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03.21

PEOPLE

2017

主体性と思考力を養う、自発的学習「PBL」とは?


寺脇 拓教授

担当科目環境経済評価論、社会調査入門、環境・地域経済論 など
研究テーマ非市場財の経済評価とその管理に関する研究
主な研究環境経済学・農業経済学の分野で、環境や食の安全性、あるいは歴史文化財の価値を経済学的に評価する研究に取り組んでいる。これらは市場で直接取引されないので通常は価格がつかないが、価値が無いわけではない。このような「非市場財」の価値を金銭単位で表すことで、それらに対する人々の選好を明らかにするとともに、社会的に望ましい非市場財の管理の在り方を探っている。

「ハンバーガーにいくら払えるか?」から環境問題を考える。

みなさんの中には、経済学を世の中のお金の流れを分析する学問としてイメージされる方が多いのではないでしょうか。しかし、実は経済学はお金の動きだけを見ているわけではありません。経済学は、実際のお金の介在に関わらず「どうすれば世の中が幸せになるか?」を追求し、その観点からより良い社会の仕組みを考える学問なのです。

私が専門にしている環境経済学では、人間社会の幸福を基準にして、自然環境をいかに適切に管理するかを考えます。自然環境を対象とするため、環境経済学は自然科学分野の生態学と密接に関係することになりますが、両者の環境に対する見方は大きく異なります。
生態学は自然環境におけるさまざまな生き物の関係性を明らかにする学問であり、そこではしばしば自然環境の保全を前提に議論が展開されます。しかし環境経済学は、人間社会に与える便益と費用(プラス面とマイナス面)の両方を考慮した上で、そもそも自然環境を守る取り組みは必要なのか、あるいはどのレベルまで環境を保全するべきなのか、というところから考えます。保全の取り組みに費用が掛かる以上、社会の幸福を考えれば、初めから「自然環境を優先して守る」という考えにはならないのです。

例えば、滋賀県にある琵琶湖では、外国から持ち込まれたブラックバスが増えることによって、そこで暮らす生き物の多様性が損なわれることが危惧されています。昨年度私のゼミの2回生は、この琵琶湖の外来魚問題に注目し、その解決策としてブラックバスの食用化を進めることが望ましいのかどうかをテーマに調査、研究を行い、分析の結果を論文にまとめました。

ブラックバスバーガーに対する支払意思額の調査(2015年度)

ブラックバスはもともと食用の魚で、その白身をフライにしてバンズで挟んだ「ブラックバスバーガー」がすでに商品化され、滋賀県内の一部のお店で販売されています。しかしながら、現状では仕入れに費用がかかり、調理にも手間がかかってしまうため、どうしても価格が割高になってしまう。たとえ琵琶湖の環境保全に貢献し、かつおいしいものであったとしても、多くの人がその金額を受け入れられなければ、ブラックバスバーガーの消費を定着させることは難しく、またその必要性も支持されないでしょう。そこで学生たちは、まだ決して認知度が高くないこのブラックバスバーガーに対して、人々が実はどれだけのお金を支払う意思を持っているのかを調査し、そのデータを分析することで、ブラックバスバーガーの普及可能性を検討しました。

学生たちはまず、被験者に「ブラックバスバーガーに最大いくらまで支払えますか?」と尋ねました。この「いくらまで支払えるか」という金額を支払意思額(Willingness to Pay)といいます。結果、その支払意思額は現在の価格を上回るほどのものではありませんでした。そこで彼らは続けて、琵琶湖の外来魚問題とブラックバスの食用化の意義を説明し、その上でもう一度同じ質問を被験者に投げかけました。支払意思額が小さくなった原因は人々の知識不足にあり、これらの情報を与えることで金額がより大きくなるだろうと考えたからです。さらに、ほとんどの人がブラックバスバーガーを食べた経験がないことから、それを実際に食べてもらい、再度同じ質問をしました。結果として、環境と食味に関する情報を与えることで、この支払意思額が段階的に大きくなる傾向が観察されました。

彼らの研究から、「琵琶湖の外来魚問題に対する人々の理解が深まり、かつブラックバスがおいしい食材であることを周知できれば、将来的にブラックバスバーガーが滋賀の新しい食文化として定着する可能性が大いにあり、それは琵琶湖の外来魚問題の解決に貢献するだろう」といった結論が導かれます。このように環境経済学は、支払意思額の概念を用いて自然環境を守る取り組みの意義を明確にし、さらに費用との比較からその必要性を考える学問なのです。

PBLが、一歩先に踏み出す力を育成する。

立命館大学には、学生が主体となって正課外で取り組む多様な学習活動を支援する「学びのコミュニティ集団形成助成金」制度があります。私のゼミでは、2012年度から毎年この助成金を受けながら、有志のメンバーでゼミの研究成果を発展させるプロジェクトを立ち上げ、自主的かつ集団的な研究活動に取り組んでいます。

歴史景観の町 近江八幡 インバウンド観光振興プロジェクト(2016年度)

今年は、昨年度ブラックバス問題について研究した学生たちが3回生になり、彼らを中心に、滋賀県近江八幡市の観光振興を目的とする「歴史景観の町 近江八幡 インバウンド観光振興プロジェクト」を企画しました。このプロジェクトは、外国人を対象として、歴史的な街並みや景観が多数残されている八幡堀とその周辺地域を紹介する動画を作成し、その配信が外国人旅行者を近江八幡に呼び込むことにつながるかどうかを検証しようとする取り組みです。昨年度の2回生のゼミでは、外来魚問題をテーマとしたグループとはまた別のグループが近江八幡における時代劇のロケ地活用が生み出す観光便益を計測しており、その成果に基づいてこのプロジェクトが計画されました。
これまでにも、草津の地場野菜「愛彩菜」をテーマに地産地消の環境保全的な役割をアピールし、それが地場農産物の売上アップにつながることを実証したり(「フードマイレージによる地産地消促進プロジェクト」2015年度実施)、宇治茶スイーツ店マップを作製して、その配布が宇治の観光振興に大きく貢献することを明らかにしたりする活動(「宇治茶スイーツによる観光振興プロジェクト」2013年度実施)を行ってきました。いずれも正課のゼミの研究成果を生かした、有志で取り組む正課「外」の活動であり、単位認定とは無関係な、自主的なプロジェクトです。

フードマイレージによる地産地消促進プロジェクト(2015年度)

このような提案型のプロジェクトに学生が自発的に取り組む学習方法は、一般にPBL(Project/Problem Based Learning)と呼ばれています。PBLは、企画・立案から問題解決策を導き出すまでの過程を経験することで、現実の社会問題に対する理解と実践的な知識の習得を目的とするものであり、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」としての「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」を養うことが期待されます。
私のゼミでは2回生の時に1年間をかけて研究した成果を、その翌年度正課外PBLとして発展させる挑戦を続けており、それによる学生たちの知識の定着と知識を展開する力の養成を目指しています。また、企業や地域社会と連携する中で、現実のニーズに即した説得的な説明がしばしば求められることから、この経験を通して彼らの思考力は一層磨かれることになるでしょう。加えて、上下の回生も巻き込んで活動を行うことにより、集団の中で協働する力が身につくことも期待できます。
私は、最近の学生たちの社会貢献を通じて自らも成長しようとする意欲の高さを強く感じています。PBLの提供は、そうした学生の成長意欲に刺激を与え、彼らの主体性や思考力を育むことに貢献するものと確信しています。

大学生の4年間は一生のうちで唯一、犠牲が少ないがゆえに何事にも自由に挑戦できる貴重な時間です。学生のみなさんには自主的な学びを通して、論理的思考力とともに、自ら判断して前に踏み出していくことができる「主体性」を身につけていただきたいと思っております。

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