EIZOVOICE

映像学部1期卒業生 瀧川元気監督 映画制作と地方創生プロジェクト <卒業生インタビュー企画Vol.3>

2021.12.24

 映像学部の第1期生(2010年度卒業)であり、株式会社Studio-884.Pro 代表取締役 瀧川元気監督にインタビューの機会をいただきました。
 『マザーレイク』(2016)、『恋のしずく』(2018)、『いのちスケッチ』(2019)のプロデューサー、2020年秋には全国公開された映画『鬼ガール!!』の監督・プロデューサーなど多くの代表作品を手掛けてこられました。
 映画制作を通じて「地方創生」を推進されてきたご経験や、いま進行中の新しいプロジェクトについてもお聞きできました。後輩の在学生の皆さんに向けての貴重なアドバイスやメッセージもいただきましたのでぜひ最後までご覧ください。

cias/db20211224-101

-----映像学部に入学することになったきっかけ教えていただけますでしょうか?

 私は小学生の頃から野球を始め、プロ野球選手を目指すほどの高いモチベーションを持っていましたが、高校で肩を壊して試合にもでれずはじめて大きな挫折を味わうこととなりました。その後、東京の大学に入学しましたが、目標もなく、何をやっても楽しくない日々を送っていました。だらだらと生きているときが苦しく、父親に「糸の切れた凧のようだな。ふわふわ空を飛んでいるだけだな」と言われ、それが悔しくて、前の大学を辞めることになります。その頃、映画が好きで毎週映画館で新作映画を観ており、映画関連の仕事に就きたいと思っていました。
 映画について勉強するのか、海外に留学するのかを迷っていたときに、総合大学である立命館大学に映像学部が開設されることを知り、客員教授として山田洋次監督が来られることも知ったときに、プロ野球選手を目指していた頃と同じくらいのモチベーションが戻ってきました。
 この学部を代表する監督となって「世界の瀧川」となって、立命館大学の看板を背負ってみせるという意気込みで入学しました。


-----入学後、映像学部ではどのような学生生活を送られましたか?

 入学後、1回生の頃から全力投球です。毎日のように先生を捕まえては、映画制作の企画書の書き方を聞いたり、施設利用のお願いをしたり、先生方に頼れるところは徹底的に頼りました。教養科目も専門科目も、受けれる授業は全部受けたと思います。4年間で自主制作の作品は約20本にもなりました。
 自分の考えを信じて突き進むなかで、当時、鈴木先生から『何をするにも自分の中で枠組みを作らないこと』とご指導いただいたことや、望月先生から『視点を変えて取り組むことが大切』というご助言をいただいたことが自分にとっては大きな学びとしてあって、当時から粗削りながらも実践してきましたし、今でもそれをよく思い出します。

 cias/db20211224-1
 
-----今は会社の代表取締役であり監督でもありますが、どのような仕事をされていますでしょうか?

 株式会社Studio-884.Proの代表取締役として会社経営をしながら、私自身も監督として映画制作の仕事を中心にしてます。「映画制作の仕事」は、何段階かフェーズがあり、一部の「制作」業務委託を受ける映画の仕事もあると思いますが、現在は、ゼロの状態から映画公開までの『製作』全てを担っています。企画の立ち上げ、キャスティング、配給会社との調整など、映画製作の全てです。2020年秋には映画『鬼ガール!!』を製作、全国公開させていただきました。
 一方で、いまの日本の映画業界に視点を移すと、日本の映画市場は約2,000億円前後と言われています。参考までにアメリカの映画市場:約1兆2000億円/中国の映画市場:約1兆円程、日本のゲーム市場:約2兆3000億円(内スマホ向けゲーム約1兆円)と比べても分かるように、あまり大きい市場とは言えない状況ですよね。コンテンツの市場をどう伸ばしてくかを考えるなかで、別の切り口として「NFT(Non Fungible Token)のデジタルアート」や「オンラインサロン」を使った仕事もしており、時間や場所に囚われずにエンターテイメントを制作・発信するための取り組みも行っています。

cias-db20211224-2

-----映画制作では『地方創生』をテーマにされていると伺いました。具体的にはどのようなものでしょうか?

 これについては、私が在学中に、映像学部に客員教授として来られていた山田洋次監督の産学官連携プロジェクトの一つである「山田塾」での学びが大きく影響しています。そこで伺ったお話でずっと記憶に残っているのが『映画は地産地消』です。
 映画制作のために、制作スタッフがその地域に住み込んで、その地域のリアルを写し撮って、その地域で制作費の協力を募ったり、地元の方にエキストラをお願いしたり、制作スタッフが地元のお店で物を買ったり、飲食店を利用して、経済をまわす。そのお話を伺った時に、確かにそうだなと共感させていただきました。
 一方で、私が助監督として東京で撮影する機会があったのですが、数億円規模の大作でも、スタジオでの撮影が大半であったり、屋外で撮影するときは、情報漏洩防止や俳優の肖像権を守るためなどの理由で、地元の方々に対して撮影関連の情報を出さずに撮影していました。対照的ですよね。
 映画『鬼ガール!!』の撮影は大阪・奥河内(河内長野市・富田林市・千早赤坂村)で行いましたが、映画を支援する団体を組織するときに、地元の観光協会、商工会議所、青年会議所など全団体に入っていただきました。そうすることによって各団体の間でのコミュニティが豊かになり、映画をつくって終わりではなくなります。コミュニティがデザインされていくことが地方創生で映画をつくることの楽しさでもあります。地方創生は継続性が重要です。継続のきっかけは映画によって作れると思います。
 映画公開後、二年間はイベントなどで盛り上がりますが、それを継続していくことは簡単ではありません。しかし、映画制作を通じて、その地元に対する夢や希望、ビジョンなどロードマップを明確にして、しっかり形にすることができれば、三年目、四年目と、関連のイベントなどは自走していくことができます。レガシーを残すことができる、と言えると思います。
 そして、それが地方創生につながり、活性化する地域が増えて、日本のGDPの成長に少しでも繋がれば、その経済効果で映画に出資や協賛する企業が増えるという好循環が生まれます。数年間かけて携わるプロジェクトではそれを目指していますし、またそこに魅力を感じています。

cias-db20211224-03

-----映像学部生時代を振り返ってみて、当時の学びが今の仕事にどう生かされていますか?

 1回生の実習科目で、基礎学習だけでなく、プレゼンテーション、グループワークもしっかり学んだ経験が今に生かさせていると思います。
 また、これは私が映像学部を選んだ理由でもありますが、他の芸術大学のように一部の分野だけでなく、映画制作はもちろん、プログラミング、CG、VR、マーケティングなど幅広く学ぶことができるところが魅力だと思います。映像に関する全体の知識を持っており、プロデュースできる能力こそが、映像学部が掲げる「プロデューサー・マインド」だと思います。
 様々な分野の知識の一片を持っていることで、生かされていることは本当に重要ですし、今の仕事に生かされていると思います。


-----この業界で、求められる人材や能力はどのようなものだと思いますか?

 この業界に関わらず、いまの時代に求められる能力は、先ほどの話とも繋がりますがまさに「プロデューサー・マインド」だと思います。「個の時代」と言われる今、重要なのはセルフプロデュースでありセルフディレクションだと考えています。つまり、プロデューサーであり監督である「プロデューサー監督」のような人材が求められていると思います。
 また、求められる能力としては「今のマーケットで何が求められているのかを感知する能力」、「そこに対してどういうアプローチをして何をするのかを考える力」、「それを実現するクリエイティビティ」であると思います。それから、プレゼンテーションして相手に伝えるという能力も重要ですね。
 まとめますと「プロデュース」、「マーケティング」、「プレゼンテーション」が重要なワードになると思います。


-----先ほど、別の切り口で新しいプロジェクトを進めてらっしゃるとのことでしが、可能な範囲でプロジェクトについて教えていただけないでしょうか。

 先ほど言いましたNFT(Non Fungible Token)については、今かなり力を入れています。まず、NFTというのは、ブロックチェーンの技術を使った代替不可データのことです。
 NFTのデジタルアートは、世界では既にスタンダードになっていますが日本ではまだあまり知られていません。NFTのマーケットは世界で数兆円といわれており、世界最大のマーケットプレイス「OpenSea」の時価価値は1兆円を超えると言われ、まだまだ伸びていく市場と言われています。その大きな市場、世界基準のマーケットでそのコンテンツを作ることで、日本のアートの海外展開につながるのではないかと考えています。
 私が携わるプロジェクトでは、河内長野のご当地キャラクターを「Nyan公さん」というNFTアートにして、マーケットプレイスの「OpenSea」に出品しています。

cias-db20211224-4


-----それは、河内長野市の地方創生のプロジェクトの一つなのでしょうか?

 そうです。まず、河内長野でのプロジェクトは、映画『鬼ガール!!』の制作・公開だけに留まりません。1年目に『映画で町おこし』をテーマに映画制作、公開の年でもある2年目は『鬼で町おこし』をテーマに『鬼でまちおこし条例』を市長が記者発表し、11月2日を「イイオニの日」と定めて飲食店では鬼盛り(大盛りメニュー)を出したり、鬼にちなんだ商品やイベントで経済活性化をしてきました。
 そして、3年目である今年は、11月2日には『NFTアートで町おこし』をテーマに「Super NFT Art City構想を掲げ、河内長野をアートの街にして、まちおこしをします!」とPRし、メディアにも取り上げられました。
 NFTアートに関するニュースと言えば、2021年11月にニューヨークのタイムズスクエアでNFTの大規模カンファレンスが開かれて大盛況でした。日本のメディアではほとんど取り上げられていません。世界的には非常に注目され、大きな経済効果もあったことも、海外では大きく取り上げられています。
 河内長野SuperNFTArt City構想は世界規模での取り組みであり、NFTアート「Nyan公さん」は世界中のNFTプレイヤーやNFTアーティストと河内長野をつなぐ橋渡し役としても期待するキャラクターです。

 


-----そのプロジェクトの狙いは、具体的にどのようなものでしょうか?

 河内長野で多くのNFTアートを見ることができるようになれば、今後、感染症が収束し、海外の方を受け入れることができるようになったときに、「NFTアートが見れる面白そうなあの街に行ってみよう」となることを狙っています。
 また、2025年には大阪万博が開催されます。世界中から大阪に人が集まったときに、河内長野は難波から電車一本で行けますので、NFTアートの街として多くの人に訪問していただけることも狙っています。
 さらに、こうしたまちおこしのイベントは、協賛やスポンサーが不可欠ですが、このプロジェクトでは通常の出資とはちがいます。NFTアートは、暗号資産の一種ですので、お金を出して終わりではなく、資産に変わります。これも大きなメリットだと思います。こうした新しいかたちでの資金集めもまた、持続可能な地方創生の取り組みとも言えると思います。
cias-db20211224-5


-----学生時代にしておくと良いと思うことはなんでしょうか?

 何をするにも、「自分で限界を作らない」、「自分で枠をつくらない」という気持ちが大切だと思います。また、広く浅くでも全体を学び、一度は自分でやってみて経験してみる。そうすることで、誰に何をお願いするのが良いかがイメージできるようになります。そのうえで、自身の好きなことに特化して深く学ぶとよいと思います。
 また、もし可能であれば、学生時代にスポンサーや後援者を見つけて、プロジェクトを進めるという経験をしておいたほうがよいと思います。事業計画、企画書作成、プレゼンテーション、仲間集め、スケジューリングなど、映画のみならず、社会に出てから、またはプロジェクト単位であっても必要不可欠なスキルであり、そのプロセスを経験することが重要だと思います。



-----最後に、映像学部生に向けてのメッセージ・エールをお願いします

 コロナ禍の影響で、何をするにしてもネガティブなことや、制限されていることが目立ってしまいますが、ポジティブなこと、出来ることだけを見て行動していただきたいと思います。例えば人数制限があれば少数でできることを考え、制限があればルールの範囲内でできることを考えるなど、ぜひ出来ることだけを追いかけて突き進んでいただきたいと思います。
 また、私が力になれることがあればさせていただきたいと思っていますので、企業へのアプローチなどチャレンジしたいことがあれば頼ってください。
 大変な時代ではありますが、ぜひ前向きにいろんなことに挑戦していただきたいと思います。



■株式会社Studio-884.Pro ホームページ
https://studio-884.com/

■映画『鬼ガール!!』HP(エグゼクティブプロデューサー&監督・製作委員会幹事&制作プロダクション)
https://onigirl.jp/

■Nyan公さんWebページ
https://www.nyankou-san.art/jp/

■Nyan公さんTwitter
https://twitter.com/Nyankou_san

■OpenSea (スーパーNFTアートシティプロジェクト)
https://opensea.io/Super_Art_City?tab=created


一覧へ