第Ⅱ章

各パートから出された主要な論点

1.学友会から出された主要な論点

2019年度全学協議会の議論では、学友会は2018年度までの議論を踏まえ、また学生の実態に即した協議を進めるため、学生部と共同で実施した「新入生アンケート(以下、新入生アンケートという)」や、学友会が独自に全学生を対象として実施した「全学学生アンケート2019(以下、学友会アンケートという)」において学生実態やニーズの把握を進めました。公開で行った第1回全学協議会では、こうした学生の声に基づき優先的に議論すべき論点を整理し、(1)教学施策について、(2)学生生活の向上について、(3)今後の学園創造(学費提起に関する論点も含む)の3点を重点的に議論することを求めました。学友会が提起した具体的な論点は以下のとおりです。

(1)教学施策について

① 受講登録について

学友会は、大学で充実した学びを進めるための手続きである受講登録について、以下の点を主張しました。シラバスは大学の学びにおいて重要であることは理解しているが、学友会アンケートの結果から学生の利用実態をみると、大半の学生がシラバスの「評価方法」を確認するものの、授業を選択する際に重要な「授業の到達目標」を確認する学生が少ないといった実態を指摘しました。その上で、シラバスの記載内容について確認すべきポイントが明確ではなく、学生が授業を選択する際に活用しやすいものになっていない点を課題として指摘しました。また、シラバスの有効活用に向けて、過去の授業アンケート結果が参照しやすいような工夫も必要である点を併せて主張しました。この他、受講登録に関わり、受講登録期間を第1回目の授業を受講した後に設定することにより、より的確な授業選択ができることも考えられることから、そうした設定となっていない現行の受講登録期間について、大学の見解を求めました。

② 授業におけるフォローアップ

学友会は、予復習や授業を欠席した学生へのフォローアップとして、授業を支援するためのe-learningツール「manaba+R」の教材を配布する機能等について、授業担当教員の利用を促進する余地がある点を指摘し、具体的な改善策・数値目標の提示を求めました。
また、授業におけるフォローアップに関して、課外自主活動に参加している学生が試合・大会等の参加の際に教員に提出する「試合等参加証明書」の運用について、2018年度から継続して証明書が授業担当教員に受理されないといった、運用面の課題が依然として解消されていない実態を学友会アンケート結果から示しました。この背景として、制度の意義や目的について、教員・学生の双方の理解が不足していることが想定されると指摘しました。

Q10.manaba+Rでのレジュメ配布の充実度( =2055)
学友会アンケートQ10
立命館大学学友会
『全学学生アンケート2019回答結果報告書』.2019:p.6
③ 英語での学び

社会において急速なグローバル化が進む今日では、大学で外国語(英語)を学び、英語能力を身に付けることの重要性が高まっています。学友会は、大学が実施した「学びと成長調査」において、大学の英語の授業で身に付けた英語能力について自己評価が低い学生が多い傾向があることが重要な課題であると捉え、指摘しました。また、学友会は、外国語の運用能力を測ることができる国際的な指標であるCEFR※1の在学生の成績では、B1レベルに達する学生が増加傾向にあるという大学が実施した調査結果に対し、学友会アンケートでは英語能力に関わる成長を3割程度の学生しか実感していない実態について明らかにしました。このことから、大学で身につけた英語能力が、学生が理想とする英語能力に達していない点も課題として指摘しました。

この改善に向けて学友会は、既存の英語の学びについて、正課の授業、Beyond Borders Plaza※2(以下、BBPという)における語学学習コンテンツ、留学といった大学による様々な施策の関連性を学生が把握できていない点を指摘しました。また、こうした状況を解消するために、大学の各部門が連携し、外国語授業や教養科目、留学等を組み合わせて語学運用能力を高める仕組み等を提供し、学生の成長に寄与するプログラムを展開することを求めました。さらに、この英語能力については、全学で共通する事情と、学部の特性に応じた事情もあり、特に学部の特性に応じた学びについて、各学部の五者懇談会等で学生と議論していくことを求めました。

※1 語学力を測る基準として欧州評議会が研究し、欧州を中心に2001年から公式に活用されている国際基準。
※2 教学部と国際部が協働運営するコモンズ。オンキャンパスの国際交流や企画立案を通じ、多文化共生や海外派遣意欲の醸成ならびに留学生への多様な支援を行い、また、外国語の自律学習支援における拠点の役割を果たす。

Q21.回生を重ねるごとに英語能力は向上しているか( =2055)
学友会アンケートQ21
立命館大学学友会
『全学学生アンケート2019回答結果報告書』.2019:p.9
④ 初年次教育について

学友会は、2018年度全学協議会で確認した『オリター活動に関する確認事項』『オリター活動・支援のフレームワーク』に基づく、オリター・エンター(以下、オリターという)活動および支援の進捗の共有・確認を求めました。また、2019年度に学友会と大学が共同で実施した新入生アンケートから、入学直後のオリエンテーション期間において、同時期に履修登録、奨学金、課外自主活動などの多くの情報が新入生に提供され、情報過多の傾向が見られるという実態が明らかとなりました。
この上で、学友会は今後の新入生に向けた支援を行うにあたり、

  • 1)
    学内外の他のピア・サポート団体の活動情報・ノウハウ・課題等の情報、学部が独自で新入生を対象に行っている支援に関する情報をオリター団に提供をすること
  • 2)
    こうした新入生の支援を取り巻く環境を踏まえ、オリター団の役割について改めて大学と協議・検討・確認をすること
  • 3)
    学部とオリター団がさらに連携を図れる取り組みを進めること

などを求めました。

NEXT:第Ⅱ章 各パートから出された主要な論点(2)学生生活・キャンパス環境向上について

(2)学生生活・キャンパス環境向上について

① 食環境について

学友会アンケートにおいて、98%の学生が「食堂の混雑を感じている」と回答した結果を踏まえ、学友会は、最優先で取り組む課題として昼時間帯の一時的な混雑の緩和を大学に求めました。その改善に向けては、各キャンパスにおける食堂の混雑状況の分析、大規模な施設改修を含めた中長期的かつ抜本的な混雑を解消する施策の検討、学生の利便性を高めるキャシュレス決済の導入を提起しました。あわせて、キャンパスごとの現状を踏まえ、衣笠キャンパスでは食堂以外で食事ができるスペースの確保、移動販売車等のランチストリートの充実、びわこ・くさつキャンパス(以下、BKCという)ではコンビニ・ファーストフード・カフェ等の外部企業の誘致、大阪いばらきキャンパス(以下、OICという)では食事ができるスペースの確保など、具体的な協議を進めることを求めました。

② 空調管理について

近年の猛暑等の外部環境の変化によって、夏期を中心に室内でも熱中症等の危険性が高まっていることから、学友会は空調管理について、

  • 1)
    教員が授業中に適切に教室の温度管理ができるよう空調設備の利用方法や問い合わせ先の周知徹底
  • 2)
    教室規模や受講する学生数に応じた適切な教室の温度管理(大規模な教室で室内の温度にムラが発生する問題)の実施
  • 3)
    学習スペースやコモンズとしての利用度が高まっているコンコースや廊下、教室以外の共有スペース(課外自主活動施設等を含む)の適切な温度管理、空調設備の導入
  • 4)
    建物を管理する部署によって異なる空調設備の利用ルールを整理・明確化するための実態調査

を行い、スケジュールを含めた具体的な改善策の提示を求めました。また、空調管理についてもキャンパスごとの状況が異なることから、具体的な改善に向けてキャンパス単位での懇談会等で継続して協議することを求めました。

③ キャンパス禁煙について

学友会は、健康増進法の改正に伴って全面禁煙から特定屋外喫煙場所を除く敷地内禁煙へとキャンパス禁煙の取り扱いが実質的に変更となった点について、喫煙する学生が一定数存在するキャンパスの実態に即した対応であると、大学の取り組みを一定評価しました。その上で学友会アンケートでは4割の学生が「望まない受動喫煙の被害を受けている」と回答している実態を指摘し、キャンパス内での受動喫煙防止策の徹底や新たにたばこを吸い始める学生を生まないための喫煙リスクの周知、および現在たばこを吸っている学生への卒煙支援の促進を求めました。

④学生生活・キャンパス環境の向上のため継続的に協議する論点

学友会は、第1回全学協議会で協議した上記論点とともに、その後開催された懇談会において、以下の点についての改善と継続的な協議を大学に求めました。

  • 1)
    OICアリーナの空調施設、OICでの課外自主活動施設の拡充、キャンパス外のスポーツ施設(柊野、艇庫等)の運用など、利用実態と学生ニーズを調査し、課外自主活動施設の整備改善にむけた議論を継続していくこと。
  • 2)
    シャトルバスについては、利用が集中し、混雑する時間帯があるかなど、キャンパスを超えて活動するクラブへのヒアリング等の実態調査を行い、運行の改善に向けた協議を継続すること。
  • 3)
    施設利用に関する受付窓口の開室時間が課外自主活動の活動時間帯と乖離があるため、十分な支援がなされているとは言えないことから、受付窓口の開室時間の延長を検討すること。加えて、キャンパスを超えた活動を促進することにもつながることから、教室予約のWEB化についても検討すること。
  • 4)
    課外自主活動に関する情報発信機能の充実と大学から発信する情報を学生に効果的に伝えるための情報発信場所(掲示板やデジタルサイネージ)の確保について検討すること。
  • 5)
    奨学金について、必要な情報を受け取れていないことで制度への理解が不足している学生が存在しているという懸念があり、各種奨学金の制度や目的について学生へ周知徹底すること。
  • 6)
    通学で利用するバスの混雑解消に向けて(増便すること)や駐輪場の新設・移設、自転車の通学ルール等について、学生の利用実態を調査した上で、改善の必要性も含めて継続して協議していくこと。
  • 7)
    ダイバーシティ&インクルージョン※3に対応する環境の整備に向け、昨年度全学協議会で確認されたジェンダー・セクシャリティ相談・支援体制の構築に関する大学の取り組み状況の進捗を共有すること。

※3 学園として、立命館憲章に基づき、「個人、組織、地域、国、風習、文化、世代をはじめとする社会のあらゆる多様性を前提とし、個人の意見や考え方の違いを理解・尊重し、他者と協働しながら多様な『つながり』を育む学園(R2030学園ビジョンより抜粋)」を目指して、性的マイノリティに対する支援、障害学生支援等を推進する取り組み。

NEXT:第Ⅱ章 各パートから出された主要な論点(3)今後の学園創造について

(3)今後の学園創造について

学友会としては、学費・財政政策が、教学課題や学生生活をはじめとした学園創造との関わりの中で議論されるべきものであるとの立場を示した上で、以下の論点を提起しました。

① 学部学費政策について

大学が提示した2020年度・2021年度学費提起について、学友会は反対の立場を表明しました。増収を図る目的ではなく、財政規模(収入規模)を維持することを目的としていることに一定の理解を示しつつ、実質増額となるにも関わらず、それに見合った教学や学生生活に関する課題の改善が十分に示されていないことから、大学に対し学生・負担者が納得できる説明を求めました。
その上で、2021年度の全学協議会へ向けて、

  • 1)
    2022年度以降の学費について協議するにあたり、前提となる学園財政などの情報公開・提供といった可視化の取り組みを十分に行うこと
  • 2)
    可視化された情報を踏まえた財政に関わる学習会や懇談会といった機会を持つこと
  • 3)
    2030年度にむけた中長期的な計画において学費への依存度を下げる取り組み(寄付、資産運用等)の具体化

を求めました。

② 学生の成長の可視化について

学友会は、学生の成長を可視化することが、大学での正課の授業や課外自主活動を通じた学生自身の成長の実感につながるとの見解を示しました。また、大学入学後の学生の成長のプロセスを可視化することが、大学の魅力発信につながるとの見解も示しました。その上で、授業アンケートや学びの成長調査等の正課の授業を通じた成長に関する調査に加え、課外自主活動を通じた学生の成長の可視化を具体化し、学生生活を通した総合的な学生の成長に関するデータを蓄積する仕組みづくり、データを活用した学生への学びのアドバイスや発展的な学びにつなげる支援構築の検討を求めました。

③ わくわくするキャンパスづくり

仲谷総長より出された今後の学園創造に向けたメッセージである「わくわくするキャンパスづくり」について、学友会は賛同し、積極的に関わっていきたいという立場を表明しました。そのために、学生の知的好奇心を喚起し、時代に即した学びやすい環境づくりを進めることが重要であり、学友会アンケートでの学生の意見を踏まえ、

  • 1)
    キャンパス環境の充実に向け、まずは駐輪場や食堂の混雑状況、バスの待ち時間等の情報等を最新の技術を活用して可視化すること
  • 2)
    授業でのICT機器の利用や学生が保有するデバイスをキャンパスに持ち込み、学習、研究するBring Your Own Device(以下、BYODという)の推進
  • 3)
    本学の最先端の研究に学生が触れ合い知的好奇心の喚起を促す環境の整備、について検討すること

を求めました。

④ 学園の見える化・発信

学友会は、大学の教学施策、財政政策を含めた様々な情報が学生に十分周知できていないことが、教学、学生生活における改善を学生が実感できていない原因になっており、多くの課題につながっていることを指摘しました。学生にとっては、「大学が変わった、変わっていくという『実感』が必要」であると主張し、学生が実感を得ることにつながる施策の実行と、その情報が学生に届くよう大学から発信されることを求めました。

NEXT:第Ⅱ章 各パートから出された主要な論点2.院生協議会の主要な論点

2.院生協議会の主要な論点

院生協議会からは、(1)グローバル化について、(2)施設整備について、(3)院生のキャリアパスについて、(4)大学院学費について、以上の4点の論点提起がありました。具体的には以下のとおりです。

(1)グローバル化について

院生協議会は、「大学のグローバル化」を取り上げました。具体的には、大学が積極的にグローバル化を推進する中で、文化的・社会的な背景の違いによって生じる課題への対応や、外国語学習支援における英語以外の言語の取り扱いについて、大学に見解を求めました。その際に、具体的な課題として以下の4点を取り上げました。

  • 学内窓口における留学生対応の改善として、留学生との母語ではない日本語によるコミュニケーションに起因して生じる認識違いの対策を図ることを求めました。
  • パートナーを帯同した(日本で安価な賃貸住居契約のハードルが高い)短期留学生への住居支援として、インターナショナルハウスの入寮条件の緩和を求めました。
  • 留学生の増加を背景として、留学生が標準と考える大学の研究環境(施設の24時間利用等)の整備の一つとして、図書館等の学内研究施設の利用時間の延長について見解を求めました。
  • 英語以外の言語習得を希望する院生に向けて、外国語講座もしくはe-learningによる外国語講座の開設を求めました。

(2)施設整備について

衣笠キャンパス究論館開設やOICリサーチコモンズの整備等、大学による院生のリサーチコモンズ整備状況について確認したうえで、各キャンパス間の研究施設整備における機能や条件の違いについて大学に見解を求めました。その例として以下の2点を指摘しました。

  • 衣笠キャンパス・OIC共同研究室内の座席不足解消について
    人文・社会系の院生にとって、個人で利用できる研究スペースの確保は重要であり、改めて共同研究室の座席不足の解消を大学に求めました。
  • 朱雀キャンパスのプリントステーションの機能について
    現状、朱雀キャンパスでは、他キャンパス所属の院生に加え、教員・職員が利用できる印刷施設が整備されていないことを指摘し、印刷施設の利用制限の解除にむけて大学の見解を求めました。

(3)院生のキャリアパスについて

院生協議会は、「初任研究員制度」や「博士論文出版助成制度」等のキャリアパス推進支援制度の高度化を肯定的に評価し、今後も安定的に制度が維持されることを要望しました。その中で、「博士論文出版助成制度」の春学期の申請期間の見直し、助成金の支払い手続きの改善(助成金が院生を経由することなく、大学から出版社に直接支払われるように改善)を要望しました。また、制度とその運用について大学と協議する場を確保することを求めました。さらに、アカデミックキャリア以外を希望する院生の就職支援について、学生と同程度の支援を継続することを求めました。

(4)大学院学費について

院生協議会は、2021年度の大学院学費が据え置かれたことを高く評価し、現行学費を2022年度以降も継続することと合わせて、キャリアパス推進制度の維持とさらなる高度化を要望しました。

3.教職員組合の主要な論点

教職員組合は学生の学費政策について、RS2019特別号において具体的な学費値上額の不記載は不誠実であるとし、学費の重みの認識、維持されるとされた現行の教学政策・教学条件の重要性と成果の説明、寄付金政策など学費への依存度を下げる取り組みといった点での大学の説明は不十分であると指摘しました。そのうえで、「仕送りの減少やアルバイトの増加、消費税増税の影響などの学生実態を踏まえれば、学生や父母にさらなる負担を強いる学費値上げは慎重に判断するべきである。実質的な学費負担増を伴う今次の学費提起は教学・学生生活支援と一体の議論として展開されていないことに根本的な問題がある」とする見解を表明しました。加えて、今後の全学協議会議論に向けては学費を社会的に公表する前に各パートと各種懇談会や全学協議会代表者会議等で協議することを求めました。

4.立命館生活協同組合(オブザーバー)の見解

全学協議会の議論にあたって、立命館生活協同組合が実施している学生実態調査での学生の仕送り額の減少傾向やアルバイト収入の増加といった学生実態を踏まえて議論を進めることが重要であり、学生・院生・教職員などの組合員を支える立場から協議に参加するとの見解表明を行いました。

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