CALLラボラトリ−の維持管理体制を考える

野 澤 和 典

1.はじめに


約3年間の企画・概算要求などの準備期間後、LL (Language Laboratory)一式と、ネットワ−ク化されたクライアントとしての55セットのPowerMacとそれらを管理するサ−バ−としてのUNIXから構成されるCL (Computer Laboratory)が統合化されたCALL (Computer Assisted Language Learning)ラボが平成6年度末に更新され、平成7年度からその本格的な運用が始まった。過去2年間にわたって孤軍奮闘してきたその維持管理の状況について振り返ってみることとし、現状の問題点と今後の在り方を模索してみることは有意義であろうと思われるので、私見を述べてみたい。

2.これまでの維持管理


まず、「導入前の企画提案者=導入後の維持管理者」というスタイルで始まった過程から、最新の教育情報機器を維持管理する者としては不適格者の部類に属するにも拘らず、不十分な知識と技能を持った者(教員)1名によって、ほとんどの維持管理がされてきているのが現状である。設置後1年間は、導入業者の保証期間中であったから、様々な問題が生じても業者に即座に連絡を取り、随時対処してもらうことによって、おおよその解決策は見い出せた。

しかし、2年目となると、業者との保守契約を結ばない限り、同じようなアフタ−・サ−ビスは受けられない。残念ながら、2年目以後、維持管理費は予算化されているものの、保守契約を結べるだけの額ではなく、これまではオン・コ−ル(問題が生じた時に来てもらい、問題解決をするスタイル)での対応となっている。その結果、即座のトラブル解消は不可能で、ボランテイア精神溢れる維持管理者が研究時間を削って孤軍奮闘しなければならなかったのが、これまでの状況である。新しいバ−ジョンのソフトウエアのインスト−ル1つとっても、全部のコンピュ−タにインスト−ルし、調整を終えるには4〜5時間かかってしまうが、その時間的ロスは総計すると膨大なものであったと言えよう。

欧米の高等教育機関では、20台程度のCLが新設されれば、何らかの予算措置をして常勤あるいは非常勤の専門技師を採用して対応するのが通常のスタイルであるが、こういったことに関して「未だ発展途上国」と言える日本では、そこまで対応しているところは少ない。人事削減政策中の折、語学センタ−から新たな常勤専門職員の配置要求などできないし、非常勤専門職員ですら年間を通して採用する財政的余力さえないのが現状である。その結果、維持管理者となった教員が多くの負担を強いられることとなる。

また、本CALLラボの場合、全てのコンピュ−タがインタ−ネットに繋がっており、オ−プン・システムを採用すれば、大いに利用拡大がされ、効果的な学習や研究ができるに違いない。しかし、維持管理体制の人的問題や利用者側のマナ−の問題などがある以上、授業優先で大いに利用してもらったり、特別セミナ−や個人研究などの利用をすることを除けば、一般ユ−ザ−の利用を制限せざるを得ない。

3.今後の維持管理:理想的な在り方を求めて


やはり教員サイドは、ある程度の知識と技能の修得をしながら、教育や研究への有効利用のみを考えていたい。そのためには維持管理を中心的な仕事とする常勤専門技師の採用が不可欠である。不特定多数の利用者がいる場合、利用後の原状回復や予期せぬトラブル解消など維持管理やネットワ−ク管理は大変重要な仕事なのであるから、最低限1名の常勤専門技師が確保されてこそ常時理想的な保守ができることになる。そういった人材確保は、いわゆるリストラでも可能であると思う。即ち、ゼネラリスト集団としての一般事務系職員の数を半減し、スペシャリスト集団としての専門技師を相当数採用することである。なぜなら、情報化社会に移行しつつある状況下で、各部署ごとに一人ぐらいの割合でネットワ−ク管理やデ−タベ−ス処理をする人材が必要になってきているからである。もちろん、それ相当の給与体系や財政支援の確立も伴わねばならない。

一方、教員サイドも理工系の大学で教育・研究をするということを念頭にいれて、新たな人事では教育工学の知識と技能を持ち合わせた語学教育担当教員を採用することが必須である。人事権のない立場の者としては、推薦委員会メンバ−に委ねるしかないが、是非ともそういった条件を満たす人材を今後確保していただきたいと願っている。その実現こそが、更なる教育利用拡大と質の高い研究の増大をもたらすのであるから。

また、無理な注文かもしれないが、キャンパス・ネットワ−クの中心的存在である情報処理センタ−にも、十分な人材確保をしてもらい、学内に散在するCLを常時サポ−トできる体制作りをしていただくこともお願いしたい。

4.おわりに


独断と偏見に満ちてはいるものの、これまでのCALLラボの維持管理経験から率直な私見を書かせてもらった。長期的な視野に立って計画実行するのではなく、各年毎の予算に頼った施策しかできない国立大学特有の問題点への確固たる解決策は現状の体制下ではすぐに見い出せない。しかし、できる範囲内で地道な努力をしていかなければ維持管理ができないのも事実であり、好むと好まざるに関係なく、労力と時間を惜しまぬ対応をしていかねばならないことを再認識させられたことも付け加えておく。

参考文献


野澤和典 「CAI/CAL/CALL/CALLLとは何か」北尾謙治監修、野澤和典・島谷浩・山本雅代編
 『コンピュ−タ利用の外国語教育 - CAIの動向と実践』 英潮社 1993年、pp. 2-10.
野澤和典「CALLラボ利用の語学教育:豊橋技術科学大学語学センタ−での試み」語学ラボラトリ−
 学会第36回全国研究大会研究発表要項、1996年、pp. 89-90.
野澤和典「これからのLL - CALLL (Computer Assisted Language Learning Laboratory)」
 朝尾幸次郎・斉藤典明編『インタ−ネットと英語教育』 大修館書店 1996年、pp.149-153.
野澤和典「語学センタ−のMUPSへのとりくみ」 豊橋技術科学大学広報誌『天伯』第17巻、第2号、
 1997年、pp. 11.
Nozawa, Kazunori. "Looking for an ideal CALLLS (Computer Assisted Language Learning
Laboratory System)" ON-CALL, Vol. 9, No. 1, September 1994, pp. 28-31.