言語コミュニケーションセンター主催2000年度講演会
「立教大学の外国語教育の改革: 過去・現在・未来」を終えて

野澤 和典(2000年度BKC英語部会長)

 去る1月15日(月)午後4時から6時まで、衣笠とBKCとを結んだテレビ会議システムを利用しながら、言語コミュニケーションセンター主催の2000年度講演会が「立教大学の外国語教育の改革 ミ 過去・現在・未来」と題し、初代全学共通カリキュラム運営センター長としてリーダーシップを発揮された実松克義(立教大学社会学部助教授)をお招きし開催された。2000年度後期授業最終日と重なったため、参加者数は10数名と少なかったが、大変有意義な情報提供があり、本学での新たな改革に役立つ内容であった。
 まず始めに、実松氏は歴史的経緯を踏まえ、旧カリキュラム(旧一般教育部や旧英語カリキュラムの問題点や批判)を概説し、90名の専任教員に加え、多数の非常勤講師に依存した形態で、週一回でシラバスなしの「教養としての英語」授業の展開であり、空洞化現象が起こっていたことを指摘した。しかし、1992年の「ブルー答申」及び「ホワイト答申」を気運に、同年の文部省の「大学設置基準の大綱化」の影響もあってか、1993年に全学共通カリキュラムの素案と言われる「立教大学における外国語教育の充実発展を求めて」が文学部長により提案された。さらに、1994年に全学共通カリキュラム準備委員会が設置され、専門委員会が学部ヒアリングやアンケート調査などでニーズ・アナラシスをしてカリキュラム素案の立案をし、同年の総長への提案書である「グリーン答申」を上辞したとのことである。その後すぐに全学の横断的教授会の意味合いを持つ全学共通カリキュラムセンター運営センターが設立され、翌1995年に組織整備、スタッフ整備、新カリキュラム準備、事務体制の整備などを実施していったようである。
 1996年からは、パイロット・プログラムを一部前倒しで実施し、新カリキュラムは1997年から始まった。その結果、新/旧カリキュラムの移行期間は2000年度で完結したことになる。組織改編としては、前述の1994年の全学共通カリキュラムセンター運営センターの発足後、1996年には旧一般教育部の解体が行われ、言語系や保健体育系の教員を除く半数の総合系教員が学部所属となり、1998年には大学教育研究部の解体に伴い、言語系教員も学部所属となったとのことである。
 次に、全学共通カリキュラムについて、配付資料の一部である運営組織図(チャート)を示しながら、全学的な調整や意志決定を行う運営委員会、より実務的な調整や意志決定を行う構想小委員会(言語・総合)、カリキュラムの運営実務をする研究室、担当者との連絡をする担当者連絡会、事務的なサポートをする全カリ事務室及び全カリ教務課の役割などを概説した。
 さらに、カリキュラムについて、言語カリキュラムと総合カリキュラムを紹介してくれた。言語カリキュラムについては、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、日本語、諸言語が提供されており、英語8単位と初修外国語6単位からなる2言語履修が基本であり、必須カリキュラムと強化カリキュラムから構成されるとのことである。総合カリキュラムについては、人文科学、社会科学、自然科学、情報科学、スポーツ健康科学から成る総合A群と総合B群を合計した24単位が履修されるようである。
 言語カリキュラムにおける担当者は、専任、嘱託講師、非常勤講師から構成されているが、特に40名程の嘱託講師はランゲージセンターに所属し、最大5年まで契約可能で、日本人・外国人を問わないので若い優秀な人材が確保できているという。また、非常勤講師も新しい基準で立教大学の改革主旨に沿う有資格者を対象に採用し直したとのことである。
 次に、新英語カリキュラムについて詳細に説明していただいた。その理念は、第二言語習得理論の影響もあり、合理的なアプローチに基づく言語学習理論、文化の重要性を再認識した異文化教育、本学のような副専攻プログラムは実現していないが、有機的な結合を図った専門教育の充実、動機づけのための個別学習、他大学や海外提携大学も考慮した社会との連係を強化するための開かれたカリキュラムから構成されているという。
 実際の新英語カリキュラムについても、チャートを使いながら説明した。必修カリキュラム(8単位)では、プレイスメントテストを実施した後、コミュニカテイブ・コースと言語文化コースに分かれる。コミュニカテイブ・コースでは、コアクラスが週2回あり、プレゼンテーション・スキルの向上を目指すIWE、リスニング、リーデイング&ライテイングの3種類で、日本語を最大限排除した英語オンリーの授業運営が原則となっている。同様に言語文化コースも3種類で、独自の速読訓練プログラムのリーデイングとビデオ利用のリスニング、文化学習が中心の異文化間コミュニケーション、Pleasure Englishなど学部毎に異なる内容から構成されている。さらに、海外文化研修、望めば受講もできるが約5%の帰国子女を対象とした必修分(8単位)を免除したり、50名程度の夏季研修プログラム(4週間)参加者が対象で4単位分を免除したりする英語履修単位特別免除制度(中国語でも実施)、再履修クラスを廃止し、カウンセリングを含め事前研修をさせる年2回実施の単位認定試験について話された。本学でも同様のことを実施してきているが、特に単位認定試験について計画しており、大変参考になった。
 2年生以上が対象の自由選択科目では、インテンシブ・コースと目的別コースがあり、前者はレベル1(8単位)とレベル2(8単位)の計16単位が修得でき、欧米の大学へ留学しても問題なく履修できるレベルを目指す英語ゼミのような形態となっているようである。これは、本学でも専門科目との有機的な関係を保ちながら、今後導入すべき形態かも知れない。
 特徴としては、セメスター制、一番効果があったとされる集中カリキュラム、 コース選択制、コース別カリキュラム、クラス別の統一シラバス、初級・中級という緩やかな分け方のレベル別クラス編成、同一教員が週二度授業をするペア・クラス、30〜40人の少人数クラス、インテンシブ・コースなどの特別強化コースの実現があり、改革の成果であるという。
 英語担当者は、専任が21名、2/3が日本人で1/3が英語母語話者の嘱託講師が24名、非常勤講師が約50名で、総コマ数900のうち、70%以上を専任及び嘱託講師で展開できる状況であり、改革前とは逆となっているとのことである。
 運営は、研究室会議が月1〜2回あり、必要に応じて内部小委員会やカリキュラム会議が開催されている。また、2000年4月に新LL教室6棟が完成したこともあり、特別プロジェクトとしてリーデイング&リスニング教材開発プロジェクトが実施された。
 FD活動については、4月と9月の各セメスターに1回ではあるが、FDセミナーが開催され、特に9月は嘱託講師による授業研究が中心に行われている。その他、各セメスターに1回の担当者会、アンケート調査によるものであるが、学生や教員によるカリキュラム評価、学生による授業評価がなされ、集計分析の結果が活かされてきている。
 最後に実松氏は、全カリ改革の成果と課題についてまとめて報告し、成果としては、全学的、横断的な組織ができ、人事権、カリキュラム権の確保をし、抜本的な一般教育カリキュラムの改革が実現できたことが大きいと主張した。しかし、課題として、二重組織構造の矛盾を抱えながら、意志決定の煩雑さからの会議症候群、4年過ぎ安定飛行中と思われるカリキュラムに揺り戻しの傾向も多少見え隠れし、まだ手付かず状態の専門教育の改革などがあることを指摘した。そして、英語教育改革に的を絞った成果では、言語学習理論に基づくカリキュラム(基本的理念)の実現、全カリ効果とFD活動などによる教員の士気の向上、カリキュラム・プランナーや嘱託講師制度による優秀な人材の確保、教育効果に関するアンケート調査からの肯定的な反応などの成果を挙げた。一方、残された課題としては、技術的な問題に加え、さらなるカリキュラム改善、教授法の開発、さらなるモチベーションの高揚、「学習したい者だけ」を対象としたより大きな理想的目標への移行などを挙げた。
 講演そのものが盛り沢山の内容であったため、質疑応答の時間は予定より取れなく残念であったが、基本的なことは理解でき、また本学の今後の改革を考える上でも大変役立つ内容であったと言えよう。全カリについてのさらなる情報は、2001年2月発行の編集委員会編『立教大学<全カリ>のすべて : リベラル・アーツの再構築』東信堂を参考にされたい。

参考資料
実松克義 (1998). 「大学外国語教育に未来はあるか: 立教大学における英語教育改革の経験 -」『大学教育学会誌』20(1), 16-20.
「立教」編集員会 (1999). 「特集●座談会 インテンシブ・コース初年度を振り返る」『立教』169, 12-26.
立教大学 (2000). 『大学教育研究フォーラム:学生アンケート』5
立教大学 (2000). 『立教大学』


Copyright(C)2001 Kazunori Nozawa. All rights reserved.