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“頑張ってる途中”のボクが辿った軌跡~映像学部2回生上田純平さんインタビュー~

2018.12.21

映像学部3回生上田純平さん。

彼が過ごした今年5月からの約半年間は、恐らく多忙を極める映像学部生の中でも特に過酷な半年間だったに違いありません。

今回のEIZO VOICEでは、とあるプロジェクトのスタートアップから今日に至るまでの彼の成長の軌跡を彼目線で綴りたいと思います。

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上田さん

きっかけ
 ふと電子掲示板でみつけた学生公募のお知らせ。2018年10月に開催される「オール立命館校友大会2018in仙台」のオープニングムービーを立命館大学OBである加藤久哉さん(Aoi Pro.)振付稼業air:man杉谷一隆さんと共に制作してくれる在学生を募集するという告知に、ボクの胸は躍りました。加藤さんは、大好きだったドコモのCM「爆速エビフライ」のプロデューサーで、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌ国際広告祭)」で数々の賞を受賞。CM業界をめざすボクにとっては神様のような存在でした。そして、杉谷さんもユニクロCM「UNIQLOCK」シリーズや数々のアーティストのMVの振付をされていて、「情熱大陸」の特集を観てからの大ファンでした。このお二人が立命館大学のOBだったということにも驚きつつ、そんなお二人と学生の身分で一緒に仕事ができるなんてこんなチャンス絶対に逃したらダメだと思い、迷わず応募しました。

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 「あなたにお任せしたいと思います」

 選考が終わって校友会事務局の職員の方に告げられた時は、本当に嬉しくて、一人で応募したこともあり、「やってやろう!」という使命感みたいなものも芽生えました。

ガチガチ
 いざ始まると、想像していたプロジェクトとはまったく違うもので、あの意気込みが一転、後悔すら覚えてしまうほどでした。“次回の打ち合わせまでに絵コンテと自分の考えを書いてきてください”と宿題を出されましたが、正直こんなんで自分の考えを挟む余地があるのかというぐらい、事務局から提示された条件はガチガチ。
・校友が踊るダンスムービーであること
・地方の魅力を盛り込むこと
・ロケはできない
・撮影時間は6時間程度
 そのほかにも色々あり、今思えば事務局の皆さんも方々に掛け合って交渉し、最善の方法を探ってこられた結果がその条件だったのだと思いますが、当時はそんなことに思いを馳せる余裕もなく、本作品が自分にとって初めての監督作品ということでプレッシャーもあり、なかなかいいアイデアが浮かびませんでした。

「学生らしさ」って
 結局アイデアが煮詰まらないまま、初めての加藤さん・杉谷さんとの東京での打ち合わせの日となりました。お二人はそれはもうすごいオーラを放っておられました。とても緊張しましたが、自分が考えてきたまだ荒削りなアイデアを伝えました。そこで加藤さんから言われたことがその後の自分に大きな変化をもたらすことになります。

  「アイデアはいいと思う。でも、そこには『学生らしさ』がない」

 次回の打ち合わせまでにブラッシュアップをはかることになりましたが、その日から「『学生らしさ』って何やろう・・・」という疑問ばかりが頭の中を駆け巡りました。大人はよく「学生らしい」という言葉を使いますが、当の本人たちは自分たちのどういう所にその「らしさ」があるのか意外とわかっていません。自分と向き合う時間が続きました。

 ある時ふと、自分がやはり「校友大会での上映」ということにとても縛られていると気付きました。初めにいろいろな条件が提示されて萎縮してしまい、どうしても根底の部分で「クリーンなもの」「粗相のないように」などいつの間にか発想にブレーキをかけ、その場の空気に作品をあわせようとしているのではないか-そう感じるようになりました。条件は条件。そこはきちんとクリアしつつ、年配の方が観る事を想定していたけど、それすらもこの際変えて、「子どもにもウケるような、楽しくてバカっぽいことを元気よくやればいいじゃないか!」と思い立ちました。そこからどんどん作業が楽しくなってきました。

 作品は、宇宙を舞台に、宇宙人が仙台をめざして旅をし、そこで出会った北海道・東北の校友の皆様とダンスをする、というものになりました。

チーム
 校友会事務局のお気遣いもあり、プロの制作会社と映像を作るという話になっていましたが、ボクはそれが嫌でした。色々考えた結果、作品構想はグリーンバックを多用し、CGアニメーションもかなり入れ込むという大量なポスプロ作業が必要なものになっていました。そうなると、監督であるボクから指示しなければいけない項目が自ずと増えます。学外の、しかも大人のプロ集団で、信頼関係も構築されていない人を相手に気を使わずに依頼することはとてもできないと感じました。自分が一番伝えやすい環境を作ること、「チーム」感が重要だと考えました。事務局の方もそこに理解を示して下さいました。

 そこでボクがもっとも信頼できる相棒、平島滉大くん(3回生、CGゼミ)にCG制作全般とチームの盛り上げ役をお願いしました。血のにじむようなポスプロ作業がこの後展開されるのですが、その時に彼がいてくれたことがチームのメンタル面に大きく影響しました。彼なしでポスプロは成り立たなかった。そして、撮影に関しては絶対的に頼れる小林慎一朗くん(3回生、実写ゼミ)、CG制作で平島くんの両腕(豪腕)となってくれた谷口和輝くん(2回生)吉田幹生くん(2回生)。全員二つ返事で依頼を引き受けてくれて、本当に本当に助かりました。2回生の二人は、「CGの出番が多い」と聞くと、普通なら面倒と思うところを、逆に「テンションが上がる!」と喜んでくれたりして。
今考えても、最強のチーム編成だったなと思います。

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チーム上田の皆さん

テーマソング
 振付担当の杉谷さんからは「とにかくダンスの曲を早く決めてほしい」と言われていました。当然です。曲が決まらなければすべての行程に遅れが生じます。色々候補はあったのですが、昨年、大学の入学センターとコラボして受験生応援企画をSNSなどで展開した「私立恵比寿中学(通称:エビ中)」の楽曲より、「頑張ってる途中」がもっとも作品構想にピッタリときました。メディアでは、東日本大震災以降、よく「ガンバレ東北」というようなフレーズが使われていましたが、ボクはあまり好きではありません。これは主観ですが、何か突き放したような、第三者的で少し他人事のようにも聞こえるそのフレーズとは異なり、
 
「いつも変わらない 笑顔のままで 迎えてくれる そんな街だから」
「頑張ってる途中 頑張ってる途中 今日も頑張ってるあなたに」
「いくつになっても 誰もがみんな 走り続けてる それが嬉しい」

 これらの優しい歌詞に合わせて世代を超えて東北の校友の皆様がダンスを踊る。これしかないと思いました。
 2回目の東京打ち合わせで、杉谷さんにこのことを伝えました。そして返ってきた言葉が、

 「上田監督の思うように!」。

 ボクみたいな学生のこと、「監督」と呼んでいただきそれだけでも嬉しかったのに、絶対的に信頼もしてくれた杉谷さんのその一言に、涙が出るほど感動しました。このプロジェクトで得た一番の宝物です。

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撮影
 いよいよ撮影の日です。当日は振付稼業air:man菊口さん、加藤さんをはじめ、ダンスを踊って下さる校友の方々、校友会事務局の方々に参加いただきました。皆さん自分より目上の人たちなので気を使いますが、限られた時間内に自分のイメージや演出を的確に伝えなければいけません。加藤さんにはその場でたくさんのアドバイスをいただき、とても勉強になりました。CMの神様に教えてもらっている自分が奇跡でした。数少ない貴重なバズーカ砲を相棒の平島くんがまったく必要ないところで撃ってしまい、一瞬目の前が真っ暗になったりするトラブルもありましたが、なんとか切り抜けました。ダンスも皆さん一生懸命覚えていただいていて、心を一つにして撮影を終えることができたように思います。
 別日では立命館松竹スタジオで宇宙船の撮影をグリーンバックを使っておこないました。

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過酷なポスプロ作業
 銀河系をとある宇宙船が飛行している、というシーンから始まるこのムービー。宇宙船の中の画はスタジオで撮影してきた映像、そして宇宙船の外観や飛行シーンはすべてCGで制作しました。2回生の谷口くんも吉田くんも実は本作がCGアニメーション制作初作品でした。CGゼミの平島くんがいたとはいえ、初アニメーションながらボクの注文や演出をここまで汲んで素晴らしいCGに仕上げてくれた二人には本当に脱帽です。横から見ると一見ヘンテコな形をしていたその宇宙船が、実は上から見たら「R」の形をしていた、というオチはなんと谷口くんのアイデア。このアイデアも校友大会で上映するムービーとして非常にいい「オチ」になりました。

 グリーンバックを使用して撮影した、と言いましたが、撮影当日、緑色の服やかぶりものを装着して踊っていた人がいて、あちこちに体や頭が透けている人が続出しました。山形県校友会の方々がさくらんぼのかぶりものをしてとてもかわいく踊っていただいたのですが、せっかくのさくらんぼの葉っぱや枝がなくなり、赤い玉が二つ頭に乗っている妙な画になってしまいました。この処理には苦戦しました。ここで強力助っ人、1回生の妹脊一也くんの登場です。谷口くんと妹脊くんとボクで分担し、グリーンバックによって透けた部分を一つ一つ手描きで修正を加えるというデジタルなのにアナログな作業を2日間徹夜して仕上げました。
 一人につき200フレームぐらいは作業したのではないかと思います。エナジードリンクを何度買いに行ったかわかりません。

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 アテレコには2回生の後藤章仁くんに協力してもらい、宇宙人の声を入れました。会場で観た人が嫌な気持ちにならないよう、なるべく不愉快な声や音は使わないように努力しました。ちなみに、宇宙人役は平島くんとボクです。

いよいよ完成
 完成したムービーを関係者の皆さんに観ていただきました。
 「すごいね!」「よくできたね!」と皆さんから誉めていただきました。
 でも、自分的には「もっともっとクオリティを上げられたのではないか」という思いがどうしても拭えませんでした。こうしたらよかった、もっとああすればよかった、それもこれも後から後から浮かんでくるんです。絵コンテを描いていた時もそうでした。一生懸命悩んで描いて、事務局の方に見せて、OKいただいて、しばらくしてからもっといいアイデアが浮かぶ。でももうOKをもらったので、勝手に変更ができない。これは社会に出ても一緒、いやそれ以上だろうなと思いました。その時その時がいつも本番で、やり直しはきかない世界。ポスプロにしても、もっと自分の伝え方がうまければ、もっと彼らの腕を活かしきれていれば、と。特にCG制作は、ただ絵を描いて気に入らなかったら描き直す、ということができないとても厳しい世界です。「ここをもっとこういう動きにして」とか後で絶対に言えないんです。最初の指示や確認がすべて。今回そのことを何よりも痛感しました。

 でも、チームみんなで精一杯やった。

 “頑張ってる途中”のボクたちなりに、「学生らしさ」をめいっぱい詰め込みました。

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オール立命館校友大会2018in仙台 当日
 本番はボク一人の参加になりました。
 大会直前の打ち合わせでボクは事務局の方に一つ、お願いをしていました。
 学生としてこの作品に関われたこと、杉谷さん・加藤さんをはじめ校友の方々と関われたこと、素晴らしい経験をさせていただいたこと、そのことにこの場をお借りしてどうしても皆さんにお礼が言いたかったので、頼み込んで急遽挨拶の時間を設けていただきました。

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 必死に言うことを考え、整理して、なんとか思いの丈と感謝の気持ちをその場で校友・教職員・学生など参加されていた方々に伝えることができたのではないかと思います。校友会事務局職員の松野さんと本山さんには、最初から最後まで自分の声に丁寧に耳を傾けてもらい、校友会の皆様に働きかけていただき、本当に感謝しています。

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 ムービーを観た人たちの笑顔を見て、温かい拍手を聞いてホッとしました。終わった後、村上校友会会長に、「ムービーももちろんよかったけど、君の挨拶がすごくよかった」と誉めていただき、すべてが報われた気持ちになりました。これを観て、北海道・東北の校友の皆様に少しでも喜んでいただけたら、こんなに幸せなことはありません。

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 ようやく長かったボクのプロジェクトが終わりました。
 映像制作だけでなく、人と人とがつながること、何かに向かって成し遂げること、チームで励ましあうこと、など素晴らしい経験をこのプロジェクトを通じて得ることができ、今は感謝の気持ちでいっぱいです。

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 インタビューの間、その瞳をキラキラと輝かせて当時のことを振り返る上田さんの姿は「生きている」感じがみなぎり、「学生らしさ」そのものでした。数々のハードルを乗り越え心折れずにやり遂げたこと、そして強力なチームを編成しメンバーを鼓舞しながら引っ張っていったリーダーシップにも改めて拍手を送りたいです。

 チーム上田の皆さん、本当にお疲れ様でした!!これからも映像学部では上田くんや皆さんの活躍を応援しています!!

 今回、上田監督が制作したムービーは、映像学部生・研究科生限定で本日より1ヶ月間閲覧可能になります!manaba+Rで通知しますので、是非チーム上田の奇跡の軌跡をご覧ください!

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