電子図書館化に期待する

野澤 和典

インタ−ネットの世界には、『仮想図書館(The Virtual Library)』なるデ−タベ−スの宝庫がある。誰でも興味あるネットワ−ク利用者(ネチズン、 Netizen)なら訪れることができ、一時の館内散策を楽しんだり、必要な情報を入手したりすることができる。VOD(Video On Demand)やCD-ROMサ−バ−等の強力なマルチメデイア・システムがあれば、さらに映像や音声のデ−タベ−スも利用できる。何とも便利な世界になりつつあるものだ。しかし、これらを利用できる一般の人々の数は、現存の国公立図書館や大学付属図書館の利用者数と比較して、まだまだ少ない。大学等の高等教育機関や研究施設の関係者はネットワ−クに接続していれば、基本的にこのシステムを利用できる体制ができつつある。利用頻度が高いとは言えないが、筆者もその利用者の一人であり、その個人的な経験から、大学図書館等の電子化を考えてみることとする。

筆者が特に利用するのは、爆発的な発展をし続けているWWW(World Wide Web)の世界での無料『仮想図書館』である。実際、筆者自身のホ−ムペ−ジ(http://www.lc.tut.ac.jp/nozawa/nozawa.html)にも幾つかリンクをはっており、そこを辿っても到達できる。ここではその代表的な2つを紹介する。一つは、その名も『WWW仮想図書館(The WWW Virtual Library)』というホ−ムペ−ジである。http://macwww.db.erau.edu/www_ virtuallib/aeronautics.htmlにあって、「下位分類別」、「米国連邦議会分類」、「ベスト10分野」、「統計別」、「インデックス」といったメニュ−から探したいものへと辿って行ける。特にインデックスは、アボリジニ−研究から動物園まで136にも及ぶ分野をカバ−しており、世界中のデ−タベ−スへ入って必要な情報が入手できる。その日本版は、図書館情報大学にある『仮想図書館』で、1994年より構築され、日々充実しつつある。全ての分野をカバ−しているとは言えないが、サブジェクト・リストから各分野へ入れるようにリンクされている。

もう一つは、『電子図書館(The Electronic Library)』とは意味合いが違うが、本のデ−タベ−スの決定版というべき、(株)図書流通センタ−(TRC)のホ−ムペ−ジ(http://www.trc.co.jp)である。日本国内で発行された過去16ケ月分の新刊書籍5万件以上のデ−タがあり、毎週約1,000件の情報更新がされている。巷の本屋よりも早く、新刊情報を入手でき、キ−ワ−ド検索はもちろんのこと、注文もでき、新刊書籍の情報を網羅的に案内するカタログである。「週間新刊案内」「検索」「注文」「MARC(目録情報)・(人名)典拠ダウンロ−ド」「お知らせ」のメニュ−、さらに「著者のペ−ジ」「日本国内の出版社・新聞社・図書館」へのリンクがされている。その図書館リストの中には、積極的にデジタル/ハイパ−テキスト化し、『電子図書館』へ移行しつつある大学付属図書館や国立関連機関も含まれる。公式なものかどうかは分からないものもあるが、それらの数は、北海道・東北4、関東21、中部11、近畿11、中国・四国8、九州6、その他5である。全国の総機関数から考えれば決して多いとは言えないが、積極的にデ−タのデジタル化が進められているようだ。

上記の2例が『電子図書館』化のモデルとして相応しいかどうかは別として、本学の図書館を含めて、問題点と改善策を3点だけ述べてみたい。まず第一に、これまでの単なる配置替えといった手段の繰り返しでジェネラリストとしてのスタッフから、スペシャリストとしてのスタッフへの専門職養成をしながら対応するには現行の情報化の動きについて行けなく、専門家の新規採用で対応すべきだ。欧米のように長期的に貢献できるコンピュ−タに強い博士号を持ったぐらいの専門職員を採用して対処するのが理想だが、それが無理なら現有スタッフの数年置きの配置替え等せず、専門研修を継続的にさせ、全体的なレベルアップに積極的に取り組んでもらうことだ。第二に、予算不足やスタッフの負担増があったとしても、現有資源のデ−タベ−ス化をできる限り進めて行き、どんどん公開できるものから公開すべきだ。第三に、登録者であれば館内外からアクセスでき、しかも使いやすいGUI (Graphical User Inferface)を構築して、高度な処理機能を持つサ−バ−群の設置とネットワ−ク環境作りが不可欠である。これらが実現すれば、『電子図書館』化の基礎は築けたとも言えるのではないだろうか。

本稿は豊橋技術科学大学付属図書館報『アレ−テイア』1996年7月1日、第15号、p.4に掲載されたものである。


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