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2019年度映像学会「学会賞」「特別賞」「審査員奨励賞」を紹介します!

2020.04.17

2020年度の年明け早々から新型コロナウィルスが猛威を振るい、春の大切な式典・イベントが軒並み中止、さらには春セメスターの授業も休講措置という判断となってしまいました。 

みなさん、体調は変わらずお過ごしでしょうか。 
 

春はスタートの季節なのに、今年は、色んなことを我慢しなければならず、残念な気持ちばかりが積もる日々です。 

でも、今は、皆さんと皆さんの大切な人の健康と安全を守るため、共に乗り越えなければいけませんね。 

 
さて、本来であれば、卒業記念パーティーの場で発表するはずだった2019年度映像学会受賞作品について、ご紹介します。 
 
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その前に、、 

みなさんは、「立命館大学映像学会」をご存知でしょうか? 

映像学会は、映像学部・研究科に属する教員、学部生・院生、卒業生・修了生などから構成され、映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会です。 

機関誌「立命館映像学」の発行・講演会の開催・学生補助・その他様々な企画を立案し、運営しています。学会の下部組織となる映像学会学生委員は在学生にも身近な存在で、毎年秋に開催されている映像学部ビッグイベント「ジャンキャリ」の学生発信企画などはこの学会学生委員が主体となって運営しています。 
 

この映像学会では、2017年度より「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」を創設しました。学びの集大成でもある「卒業研究」「修士研究」において、最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」、そして今年度はこれらの賞に加えて今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」も授与されることとなりました。なお、各賞には顕彰金が授与されます。 
 

では、さっそく、受賞者を紹介します。 

 
〇学会賞「論文」 
氏  名 : 辻 俊成 
論文題目 :  
「日本の文化資源としての「時代劇」を継承するための参照資料プラットフォームの構築」 

受賞理由 : 
受賞者の研究は、斜陽と形容されるに至って久しい「時代劇」を「現行の危機的時間芸術」として認識し、特に実写映像で製作される時代劇とその産業を継続、継承していくための実践的な戦略を考えようとする研究である。 
研究の主軸は、例えば京都太秦地域の撮影所における後継者不足を直接解決するのではなく、先人が培ってきた文化が後世に伝承されることなく失われつつあることの重大性に着目し、長期的な視点から課題を改善していくための解決策として時代劇関連のモノ、コトの資料化とそのアーカイブに置かれることになる。 

受賞論文は、先行する研究や事例を丁寧にサーベイした上で、それらの多くに内在する課題を的確に指摘しつつ、想定される利用者の設定と利活用の道筋を明示化していくことが重要であるという視点を明示する。続いて、時代劇分野におけるノンフィルム資料の資源化、すなわちアーカイブ戦略の基軸になるフレームワークとして、一般的な文化資源学ではなく知識経営学として知られている経営資源としての知識、知恵とその循環に着目した方法論を検証していく。 

受賞者は、自身が役者として直接時代劇産業に関与してきた経験も踏まえながら、時代劇とそれを取り巻く環境の危機的状況を肌感覚で明瞭に認識している。その問題意識に基づいて提案される時代劇の文化資源化の道筋は、まだ試行錯誤的かつ挑戦的な段階ではあるが、今後の発展と具体的な成果について非常に大きな期待を抱かせるに十分であると言え、優秀研究として「学会賞」(論文)に値すると評価するものである。 

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〇特別賞(論文) 
氏  名 : 浅井 政利 
論文題目 :  
「2000年代の日本における映画ポスターのデザイン〜心理的要素から見るデザインの特徴に関する分析〜」 

受賞理由 : 
本研究は、2000年代に公開された興行収入上位の57作品の映画ポスターを対象に、23種類の心理学を用いて、各ポスターで用いられているデザインに関する心理的要素の分析を行い、3万字に及ぶ論文を作成した。結果の提示方法において各ポスターの要素を詳細にわたって分析し、ジャンルごとの特徴を明らかにしようとした試みは、非常に評価できる。特徴を見出せたジャンルと見出せなかったジャンルが存在するものの、多くの分析を積み重ねることで、特にアクション映画、アニメ、ドラマについて独自の調査結果・考察を示すことができた。分析を行うにあたり、主観的な分析とならないように丁寧に定義付けを行った点も、十分に評価できる。以上のことから、本研究は学会賞(特別賞)に値するものと判断した。 
 

〇学会賞(制作+解説論文) 
氏  名 : 西 恵佑 
論文題目 :  
ゲーム開発を「ゲーム化」するためのタスク処理支援ツールの提案-学生による共同開発を対象として- 

受賞理由 : 
インディーゲームシーンの隆興に象徴されるように、近年のゲームクリエーションは、ゲーム産業のみならず、広く一般にも普及した新たな創作活動としての側面が際立つものとなってきている。本研究・制作は、こうした潮流を踏まえつつ、学生におけるゲームの共同制作活動に着目し、課題点を洗い出すとともに、そのプロセスを支援するためのツールを独自に開発することを目的としている。
そして、「TaskSandBox」と呼ばれる独自のグループウェアが実際に完成し、具体的な運用モデルの提案がなされるに至った。ソフトウェア開発における共同作業を支援するツールは多数存在するが、この「TaskSandBox」は、“ゲームの開発プロセス自体をゲーム化する”というコンセプトを持ち、グループウェアとしての側面に加えて、エンターテインメント性も兼備するユニークな仕組みであるといえる。特筆すべきは、通常の卒業制作の域を大きく超えたシステムの完成度であり、フロントエンド、バックエンドともに高い技術力をもって丹念に作り込まれている。加えて、試験運用、システムの評価、および、考察もしっかりとなされており、制作としてだけでなく、研究としても高い価値が認められる希有な取り組みとなった。西氏の学問やクリエーションに対する一貫した真摯な姿勢、同級生や後輩に対する熱心で献身的な態度も含め高く評価できるため、本研究は学会賞(制作+解説論文)に値するものと判断した。 
 
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〇審査員奨励賞(制作+解説論文) 
氏  名 : 野﨑 友樹 
論文題目 : 複合現実型実験器具による化学反応学習教材の研究 

受賞理由 : 
本研究は、化学反応を学習するためのインタラクティブ映像教材の提案と制作を行っており、原子の結合について体験を行いながら可視化することを実現している点はユニークである。本来、原子の運動や結合力は肉眼で見ることができないが、体験的な映像装置によって学習することを可能としているため高い学習効果と動機付けを期待することができる。多くの化学反応学習教材に関する先行研究を精査した上で研究のターゲットを明確に定めており、科学的な理論を忠実に踏まえつつ初学者向けの学習へ接続させた原子のシミュレーションモデルの設定については創意工夫を見ることができる。また、研究過程においては、複数回の評価実験を通じて課題を明らかにしながら改善を進めた意欲的な取組であった。さらに、レーザーカッターなど多様な工作機械を用いて制作した筐体は、製品化を視野に入れたともいえる美しい仕上がりを有しており、細部まで検討と試行錯誤を行った結果としての高い完成度を示している。現状の成果において対応している元素数は限られているが、今後の大きな発展が見込める卒業研究である。以上の理由により、奨励賞(制作+解説論文)に値するものと判断した。 
 
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 〇審査員奨励賞(制作+解説論文) 
氏  名 : 西村 魁峰 
論文題目 : 人と音楽・映像の相互作用性に着目した映像インスタレーションの制作 

受賞理由 : 
本研究では、身体と映像との相互作用性に着目し、随意的インタラクションと、非随意的な生体情報である心拍の状態とを併せることで、心身の状態からインタラクティブに映像と音場とにフィードバックする作品を制作した。生体情報として心身状態と密接な心拍を用いることで、一見単調にも聞こえるリズムでありながら、意識させることなく、収束しないカオティックな要素により没入的に体験を楽しめる優れた作品となっている。ストレスのない体験を担保するデバイスを開発するスキル、3種のプロジェクタとスクリーンとを組み合わせることで高度に複雑で立体的な空間を創り出す造形センスは秀逸である。限られたスペースと装置や材料で、体験の質をこれまでに非常に高く提示しうるインスタレーションが実装されたことは、作者の資質の高さと、これまでの取り組みの集大成が結実したものに他ならない。解説論文および解説映像もそれぞれ単独で非常に完成度が高い。以上の理由により、奨励賞(制作+解説論文)に値するものと判断した。 
 
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〇審査員奨励賞(修士研究) 
氏  名 : 永井 翔也 
論文題目 :  
デジタルゲームと演劇を組み合わせた新メディアの提案とそのコンテンツの制作 

受賞理由 : 
一般的にデジタルゲームとは、人間にとっていつでも不平不満を言わず付き合ってくれる便利な遊び相手であった。今後、AIとの融合を果たし、さらに都合の良い相手となっていくだろう。本研究をデジタルゲームの側面で評価した場合、こうした時代の流れにあえて反目し、「人間そのものの遊び相手としての価値」を、デジタルの中で再定義する研究といえる。 
一方、演劇という側面で本研究を評価した場合、演目内に存在する「演者」と、観客席に座る「観客」の時間と空間の共有で発生した「互いの価値」に着目した研究といえる。 
演者がなす演劇としての「藝」と「術」と、観客がゲームプレイで創発する「藝」と「術」を、相互に結びつけるという点で極めてユニークであり、演者と観客の双方がゲームを遊び合う【相手】として存在させ、このゲーム体験の全体像を演劇として【公演】する作品となる。 
京都とは、歌舞伎の「公演」から映画の「上映」に変化していった歴史的背景を持つ土地であり、同時にゲーム制作の世界的な中心地である。無形文化芸術と複製文化芸術との融合を体現していったこの土地で、本作品・研究が生み出された価値は大きい。 
産業では到達しえない多様性の担保を「大学の学び」の中から発生させ、結果的に「産業」に還元しうる非常に野心的かつ応用性の高い研究である。 
以上のことから本研究は「奨励賞」(修士研究)に値するものと判断した。 
 
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〇審査員奨励賞(修士研究) 
氏  名 : LI Mingke 
論文題目 : 大将軍八神社における星辰信仰のデジタルアーカイブの一試行 

受賞理由 : 
本研究は、星辰信仰という独特な信仰に深い関わりを持つ大将軍八神社に着目し、「情報発信」の手法に重点を置いたインタラクティブコンテンツの試作をおこない、その手法の有効性について検証したものである。 
提案手法は、ゲーミフィケーション要素を体系的に整理した「DMC(Dynamics、Mechanics、Components)ピラミッド」という概念からコンテンツをデザインし、コンテンツに対するユーザのプレイ意欲を高めようとした点に工夫が見られる。 
フォトグラメトリ手法による点群データのリファレンスモデルをベースとしたモデリング手法を考案するなど、これまでにないアプローチを試みている。 
実際にコンテンツを体験したユーザからは、内容の理解度や興味喚起に関して、高い評価が得られていることから本手法の有効性が確認できる。また調査段階において、大将軍八神社の関係者と良好な関係を構築し研究を推進してきた点も、アーカイブコンテンツの取り組みをおこなう上で評価できる。 
本研究成果の一部は2019年8月に慶應義塾大学において開催された情報処理学会・第121回人文科学とコンピュータ研究会(IPSJ SIG Computers and the Humanities)にて成果発表が行われるなど、外部評価を得ていることも踏まえ、本研究成果を奨励賞(修士研究)に値すると判断した。 
 
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改めまして、受賞されたみなさん、おめでとうございます!! 

新生活も落ち着かない毎日かと思いますが、 
映像学部・研究科で培った力量と経験に自信をもって、 
ワクワクする未来を切り拓いてください!  

2020年度は授賞式を開催し、皆さんと一緒に喜べることを切に願っています。 
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