太秦の人ではない、外の人間。
文字学研究者 榎大地

映画には形として現れなくとも、様々な文字学の勉強を役作りとして行う役者の姿。
語彙カードづくり、甲骨文合集のトレース作業…


 文字学という学問を少しでも知りたくて研究者がどのような事をするのか教えていただき実際に自分でもその作業をやらせていただきました。自分が研究者たちの苦労にどこまで迫れたのかはわかりませんが、やっていて何だか途方も無い作業をされているのだという事は理解できました。
 映画の中でも登場する語彙カード(特定の文字とその文字の文脈を一枚に記した名刺大のカードで漢字5~10文字程度を記入)にしても、甲骨文合集のトレースにしても、それらは古代文字を読んだり解読したりする自らの能力の基礎を築くためのものなのでしょうが、とにかく地道な作業です。
 語彙カードは本に印刷されている漢字の数だけ作る事になります。例えば1ページに1000文字分の漢文が書いてあるとすれば1ページ分のカードは1000枚です。トレースは甲羅や骨に書かれていた文字をひたすらトレーシングペーパーに写す作業です。本当にこの学問に魅力を感じた人間で無ければこれらの作業は続けられるものではないと思いました。
 漢文は西周時代の青銅器に彫られた金文だから、見たこともない画数の多い難しい漢字ばかりで僕がそのカードを一枚書くのに数分掛かりました。話がとびますが、最近ノーベル賞を受賞された下村さんはクラゲを85万匹以上採取したとか。何と言うか、こういった地道な作業を継続していくことが果たして何らかの成果をもたらすのか、普通ならやっている最中に不安になるし迷いが生じるものじゃないかと僕などは思ってしまうのですが、そこを迷わず続けて行かれる事こそがこういった研究者たちの非凡さなのではないかと思ったりしました。榎大地という人間を考える上でもそういう事は少し意識したかもしれません。自分がある変わった道を進んで行く事に迷いが無い人とでもいいますか。山田監督は榎大地という人物についてよく「変人」というキーワードを口にされていたのですが、この迷いの無さが変人に繋がる気がしていました。そして一目ぼれした相手に対しても迷わず進んで行きます(笑)。


  

初めは東出さんのご主人に嫌われていた。
娘(東出京子)を取られるのでは無いかという、
本当の気持ちが東出さんには現れていたのかもしれない。
 そういう噂を間接的に聞きました(笑)。本当のところはどうなのか分かりません。東出のご主人が娘を取られると思ったのか、ただ僕が気に入らなかったのか僕には分かりませんが、でも映画の中では決して打ち解けるような関係じゃないし東出のお父さんにご挨拶までしてるのに最終的にはその娘に駆け落ちまがいな事を持ちかけますからね。台本を読んでいれば多分自然と敵対心が沸きますよね(笑)。でも今では仲良しですし、僕は東出のご夫婦が大好きです。京都を離れる前に食事に誘っていただいたりして凄く楽しかった。その席で例の噂についてははっきりは伺ってませんが…(笑)。


榎大地の気持ちになって、寝ずに撮影に挑んだのだとか。

 寝ずに挑んだのは事実なんですが、寝ないように努力した訳でもないんです。言い換えると興奮して眠れませんでした。JR京都駅で撮影するにあたり少し制限があったので前日にその制限内で最大限に良いシーンを撮るためにアナウンスから新幹線がホームに停止するまでの時間を計って逆算したところからスタートするテストを繰り返したり、こりゃ絶対NG出せないなと思ったら何だか興奮してしまって。あの夜はそのテストが終わって帰ってから相手役の事を考えたり場面や台詞を反芻しながら10キロ近く夜の京都の町を歩いたと思います。人気の無い道を探して2時間以上。2時頃帰ってきて4時には出る準備でしたから寝るも何も無い感じですけど(笑)。
    

 そして無事駅のシーンの撮影が終了して僕は皆より一足先にクランクアップを迎えた訳ですが、まぁ、キレイに騙されました。僕のシーンの撮影が終わったら直ぐ次の撮影があるから皆忙しいし、改たまってご挨拶やお礼を皆に言える時間は無いなぁこれじゃ、と半ば諦めたんですが、着替えのマイクロバスに向かうのに駅の出口を出たら人がズラッと並んでいて、僕は最初何の騒ぎだか分からなかったんです。視線が全部自分を向いているのを見て、「わー」と思いました。監督をはじめ、スタッフ、キャストの皆にクランクアップを祝ってもらって、もうそれはそれは嬉しかったし、なんともったいないって思った。あの時はこれが僕の人生のピークだなって思いました。



 先日初めてお客さんに混じってMOVIX京都で冷静に映画を観させていただきましたが…良い映画です!この作品に関わる事が出来て本当に幸福でした。関われて無かったら…なんて考えるのもイヤです。なるべく多くの人に観ていただきたいです。この映画は山田監督の指揮の元、学生たちが商業的にも通用する映画を造るべく2009年の秋を駆け抜けたその結果です。この映画の完成迄の道のりも本編に負けないドラマです。エンドロールをご覧になればそれは分かるのですが、そんな事も踏まえてこの映画をご覧になると尚一層楽しめると思います。十年後、二十年後、三十年後、いつ振り返っても彼らの青春は記録として残っているのだからそれは幸せな事ですよね。僕も40を前にして彼らと映画つくりを通してまた青春を味わった気がしました。ありがとう。

田中壮太郎さん、ありがとうございました!
文/田中壮太郎
構成・文・ページデザイン/立命館大学学生スタッフ