2002/5/29
 
 
 
 
 
サービス・マネジメント論
−第8回 サービス・マネジメントの展開(1)−
 
 
 
 
 
0.前回講義への質問などから
(1)イメージについて
@5(1)「人は、しばしばイメージを消費している。」とは、イメージ通りには使われていない。ということなのですか。また、イメージに縛られるとどう違うのか。 
 4駆のレジャービークル(オフロード走行可能な床が高い大型の乗用車)の例で説明しましたが、実際にはこのクルマを持っている人でもオフロード(山林など)を日常走行するような人はほとんどいません。ならなぜこのようなクルマを買うのかと言えば、こうしたクルマを使うことで「自分はオフロード派である」というイメージを自分や他人に向けて発信することができるからです。つまり、クルマがもつ機能ではなく、イメージそのものが目的とされています。こうしたその商品やサービスが持つ機能ではなく、それらがもつイメージが消費の目的とされている場合、イメージ消費といいます。お中元を贈るデパートの選択の例に見られるように、イメージに縛られるというのは、目的は機能であっても購買の意志決定に当たってイメージに左右される部分があるということで、やや違います。
A経営するさいにイメージの定着はとても重要なことだといえる。顧客が常に「受け身」になってしまうことは良くない事なのですか。
 受け身になるからよくない、ということを理念的に言ったわけではないのですが、説明不足でした。TDLでは、ほとんどのアトラクションがただ乗っている、ただ見て回るというもので、入場者がなにか働きかけて楽しむもの(ゲーム的なもの)があまりありません。このことは、リピーター(繰り返し来る人)に常に新しい「なにか」を提供するためには新しいアトラクションを常に準備しなければならないということにもつながっているので、一つは資金の循環の問題になります。もう一つは入場者の一定の層にはものたりなさを感じさせるという問題をはらんでいます。
Bイメージとは客が決めつけていくものではないのか。作り上げたイメージが変わってくることはないのですか。
 最終的には顧客・利用者が決めるものですが、サービスを提供する側がどのようなイメージ形成を意図して情報を発信するのか、が問われてくるのです。作り出したイメージを維持するためにも、系統的な情報発信などが必要です。
C何故実態にそぐわないイメージでも露呈するのか。
 実体にそぐわないイメージだから、実際に体験した人は現実とイメージの落差に気がつくわけで、露呈します。
Dイメージを意図的に作り出すことはできるのですか。どのように作られますか。
 情報のコントロールによってかなりの程度可能です。たとえば小泉首相については、昨年の今頃をピークに彼のパーソナリティについて一定のイメージ形成を意図して親しみやすさや一途さなどを強調したイメージ情報が大量に流され、それが圧倒的な支持率の一つの源泉になりました。しかし、おそらくはそのイメージの一定の部分は実体と矛盾していたために、そのことが逆に最近の支持率低下の一つの原因になっているでしょう。
Eどのようにして、自社の良いイメージを顧客に植え付けるのですか。
 広告などの宣伝はもちろんですが、口コミになるような仕掛けを考える、サービスの提供プロセスそのものがイメージを喚起するようにつくりだす、などがあります。
Fイメージを制限することはできるのですか。どのくらいの時間をかけて作られますか。
 イメージの制限はイメージを作り出すことと同じです。過剰な期待をうみだすようなイメージを作り出さないように、わざとマイナス面を強調した宣伝を行うなどがあります。イメージ形成にかかる時間は一定ではありません。
 
(2)組織理念と文化について
@6(1) 組織文化は明文化されるのか。
 文化はふつう明文化されて全体に確認される、という性格のものではありません。たとえば、日本文化の特徴はこうだ、という説明はできますが、それを指針として明文化し日本人全体に確認することはできないでしょう。
A組織理念と文化がわかりにくいので、もう一度説明してほしい。
 どのへんがわかりにくいですか? もうすこし具体的に指摘してください。
B企業は理念と文化のどちらを重要視しているのですか。
 文化というのはいわば勝手に形成されるものなので、企業として直接操作できるのは理念です。また、理念を組織に浸透させるプロセスを通じて組織の文化が形成されてきます。したがって、企業として具体的に展開できるのは理念を設定し組織内外にそれを浸透させる活動ということになります。
Cサービスを提供する上で、組織理念と文化が顧客のイメージに反映されているのですか。
 直接反映しているということではなく、理念と文化がどのようなものであるのかが企業の活動に影響し、それがイメージにも反映するわけです。
D組織理念と経営者が掲げる方針とはどう違うのか。組織理念に基づいて方針を掲げるのか。これを具体化されたものがマニュアルですか。
 本来は、理念に基づいて経営方針も定められることになります。マニュアルは、サービス・デリバリー・システムの問題ですのでちょっと次元が異なりますが、マニュアルに至るまで理念が貫徹されるべきではあります。
E企業文化を理念にそうように適切に作り出すように仕向けるとは具体的にどうするのですか。
 スカンジナビア航空やノードストロームの例で示したように、第一にトップの姿勢、第二に従業員の活動をどのように評価し処遇するか、というのが基本です。
F6(2)@ マクドナルドの例があるが、「最高のレベルを志向する」という意味で、何故マクドナルドがでてきたのですか。マクドナルドは安さのみで品質は良くないと思うが、何故マクドナルドは卓越しているといえるのですか。
 第一に、マクドナルドの品質は決して悪くありません。そうでなければ全世界で支持はされません。それは、高級レストランででてくるハンバーガーと比較しても意味がありません。ファストフードショップという枠組みで見たときに、全世界で一定の水準の味とサービスを安定的に提供することができる、というのはきわめて卓越したサービス水準です。
 
(3)ディズニーランドの10の謎、について
@大人の鑑賞にたえる遊園地は、日本にはどこにあるのですか。
 それがTDRです。
A「カルト的」の意味は?
 「カルト」というのは本来宗教的な崇拝の意味ですが、実際には、信者に対して絶対的な価値観への全面的帰属を強要するような狂信的な宗教的集団をさします。こうした集団では、個人はその集団の価値観に隷属し個性を失うことに喜びを感じるようになり、社会的な規範や価値観を無視することをためらわなくなります。これの転用で、ある特定のなにかに熱狂し、そのなにかに「はまって」しまう状態を「カルト的」というわけです。
BTDL はアルバイトをとらないと聞いたことがあるがどういうことですか。
 わかりません。推測するとすれば、従業員を「キャスト」とよぶように、「単なるアルバイトはいらない」ということを言っているのか、あるいはTDLのアルバイトはTDLが直接雇用するのではなく人材派遣会社が雇用するケースがあるということをさしているのかもしれません。ごく最近の状況は私もおさえていないので、あるいは制度が変わったのかもしれません。
Cスターバックスの北海道でのコンセプトは他の地域と違いますか。また、日本市場に進出してきたときは何故海外のものとは違うことになったのですか。
 北海道についてはわかりません。アメリカと日本の違いは、日本の市場の特徴もふまえて、日本で実際にスターバックスを展開している企業の判断もあって変えています。スターバックスのように現地化するか、それともマクドナルドのように基本的に全世界をおなじシステムで統一するか、はサービスの国際化について重要な論点です。
 
 

サービスの特徴をふまえたサービス事業の経営のためには、サービス・マネジメント・システムを基礎にしながらもさらにいくつかのポイントについて特に注意を払う必要がある。これらの点についてこの後の講義では解説していく。
 
 
 
1.顧客ロイヤリティと顧客満足(テキストp257)
 
(1)利益の基礎はリピーターである(→第4回)
  なぜリピーターが利益を生むのか
@新しい顧客は最初はむしろ費用を生むが、反復利用してもらうと経費より収入が増える
  例)クレジットカード
  ※顧客維持率・・・
Aリピーターはサービス内容を理解しているので、サービス提供側の手間が省ける
  サービスへの期待水準も安定しているし、サービス活動への参加もスムーズである
Bリピーターは口コミをつかって宣伝してくれる
C関連の商品を買ってくれる
  例)ほかで安く売っていることを知っていても、いつもいく美容院で化粧品を買う
 
(2)どうやればリピーターが作れるのか〜顧客ロイヤリティの向上
 顧客ロイヤリティ:たとえば、「ラーメン食べに行こう」と思ったら何も考えずに「天下一           品」というような感じ
 顧客ロイヤリティを高める前提
@顧客満足→後で説明
Aスイッチング・コスト:顧客・利用者がサービス提供者を変更するときに必要なコスト
   *金銭的というより肉体的・精神的負担    例)かかりつけの医者
  B人間関係の絆
     *三つの要因の影響力の大きさは、問題となるサービスの性格によって変わってくる
   顧客ロイヤリティはなぜ重要か・・・テキストp263
 
(3)顧客満足(CS)
 顧客満足=顧客(利用者)のサービスに対する主観的な評価の結果
       「飢えや渇きをいやす」という客観的な生理的充足感とは異なる
 なぜ顧客満足が重要か:
   @「買い物が楽しかった」というような主観的充足感自体も消費の目的になる
   A充足感は、次への期待を生み、リピーターを生み出す原動力になる
 *顧客満足を高める原動力はサービス品質の向上・・・これについては次項以下で説明
 
2.従業員満足とインターナル・マーケティング
 
(1)「ハッピーな従業員は顧客満足を高める」(テキストp273)
 人材の重要性(→第5回)からすれば従業員が意欲を持って働ける職場づくりが必要である
 満足感を持って働く従業員が顧客満足を高め、そのことで従業員の意欲も向上する
 
(2)どうすればハッピーな従業員を作れるか〜笑顔ほど高いものはない?!
    内部品質を高める・・・ @従業員が個人的欲求を満たすことのできる人事配置と制度
  *マズローの欲求段階説
A仕事のしやすい職務の構造や仕事の流れ
B設備・道具が十分である
Cやる気を引き出す組織の風土
Dもちろん、適切な報酬や評価
  *サービスは一般に低賃金・不安定雇用労働者によって支えられることが多いが、
   それでよいのか、という問題はある。
 
(3)インターナル・マーケティング
「有能な従業員を彼らの欲求を満足させるような『仕事そのもの』によって引きつけ、育成し、動機付け、ずっと働き続けてもらうこと」のために従業員にはたらきかけることを、マーケティングにたとえた言葉。
   特に重要なのは従業員のエンパワーメント(p279)
*エンパワーメント:力を付けることと権限を与えることの両方の意味を含む
 単に権限を再配分するのではなく、従業員を信頼しきる、ことが重要。
 「従業員一人一人を企業家のように」  例)3M
 
3.ホスピタリティ
 顧客満足を高める従業員の顧客・利用者への接し方−「真実の瞬間」−をどのように考えるのかというところで、はじめて顧客への態度や姿勢といったホスピタリティ(文字通り訳せば「もてなし」)の重要性がでてくる。
 
(1)ほんとうのもてなしとは
 ・日本では、もてなす側の主観的な姿勢が重視される・・・「顧客本位」ではない
  また、もてなす側の一方的「奉仕」によるある種の擬制的な上下関係・・「お客様は神様  です」
    →これは下手をすると押しつけになる   例)デパートなどの店員
 ・「押しつけ」から顧客(利用者)の主体性の尊重へ
    例)ホテルオークラのタオル(テキストp179)
    必要条件・・・複数の選択肢の提示と顧客(利用者)の自己決定
 
(2)どのようなもてなしが必要か〜ホスピタリティが充たす三つの基本欲求
@安全・安心:身体的・心理的・経済的脅威に脅かされないこと
        例)「時価」のすし屋
A自尊:顧客に恥をかかせないことが非常に重要である
     *「顧客が信じたことは、顧客にとっては真実である」
         〜納得しがたいが、そう考えないといけない
B公平:顧客によって態度を大きく変えるべきではない
     *顧客に「公平に扱われている」と信じてもらうことが大切。