Reportレポート・参加者の声

福島から安心・安全なおいしいお米を届ける

 2011年の東日本大震災から今年(2022年)で11年。11年も経てば、福島県をはじめ東北のニュースは3.11の特集か原発のニュースがほとんどである。そのため、関西に住む私たちの多くはだんだん関心が離れていってしまう。私もその一人だ。
 「チャレンジ、ふくしま塾。」4期生は、そんな若者たちが福島県に興味を抱けるような情報を発信することで、福島県の関係人口増加を目的に活動している。その一環として、今回は福島県で活躍されている方にインタビューし、少しでも「ふくしまの今」を知ってもらうために情報発信を行う。


 は福島県は日本屈指の米どころ。震災前は米の生産量ランキング4位である(参照:農林水産省 平成22年産作物統計より)。福島県は寒暖の差が大きいために米栽培に適した土地である。今回インタビューさせていただいた豊田寿博さんも、福島県南相馬市でお米農家を営んでいる一人である。おいしいお米をつくるために農家になった豊田さんが、震災後の困難を経て、毎年完売するほど大人気なお米を作るまでの物語を伺った。(インタビューは2021年に実施)


左:豊田寿博さん 右:「チャレンジ、ふくしま塾」メンバー

左:豊田寿博さん 右:「チャレンジ、ふくしま塾」メンバー

料理人から有機農家へ

 江戸時代から何代も続く米農家に生まれた豊田さん。高校卒業を経て、大手有名チェーン店で働きはじめたものの、量より質にこだわった農薬を使わない有機農法などの米作りに対する祖父の思いに感銘を受け、2007年農家になることを決意した。有機農法をはじめた当初は、ほとんどお米がとれなかった。しかし、合鴨農法を取り入れるなど試行錯誤することで、全国に顧客がいる有名なお米になった。そんな最中、震災が起こった。


インタビューの様子

インタビューの様子

もう一度お米を

 2011年、東日本大震災が起こった。豊田さんたちは宮城県に避難をした。南相馬鹿島地区は原発30km圏外であったため、地区の学校は4月に再開した。しかし、放射線の危険からお米は作れなかった。豊田さんは避難先で農業の仕事を探したが、見つからなかった。そこで、料理人の経験を活かし、ファミリーレストランに履歴書を送った。すると、ファミレスの会社の社長秘書の目に止まり、「うちの亘理ファームで農業やらないか?」と声をかけられた。亘理ファームで働いた後も、果物や野菜を使った商品を扱うカゴメのトマト栽培など農業に関わり続けた。
豊田さんは、
 「神様がいるならば、僕の役目は農業に関わることだ。
    神様が農業を続ける道を仕向けてくれた。じゃないと、今も米を作っていなかっただろう。」

と、農業を続けるターニングポイントになったと当時を振り返った。
 その後、南相馬に帰ったが、すぐには米作りを再開できなかった。それでも、米を作ろうと思えたのには、またも祖父の存在が大きかった。祖父は震災後も田んぼを耕し、管理を続けた。豊田さんはそんな祖父の姿を見続け、2年の試験栽培を経て、2018年に南相馬で念願の米の作付けを再開した。


豊田さんの田んぼ

豊田さんの田んぼ

顧客0人の状況から大人気のお米へ

 無事に米作りを再開させたが、一筋縄には行かなかった。風評被害の影響もあり震災前の顧客は0になっていた。手紙を出したり、顧客を一軒一軒訪問するなど地道に営業を行った。訪問先にお米を置いても捨てられることもあった。新しく始めたお酒作りでは、蔵に放射線が拡散しては困ると断られることもあったが、震災以降お米の品質が下がったわけではなかった。地道な活動が実を結び、豊田さんのお米のおいしさが伝播していった。今では、毎年完売するほど大人気のお米になっている。

活気のある南相馬へ

 豊田さんに今後の展望を伺った。震災と高齢化の影響で、南相馬の離農者が多い。豊田さんは、もう一度南相馬を農業で活気づけたいという思いから、観光農園の開業に挑戦している。観光農園では、宿泊施設を併設することで、県外からの観光客も南相馬での農業体験が可能になり、より多くの観光客を誘致したいと考えている。同時に、観光農園としての運営を拡大することで新たな雇用が生まれる。そして、かつての住民たちに発展を遂げた南相馬に帰ってきて欲しい。豊田さんの農業で南相馬を活気づける挑戦は今後も続く。


施設見学の様子

施設見学の様子

関西に住む大学生へ

 関西から遠く離れた地にある福島。私たちは、福島で活躍されている方々にインタビューを行った。すべての方に、関西に住む大学生に向けてお言葉をいただいた。
豊田さんは、
 「まずは福島に来てください。直接、人、食、文化を感じ取ってもらいたい!」 と言う。
また、
 「若いときに自ら行動し挑戦してほしい。
    浜通りは、外部の人が入りやすくサポートが充実している。福島が挑戦の場になってくれれば嬉しい。」

と伝えた。
 今の世の中では、行動しなくてもインターネットで調べれば大抵のことはわかった気になれてしまう。だが、行動しないと本当のことは分からない。福島の人たちは、魅力的で温かく、とても優しい。そして新しく相馬を開拓する人たちの拠り所となる、宿泊できるコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」に代表されるように、震災以降地域に入り新規事業に挑戦する人に向けた支援が充実している。ぜひ、一歩を踏み出したい大学生は福島で挑戦してほしいと思う。


福島の田んぼ

福島の田んぼ


 今回のインタビューにご協力いただいた豊田さん。この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました。また、今回の企画をサポートしていただいた災害復興支援室、現地コーディネーターの新田さん。ありがとうございました。


理工学部3回生
辻岡歩夢


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