2002年11月7日
 
マーケティング論
第6回 STP戦略とは?
 
 
 
 
 
Y STP戦略
(この項もテキストはあまり使いません。次回からテキストに戻ります)
 
 
0.STP戦略とは
STP=Segmentation, Targeting, Positioning
総称してターゲット・マーケティング戦略ともいう。
要するに、企業などが顧客をどうやって絞り込むか、ということ→図Z−1
ここでは、講義第3回(テキストp94〜)でふれた各種のマーケティング戦略のうち、@差別化とA市場細分化をふまえて、実際に戦略を立案するプロセスにそって考える。
 
1.第1段階:マーケット・セグメンテーション〜市場をセグメントに分ける→図Z−2
(1)セグメント*1のレベル
@マス・マーケティング
全ての市場を対象とする。セグメンテーションを全く行わない。
Aセグメント・マーケティング
セグメンテーションを行って、そのうちの一つまたは複数のセグメントを対象とする。
Bニッチ*2・マーケティング
セグメント・マーケティングのうちでも特に規模が小さい市場に限定して対象とする。
C個別マーケティング(またはOne- to- One マーケティング)
一人の顧客の個別的なニーズを対象とする。オーダーメードが典型だが、既製品であっても個別的な組み合わせを提案するなどがある。また、技術革新によって大量の特注生産(Mass Customization)という、一見矛盾したこともも可能になっている。
 
(2)どのようにしてセグメンテーションを行うか
 どのような変数に着目するかについては、大きく二つの視点から、四つの方法がある。
 自社の製品やサービスの特徴や対象とする市場の特徴に応じてどの方法を重視するか判断する必要がある。
 変数の数が多いほど細かく分けられたセグメントとなる→図Z−4
@市場の固定的な属性によるもの
・人口統計的セグメンテーション
   国勢調査などで得られる、年齢、性別、職業、収入、学歴などを切り口に分類する。
・地理的セグメンテーション
   国、地域、市町村、人口密度、気候などの変数がある。
A顧客の志向や行動に着目したもの
・サイコグラフィック・セグメンテーション
   消費者のライフスタイルやパーソナリティーを基準にして分類する。
   例)マウンテンバイクが好きなのは「若い」人だが、この場合の「若い」とは?
・購買行動によるセグメンテーション
   購買機会(正月、誕生日など)
   求めるベネフィット=効用(品質か経済性か、健康、スピードなどなど)
   購買経験や頻度(初めて買うのかヘビーユーザーか、など)
   ブランド・ロイヤルティー(あるブランドを好むか、気にしないか)
 
(3)効果的なセグメンテーション
 セグメンテーションは分けること自体が目的なのではなく、自分たちが対象にしようとするセグメントの像がはっきりうかびあがる必要がある。そのためには、自分たちの製品やサービスに応じて独自の変数を考え出す必要があることも多い。例:時代の変化をおそれる人か、期待する人か、など
 ただし、実際には次の点を満たさないと、有効に分析できない。
 @測定可能:漠然として定量化(量を明確に測定できるものにすること)が難しいと困難。
 A到達可能:製品やサービスそれ自体あるいはその情報がちゃんと届くものでないと困難。
 B十分な規模:ビジネスが成り立つだけの規模がないといけない(公共サービスなどは別)
 C区別可能:あるマーケティング・ミックスに対して別な反応を示すものでないと無意味。
 D実行可能:自分たちが実際にその市場へむけて活動できないと無意味。
 
2.第二段階:マーケット・ターゲティング〜自分たちの標的を選ぶ
(1)何を基準に自分たちが対象とするセグメントを決めるか
マーケットとしての魅力度:規模、成長率、利益率、規模の経済*1、リスク*2など
事業主体の側の条件:目標、経営資源、強みと弱み、競争相手の状況など
 
(2)標的選択のパターン →図Z−5
@単一セグメント集中型
○特定の標的に集中。全ての経営資源を集中できる。
×その標的の性格が変わったり、そこで競争に敗北すると完全に降参となる。
A選択的特定型
○いくつかの標的それぞれに応じた製品やサービスを提供することでリスクは分散可能。
×経営資源の分散が生じる危険が大きい。
B製品特定型
C市場特定型
特定の市場に対して多数の製品やサービスを提供する。
D全方位型
    ・非区別マーケティング:すべての市場に単一の製品やサービスを提供。例)T型フォード
    ・区別マーケティング:多数のセグメントにそれぞれに対応する製品やサービスを提供
 
(3)標的の再区分
 実際には、標的としたセグメントをさらに細分化することで、きめ細かい顧客のニーズに対応することが必要となる。
  例)「経営学部」に「国際経営コース」「経営戦略コース」などをおく。
 
3.第三段階:ポジショニング〜「他と違う、うちならではの」を認知してもらう
今日、顧客を維持していくためには、自社の製品やサービスを競合他社のものとは違う、その顧客にとって意味のあるものとして認知してもらう必要がある。これが差別化とポジショニングである。
 
(1)差別化
価格競争による消耗戦を回避するためにも、他社と異なる独自性を追求することが重要である。
ただし、「差別化」の対象となるのは製品やサービスそれだけではない。
 例)非常な魅力を持った商品であっても、配送にひどく時間がかかると魅力は半減する。
   これに対して、「味は一段落ちるけれど早く届きます」と言えれば差別化可能である。
  差別化の条件とは
・顧客にとって大きな効用=ベネフィットをもたらす。
・他社が提供するものにはみられない独自性がある。
・そのためには多少高い値段を払ってもいい、と思わせられるものでなくてはならない。
 
(2)ポジショニング
定義は、「自社の提供するもの(=製品やサービス)や自社のイメージが、標的とする顧客の心の中で、競合他社のものに対してはっきりと優位な位置をしめるように考察すること」
@何に着眼するか
  ・製品やサービスの特徴をアピールする
  ・ベネフィットやどのような問題解決に貢献できるか
  ・特別な応用例はあるか
  ・どういう人たちがユーザーなのか
  ・競争製品との比較
  ・別な種類との比較
A認識マップ→図Z−9
顧客の「心の中」を分析して、自社の製品やサービスが競合する製品やサービス(同じ商品で他社が作っているものとだけは限らない)との関係でどのように評価・認識されているかを探る。

*1セグメント:ニーズやウォンツ、購買力、居住地、階層、属性、購買行動などにおいて同様な特徴・傾向を示す顧客のグループ。たとえば「南草津に下宿し@立命に通うA男子学生Bで、おしゃれにうるさいCが携帯の使いすぎでお金はもっていないD」など。
*2ニッチ:直訳すれば「隙間」。特に規模が小さい特殊な市場のこと。わかりやすい例としてはマニアックな趣味に関わるものなどだが、日常的なものやビジネス関連でも存在する。
*1規模の経済:生産量の増大につれて平均費用が減少する結果、利益率が高まる傾向。同じ意味で、規模に関する収穫逓増、費用逓減といわれることもある。たとえば、ある工場の生産ラインが一日100個の製造能力を持つとする。この生産ラインで一日1個しか生産しなくても、100個生産しても、工場の維持費や労働者の人件費などは変わらない(固定費用)ので、製造限界100個に近く生産すればするほど製品1個あたりの平均費用は低下し効率が高い。結果として利益率も高まる。ただし、100個を越えて生産しようとすると新たな生産ラインの建設費や、その生産ラインに対応した固定費用がかかるので、再び効率が低下する。この最大限の効率が追求できる状態を目指す必要がある。
*2リスク:損失や利益の低下がうまれる危険性。