2004年4月14日
サービス・マネジメント論
-第2回 すぐれたサービスとは-
Ⅱ.すぐれたサービスとは-具体的ケースから
1.SAS(スカンジナビア航空)-ヤン・カールソン『真実の瞬間』を読む-
(0)まえおき
サービス・マネジメント論の歴史は次回あたりで少しだけふれるが、このSASのケースがあったからこそサービス・マネジメントという考え方が生まれ普及したといっても過言ではない。
(1)背景
①ヤン・カールソンについて
1941年生まれ
1967年:ヴィングレソール社(旅行代理店、日本ならJTBに相当)に入社
1974年:同社社長就任
1978年:リンネフェルト社(国内線航空会社)社長就任
1981年:スカンジナビア航空社長(CEO)就任
1993年:辞任、旅行・レジャー・観光関係の持株会社のCEOに就任
②スカンジナビア航空について
北欧三ヵ国の政府が出資する航空会社
1970年代末から経営困難に陥っていた
*現在のスカンジナビア航空は、カールソンの当時とはまた異なる戦略をとっている
(2)前史-リンネフリュ社時代
「運賃半額」
「世界最高の航空会社」
*これは、近江鉄道バスが「世界最高のバス会社」と称するくらい大胆だった
(3)スカンジナビア航空での成功
なにをやって成功したのか
・新しいサービス(「ユーロクラス」の導入)
・組織風土の改善
・離発着時間の厳守
→累積赤字2,000万ドルの会社を、1年で8,000万ドルの黒字企業に
(4)成功の鍵
①明確な戦略のもとでの顧客本位
基本戦略:「ひんぱんに旅行するビジネスマンにとって世界最高の航空会社」
→明確な方針のもとでの積極投資とコスト削減
→従業員の意識の変革へつながる
*従業員がなぜ大事か・・・「真実の瞬間」
改革の例:買ってきた最新のエアバスをお蔵入りにして、小型機を使う→なぜか
短距離便の小型機を長距離便の発着ターミナルにつける→なぜか
シベリア経由の日本ースカンジナビア線を遠回りさせてはいけない→なぜか
②「さかさまのピラミッド」
縦割りをやめる:シュトゥットガルト支店のケース
管理責任を現場に移す:雪の日のコーヒー
時間厳守運動
③コミュニケーション
社内へ:命令からビジョンの提示へ~リーダーシップの変化
顧客へ:「スウェーデン人に世界を」から「列にならぶ必要はありません」へ
(5)核心にあるのは何か
明確な戦略とそれを実行できる組織
※参考文献 ヤン・カールソン著、堤猶二訳『真実の瞬間』ダイヤモンド社。
ここまで紹介してきたことのタネ本。いろんなエピソードと、その背景にある著者の発想はいまでも新鮮で多くの教訓をくみ取ることができる。サービス・ビジネス志望者必読。
2.ノードストローム百貨店 -スペクター&マッカーシー『ノードストローム・ウェイ』を読む-
(1)背景
1910年:靴の専門店として創業(シアトル)
1960年代:郊外のショッピングセンターを中心に出店
現在:「顧客サービス」で世界中から注目される存在
(2)ノードストロームの「神話」の数々
使い古したタイヤの返品を受け付けた(ノードストロームではタイヤは売っていない)
洗濯の仕方を間違ってくしゃくしゃにしたシャツを交換してくれたetc
(3)なにをやっているのか
①「絶対にノーとはいわない」
例:返品制度(いかなる理由であれ、気に入らなければ無料で返品をうける)
ドレスを二年間借りた挙げ句に返してくる顧客がいても
→「98%の正直な人々に満足を味わってもらうこと」
②エンタテインメントとしての買い物
例:売り場はむしろ小さく、オープンカウンター
③優秀な販売員
とにかくよく働く
~「コミッション制」(能力給といわれるが、歩合に近い)が一つの原動力
現場への権限委譲
(『会社が何というかわかりませんが、私が何とかしましょう』)
店の顔としての従業員、の徹底
(『私をノードストロームだと思って下さい』)
「自分の売り場は自分の店」
※能力のない人はいられなくなる
④顧客との信頼関係
顧客がまるで友達のようになる
~「顧客ノート」(カルテのようなもの)がある
顧客の声を聞く:『私はセラピストのようなものです』
(4)ノードストロームの「顧客本位」とは
「神話」をうむ組織と背後にあるしたたかな計算
※参考文献 スペクター&マッカーシー著、山中監訳、犬飼みずほ訳、
『ノードストローム・ウェイ』日本経済新聞社(ビジネス人文庫)
数々の「神話」と、その背景にある企業理念、哲学が紹介されている。ただし、筆者の立場については、もうちょっと客観的でもよいのでは、という気がする。