インタ−ネットハイスク−ル「風」 - 不登校も問題にしない新しい教育のかたち - パソコンを使った在宅学習で米国高校の卒業資格が取れる
柳下 換 著

 著者は14年間の教育活動をふまえ、日本で初めてのインタ−ネットによる高校課程の教育プログラム、インタ−ネットハイスク−ル「風」を1997年4月に始め、多くの問題を抱える学校教育の在り方に新しい風を吹き込む画期的なプログラムで、新しい学びの場を提供してきた。本書はその教育理念やプログラムの特徴と1年間の実践を報告する。
 プロロ−グでは生徒の一日を紹介し、そこでの疑問への回答として、「風」への質問状という形で答えている。
 第1章では、学習をする場、意欲と主体的学習、コンピュ−タ・ネットワ−ク利用の学習サポ−トシステム、米国の私立クロンララ高校からの卒業資格と家庭学習を基本とした教育プログラムを紹介している。新入生4人の学習記録から人間的な交流の大切さを訴え、具体的な事例と学習記録を提供する。また、学校以外の学びの場の重要性を唱え、学習者たち独自の学習環境の創造をするため一部にインタ−ネットを取り組む。人間にとって、人間がより人間らしく育つには、教育が必要である。その原点に戻ると、本来の目的(個人の人格形成)に反する教育がなされてきた結果、不登校といった問題が生じる。画一化、硬直化した既存の学校と学習観を再考し、「風」の存在意義を主張する。
 第2章では、開校から半年間を振り返る。春のフィ−ルドワ−ク・沖縄'97では、「生活者の視点」「放任と自由」「権利と義務」「自立と依存」「討論」「平和」のテ−マのもと、各生徒の自己責任での変化に富む行動と成果が報告される。秋のフィ−ルドワ−ク・アウシュビッツ'97でも、「平和」を現地に住む生活者の視点から理解する試みが報告されている。いずれにもホ−ムステイが盛り込まれ、「平和」というデリケ−トで難題が含まれるが、学習への昂揚がもたらされたという。確かに書物で学んだだけでは理解できないことが、現地での体験で理解できることも多い。その意味でもフィ−ルドワ−クは意義ある学習体験の場であろう。
 第3章は、著者の14年間の教育活動を紹介する。ここでは著者の教育理念が分かる。ネットワ−ク利用に至るまでの実践や経験が7つに分け紹介される:(1)個人・グル−プ学習サポ−トサ−ビス、(2)新規教育ネットワ−ク、(3)教育・文化事業、(4)教育カウンセリング、(5)教育関係情報提供、(6)アントロポロジ−プログラム、(7)プログラム「平和」で、(3)と(4)は他と重複するので省略されている。全体を通して、「すべての子どもたちに、学ぶ喜び、生きる力を」のスロ−ガンの達成に、著者の経営・教育・啓蒙活動などさまざまな苦難の道と可能性への果敢な挑戦に熱い思いが伝わってくる。特に、クロンララ高校のモンゴメリ−女史との出会いと提携やインタ−ネットの役割が大きく影響している様子が伺われる。
 第4章は、公文俊平の「教育の新しい流れとインタ−ネット」、パット・モンゴメリ−の「教育とは、人に備わっている能力を引き出すこと」、ボブ・タ−ナ−の「インタ−ネットを使った教育実践」、日野公三の「インタ−ネットハイスク−ル「風」は未来から来た学校」から成る、示唆に富む講演集録である。  英語教員に限らず、あらゆる教育関係者に「学ぶこと」について教えてくれる好著の一つであろう。
[四六判 221pp. 本体1,400円 ダイヤモンド社]
  (立命館大学教授 野澤和典)