2001年度サービス・マネジメント論試験
優秀回答と問題解説
 
2001/9/12
 
問題1   回答例 解説
問題2a  回答例 解説
問題2b  回答例 解説
総評
 
問題1.サービスにおけるセグメンテーションとコンセプトの関係について具体例をあげて説明せよ
 
(回答例1)
 サービスにおけるセグメンテーションとは「誰に」というサービスの対象となる顧客を考えることである。特定のneedとwantを共有する潜在的な顧客の集合体を対象とするかを考え、これが決定してはじめてその顧客を獲得するためのサービスのコンセプトが決定するのである。コンセプトを決定するにあたって、「セグメントをどのように理解するか」ということが最も重要である。具体的に、スカンジナビア航空では従来顧客対象がスウェーデン人全体であった。しかし、ヤン・カールソンが経営者になりセグメントも「ひんぱんに旅行するビジネスマン」に変わった。マーケットがビジネスマンになり、「ユーロクラス」という新しいサービスをはじめたのである。時間に追われるビジネスマンをターゲットにすることでコンセプトも決定された。安全性、信頼性に加え発着時間厳守も徹底された。このようにセグメンテーションが明確に示されると、その顧客に対して再興のサービスをするにはどのようにすればよいかというコンセプトも明確になる。セグメンテーションとコンセプトは戦略の基本になるものである。サービス・マネジメントには目的-戦略-戦術という流れがあるが、このセグメンテーションとコンセプトは流れの中でも上流、源流の部分にあたる。
 
(回答例2)
 まずセグメンテーションとは、どんな「顧客」を対象とするのかということであり、コンセプトというのはどんな「サービス」を提供するのかということである。つまり両方をサービスにおいて考えると、「どのような顧客にどのようなサービスを提供するのか」をはっきり決めた上で戦略を考えるために同じ業界においても企業によってこれが異なるため個性やオリジナリティが生まれ、それが顧客獲得へとつながっていく。
 例としてマクドナルドとモスバーガーの二つのファストフード店を上げてみる。まず私はモスバーガーの方が美味しいと感じるし好みではあるが、いざ利用しようと思うとふだんからよく利用するのはマクドナルドの方である。なぜならマクドナルドの方が圧倒的に値段が安いからである。このことから私がwantとしている、食事をとる店で最も重視して捉えているのは「いかに安く食事を済ませるのか」ということである。マクドナルドのコンセプトはまさに「できるだけ安く提供すること」である。となると自動的にセグメンテーションも「安く食べたい」を望む人々ということになる。逆にモスバーガーは少々値段が高いが有機野菜など品質にこだわりがあり、やはり多くの人々はマクドナルドより品質においては満足感を得ることができるだろう。モスバーガーのコンセプトは「安さ」に執着しているのではなく「品質にこだわるお客の満足の行くような商品を提供する」という感じであろう。つまりセグメンテーションは「少々高くてもよいもの、おいしいものが食べたい」という人々になるだろう。
 
(回答例3)
 セグメンテーションとは、サービスを展開するときどのような「顧客」を対象とするかを考えることであり、コンセプトとは顧客のニード、ウォントに対応してそれを満たすサービス内容の根本となるものである。たとえば、駅前に立っている英会話教室であれば、場所や環境から考えてセグメントを会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生として、そこからこのような人たちが望んでいるものを満たすためにコンセプトを考えることができる。たとえば、「がいこくじん講師による講義で会社づとめの人も留学気分を味わうことができる」といったようなコンセプトが考えられる。セグメンテーションとコンセプトはどのような経営環境になってもその企業の活動の方向性やあり方を示したり、企業がその環境とどのようなかたちで関係を持つのかを示すほかに、意思決定の規範を示す役割を果たしてくれる。
 
<解説>
 セグメンテーションとコンセプトについて正しく定義するのは前提。セグメントによって異なるneedやwantにどのように対応するのかという基本的な指針を示すのがコンセプトであることを、具体例で示せれば標準点。これに、セグメンテーションの二つの方法についての説明や、セグメンテーションとコンセプトが戦略的役割を持っていることと戦略のもつ意味(たとえば回答例3)についてふれていれば、+@となる。
 まちがいとして多かったのが、「コンセプト」と具体的なサービス内容を混乱していたもの。スカンジナビア航空なら
 セグメント:頻繁に利用する国際的なビジネス客
 コンセプト:頻繁に利用するビジネス客にとって世界最高の航空会社
 サービス内容:ユーロクラスの導入、時間厳守など
であるが、このサービス内容をコンセプトとして説明したものが多かった。ただしい具体例をあげているのが(回答例2)である。この点の誤りは大幅な減点対象となっている。
 また、「具体例をあげて説明せよ」という設問の意味をじゅうぶんに理解せず、具体例だけを書いたものがいくつかあった。内容的にまちがっていないものについては多少の点はつけたが、設問の意味としては理論的な説明を具体例で補強せよというものである。
 40点満点、標準点35点、平均点31点
 
問題2a サービス業における人材の役割とその育成方法について説明せよ。
 
(回答例1)
 まず従業員の役割としてはサービス活動をおこなうことがまず第一だが、@顧客のカウンセラーとして真の要求を理解し、明確化させ、A顧客のコンサルタントとして情報を顧客に与え、B顧客とサービス提供組織との仲介者となるという三つの点も上げられる。
 そしてこの役割をうまく果たすためには従業員も満足させる必要があるが、そのためには@従業員が個人的欲求を果たすことができる人事配置と制度、A仕事のしやすい職務の構造や仕事の流れ、B設備・道具が十分にあること、Cやる気を引き出す組織の風土、D適切な報酬や評価、の5点を準備する必要がある。またエンパワーメントをするか、ディズニーのように完全にキャストとして扱うことも有能な従業員を育てるために重要である。(以下略、以下がよけいで、これがなければ満点)
 
(回答例2)
 サービス業における人材の役割は、もちろんサービス活動をおこなう事が第一である。そして、顧客にとって本当に価値のあるサービスを提供者側が個人と組織の能力を発揮して顧客に提供しようとするその瞬間「真実の瞬間」を実現できる従業員が必要である。
 サービス活動以外に、従業員は顧客のカウンセラー、コンサルタントの役割も担い、顧客の真の要求を理解したり情報を提供したりする役割がある。また、客とサービス提供組織との仲介の役割を果たし、この部分で特に個人と組織の能力を発揮できるような人材が必要である。そして、サービス活動のプロデューサーと演技者の役割もになっている。
 このような人材を育成するためにはまず明確なコンセプトを明示することによって従業員の意識を変えさせることである。また、外側から従業員の行動を望ましい方向に矯正する方法と、従業員みずから内発的に望ましい行動が取れるようにもっていく方法などがある。内発的にさせるためにはマニュアルや訓練によって「望ましい行動そのもの」を身につける方法と、状況やコンテキストを理解して納得した上で「望ましい行動」を自ら作り出していくようにする方法がある。そうすることで、従業員の成長、自己実現、満足へつながるようになり、よりよい人材が現れることになる。
 
<解説>
 従業員の役割について、サービス活動を行うという当然のこととあわせて、多面的な役割があることに触れる必要がある。そして、人材育成についても、そうした役割との関係で記述できることが望ましいが、とりあえず切り離して説明してあっても必要十分な内容であれば標準点はつけている。この二つの関連に触れているものや、例1のように従業員満足も視野に入れて説明しているものには+@がある。
 多かった誤りは、そもそも従業員の役割についてほとんど触れていないものや、「サービス業における従業員の重要性」との混同が多かった。また、人材育成について外部からの矯正=マニュアルという理解にもとづくものもあった。
 満点30点、標準点25点、平均点24点
 
2b 特定のサービス業またはサービス産業を取り上げ、それが提供しているサービスの特徴と最近の課題について論ぜよ。
 
(回答例1)
 コンビニが提供しているサービスは、コア・サービスは小売業としての商品販売と接客であり、サブ・サービスは公共料金の支払い、旅行、航空券の購入、宅配便の受け付け、銀行のATMの設置などである。コンビにのサービスの特徴は、24時間の利用が可能なことと、店舗数の急速な増加による「利用したいときに身近なところで利用できる」ということである。しかし、店舗数の急激な増加で、現在、コンビニ市場は飽和状態だといわれている。今後、ほかの店舗とどのように差別化をはかり、顧客の支持を得るかが重要な課題であると思う。その中で、私はセグメントを絞ることがひとつの方法であると考えます。(以下略。課題の提起が設問なので、打開策までは求めていない。ここがなければ満点)
 
(回答例2)
 流通業においてほかの業界が低迷している中で、コンビニエンスストアは伸びている。特にその中でもセブン・イレブン・ジャパンのサービスは評価が高い。サービスの特徴としてはまずセグメントとしている若者などのシビアな複合ニーズにこたえるため4つの核をもってサービスを追及している。その4つとはクリンリネス、フレンドリーサービス、鮮度管理、品揃えである。これらはほかの企業も力を入れていることだが、どこに違いがあるかというと、セブン・イレブンではPOSシステムを用いた品揃えに力を入れ、死に筋商品のカット、売れ筋の欠品防止をしているのだ。そうすることによって顧客のニーズにあった商品を供給しようとしている。また、これに加えてマーケット・アウトでどのように物流システムを組んで販売していくのかを決めることも、現代の多様化されたニーズに対応しようとしているのだ。
 今後の課題としては、やはりほかの企業もそのようなさ−ビスを提供した場合、どのように差別化を図るかということである。規制緩和によりさまざまな企業が相互参入を果たしており、コンビにも例外ではない。たとえば、ゲームソフト、ATM、またインターネットによる販売。しかし、消費者の目から見た場合にそれがそこまで魅力的だとは思われないので、今後課題としてはどのように他企業と差別化を図ることが重要といえるだろう。(POSはいまやどこでもやっているので、セブン・イレブンだけの特徴といえるかどうか? しかし、回答の完成度としてはまずまず)
 
<解説>
 問題の趣旨を十分に理解していない回答が多く、かなり甘く採点したがそれでも2aより平均点が低い。具体的には、その企業なりの現状と問題点を自分の知っている範囲で記述したというものが多く、特に「特徴」を明確に指摘でいていないものが非常に多かった。こうした回答では「課題」が思いつきにとどまっているものがめだった。例の二つはまがりなりにも「特徴」を明示し、「課題」も客観的な市場やビジネスの状況から導き出している点で一定の評価が得られたものであり、今回は標準点+@としている。しかし、ほんらいはこのレベルで標準点程度である。
 30点満点。標準点25点、平均点22点
 
 
<総評>
@設問に対する解答をまず明示することをほとんどの回答者に求めたい。内容的には設問の答えが示されていても、「・・・について説明せよ」という設問であれば、「・・・とは○○○である」と明記されていない回答が非常に多かった。また、少数であるが設問とは関係のないことを展開している回答もあった。内容的には回答者が不勉強であったとは考えにくく、設問の意味を勘違いしたか、設問に答えるということの意味を理解していないかいずれかであると思われる。自分の評価が不当に低いと感じたものは、回答例をみて設問の理解に間違いはなかったか振り返ってほしい。
A文体の不統一が多い。「です。ます。」と「だ。である。」のいずれかで統一するのは文章を書くときの大原則である。
 
 平均点50点(70点満点)