で十分示されているので必要ないだろう。減点されたものは、改善戦略や無関心戦略の内容が自分で設定した不満足空間の状況に対して的はずれなもの、そもそも不満足空間の設定が勘違いしているものなどであるが、不満足空間について正しく理解している限りは大きな減点をしていない。
 講義でこの図について詳しく掘り下げはしなかったことや問題文がやや不親切だったこともあってか、「不満足空間」がこの図のこの象限のことをさすということに気がつかず、単に顧客満足が不満足な状態であるという前提から論じた回答が非常に多かった。このため、この種の回答でも説得力ある議論を展開しているものについてはむやみに大幅減点せず、内容に応じた点を与えた。しかしたとえば、「不満足空間にある場合は顧客の期待を大きくすべきである」というような全く的はずれな回答も少なくなく、全面的に議論が展開されていても0点、というものも数例あった。
 満点40点、標準点35点、平均点26点。
 
問題2b.ソリューション満足のマーケティングについて、テキストに記載されたもの以外の具体例をあげて説明せよ。
 
(回答例1)
 ソリューション満足のマーケティングとは、売り手と買い手という二つの行為者の相互行為を通じ、買い手の認知した問題を売り手の解決策で充足することにより双方の価値を長期的に高めるソリューション満足をつくる活動である。このマーケティングには4つの類型がある。
@行動重視型:双方が問題を知っている。単に距離を埋めて解決すればよい
  例)荷物を届けてもらいたい買い手、荷物を届けるサービスを売りたい売り手
A提案型:買い手が問題をわかっていない、売り手から問題認識と解決方法を提供
  例)化粧品のセールスレディ(売り手)は、買い手の肌のトラブルをみつけて説明し、解決に必要な化粧品を紹介する。
B奉仕型:買い手はわかっているが売り手はわかっていない
  例)美容院。買い手の理想の髪型に近づけるために顧客と適当なコミュニケーションをとり対応する。
Cワークショップ型:両方ともわかっていない
  例)主婦が台所で何を必要とするか、を主婦と企業の共同で開発すると、よりニーズにあった実用的なものを作ることができる。
 
(回答例2)
 ソリューション満足のマーケティングは、売り手と買い手が協力し相互にとって新しい解決策を見つけることで、行動重視型、提案型、奉仕型、ワークショップ型と4種類がある。その中の一つワークショップ型マーケティングとは、買い手もどのようにすれば価値や満足が高まるかニーズをつかんでいない、売り手もどうすれば買い手の問題が解決してその価値が高まるのかわからないといった買い手、売り手ともに問題認知と解決策が未知の状態でともに話し合い、解決策を導き出すといったものである。
 具体例をあげていえば、セブンイレブンとNECの例で、セブンイレブン側も客の求めているものが客と接することでわかってきているが、それをどのように発注などに生かせばよいかわからず、NEC側も技術はあるのであるが、それをどのように生かせばよいかわからない状況でともに協働しあいPOSシステムという情報・発注システムを開発した。これにより客に人気の商品をいつでも切らすことなく在庫を置け、売れない商品は死に筋として店頭からはずすといった高回転率の経営が可能となった。そして効率よく商品の発注もできるようになり、成功した例と言える。
 
<解説>
 
 回答例1のように4つの類型を羅列しても、例2のように一つの類型について詳しく述べてもよいが、いずれにせよソリューション満足とは何で、どんな類型があるのか、は最初に簡単にでも総括的にふれておく必要がある。あくまで「例をあげて説明せよ」というのが設問であるので、例しかあげていない回答は大幅に減点されているし、逆に例が足りないものや的はずれなものも減点している。特に「奉仕型」については誤解が極端に多かった。買い手の目的は明確だが、売り手はそれを確実に実現する手段を持っていない場合(ガンの特効薬のようにそもそもその手段がない場合@と、株の取引のように絶対確実な手段がない場合Aとがある)には、周辺的なことで穴埋めしようとしたり(@であればホスピスを紹介するとか)、とにかく努力してがんばる姿勢を示すこと(Aであればあれこれの投資案件を試してみるとか)をでなんとか顧客の納得を得ようとするのが「奉仕型」であり、回答例1もこの点では微妙である(美容院は、顧客の求める髪型を確実に実現する技術をふつうもっているタテマエのはずである。そうでないこともあるからこういう回答があるのだろうが)。
 満点40点、標準点35点、平均点28点
 
<総評>
 
@ 問題が問うていることにきちんと回答することが大前提である。「論ぜよ」という問題なのに論じようとしていない、「説明せよ」というのに説明していない。具体例の紹介だけで終わっている回答が多すぎる。問題の勘違いも少なくない。問題文をまずよく読むことを徹底して欲しい。不当に評価が低いと感じたものは、回答例をよく見て何が問われていたのか確認して欲しい。
A 同じようなことだが、問題にまず的確に回答して欲しい。設問に対する解答をまず明示することをほとんどの回答者に求めたい。内容的には設問の答えが示されていても、「・・・について説明せよ」という設問であるのに、「・・・とは○○○である」と明記されていない回答が非常に多かった
 
 なお、成績の全体的な分布は、A、Bがそれぞれ3割ずつ、C、Dがそれぞれ2割ずつであった。 試験は65点満点で、全体の平均は50点であった。