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2020年度卒業研究の「学会賞」「特別賞」「審査員奨励賞」が発表されました!

2021.03.31


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3月21日(日)の卒業式において 「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」の受賞作品が発表されました。

受賞された方々、おめでとうございます!

「映像学会」とは、あまり聞きなれない方もいらっしゃるかもしれませんが、映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会で、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成されています。

学会賞とは、その映像学会から、学びの集大成でもある「卒業研究」「修士研究」に授与される栄えある賞です。

最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」、今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」が授与されます。

では、 受賞作品をご紹介いたします!受賞理由もぜひあわせてご覧ください。

なお、今年度は、昨今の感染症の状況を鑑み、受賞者の登壇は行わずに、受賞作品の発表のみとなりました。


■学会賞(論文)
氏 名 :松田 早紀(マツダ サキ)
題 目 :「ゲームプレイによる行動および 認知の変容についての実証研究~空間認識能力の向上を中心として~」

受賞理由:本論文は、3D空間においてプレイするゲームを持続的に行うことで、空間認識能力が向上する可能性を検証するものである。WHOが過度なゲームプレイを「ゲーム障害」と認定したことを始め、主として負の側面が社会的な注目を浴びる中で、本論文は、客観的、中立的な立場と方法からゲームプレイに伴う人間の認知能力の向上を実証しようとした点において重要な意義を持つ研究となっている。
研究のデザインにおいても、無作為割当に基づいたRCTを行っており、定量的な因果推論を行う実証論文として最も強いエビデンスを出すことを目指しながら、分散分析、多重比較等の多変量分析を行っている点において、学部学生の卒業論文としては高度な実証の水準に達している。国内においてはほとんど先行研究のないテーマであることから、海外において先行するNature掲載論文等の研究設計に法った上で、それらの論文との差異を見出している。また、認知心理学の実験環境の構築において理解が困難な点に関しては、学外の研究者に直接連絡を取った上でアドバイスを仰いでおり、確かな学術的文脈に基づく研究を最後まで貫徹した姿勢についても高く評価することができる。
コロナの感染状況下においては、サンプル数の不足等によって研究の精緻化に限界があり、それに起因する隠れた変数の統制においても限界を有しているが、限られた条件において得られた知見を敷衍するならば、空間認知能力の向上においてゲームプレイが寄与する可能性とともに、それに関わるジェンダー差がゲームプレイを通じて消失する可能性をも見出すことができる。この点は、ジェンダーやゲームをめぐるカテゴリーの社会的再帰性をめぐる近年の議論に対して、重要な影響を与えうる内容として評価できるものである。


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■学会賞(制作および解説論文)
氏  名:大森 笹音(オオモリ ササネ)
題  目:「一銭飛行機のデジタルアーカイブ」

受賞理由:本研究は、現在ではほぼ目にすることのない飛行機玩具である「一銭飛行機」に着目し、その情報を記録・保存・活用するためのデジタルアーカイブコンテンツの取り組みである。わずかに残された資料と、保存活動をおこなっている関係者からの情報を軸とした、丁寧に裏付け調査によって得られた一銭飛行機の情報は、緻密であり、信頼性が高いものである。コロナ禍で人との接触が制限される中において、関係各所との良好な繋がりを保ちながら、最後まで研究を継続したことも高く評価できる。
このようにして得られた情報を基に作成されたデジタルアーカイブコンテンツは、一銭飛行機に関するテキストと、3DCGによって可視化された映像を中心に、その概要が誰にでも分かりやすく理解できるよう、フォントデザインに至るまで丁寧にデザインされており、実際のユーザー評価においても理解促進や興味換気の点で高く評価されている。従来のデジタルアーカイブのように、情報の記録までで完結せず、ユーザーが実際に一銭飛行機を作成し、遊ぶことができるよう、配慮がなされていることも特筆すべき点であろう。そのための実用的な飛行機の素材情報や平面図、制作方法、飛ばし方のコツなどを収録しているが、これらはすべて一銭飛行機の保存活動の関係者の監修の下で整理された情報であり、高い信頼性が担保されている。
本研究成果は、一銭飛行機という対象のみを取り上げたのではなく、それを利用する人までを視野に入れ、デジタルコンテンツをきっかけに、「実際に遊ぶ」という体験を通じ、最終的には、人の記憶を媒介とした文化情報の継承のための新たな試みであるといえる。これはデジタルとして蓄積されたアナログ情報を、再度アナログに還元していくデジタルアーカイブのひとつの取り組みとして、その端緒となる可能性を持つものである。
以上を踏まえ、本研究成果を映像学会「学会賞」として選出するものとする。

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■特別賞(論文)
氏  名:島田 英子(シマダ アヤネ)
題  目:「ディズニーのフェミニズムプリンセスの女性学と男性学」

受賞理由:本研究は、『アナと雪の女王2』を中心としたディズニー・プリンセス映画の分析を通じて、これらの作品に反映された現代における女性の理想像を明らかにした論文である。研究の中では、英語文献を含む多くの先行研究が精査され、また、フェミニズムの歴史的発展の経緯と現在の動向が明瞭に整理され、さらには、作品を対象としたその物語と表現の詳細な分析がなされている。その結果、フェミニズム研究やジェンダー論、男性学、さらには母娘関係論など、本研究は多彩で複雑な論点へと次々に議論が展開されていく。しかし一方では、対象作品に関する緻密と言っていい物語分析や、ヒロインの髪型をはじめとしたきめ細やかな映像表現の分析が行われており、この種の研究が陥りがちな抽象的な議論へと留まることなく、具体的で説得力のある論考が繰り広げられている。全体として、本論文の内容はかなり複雑なものを含んでいるのにも関わらず、論述についても明瞭かつ的確であり、相当程度の斬新な論点の提示も行われている。
以上の点から、本研究は卒業研究としてたいへん秀逸なものであり、優秀研究特別賞として推薦することが妥当であると判断した。

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■審査員奨励賞(制作および解説論文)
氏  名:植村 光一(ウエムラ コウイチ)
題  目:「現実と仮想をつなぐインスタレーション作品」

受賞理由:植村さんは、映像インスタレーション作品『実質-substance-』において、現実空間とWEBの仮想空間を入れ子状に連結させる試みを行った。現実世界においては、複数の半透過型スクリーンにプロジェクターによって映像を投影している。この様子はカメラで撮影され、このデータをWEB上に並行して構築されたインスタレーション空間にマッピングされる。このWEB上のインスタレーション空間は鑑賞者が自由に動き回ることができ、その結果は現実空間への投影映像に反映される。現実空間と仮想空間を絡み合わせ、循環的で刻々と変化しつづける映像表現の構築は、様々な映像技術や情報技術を高度に組み合わせることで実現されている。これは、新型コロナウィルス感染拡大のために全世界にオンラインコミュニケーションが一気に普及したことや、デジタル・トランスフォーメーションと呼ばれる社会構造の転換が求める背景を踏まえつつ、デジタル・アナログが単に二項的な対立として捉えるのではなく、複雑に絡み合い新しい様相を示す時代を捉えた作品であることも意味している。2020年度立命館映像展の実施期間においても、通常の作品映像の公開に加えて、仮想空間でのインスタレーションにアクセスできるよう公開されるなど、意欲的な取組も行われた。ユニークな着眼点と獲得したプログラミングや映像制作の高い技能を発揮した創造性のある卒業研究であるとして、奨励賞(制作+解説論文)に値すると評価する。

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■審査員奨励賞(制作および解説論文)
氏  名:土井 菜々子(ドイ ナナコ)
題  目:「映画『だれかが愛と呼んだだけ』における演出と脚本について」

受賞理由:本研究は「『愛』を生きていくこと」をテーマに「愛」という言葉に依存せす゛、その本質を見つめようとする人間ドラマである。陽太、湊、蒼の幼い頃の関係からそれぞれ成長していく中で湊は自ら命を絶った。シンガーソングライターになったソウ(蒼)の歌とともに感覚的に人への愛情とは何かを語っている作品である。まず、作品のイメージにあったキャストを決定していったことで、作品のクオリティーを総体的に高めることができた。音響においては、自ら作詞作曲したオリジナル劇伴を用いて構成したため、イメージ通りの仕上がりになった。映像の間を効果的に活用し視聴者に考えさせる時間を与えている編集をしていることも評価したい。
口頭試問ではテーマや状況設定などの質問に対し、自身の言葉で明確に答え説得力のある返答であった。今後、本研究で学んだことを糧としてもっと自由に自身の好きなことを表現したいと意欲的に語った。
作品および口頭試問の結果をふまえ、本作品が奨励賞(制作+解説論文)に相応しい作品だと評価し、選考した。

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■学会賞(修士研究)
氏  名:ZHANG Yaoyuan(チョウ ヨウゲン)
題  目:「ドキュメンタリー映画『登場』の制作とその表現方法」

受賞理由:『登場』は、中国東北地方出身で、故郷の民俗音楽を取り込んだロックを20年にわたって作り続けてきたリャンロンの初の映画主演、彼のバンドであるセカンドハンドローズの新年コンサートなどに取材したドキュメンタリー映画である。
本作は、けばけばしい化粧で派手な衣装を身に纏うミュージシャンとしてのリャンロンと、映画撮影の裏側でスタッフや共演者とのやり取りに気遣いを見せるリャンロンの二つの対照的なキャラクターを示しながら、彼の会話や振る舞い、彼を取り巻く状況を通じて、かつて「共和国の長男」と呼ばれた中国東北地方の衰退を浮かび上がらせることを目的としている。本作は、ナレーションや説明字幕に頼ることなく、現場の会話や音楽から東北地方の経済的衰退や北朝鮮との歴史的関係を提示し、それによってリャンロンの背後にある社会的布置を浮上させて、緊密な画面を作り上げることに成功している。その表現にあたって、先行するリャンロンの音楽ドキュメンタリーが彼のバンドのイメージカラーに依拠したデザインになっていることに抵抗して、あえて映像を白黒化する方法が取られており、そのフィクショナルな選択が日常においてもつねにパフォーマーとして振る舞うリャンロンを捉えるうえで効果をあげている。また、「一人製作」という制約の中で、想田和弘の観察映画の方法に従って、被写体との関係を巧みに構築し、それが撮影に際して適切なカメラポジションを確保することにつながっている。最後に、フレデリック・ワイズマンの方法を意識しながら、編集において、一つのシークエンスから複層的な意味を読み取ることが可能な語りを織り上げている点も高い評価に値する。
本作は、前作のフィクション映画『ロマンチックな町(City of Romance)』(2019年)以来、監督が自らの出身地でもある中国東北地方の衰退という現実的課題を、映画のテーマとして真摯に追求してきた成果である。すでに監督はこのテーマを引き継いだフィクション映画の構想に着手しており、その構想には本作でのドキュメンタリー制作の経験が方法論的に生かされることになっている。

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【映像学会について】
映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会で、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成されています。機関誌「立命館映像学」の発行・講演会の開催・学生補助・その他様々な企画を立案し、運営しています。
学会の下部組織となる映像学会学生委員は在学生にも身近な存在で、毎年秋に開催されている映像学部ビッグイベント「ジャンキャリ」の学生発信企画などはこの学会学生委員が主体となって運営しています。
映像学部開設(=映像学会開設)10周年を記念し、昨年度より「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」を創設し、映像学部学びの集大成でもある「卒業研究」成果物の「制作+解説論文」および「論文」の中でそれぞれに、最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」、そして今年度はこれらの賞に加えて今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」も与えられることとなりました。なお、各賞には顕彰金が授与されます。

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