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03.28

PEOPLE

2017

社会を配分の視点で見ることが、他者への想像力を養うことにつながる。


大野 敦准教授

担当科目国際政治経済学、国際経済論、現代国際経済 など
研究テーマ倫理的消費の国際政治経済学
主な研究第一に、WTO(世界貿易機構)と貧困削減政策について。途上国のみならず先進国も含めた貿易における貧困層に対する政策を分析し、人々にとって望ましい資源の配分について考察している。第二のテーマは、国境を超えた倫理的消費の国際政治経済学。誰もが買い物を通じて途上国の貧困層に支援を届けられる、気軽な国際支援のひとつの形であるフェアトレードの意義を検討している。

フェアトレードを通して「優しい資本主義」を考える。

フェアトレードとは、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することによって、立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立をめざす「貿易のしくみ」のことです。個人が買い物を通じて国際支援ができるという明確さや、政府や政策を介さずにダイレクトに社会に関与可能なシステムであることから、国際開発問題でよく話題にあがり、多くの人に支持されています。消費者の運動であり、生産者側の運動でもあり、流通団体の運動でもあるフェアトレードは、複合的な見方ができる面白い題材です。

研究のアプローチはさまざまですが、ある学生たちはフィリピンの農場で製造されているコーヒー豆を仕入れて、インターネットオークションで販売しています。同じ豆を2種類の袋に入れて、一方にはフェアトレードと明記し、もう一方はフェアトレードについて言及せずに出品します。それ以外の説明文は同じにしておきます。そこでどのような価格差がつくか、つまり消費者がどの程度の「優しさ」を見せるかを計測しています。
多くの回で、フェアトレード豆の方が1割程度高値になります。アンケートで消費者の支払い意思を尋ねる仮想市場では人は社会貢献や環境に対していい格好をしてしまいがちなのですが、この調査は消費者のエゴが強く出るインターネットオークションという実際のマーケットで行っているのでより精密な計測ができるのではないかと予測しています。

自由の中で、自律する能力を身につけるために。

僕のゼミでは、国際政治経済学という経済学の古典的な論文をひたすら輪読しています。一方で、1年に1本、自由なテーマで研究論文を書いてもらっています。1/4の学生がフェアトレードについて、1/4の学生が開発援助、1/4が先進国の経済について、残り1/4はカオス状態になりますが(笑)、みんな自由に取り組んでいます。ただし、自由の中で自律する能力を身につけることが前提です。「自分自身に適切に負荷をかけなさい。どのような負荷をかけるかを自分で考えなさい」と学生には意識して伝えています。

大規模大学である立命館の中でも経済学部は特に学生数の多い学部です。ゼミには2回生から4回生まで各20名、基礎演習で25名の学生がいるので、約80名が僕を担任だと思っています。人数が多いとグループ学習の場でリーダーシップをとることが大切だと認識している学生は、たった2年半のゼミの間にも劇的に伸びを見せます。僕ら教員の仕事は、学生たちのオールドバージョンのOSをどうアップグレードしてあげるかだと思うんです。
例えば、高校までは「質問に単純に答える」という能力しかテストなどで計測されないですが、大学以降は「質問の背後にある意図を理解して、適切に答える」という能力が求められます。多くの学生は、この求められるギャップの変化に苦しみますが、学生個々の悩みを把握して少しヒントをあげるだけで、彼らのアウトプット能力が劇的に変わることがあります。

また、成長のためには、「人を尊重した学びの場」をお互いに作っていくことも重要です。例えば誰かが発表している時に、他の学生がちゃんと聞いていないと、発表者はやる気をなくしてしまいます。発表者が高いモチベーションを維持できれば全体の水準が上がり、全体の水準が上がると、能力が高い学生と全体の水準のギャップが埋まってきて、高い能力の反面にある欠点が浮かび上がってくる。つまり他人の学びを尊重することで今まで気づかなかった問題が見えてきて、さらに高みを目指すことができる。これは、大規模大学、学部ならではのメリットと言えるでしょう。

社会では、どんな集団でも個々の能力差は必ずあるもので、能力が劣る人もグループの中にうまく取り込んでいかないと分業が成り立ちません。立命館大学の経済学部で、社会を配分の視点から見る考え方を学ぶことは、他者に対する想像力を常に持つということであり、ここで得た能力は社会に出た時に絶対に生きてきます。こういう学びが実現できることが大規模私立大学の良さだと思っています。

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