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2018年度卒業研究の「学会賞」「特別賞」「審査員奨励賞」が映像学会より発表されました!

2019.03.27

立命館大学映像学会をご存知でしょうか?
映像学部生の皆さんも、実は全員所属しています。

映像学会は、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成され、映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会です。機関誌「立命館映像学」の発行・講演会の開催・学生補助・その他様々な企画を立案し、運営しています。学会の下部組織となる映像学会学生委員は在学生にも身近な存在で、毎年秋に開催されている映像学部ビッグイベント「ジャンキャリ」の学生発信企画などはこの学会学生委員が主体となって運営しています。

その映像学会では、映像学部開設(=映像学会開設)10周年を記念し、昨年度より「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」を創設し、映像学部学びの集大成でもある「卒業研究」成果物の「制作+解説論文」および「論文」の中でそれぞれに、最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」、そして今年度はこれらの賞に加えて今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」も与えられることとなりました。なお、各賞には顕彰金が授与されます。

今年度も、去る3月20日(水)の卒業式後におこなわれた映像学会主催の卒業パーティにてこの「優秀研究の顕彰」受賞者発表がありました!
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早速、このEIZO VOICEで顕彰結果をご報告いたします!

2018年度立命館大学映像学会「優秀研究(制作・論文)の顕彰」受賞結果 ※以下敬称略
●卒業研究「論文」学会賞
氏名:森 菫(細井ゼミ)
論文題目:「視覚障害者のマンガ体験に資する文章化の実践的研究」
受賞理由:視覚障害者にとって、文字を主とする小説などの書籍と、画像と文字の複合であるマンガなどの書籍は、どのように異なる対象なのか。そして、小説などにおいて標準化されている音声によるサービス(つまり、文章を音声化したデイジー図書と呼ばれるもの)は、マンガに対しては応用できるのだろうか。これは、おそらくほとんどの健常者にとって、問いそのものが成立していないテーマであろう。 本研究の優れた点は、この問いを成立させ、視覚に障害があってもマンガを読んでみたいというニーズがあることを示した上で、さらに現状の文章音声化のフレームに基づく形で、作画とセリフの複合する複雑な表現物であるマンガを音声化することができるのか、もしできるのであればそのための基本的な方向性と課題はどのようなものであるのかについて、正面から論じたところにある。 研究手法についても、音声デイジーに取り組む図書館や諸機関へのフィールドワークやヒアリングから始め、関連する先行研究の丁寧なサーベイを踏まえた上で、視線追跡装置を利用してマンガの読み方の個人差データを実験によって収集するなど、繊細でありながらユニークで大胆な研究を計画、実行してきた。 当初の計画にあった実際の視覚障害者向けのマンガのデイジー図書のサンプル作成までは達成できなかったが、そのための前提条件の整理、解決すべき課題、必要な環境と条件などについて、非常に実践的で高いレベルの成果が確認できることから、本研究は学会賞(論文)に値するものと判断した。

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森 菫さん

●卒業研究「論文」特別賞
氏名:北村 一恵(北村ゼミ)
論文題目:「映画『魔女の宅急便』における飛べないシーンの意味について」
受賞理由:本論文は、下手をすると見逃してしまいかねない、アニメーション映画『魔女の宅急便』(宮崎駿監督作品)の一部に注目し、それが多岐にわたる仕方で、作品全体にわたって大きな働きをもっており、さらには作品の意義を深く厚みのあるものにしていることを鮮やかに浮かび上がらせた、すぐれた論考である。
空を飛ぶ少女が幾多の試練を乗り越えながら成長していく姿を描き出した『魔女の宅急便』における、くだんの少女が「飛べない」シーンに本論文は着目する。代表的な宮崎駿論を先行研究としておさえた上で、その、飛べない、飛べなくなるという行為の意味合いを、重層的に探るものとなっている。原作と映画の周到な比較をとおしてその重要性をあきらかにするとともに、物語展開のなかでその機能がいかなるものであるかを綿密に分析し、さらには、映像表象のなかでその特徴がどのようなものであるかをじつに精緻に考察する手並みは見事である。
以上のように、本論文の議論は、重層的であり、刺激的な論点をいくつも提示しつつ、しかも大きな説得力をもつものであり、学部学生の卒業論文としては秀逸であるといわざるをえず、特別賞に値すると判断した。

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北村 一恵さん

●卒業研究「制作+解説論文」特別賞
※この賞はいずれも受賞に値するとの理由で、2名の受賞が発表されました。
氏名:木川 貴一郎(大島ゼミ)
論文題目:「フィジカルなミクストリアリティ体験のための多感覚型インタフェースデバイスの研究 」
受賞理由:本卒業制作においては、多感覚の複合現実感インタラクションデバイスについての研究が行われ、ジャイロスコープを含むセンサーによるユーザーのジェスチャー入力をキャプチャし、モーターやソレノイドを含むエフェクターにより触覚フィードバックを生成する装置の開発を行った。
これは複合現実感のヘッドマウントディスプレイと組み合わされおり、その複雑な実装には、インタラクションデザイン、電子工学、マイクロコントローラプログラミング、グラフィックプログラミングなど、多くのスキルを習得したかなりの熟練度が必要となった。
この結果、システムは十分な完成度を達成しており、すでにユーザーに素晴らしいインタラクティブ体験を提供している。
論文自体は慎重に準備され、学術的な方法で発表され、関連する作品について非常によく議論され、全体的に成熟と熱意をもって研究が行われた。以上のように、いくつかの挑戦的な技術を集め、魅力的なインタラクティブな技術を生み出すために創造的な想像力が結合されたものとして、特別賞に値すると判断した。

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木川 貴一郎さん(受賞式は欠席だったため後日撮影)

氏名:松本 優紀(実写ゼミ)
論文題目:「映画『夏の小骨』における演出について」
受賞理由:本作品は、繊細なイメージを丁寧に織り上げることを通して、人間の微細な感情の揺れ動きを視界に浮上させることに成功したといえ、学生が制作した作品としては稀有なものである。それをもって、ここに推薦するものである。
生きることをめぐるそれぞれの困難にもがく二人の女性を主人公として、彼女たちの出逢い、葛藤、接近、そして別れを、抑制の利いた映像と周到に選びとられた科白の織り合わせによって物語る本作は、観る者をして片時も目を逸らすことを許さない。無駄な箇所のほとんどない、制作者のストイックな倫理意識が、美しさとなって立ち現れているとさえいえるだろう。
細部にまで注意を払われた画面構成と、最小限にまで絞り込まれた科白は、主人公二人がもつ個別具体的な困難を、けれども、個別の次元を越えて、メタフォリカルに作用する次元にまで高めているだろう。観る者は、己が意識的、無意識的に抱える困難をそこに投影させてしまうかもしれないほどに、作り込まれているからである。演出によるスタイルと物語の内容がみごとに重なり合っており、まさしく大画面での映画の醍醐味を堪能させる仕上がりになっている。
学生をして、かくも奥深く、繊細な映像の物語りを、しかもスタイリッシュな形式で実現させたことは、まさに特筆すべきものだといってよく、特別賞に値すると判断した。

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松本 優紀さん

●卒業研究「制作+解説論文」審査員奨励賞
※この賞はいずれも受賞に値するとの理由で、4名の受賞が発表されました。
氏名:田渕 瑞妃(実写ゼミ)
論文題目:「映画『不揃いの爪』における演出について」
受賞理由:本作品は、主人公である女子学生の恋愛のこじれをめぐるいくつかのプロットが絡み合い展開する物語を語るものであるが、それが鋭利な仕方で、現代の日本社会における女子大学生をめぐるきわめて困難な状況に肉薄している点で高く評価できる。
主人公のボーイフレンドが放つ冷淡さや不誠実さを周到に映し出すことはもちろん、それ以外の男性登場人物の甘え、弱さ、狡さ、卑怯さを演出する技量は見事であるというほかない。
映画全体にわたって、複数のプロットの物語展開が少なからず収拾がついておらず、破綻や矛盾といえるような点がないわけでない。だが、それも、現代社会に肉薄するが故のもの、リアルさを追求しようがしたがためのものであったともいえよう。
いずれにせよ、徹底した問題意識が実現した、強度をもつ作品であるといえ、ここに審査員奨励賞を授与することにした。

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田渕 瑞妃さん(予告編は公開されていません)

氏名:平栗 佑果(実写ゼミ)
論文題目:「映画『ピンキッシュパンキッシュ』における照明演出について」
氏名:松下 春香(実写ゼミ)
論文題目:「映画『ピンキッシュパンキッシュ』における演出について」
受賞理由:本作品は、物語映画であるにもかかわらず、現代日本社会のなか、10代後半と20代前半の女性が抱え持つ、性をめぐる諸困難を豊かに映し出している点で高く評価できる。
主人公である姉妹二人の、思春期と大人の間にある時期における、性的なアイデンティティの形成プロセスをめぐる迷走のプロットは、さまざまな「いかがわしい」場所への彼女たちの訪問をめぐるエピソードとなっているが、それが、おそらくは実地調査に基づいたモノと推察され、ひとつひとつのエピソードに映し出される登場人物の造形がたしかなものとなっている。結果、10代、20代はもちろんこと、多彩な世代における女性たちそれぞれの性意識を映し出し得ており、現代日本における女性をめぐる諸問題に豊かに迫っている。
物語の後半そしてエンディングが、やや安易な成長譚に終始してしまっている感は否めない。それを考慮したとしても、総体としては、アプローチしづらい性の問題に対して、通俗的な扱いに堕すことなく、豊かに描き得た点は高く評価すべきものである。
以上により、審査員奨励賞を授与することとした。

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松下 春香さん(左)と平栗 佑果さん(右)


氏名:吉川 美貴(実写ゼミ)
論文題目:「映画『西院駅徒歩二分半の天使』」
受賞理由:映画作品『西院駅徒歩二分半の天使』は、人間の多様性をテーマにしたマイノリティをはじめ、様々な苦悩を抱える人物たちが登場する青春群像劇として描かれている。脚本においては、登場人物のキャラクターを十分に活かした会話を創作し、時間軸を交差する計算された構成は評価できる。演出においても、会話のテンポや緻密なカット割りは登場人物の葛藤を描き、また、撮影におけるカメラアングルとサイズがシーン毎に的確に表現され、演出の側面を撮影技術で十分にフォローしているのは高く評価できる。また、クオリティの高いオリジナル楽曲やチェロ演奏の曲などがエンターティメント性を高めている。エンディングに流れてゆく楽曲は観客をも魅了して実に圧巻である。
このように自らが学びとして習得した技術を十分に発揮し、作品を完成させた点も評価できる。
以上の理由により、審査員奨励賞を授与するものとする。

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吉川 美貴さん


氏名:南井 芙月(ゲームゼミ)
論文題目:「Live2Dのロトスコープ的使用による、作画アニメーションの制作」
受賞理由:南井芙月さんが単独で取り組んだゲーム『ぶんまわしヒーロー』オープニングアニメーションを、学会賞(制作+解説論文)として評価する。どんなに魅力的なコンセプトを構築したとしても、それを説得力のある形で示すためには、日々の作業の積み重ねが必要となる。南井さんは1年間に渡る期間、集中力を保ったまま作品制作に取り組んできた。その実直さが作品の魅力として結実している。またゲームのオープニングには、プレイヤーがこのゲームのプレイを通して得る「何か」を予感させる必要がある。このアニメーション作品は、『ぶんまわしヒーロー』の魅力を伝えるために、カット毎に様々な工夫がされている。登場人物の手の表情と動きに注目し、あらためて作品を鑑賞してほしい。

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南井 芙月さん

●修士研究学会賞
氏名:ZHENG Siyun(テイ シオリ)
論文題目:「踏み台昇降運動に着目した高齢者用リハビリテーションゲームの開発」
受賞理由:修士研究として、機能訓練特化型の介護福祉施設でのフィールドワークを行い、映像を活用した新しいリハビリテーション装置の開発を行った。高齢化におけるリハビリテーションに伴う精神的なストレスの緩和と意欲向上を研究の目的として、施設利用者が通常使用している運動用踏み台に対して容易に設置できる静電容量方式のタッチセンサーとデジタルゲームを開発した。ゲーム内容は高齢者の運動機能の状態やリハビリテーションメニューを考慮しながら開発されており、フィールドワークでの知見が十分に活かされている。
高齢化社会においては、健康寿命の延伸が生活の質の観点から欠かせないが、リハビリテーションに伴う精神的なストレスを緩和させ、リハビリテーションへの意欲向上や周囲との新しいコミュニケーションを誘発する本研究には、社会に還元し得る質の高い実践的な研究成果が認められる。ジャンキャリなどの学内発表やEntertainment Computing 2018において学術発表を行うなど、積極的な対外的な発表を通じて研究内容を発展させてきたことも評価できる。以上より、学会賞(修士研究)に値するものと判断した。

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ZHENG Siyun(テイ シオリ)さん

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受賞者の一人である映像研究科修了生ZHENG Siyun(テイ シオリ)さんは、この日の午前中におこなわれた学位授与式でも修了生代表として答辞を読み上げ、

「映像研究科に在籍した2年間で、物事に対する多角的な視点と発想力、それをまとめて自分自身のアイディアとする企画力、そしてその企画を実現する行動力が身につき、非常に充実した学生生活を送ることができました」

と語り、この学会賞受賞式の挨拶でも、

「映像研究科に進学し研究できたことは、私の人生においてとてもラッキーなことだったと感じています」

と改めて振り返りました。この広い地球上にたくさんの学びや研究の場がある中で、「映像」という分野をテーマに遠く中国から立命館大学映像研究科をめざし、充実した2年間を過ごされたこと、またその進路を笑顔で「とてもラッキーだった」と述べたことは、先生方にとっても非常に嬉しいことだったのではないでしょうか。

この他にも受賞者からは指導教員をはじめとする研究に関わったすべての人への謝辞が次々と送られました。

皆さん、改めまして卒業おめでとうございました。
4月から新たな進路でワクワクする未来に向かって胸を張って歩んでいってください!

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