2002/5/8
 
 
 
 
 
サービス・マネジメント論
           −第5回 サービス・マネジメント・システム(1)−
 
 
 
 
 
0.前回講義への質問などに対する回答
 
<基本的な考え方の確認>
 サービスとは「機能の提供」であることを理解してください。「おまけ」はサービスではありません。人が人に直接になにかをすることは、サービスの一種にすぎません。
 
(1)サービス・マネジメント論の系譜に関して
@経営者として考えるとは戦略・組織・現場の点も顧客の立場で考えるということですか。
少しわかりにくい説明をしたかもしれませんが、経営者は戦略・組織・現場を貫く指針を、顧客の視点から考えて提示するのが役割、ということです。
 
Aなぜアメリカと北欧で2つの源流が生まれたのですか。それぞれの定義の違いは何ですか。 これが日本にあたえた影響が分かりにくい。
なぜか二つの源流が生まれたのかというはっきりした理由はありませんが、一つにはマーケティングの考え方はアメリカで発達したのに対して、北欧ではHolismという哲学の考え方が経営理論にも影響を与えていたということが考えられます。日本に与えた影響は特に説明していません。
 
B世界中で共通する顧客が満足するサービスがあると思う。そのような理論が否定されることはないのですか。
質問の意図がわかりませんが、こういう抽象的な問題設定はほとんど意味がありません。これは今日説明するセグメンテーションとコンセプトについての考え方から明らかです。
 
C中国、ロシアのマーケティングには独自のものがあるのか。
理論は常は、現象が最も発達したところで発展します。資本主義企業の経営についての理論は、資本主義が高度に発達した国でのみ発展し、それ以外の国では基本的にはそれに追随し、応用することになります。
 
(2)サービスマネジメントの基本的な考え方に関して
@現場の意味がわかりません。
ここでは、サービス活動が顧客に提供される場、を指しています。従業員が直接顧客に接する場面(サービス・エンカウンター)を指す場合が多いですが、サービスの定義から明らかなように、直接人と人が接するとは限りません。たとえば、自動販売機。
 
A経営者と顧客の相互作用の例は何がありますか。
このような相互作用があるとは説明していません。
 
B企業のセグメントに合致しない顧客は、顧客とみなくてよいのか。もしそれを受け入れれば戦略ではなくなってしまうのではないか。
今日の講義を聞いてもう一度考えてください。
 
C要素5つのうち最重要なものはどれですか。また、一つでも欠けるとサービスとして成り立たないのでは。
どれもが重要です。
 
D物を作るマネジメントとの差が分かりません。また、サービス・マネジメントとマネジメントとの違いはなんですか。また、最大の違いは
第三回講義で説明しているようなサービスの特徴をふまえたマネジメントが必要です。
 
Eサービス・マネジメントのイメージが分かりません。例をあげてください。
イメージはサービス・コンセプトとセグメンテーションでほとんど決まってしまうのでは。
イメージについては次回説明します。
 
F組織内のサービスに対する意思の統一をどのようにするのが一番良いのですか。
次回説明します。
 
G『木を見て森を見ない』がわからない。
これは、「システム」としてサービスを考えることの重要性に関して述べたことです。複合的に提供される個々のサービス要素をばらばらにとらえるのではなく、サービス全体として何を顧客に提供するのか、をまず把握することが重要であるということです。
 
Hどんな顧客にも挨拶は大きなサービスになるのではないか。
 態度はサービスにならないのが疑問です。
繰り返し説明していますが、態度は具体的に何かの機能を顧客に提供していますか? 自分の感覚を絶対視せず、マネジメントの視点でものごとを考える訓練をしてください。
 
Iホテルの例で、経営者からみて顧客に当てはまらないとき、顧客がサービスに満足いかなくても、顧客の責任であり、ホテルは顧客を選んでも仕方ない経営ということですか。
セグメンテーションとコンセプトの説明を聞いて、もう一度考えてみてください。
 
Jサービスとホスピタリティーの違いがわかりにくいので例をあげて詳しい説明を聞かせてください。
サービスは機能の提供であり、ホスピタリティとは「もてなし」のことです。人を「もてなす」ことを通じて何らかの機能を提供するある種のサービス産業を「ホスピタリティ産業」と呼びます。
 
Lサービス・マネジメントの基本的な考え方がわかりにくい。セルフ給油はサービスシステムにあてはまるのか。
セルフ給油はサービスです。
 
M「全体としてよい循環をつくるようにコーディネートすること」とは?
サービスの質の向上が従業員など組織の能力を向上させ、そのことがさらにサービスの質を向上させるという循環を作り出すことです。
 
Nマニュアルに従ったサービスと心から行われているサービスでは差が出るか。
サービスに求められるもの次第です。これも今日の説明で考えてください。
 
 
1.経営戦略としてのサービス・マネジメント
(1)経営戦略とは
 ・経営戦略とは
「環境適応のパターンを将来試行的に示す構想であり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」(加護野忠男)
 @激しく変動する経営環境*1のもとでも、それに振り回されないよう企業(組織)の活動に  方向性やあり方に一定の指針を示す
 A企業(組織)がその環境とどのような形で関係を持つのかを示す
 B企業(組織)における意思決定の規範を示す
 ・経営戦略はなぜ必要か
    常に変動し続ける「環境」へ適応し続けるためには、場当たりではいられない。
    ただし、柔軟性が必要ではあるが。
 
(2)サービスにおける経営戦略の重要性
内部適応(内部環境への対応)と、外部適応(外部環境への対応)の整合性が形のある「もの」を作り出す場合と比べてより重要である。
  →「サービス・マネジメント・システム」としてとらえることの重要性(前回講義)
 なぜか:@「同時性」のもつ困難さと積極性
     A「顧客との共同生産」にかかわる苦心と可能性
 
(3)サービス・マネジメント・システムにおける経営戦略
  セグメンテーション:どんな「顧客(利用者)」を対象とするのか
  サービス・コンセプト:どんな「サービス」を提供するのか
    ・・・これが、(1)の@〜Bの役割を果たす
 
(4)セグメンテーションが先か、コンセプトが先か
2.ターゲットを明確にする−マーケット・セグメンテーション(テキストp224)
    〜では、セグメンテーションをどのように考え、定めたらよいのだろうか
 
(1)マーケット・セグメンテーションとは何か
    *高元昭絋『マーケティング』p14〜16、『ベイシック経営学Q&A』p128などを参照のこと
 ・マーケット(市場、「いちば」ではない):ある特定のニード(need)*1やウォント(want)*2を共
                      有する潜在的な顧客の集合体
 ・セグメンテーション:区分、区分け
   つまり、どのような特性を持つ顧客(利用者)の区分を対象とするかを考えることである。
    例)セグメントを切り替えて生き残りをはかる別府温泉
 
(2)ターゲット設定の二つの方法
@人工統計的方法
  年齢、性別、職業、教育水準、所得階層、家族構成など基本的なデータに基づく区分
   (ただし、サービス提供者にとって必要な情報を確実に集めるためには工夫がいる。)
Aサイコグラフィック(心理性向的、psycographic)な方法(こちらがより重要)
  共通するサービスのニードやウォントを有するグループをみつけること
  人の形式的な属性よりも、やりたい「こと」、必要な「こと」の属性に注目する
   例)ウィスキーを飲むのは年寄りだけか・・・キムタクのCM
     男は美容院に行かないか
 
(3)サービスにおいてセグメンテーションがより重要なわけ
@サービスは大量販売型のやり方(マス・マーケティング)になじまないものが多い
  例)飲食店、宿泊業、病院etc
A形のある「もの」は買い置きや転売ができるが、サービスの多くは「そのとき、その場で」必 要になる  例)タクシー、パソコンのサポートセンター
B「利益の80%は、顧客のうちの20%から得られる」という経験則  *数字はたとえ
  例)ファミレスの品揃え・・・ロイヤルホストとガスト
 
3.サービス・コンセプト(テキストp217)
(1)サービス・コンセプトとは
 顧客や利用者のニードやウォントに対応して、それを充たすサービスの内容(の根幹)
  ☆それぞれのコンセプトを考えてみよう
     マクドナルドとモスバーガー
     大学病院と近所の診療所
     高級鮨屋と回転寿司
 競争的な環境のもとにある場合は、より的確に顧客・利用者のニードやウォントをつかむこと のできる「ユニークな」コンセプトが必要になる
(2)サービス・コンセプトの種類
@特別な能力の提供
  要するに「代行サービス」的なもの
  成功するには条件がある(いずれかが必要である)
   ・顧客(利用者)が自分で活動するより
      よい結果が得られる 例)クリーニング、オフィス賃貸料割引交渉代行業(?!)
      より少ない負担(時間・コスト・精神的負担など)でできること
            例)チケット予約代行サービス、企業の経理業務請負サービス
   ・顧客(利用者)が持っていない能力が提供できる
            例)非破壊検査、たいていの交通サービス
A資源*1の新しい結合
  すでにあるものの組み合わせで、新しい活動や機能を提供する
   例)長浜のまちづくり・・・古い建物とガラス工芸
     東京湾の海ほたる
Bノウハウの移転
  @の逆で、「自分でやりたい!」という人にノウハウを提供する。
   例)ガーデニングスクール
     フランチャイズ・チェーンの本部、たとえばコンビニなど
Cサービスとしての経営活動
  経営活動そのものを提供してしまう
   例)ホテル経営代行
     アメリカの病院:医者に場所を提供している(ようなもの)
 
4.具体的なサービス提供の仕組み〜サービス・デリバリー・システム(p228)
(1)サービス・デリバリー・システムとは
 製造業における生産と流通(販売)のシステムと同じ。しかし、サービスの特徴のところで述べたように、サービスはたいていの場合生産と消費が同時であるから、これを一体のものとしてとらえることが重要である。
  例)生産と消費が同時であることを利用して品質を管理する・・・オープン・キッチン
(2)サービスの戦略とサービス・デリバリー・システム
 どのようなデリバリー・システムをとるかは、セグメントとコンセプトから決まってくる。
  例)ファンケルの化粧品
    アメリカの低運賃航空会社
 
(3)サービス・デリバリー・システムの構造(p229図)
 ・フロント(フロント・ステージ)
   顧客に直接接するサービスを提供する従業員
   (提供する「場」に着目した「サービス・エンカウンター」という言葉もよく使われる)
 ・バック・オフィス(バック・ステージ)
    フロントの仕事を支援する
 *フロント・ラインとバック・オフィスの関係〜映画「スーパーの女」
(4)サービス・デリバリー・システムの構成要素
@人材〜「真実の瞬間」を実現する従業員とは
「真実の瞬間」・・・顧客(利用者)にとって本当に価値のあるサービスを、サービスを提供するがわが個人と組織の能力を発揮して顧客(利用者)に提供しようとするその瞬間が決定的である。
  *SASの「雪の日のコーヒー」のエピソードは、決して個人プレーではない
a)人材育成のいくつかの方法
 ア)外側から従業員の行動を望ましい方向へ矯正する
 イ)従業員が自ら内発的に望ましい行動がとれるように持っていく
  ・マニュアルや訓練によって「望ましい行動そのもの」を身につけさせる(形式陶冶)
  ・状況やコンテキストを理解して「望ましい行動」を自らつくりだしていくようにする
     できれば、そうすることで従業員自身の成長、自己実現、満足へつながるように
b)従業員の役割
  もちろん、サービス活動自体を行うことが第一義的な役割だが、そのうえで・・・
  ア)顧客(利用者)のカウンセラー〜顧客の真の要求を理解し、明確化させる
     例)「おいしいものが食べたい」のウラには
  イ)顧客(利用者)のコンサルタント〜顧客に情報を提供する
     例)ショウルダイス病院の患者オリエンテーション
  ウ)客(利用者)とサービス提供組織との仲介者〜特殊な要求にどう対応するか
     例)SASのチケットなしで乗客を通したチェックイン・カウンター
        →重要なことは、これを判断できるできる従業員がいたこと(能力)
                          +
                これができる職場の風土であったこと(組織)
  エ)サービス活動のプロデューサー
     例)あるデパートで・・・他の売場にお客を引き渡して、あとでさりげなく声をかける
  オ)サービス活動の演技者
     例)小さな温泉宿で
A共同生産者としての顧客(利用者)
   顧客(利用者)もサービス・デリバリー・システムの構成要素である。
 a)間接的参加:その場にいることの効果・逆効果
         例)雰囲気作り
 b)直接的参加:実際にサービス活動に加わること
   ア)仕様の決定 例)理髪店
   イ)共同生産(狭義の直接的参加) 例)セルフサービス
   ウ)品質管理 例)オープン・キッチン
   エ)エトスの保持:従業員のやる気を維持・喚起する
   オ)サービスの発展:利用者側からの情報提供など
   カ)マーケティング:要するに口コミ
 よくできた直接的参加の例〜ベニハナ・オブ・トウキョウ
B技術と物的要素
  サービスだからといって形のあるものの役割が小さいわけではない。
 
  

*1:経営環境とは、組織がそれ自身ではコントロールできない組織内外の諸条件をいう(影響を与えることは不可能ではないことが多い)。一般に外部環境と内部環境にわけられ、外部環境は法律、市場、文化などであり、内部環境とは組織文化、価値観などである。
*1:ニード(need)は、人間の基本的な満足に関する欲求。「おなかがすいている」「勉強したい」など。複数形ニーズ(needs)と表現されることが多い。
*2:ウォント(want)はニードを充たす具体的な要求。「ラーメンが食べたい」「大学に行きたい」など。複数形ウォンツ(wants)と表現されることも多い。
*1:ここでの資源(resouce)は、天然資源ではない。「経営資源」(俗に言うヒト、モノ、カネ)である。