WHY?
#07

イギリスの名誉革命はなぜ実現したのか?
フランス革命ではなぜ国王がギロチンにかけれらたのか? 
ゲーム理論で革命を読み解く。

QUESTION

世界では多くの革命が起こりましたが、権力を持つ側(貴族)が自らその権力を民衆に明け渡したことはほとんどありません。その稀有な例の一つがイギリスの「名誉革命」でしょう。名誉革命は、当時の権力者が、民衆に対して投票や議会の開催を認めた「権利の章典」にサインすることで実現します。この当時、清教徒革命の影響もあり、イギリス市民は王様の絶対権力に否定的でした。この時王位にあったジェームズ2世以外の貴族は革命を恐れ次々と造反し、結果としてイギリス王室は、市民の要請によってイギリス上陸したオランダ総督ウィレム3世とメアリーの夫妻に移ります。二人は立憲君主制を認める権利の章典にサインし、名誉革命は実現しました。なぜ体制側が権利を放棄し、名誉革命が実現したのでしょうか?

HINTS 人間はお互いの行動を読みあいながら
自分の行動を決定する。
ゲーム理論を使って、名誉革命を考えてみましょう。

革命を分析するには、次の二つの行動を考えることが必要です。
①なぜ革命を起こすのか?
②なぜ革命を起こさせるのか?

①は革命を起こす市民側の行動です。市民は、革命を起こすこともできますが、革命を起こさず体制への服従を選択することも可能です。では、なぜ革命を選択するのでしょうか? 市民は革命を実施することで得られる満足(税金が安くなるなどの金銭的な利益or心理的な達成感など、様々なものを含みます。以下では「利得」と呼びます)と革命のコスト(失敗したときに逮捕されるor革命のときに命を落とすなど)を比べて、革命か服従かを選択します。革命による利得が革命のコストを上回れば革命を起こしますが、利得よりもコストが大きいなら服従を選びます。これが市民の行動です。

②は革命を起こされる体制(貴族)側の行動を考えるものです。革命は、体制側にとって天災のように突然発生するものではなく、予兆(不平・不満や小規模な暴動など)があったはずです。その予兆を無視し、体制維持を選択することで革命が発生します。では、なぜ体制維持を選択するのでしょうか?市民と同様に、体制側も革命による利得とコストを考えます。体制維持をすれば、大きな利得(資産や税収など)が手に入りますが、もし革命が発生すると命を失います。一方、権利を放棄すれば命は助かりますが、権力は失われます。したがって、体制維持の利得が革命により命を失う危険性よりも魅力的であれば体制維持を目指しますが、体制維持の利得が小さければ権力の放棄を行うでしょう。これが体制側(貴族)の行動です。

このように、人間はお互いの行動を読みあいながら自分の行動を決定する、と考える学問をゲーム理論と言います。このゲーム理論を使って、名誉革命が実現した理由を考えてみましょう。

17世紀のイギリスでは、体制側(貴族)の方が市民よりも大きな権力を持ち、有利な立場にあったと考えられます。市民は、貴族が“体制維持”か“権利の放棄”かを選んだ後に、自分たちの行動(革命か服従か)を決めます。革命は大きな犠牲を伴うので、もし体制側が(課税や法律制定などの)権利を市民に譲るならば、市民は革命を起こさないでしょう。一方、体制側が体制維持を選択する場合、革命による利得が革命のコストを超える市民は革命に賛成しますが、革命のコストを大きく考える(or革命からの利得を小さく考える)市民は革命に反対します。このため、体制維持を選択された場合は、ある一定確率で革命が発生します。これが市民側の行動です。

この市民の行動を考えて、体制側は①権利を放棄する、あるいは②体制を維持する、という二つの選択肢を選ぶことになります。もし①を選択した場合、革命は起きないため自分たちの命や財産は守られるでしょう。一方、②を選択して革命を起こされると命すら奪われますが、(市民が服従を選択し)革命が起きず体制が維持された場合、多くの権力と富が手に入ります。このように、革命の発生確率を考えながら、体制維持か権力放棄かを決めることが体制側の行動になります。

では、なぜ体制側が権利を放棄し、名誉革命は実現したのでしょうか?
第1の理由は、革命の可能性が高いと考えたからです。清教徒革命以後のイギリスでは、市民は犠牲が大きくても、革命で自分たちの権利を拡大させたいと考えていました。このため、体制側が権利を放棄しない限り革命が起きる可能性が非常に高かった、と考えるべきでしょう。
第2の理由は、体制が維持できても利得がそれほど大きくなかったためです。体制を維持したとしても、新たな領土や資産が手に入るわけではないため、体制維持の利得は決して大きくなかったと言えるでしょう。革命の可能性が高く、体制維持に努力しても得られるものが少ないと考えた体制側の貴族の多くは、権利の放棄による命の安全を選択しました。これら二つの理由が重なって、名誉革命は実現したのです。

以上の考え方を使うと、その他の革命を分析することも可能です。フランス革命では、なぜ国王と王妃がギロチンにかけれらてしまったのでしょうか? 日本の明治維新では、大政奉還が実現しながら、なぜ戊辰戦争は起きてしまったのでしょうか? 皆さんも考えてみてください。

KEYWORD経済学的キーワード

ここでの分析や、ゲーム理論を投票行動や政策決定に応用した分析は、「ゲーム理論で考える政治学」(浅古泰史著)で詳しく述べられています。興味のある人は、ぜひ読んでみてください。

この分析は、経済学の#ゲーム理論 #政治経済学 #マクロ経済学 #ミクロ経済学 などの考え方で組み立てられており、そのエッセンスは「経済政策ユニット」の「経済政策論」、基礎科目の「ゲーム理論」といった科目で学ぶことができます。

「経済政策ユニット」の科目では、経済政策に関わる理論、制度を学ぶとともに、データ分析や事例研究を通じ日本経済が抱える様々な問題の本質を洞察する力を養い、俯瞰的かつ理論的な視点から政策課題の解決策を提案できる力を養います。

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