2003/07/17
 
 
 
 
 
 
サービス・マネジメント論
−第14回 非営利サービスのマネジメント−
                  まとめ
 
 
 
 
 
 
1.非営利・公共サービスのサービス・マネジメント
(1)非営利・公共サービスとは
 広義のサービス業のうち
  ・「非営利組織」の行う事業
     *組織の目的によってさらに大きく二つに分類される
        公益組織:広く開かれた組織としてオープンな公共奉仕をめざすもの
               たとえば医療、福祉、文化、教育など
        共益組織:限られた会員のための組織として会員にのみ奉仕することをめざすもの
               たとえば労働組合、農協、趣味の団体など
             これについては「公共性」はない
  ・公的機関(国際機関、政府、地方自治体など)が行う事業
 
(2)非営利・公共サービスの特徴
@サービスは、それぞれの事業目的の達成のために行われる
  例)災害ボランティア団体:被災者の生活を支援する
    学生自治会:学生の要求や意見を集約して大学と話し合う
    趣味の団体:会員の趣味活動が発展することを支える
Aサービスの「受け手」が市場原理では行動しないことが多い
  例)災害ボランティア団体:被災者へのサービスの提供は被災の度合いで決まる
    学生自治会:全学生が自動的に会員である(closed shop)
    行政:サービスは住民に対して一律に提供される必要がある。
  例外)医療:switching costは高いが、変えられないことはない。
Bしばしば、サービスの「受け手」と「提供者」が重複・錯綜している
  例)災害ボランティア団体:被災者へのサービスが活動の中心だが、活動の参加者に対して               も、達成感や充実感を提供することが求められる。
    学生自治会:要求を実現するのは執行部ではなく全学生の力である
C「従業員」に求められる独自の機能
  例)災害ボランティア団体:団体職員は、ボランティア参加者のコーディネイトやサポート               がしごとであり、団体の主体者ではない
    医療:通常の業務は営利的なサービスとあまり変わらないが、倫理性が強く求められる
D資金調達のためにマーケティングが必要である
  例)災害ボランティア団体:市民からの募金を集めるためのマーケティングが必要
    文化団体:企業からメセナ資金を、行政から補助金をとるための「営業」的活動が必要
    行政:予算獲得、議会説得などなど
Eその他
 
(3)なぜ非営利・公共サービスでサービス・マネジメントが必要か
@目的達成のための事業活動には戦略が必要である
Aサービスの構造、およびサービス・マネジメント・システム自体はおおむね変わらない   
Bいずれにせよサービスの受け手には「よいサービス」を提供しなくてはならない
 
(4)非営利・公共サービスにおけるサービス・マネジメント・システム
 例)図書館
    @セグメンテーション:子ども、子どもを連れてくる母親、昼間は働いている人etc
    Aコンセプト:読み聞かせ、大活字本、本の種類、さらに「情報ステーション」化など
    Bデリバリー・システム:夜間開館、出張、駅や幼稚園に返却ポストをおく
    Cイメージ:開かれた図書館・・・デリバリー・システムと特に関係する
    D文化:地域に本を読む文化を作り出す(組織文化をこえて)
    E従業員:本の整理屋ではなく、文化の伝道師
    F資金調達(価格システムはない):地域の支持を得る、寄贈キャンペーンなど
 
(5)まちづくり、地域づくりにこそサービス・マネジメントを
 中心商店街、ニュータウン、中山間地・・・どこも「まちづくり」「地域づくり」の困難に直面
  →誰のために地域はあるのか、を考えることから。
 
 
3.「サービス・マネジメント論」のまとめ
 
(1)よいサービスとは何か−もう一度、SASにたちかえって
@顧客(利用者)=セグメントに対応したサービス・コンセプト
   セグメント:「ひんぱんに旅行するビジネス旅行者」
   コンセプト:↑のセグメントに対して、「世界最高」
   デリバリー・システム:ユーロクラスの導入
              ビジネス客の利用に応じた運行時間(時間厳守を含む)
                 →このために、機体の変更、発着場所の変更などやりきる
   結局、セグメントをどう理解するか、がコンセプトやデリバリー・システムを決める。
    *同じ航空会社でも、セグメントが異なれば全く異なったサービスとなる
      例)サウスウェスト、スカイマークetc
 
Aコア・サービスとサブ・サービス
   コンセプトに応じたコア・サービスを明確にし、そこをまず充実させる
       SASの場合:定時性、安全性、利便性
   サブ・サービスで不要なものは思い切って切っていく
   顧客によるサービスの評価に関わるようなところは重視して投資もする
       例)ビジネス利用者に対してチェックイン手続きを大幅に簡略化
 
B顧客(利用者)の捉え方
  a)顧客(利用者)もサービス生産に参加している
  b)顧客(利用者)の主観的な評価によってサービスの品質ははかられる
 
 
(2)よいサービスを支える「システム」の重要性
@明確なコンセプトが従業員の意識を変える
  目標が明確・・・達成感がある
A従業員への権限移譲の重要性
  現場の判断が尊重される組織風土
    *この二つの要素が、「雪の日のコーヒー」の伝説を生んだ
Bそうでなければ、従業員を演技者として教育する
  これはディズニーランドやサウスウェスト航空の例
 
(3)あらゆる分野で「サービス・マネジメント・システム」の発想を
 
 
 
今後の学習の方向について
 
(1)より深くサービス・マネジメント自体について学ぶために
 講義:マーケティング論、顧客満足論、人材開発論
 文献:ノーマン/近藤隆雄訳『サービス・マネジメント』NTT出版
    井原哲夫『サービス・エコノミー』東洋経済
    ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス編集部編『顧客サービスの競争優位戦略』ダイヤモン
    ド社
 
(2)いろいろなサービス業の経営について知りたい人に
 講義:健康産業論、観光システム論、保険論、地域福祉サービス論、医療ビジネス論、ホテル事業
    論、旅行事業論、交通システム論、レジャー産業論、スポーツビジネス論  など
 文献:いっぱいあるので、総合的なものだけ
    高橋秀雄『サービス業の戦略的マーケティング』中央経済
    白井義男『レジャー産業のサービス・マネジメント』同友館
    『環境インフラ時代へ向かうサービス産業』ソフト化経済センター編・発行
    『統計で見る日本のサービス業』日本統計協会
 
 
(3)具体的なサービス企業について知りたい人に
 文献:フライバーグ/小幡照雄訳『破天荒ーサウスウェスト航空驚愕の経営』日経BP
    ベスーン、ヒューラー/仁平和夫訳『大逆転−コンチネンタル航空奇跡の復活』日経BP
    シュルツ、ヤング/小幡・大川訳『スターバックス成功物語』日経BP
    粟田・高成『ディズニーランドの経済学』朝日新聞社
    マリオット、ブラウン/住友訳『マリオット・ウェイ サービス12の真実』日本能率協会マ
    ネジメントセンター(マリオット・ホテル・チェーンの話)
 
(4)地域や福祉のサービスについて考えたい人
 文献:コトラー、ハイダー、レイン/井関正明監訳『地域のマーケティング』東洋経済
    田村馨『都市のマーケティング』有斐閣
    岩田・上野谷・藤村『ウェルビーイング・タウン社会福祉入門』有斐閣
 
(5)「すばらしいサービス」体験にうるうるしたい人
 文献:山崎利夫編『体験・よいサービス悪いサービス 大学生が見た現場レポート』サイエンティ
    スト社
    アンダーソン・ゼンケ/和田利春訳『こんなサービスが欲しかった!』ダイヤモンド