「郷に入っては郷に従え」と言われるものの

野澤 和典(立命館大学)

 「異文化」間にも類似点や相違点が数多く存在する以上、異文化コミュニケ−ション活動における不十分な理解や誤解が必然的に生じるが、特定文化の中に2つ以上はある「下位文化(subculture)」においても同様のことが生じる。即ち、同じ日本人であっても、その生まれ育った下位文化の影響を大きく受けており、その後の人生において別の「下位文化」へ移り住んで様々な異文化衝突に出会い、大きくは共有する部分が多いので問題は少ないとしても、「下位文化」の違いから共有できなく誤解やミス・コミニュケ−ションをしてトラブルを起こしてしまうことも少なからずあるものである。「郷に入っては郷に従え」と言われるものの、必ずしもそうはできない場合も出てくる訳である。

 筆者は北関東に生まれ育ち、留学後は中部圏に20年近く在住し、執筆時点でまだ1年未満であるが関西圏に在住している関係で、日本文化を代表する3つの「下位文化」を体験してきていると言える。数年間隔で全国各地を転勤しているマスメデイア関係者のような転勤族と言われる人たちに比べれば、少ない経験ではあることは否めないが。これはあくまでも笑い話の類いであることを前置きしておくが、「異文化コミュニケ−ション」クラスなどで、異文化という観点で自文化理解を促進する目的もあり、「下位文化」の違いを紹介するステレオタイプ型イメ−ジの例として、次のようなことを話すことがある。

 東京で地元のビジネスマンが名古屋、大阪から出張してきたビジネスマンたちと夕食を一緒にした。和気あいあいとおしゃべりをしながら夕食を楽しんだ後、支払いをしようという時間になった。東京のビジネスマンは、地元でのことでもあり、見えっ張りの関東(東京)文化の影響(-_-#)か、「私に払わせてくれ」と主張し、すぐにも行動しようとする。一方、大阪からのビジネスマンは、本音で物事を処理する関西(大阪)文化の影響(O.O;)か、「いやいや、お気持ちには感謝するが、折半にしましょうや」と主張する。また、名古屋からのビジネスマンは、中京(名古屋)文化の特(Æ;)か、地元のビジネスマンからの折角の申し出なら受け入れるべきと考え、「有難うございます」とお礼を言う。(*^o^*)

というものであるが、学生諸君は「その通りやん」「いや、全くそうとも言えんやろなあ」などと反応する。読者諸氏ならどうお思いになるだろうか。人は誰しも様々な情報源から知識を得て、見知らぬ者

(Strangers)へのステレオタイプ的イメ−ジを創り上げ、それに基づいた行動をする。もちろん、上記の例は各「下位文化」の特徴を正確に表すものではないし、例えおおよそのことが当たっていると判断できたとしても、個人差があるので、当てはまらない者も当然出てくるのである。異(下位)文化理解は全体的な相違点にばかり注目するより、共有できる部分への理解から始まるべきで、個人レベルを中心としてされるべきであろう。そうすることによって、より豊かな、意義のある、分かち合えるコミュニケ−ションがされるはずである。

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