インタ−ネットを利用した英語教育の試み:WWWサ−フィンの授業

野澤 和典(豊橋技術科学大学)

0.はじめに
ここ数年、インタ−ネットという言葉を耳にしたり、目にするのが日常茶飯事であり、様々なメデイアで取り上げられてきている。書店では溢れんばかりのインタ−ネット関連の書籍類が売られている。また、一般利用者を対象にした商用プロバイダ−の数もうなぎ登りで設立されている。その結果、インタ−ネット人口が急速な増加をしていることは否めない事実である。しかし、教育機関でのインタ−ネット・ユ−ザ−は、まだまだ一部の人に限られているようにも思える。どうして普及が遅れているのだろうか。その理由の一つは「コンピュ−タ」であり、もう一つは「英語」である。「コンピュ−タも英語も苦手という人」には、敷居が高いのである。しかし、その壁を乗り越えねば、世界規模のインタ−ネット・サ−フィンや教育への応用などできやしないのである。基本的に英語教師はコンピュ−タだけの壁を乗り越えればよいので、問題は半減するとは言えまいか。常に語学教育のプロである以上、環境が整えば、新しいことに挑戦し続けるのが本来の姿であろう。すでにあちらこちらで実施されていて、もっと良いアプロ−チの方法があるであろうが、筆者の試みを紹介してみたい。

1.最新CALLラボラトリ(Computer Assisted Language Learning Laboratory)の設置
筆者が所属する語学センタ−では、開学当初設置され、ブ−ス36台から構成された旧LLが老朽化し、故障がちで、フルに利用できない状況にあった。多目的に利用することを前提に最前のシステムであることを念頭において、数年にわたって研究された。現況の教育・研究に不可欠なコンピュ−タを取り組んだ教育情報設備が必要であるという結論に達し、概算要求した結果、幸いにも95年の春に設置された。学内のコンピュ−タがワ−クステ−ション中心に設置されていることもあり、語学教育が中心となって活用する関係上、利用者である語学教師や学生が使いやすいものである必要があった。その結果、GUI (Graphical User Interface) やネットワ−ク環境がよいアップル・マッキントッシュとそれに対応できるLLの組み合わせを持つCALLラボとなった。CALLラボは、LL一式(ソニ−LLC-9000)、コンピュ−タ(Apple PowerPC 6100/60AV 54台 + PowerPC 8100/80AV 1台)、サ−バ−(ソニ−NEWS-5000WI)、ネットワ−ク(島津理化器械SchoolTalk)の各システムが統合化され、その時点では最新のものである。

2.インタ−ネットを利用した英語授業例
「インタ−ネットを利用した授業」が実践できるようになった95年4月の新学期から、さっそく幾つかの英語クラス等で授業を試みた。「インタ−ネットを利用した英語授業」といっても、電子メイル(e-mail)利用の授業、WWW(World Wide Web)利用の授業などと様々な授業形態が考えられる。ここではそれら授業の一つである学部4年次生対象の英語選択科目「WWWサ−フィング」に的を絞って紹介してみることとする。 履修した学生は理工系専攻の学生であることから、コンピュ−タ・リタラシ−教育は基本的に必要ないレベルではあるものの、できる限りトラブルを避けたいため、最初にマッキントッシュ・コンピュ−タの基本操作を説明した。さらにWWWの概説とブラウザであるNetscape (Ver. 1.1N)の使用方法について説明した。次に、キ−ワ−ド入力による検索エンジンのデモを含めた「WWWサ−フィング」の見本を示して、学生自ら積極的に興味のあるホ−ムペ−ジの散策し、そのホ−ムペ−ジについてのレポ−トをまとめ、英文で書く方法を理解してもらった。筆者が実施した「WWWサ−フィング」の基本的な授業展開は以下の通りである。

1)教師が用意した日本以外のホ−ムペ−ジ・アドレス・リストの中から適当な、あるいは関心のあるホ−ムペ−ジ・アドレスを打ち込み、リンクする。リンクした後はブラウザの機能の1つブックマ−ク(Bookmark)を使って、リンク先を保存しておく。学生は基本的に英語で書かれたホ−ムペ−ジのみを訪れることを前提としている。

2)リンクしたホ−ムペ−ジに書かれている文章を読んだり(Reading)、場合によっては音声情報を聞いたり(listening)するのに値する場合は、しばらく時間をかけて散策する。もし、面白くない内容なら、新たなリンク先をリストの中から選び直すか、あるいはNet Searchなどサ−チ・エンジンを利用して、新たなキ−ワ−ド検索で教師が渡したリスト以外のホ−ムペ−ジを探し、リンクし直す。

3)各授業(本校では75分/回、1学期9-10回の授業)中に1つ以上のホ−ムペ−ジを訪問し、その基本的な内容と印象などを英文でレポ−トする。(あらかじめ教師が作成した型にはまったレポ−ト用紙に書き入れ、授業終了後に提出する。)

3.授業評価
基本的な評価方法は、出席率(どのくらい授業参加したか:全体の30%)、レポ−トの量と質(最低1授業1枚のレポ−ト/量:全体の30%/質:全体の40%)を統合化した結果から、表計算ソフトのMS-Excel (Ver.5)を利用して算出した。

4.教師の役割
教師はあくまでもナビゲ−タ−としての仕事が中心で、自ら訪問価値のあるホ−ムペ−ジを検索して、OHC (Overhead Camera)と提示モニタを利用して情報提供をしたり、学生達が提出したレポ−トのまとめを毎回授業始めに報告したり、机間巡視しながら、操作トラブルの解消や書かれている英語や内容についての質問への回答をして歩いた。これまでの知識を与えるばかりの教師中心の授業形態とは異なった学習者中心のものである。教師は授業時間中よりは授業後に提出されたレポ−トの評価に多くの時間が取られた。

5.学生の反応
授業最後の時間に調査したアンケ−トの結果によれば、「WWWサ−フィング」の授業に関しては、約82%の者が「非常に面白かった」、そして約64%の者が「ほぼ満足できた」及び「非常に満足できた」と回答している。また、「コンピュ−タ利用の英語授業をこれからも実施してほしいか」という質問に対しも、約27%の者が「少しは必要である」、そして約73%の者が「大いに必要である」と回答し、全員が肯定的である。個々のレベルに合った好きな内容で、自らのペ−スでの英語学習が動機づけに有効かを示す良い例とは言えないだろうか。学生たちの授業評価(アンケ−ト調査結果)については、http://www.lc.tut.ac.jp/nozawa/CAIEng95.htmlを参照されたい。

6.授業改善のための課題
今後の授業改善策としては、CALLラボのサ−バ−であるワ−クステ−ションに、各学生のメ−ル・アドレスを設定し、レポ−トは電子メ−ルを使って教師に送らせ、デ−タ・ベ−ス化すると同時に、教師側のコメントを送り返すことをする(双方向/インタラクテイブなコミュニュケ−ションの実践)が求められている。また、クラス専用のメイルリストを立ち上げ、全員にそれらのレポ−トを配信するようにすれば、学生達がどこを訪問し、どのような英文を書いているかを理解できるようにする。その際、学生同士の評価(Peer grading)も取り入れると評価に柔軟性が生じる。こういった改善策がされれば、今回以上の充実した授業運営がなされるものと思う。

7.おわりに
紙面の関係上、95年度に実施した「インタ−ネットを利用した英語授業」の一部を簡単に報告したが、96年度は、上記の改善策を取り入れた授業を展開するばかりでなく、小グル−プによるホ−ムペ−ジ作りであるWebpage Projectsなど新たな挑戦をすることにしている。これまでとは異なる英語学習スタイルでの授業では、当然ながら評価方法も変わらねばならない。右往左往しながらも、教育工学と応用言語学との融合を計りながら、学習者中心の英語教育を推進していきたい。関連事項も含めて、こういった「インタ−ネット利用の英語教育」の試みにご関心のある方は、筆者のホ−ムペ−ジ(http://www.lc.tut.ac.jp/nozawa/nozawa.html)をご覧になっていただくか、直接電子メイル(nozawa@lc.tut.ac.jp)をお送りいただきたい。

<注>本稿は「LL通信(Communication Trhough Learning Laboratories)」190号(1996年8月1日)の18〜19ぺ−ジに掲載されたものである。


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