誤解を防ぐためのちょっとした国際人の常識・マナ−:生活習慣編

野澤和典(豊橋技術科学大学)

この小論は、『浜松英語研究会 - 4年目の歩み:広げよう、異文化交流の輪を』1992年12月、P. 4に掲載されたものである。

☆人を指さす、腕を組む、頬杖をつく、意味ある動作にご注意!

何気なくやる動作が、異文化では特別な意味を持ったり、全く違う意味を持つことは多い。ブルガリアの一部では、「YES」と「NO」を表現する時、頭でうなずく動作が英語圏などの場合と全く逆であるし、インドでも「YES」を表現する時に首をかしげるような動作をするので、「NO」と言っているように見えたり、日本人が手のひらを相手側に向けて「バイバイ」とやれば、英語圏では「こっちへ来い」になる、というのは有名な話。こういった非言語(ノンバ−バル)コミュニケ−ションの違いは、思わぬ誤解を生じさせ、ハプニングを引き起こす。日本人がよく誤解を招くのは、人や物を指さす行為。「あなた」「あれ」などと人差指を使って示す場合、マレ−シアなどのイスラム世界では、相手を侮辱してしまう。人差し指の代わりに、親指で指し示す。英語圏でも上司が部下を叱ったり、相手を非難する時に頻繁に使われ、いい意味では使われないのが普通。

腕を組むという行為は、相手に対して防御的な姿勢を示し、「君の話は受け入れない」などという意味になる。頬杖をついたり、椅子の背にもたれて後ろにふんぞりかえるという動作は、相手の話に興味がないことを示す。相手の話に興味があることを示すには、身を乗り出して、顔を反らさないことが必要だ。

☆人の身体に触れない、文化によっては特に女性に対して禁物!

最近の日本では、親しい間柄でお辞儀と同時に握手も時々なされることがあるが、抱擁やキスなど、通常の挨拶では人の身体に触れる習慣はない。握手の仕方もやや問題がある。特に軽くしか握手をしないことは、「好意的に見ていない」と相手に感じさせてしまう。インドでは、挨拶の時に男性とは握手しても、女性とはお辞儀だけ。一方、満員電車や人混みの中で、他人の身体に触れるのには比較的寛大であるのが日本人だが、欧米ではこれが嫌われる。少しでも触れたら、あるいは触れそうになっても、「すいません」の一言とその顔の表情をする必要がある。「Excuse me」や「Sorry」の英語がすぐに出なくとも、それだけでも通じるものだ。イスラムの世界では、安易に女性の身体に触れることは禁じられている。また、日本では、子供がかわいいと頭を撫でることをするが、イスラムの世界では一番重要な部分であるから、当然してはいけない。

☆始めから相手になれなれしくは逆効果!

所属先や肩書で仕事が進む社会構造持った日本と違って、多くの異文化では、個人的な信頼関係がモノを言う。前任者がうまくやっていても、後任者が同じようにできるとは限らない。再び人間関係を作り上げねばならないのが普通。しかし、知り合ってすぐに自宅へ招待するのは、相手に警戒心をもたせる。話題選びも難しいが、最初からプライベ−トなことは聞かない。いきなりファ−スト・ネ−ムやニック・ネ−ムで呼ぶのも考えもの。交流が進んでから徐々に変えていこう。贈物の仕方も気を付けよう。好意を示す余り、高額な品物をあげるのは、かえって相手に負担を感じさせる。お金をかけるより、演出に凝る方がよい。中国で大事にされている正月のお年玉、仲秋の名月の月餅など、相手の文化的背景を理解し、十分に配慮した行為が求められよう。


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