Reportレポート・参加者の声

「めげず、たゆまず、未来をひらこう」安斎育郎国際平和ミュージアム名誉館長のお話

3月11日(金)に開催した「3.11追悼企画いのちのつどい」の追悼式にて、安斎育郎国際平和ミュージアム名誉館長よるお話について、ご報告致します。

安斎育郎名誉館長は、東日本大震災発生以降、毎月福島県を訪れ、放射線環境の調査・提言に取り組む「福島プロジェクト」の活動をされてこられました。
その活動から感じておられる思いと、未来への展望をお話くださいました。


▼以下、お話の内容(原文)

3/11 いのちのつどい「追悼セレモニー」挨拶

めげず、たゆまず、未来をひらこう

安斎育郎(立命館大学名誉教授/福島プロジェクト・チームリーダー)

5年前の今日、東北地方を襲った巨大な地震と津波は、日本の原発の心臓部あるいはアキレス腱ともいうべき「緊急炉心冷却系」の機能を奪い、炉心溶融や水素爆発を引き起こして大量の放射性物質を放出させました。5年経った今なお、放射能は生活圏のそこここに残り、がん発生の危険といった身体的影響への不安だけでなく、根深い心理的不安となって故郷(ふるさと)への帰還意欲を萎えさせ、被災した地域社会そのものを消滅させる恐れさえある深刻な事態をもたらしています。それはまた、被災地の外でも、被災者に対する偏見や差別、被災地に対する風評被害の原因となっていることはご承知の通りです。

私が福島の人々とともに原発批判に取り組み始めたのは44年前のことですが、結局このような原発災害を防げなかったことを今でも悔やみ、自責の念に囚われています。いま、毎月福島を訪れ、保育園や公共施設、さらには、求めに応じて一軒一軒の民家を回って放射線環境を調査し、不安や疑問に答えながら、被曝のリスクを減らす具体的な方法を提言する「福島プロジェクト」に取り組みつつ、3つのことを感じています。

 第
1に、「事故現場を見に行けない」という原発災害の特徴ゆえに、事故原発の内部の様子はいまだに解明できず、廃炉には「40年」とか「780年」といった予想が取り沙汰されています。70万トンを超える汚染水や、10万か所を超えて保管されている除染廃棄物の最終処分の問題も、人々を不安にさせています。これらは、私たちの前に深刻な事態が今も厳然と残されていることを示しています。廃炉を計画的に進めるためにも、力量のある原子力技術者の養成は社会的急務ですが、その見通しも定かではありません。


 第
2には、被災地で暮らす人々の放射線環境は、除染によってかなり改善されつつあるものの、帰還困難区域はもとより、原発から遠く離れた地域でもホットスポットが随所に残っており、実態を科学的に把握し、被曝を減らす努力が引き続き不可欠だと言わなければなりません。昨年10月に訪れた浪江町の帰宅困難地区の民家の庭先の土からは「1キロ当たり220万ベクレル」の放射能が検出され、先月訪れた福島市内の民家は、原発から60キロメートル離れていますが、雨樋の下の土には1キロ当たり17万ベクレルの放射能が検出されました。「福島プロジェクト」は、今後も毎月の放射能調査を続け、被災者の生活を支えていきたいと考えています。


 第
3に、そうした中で暮らす人々の被曝は、幸い、放射線影響の発生を深刻に懸念するような状況ではないということです。ややもすれば、「福島=放射能汚染」と決めつけ、「がんや奇形が続々発生するのではないか」といった実態を全く無視した考えに陥り、反人権的な差別や偏見や風評被害を助長するような傾向が、この5年間事実ありましたし、今も執拗に残っています。平和学的に言えば、こうした行為は暴力に他ならず、理性とは対極あると言わなければならないでしょう。

 
 私は、事故直後から、「隠すな、ウソつくな、過小・過大評価するな」と訴えるとともに、「事態を侮らず、過度に恐れず、理性的に向き合おう」と語りかけてきました。これらの視点は、ひきつづき大変重要であると確信しています。そして、事故の原因とその責任を厳しく追及しつつも、今も大きな不安の中で現に生活している数多くの被災者とともに生活環境の改善にいっそう努力し、ともに悩みながら安心な未来づくりに手を携えていきたいと思います。

 学校法人・立命館は、
2006年、「立命館憲章」を制定し、その中で、立命館は、人類の未来を切り拓くために、学問研究の自由に基づき普遍的な価値の創造と人類的諸課題の解明に邁進する」こと、そして、「教育にあたっては、建学の精神と教学理念に基づき、『未来を信じ、未来に生きる』の精神をもって、確かな学力の上に、豊かな個性を花開かせ、正義と倫理をもった地球市民として活躍できる人間の育成に努める」ことを宣言しました。私は、今後とも立命館学園が自然・社会・人文諸科学の総合的な視点から、未曽有の原発事故を伴う東日本大震災の本質の科学的解明に貢献するとともに、学園が、災害復興支援室の積極的な役割をも期しつつ、科学的認識力と豊かな感性をもって被災地域の人々ともに自由闊達に新たな地平を開拓する若い世代を育むことを心から期待して、私のメッセージといたします。

 ありがとうございました。