「ハワイ・オアフ島沖での"えひめ丸"沈没事故 日本の対応、米国の対応

米国海軍の原子力潜水艦グリーンビルが起こした事故だけに、情報公開不足もあり、軍事裁判に至る前の査問委員会や米国政府運輸安全委員会の分析などによる事故原因の詳細が正式に公開されない限り、推測の域を越えないことも多い。しかし、これまでの情報公開から、原子力潜水艦に乗っていた退役軍人を含む民間人へのサービス・デモンストレーションの一つで、重要な情報を提供してくれるソナー(水中音波探知装置)を常時活用せず、安全確認を怠ったと思われる急速浮上そのものが衝突沈没事故の原因であることは言うまでもない。その結果、「えひめ丸」はあっという間に600メートルの深海に沈んでしまい、絶望的とはいえ、なお9名の行方不明者がいる状況は本当に悲惨であり、犠牲者の家族や関係者の悲しみは計り知れないものがあり、誰もが心を痛めている。

この事故(事件)への日米両政府の対応を巡って、各種メデアが報道してきているように、それらの妥当性が問われている。まず、日本政府の危機管理体制による対応の遅さやまずさに加え、強力かつ迅速なリーダーシップを取るべき森首相の言動が大きな問題となっている。危機管理体制に関わる全ての関係者が多地点にいる場合、官邸の危機管理センターに終結し、迅速かつ的確な対応をすることが難しいことはある程度理解できる。しかし、今回の事故(事件)の重大性をよく理解せず、指揮を取るべき森首相との連携がうまく機能していなかったばかりでなく、その後の米国側から犠牲者の家族へのメンタル・ケア提供を拒否したり、情報のスムーズな提供を求める態勢が弱かったりと、大いに反省すべき点がある。自民党のエゴと傲慢さで選ばれ、問題発言や開き直りを繰り返し、国際感覚がなく日本を代表する首相として全く相応しくない森首相については、すでに前々回の発言ボックスで私見を述べたので、彼の早急な辞任と若く有能なリーダーの登場を強く望む以外何もない。

次に、米国側の対応であるが、これはまさしく米国流の典型的な対応の仕方をしていると思う。即ち、軍事大国らしい米国ならではの軍事機密保持優先の事故処理の方法や犠牲者の家族への対応などである。ブッシュ大統領をはじめ政府関係者の即座の陳謝は早かったが、捜索活動の限界を見極め、犠牲者の家族の気持ちを逆なでるような突然の中止や規模縮小による再開を平然とやろうとした。罪と罰の考え方で自ずと解決するという考え方で合理的ではあるが、「察しのコミュニケーション」を重視したデリケートな精神面を持つ日本人をよく理解していない行動であったと言わざるを得ない。海軍は国家運輸安全委員会に全ての情報を提供しているかどうか分からないが、委員会が要請した潜水艦船長への直接的な査問や犠牲者の家族が強く希望している直接的な説明と陳謝は現時点ではできていない。しかしながら、犠牲者家族へのメンタル・ケア提供の申し出など、人道的な立場に立った対応をしている点は評価すべきであろう。さらに、日系ハワイ在住者を中心に、継続的な海上捜査協力や犠牲者への募金活動など、心温まる言動もある。

日米どちらの対応にも不十分さが残っているし、その文化背景が今回の事故対応に大きく影響したとも言える。どんな事故・事件などに対する完璧な対応・処理方法などあり得ないが、関係者の大多数が納得できるレベルのものであって欲しい。いかに難しく費用と時間がかかるとしても、日米両方が最大限の協力をし合って、「えひめ丸」を引き上げてもらうことと、原因分析結果の早急な公開と今後の事故防止改善策の提示、ワドル前艦長や軍関係者の厳正なる処罰を切に願っている。


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