Norihisa Yamashita × Ichiro Maekawa × Miwa Hirono (Japanese history & language) 教員対談

04 歴史と社会を多様な観点で見つめることで
世界の複雑さに敏感になる

グローバル化の進展により、日々刻刻と国際情勢が変化する現代において歴史・社会を学ぶことはどのような意義を持っているのか。歴史や社会学、国際関係学の観点から、世界の多元性と普遍性を紐解く教授陣にグローバル教養学部(以下、GLA)におけるCivilization Studiesの狙いを語ってもらった。

対談シーン

「当たり前」を打破し、新たな視点を身につけるGLAのCivilization Studiesとは?

山下

今回はGLAで扱う3つの学びの領域の1つ、Civilization Studiesとはどういったものなのかを考えたいと思います。

GLAのカリキュラムはCosmopolian Studies、Civilization Studies、Innovation Studiesと三つの柱を立てつつ、それらの柱の間に相互に貫入する関係を意識してデザインされています。そこで今回は、Civilization Studiesの科目を担当する前川先生と私にくわえて、Cosmopolian Studiesで関連の深い科目を担当なさっておられる廣野先生にも加わっていただきました。

私の主たる研究分野は、「歴史社会学」です。歴史学に社会理論を中心とした社会学的な観点を取り入れ、個々の歴史的事象をつなぎ合わせることで、歴史が社会に与えたインパクトをよりマクロな視点で分析する。そして、大きなスパンで歴史をとらえ、現代がその中でどのような時代になっているのかを評価できるようにするのが歴史社会学の目標です。

前川

私は、どちらかというと伝統的な歴史学を専攻しています。専門は、イギリスの帝国主義、植民地主義、脱植民地化の歴史です。私は、過去にいったい何が起こったのかを探求する歴史学という学問が大好きです。過去に自らを語らせるプロセスはじつに楽しい。その楽しみは、おそらくシャーロック・ホームズが未解決事件を解決する際に味わったに違いない楽しみに似ているかもしれません。

廣野

私が扱っているのは中国の国際関係です。これまでは米国一強であった国際秩序が、徐々に中国中心に変わりつつある。その中で中国が果たすべき「大国の責任」を小国、すなわち大国から援助を受ける国の目線から考えます。様々な発展途上国に赴き、市民団体、メディア、商業団体、官僚や研究者への取材を通して、新たな世界秩序の全体像を見極めようとしています。

山下

ありがとうございます。GLAの授業ではどのような内容を扱われていますか。

前川

担当している1年次の必修科目「Civilizations in Global History」では、高校まで日本史や世界史を学んできた学生たちに対して、歴史とは何か、どのように見ればいいのかという基本的な話をしています。一つの観点からの分析だけでは決して見えてこないものがある、と知ってもらうのが狙いです。例えば、西洋中心主義の世界観。よく指摘されているように、高校までで学ぶ歴史の授業に染み付いた世界史像です。しかし、こうした歴史観は、世界史の事実として問題があります。それは、ダイナミックなグローバルな歴史を見落としている。「前近代」の歴史の重要性や、非国家主体が果たしてきた役割や、何よりも非西洋世界の歴史的な特徴が抜け落ちています。そればかりか、西洋中心の構造にパラダイムシフトが起ころうとしている現在を理解する方法としても問題含みでしょう。だから、これを考え直してみる必要があります。そこでこの西洋中心主義史観が持つ様々な問題を議論し、新しい世界史のアプローチにはどんな形があるのか、近年のグローバル・ヒストリーの展開に着目して考えてみよう、という授業です。

廣野

私が担当するのは「Critical Area Studies」という授業ですが、前川先生とよく似た考えに基づいて展開しています。大学に入るまではアジア史やヨーロッパ史など地域に紐づいた考え方を学んできます。ですが、地域の概念は最初から存在するものではなく、歴史的・政治的・文化的に創り出されたものであり、何らかのコンセプトに基づいています。そこに気づき、どのように「地域」という考え方が生み出されたのか、なぜ1つの地域としてみなされているのかを皆で考えています。この授業を通して、学生には当たり前だと思っている概念をクリティカルに考え直す力を身につけてほしいと思います。

山下

これまで学生たちが教わってきた考え方に疑問を呈し、新たな視点を提供する点で共通していますね。私の担当する「Macrohistory and Metahistory」という授業も似た観点をベースにしています(このタイトルの科目は、おそらく世界中でGLAにしかないだろうと思います)。「Macrohistory」の部分では、個々の歴史的事象の分析ではなく、それらの出来事を俯瞰して歴史を大きく捉え、分析する視点としてどのような種類や着眼方法があるのかという「物の見方のパターン」を取り扱っています。「Metahistory」の部分では、歴史のコンテンツそのものではなく、「記述」に焦点を当てて歴史学を分析しています。歴史は一つの物語として表現されます。その時、起こった出来事の内容そのものよりも、書かれた形式の方が大きな意味を持ってきます。同じ出来事でも悲劇として描かれるか、喜劇として描かれるかによって捉え方は180度変わります。このような物語性の部分に焦点をあてる視点を学ぶことで、歴史から現代を評価する際に気をつけるべきポイントを見つけます。

対談シーン
対談シーン

GLAで歴史・社会を学ぶ意義とは?

前川

結局は「物事を無批判に受け入れるのではなく、批判的思考回路を持つ」ことですよね。私は歴史を考える授業を通じて、このメッセージを最も届けたいと思っています。西洋中心的な歴史観だけに縛られてしまってはいけない。かと言って、「アジア中心」や「イスラーム中心」などと、逆転してしまうのでもない。色々な考え方、視点で、一つのことを見てみる。そして、様々な考え方の共通点・違いを総合した上で、「こうである」という自分なりの結論を持つところまで到達してもらいたいですね。

山下

そうですね。批判的思考は大学での学びだけでなく、社会で生きていく中でも大事ですよね。加えて、議論をする上でのマナーも重要です。学問の場なのだからとりあえず意見をぶつければいいとか、考え方も文化的背景も異なる人間の集まる場なのだから何を言ってもいいという訳ではなく、お互い自分が生まれ育ったコミュニティを背負った人格的存在だと忘れずに議論できるような、最低限の礼節を持つことはとても大切ですね。

廣野

多様性と言うと「違いを認めること」ばかりがクローズアップされますが、共通点を見つけることもとても大事だと思います。様々な違いを持った人でも、「こんなに共通するものがあるんだ」と体感することがお互いへのリスペクトにつながる。そういった関係が構築できれば「これは西洋の考え方の押しつけだからいらない」と考えるのではなく、より根源的な議論ができるのだと思います。本質的な話ができれば、多様な視点を統合した上で自分たちなりの考え方にたどり着けるのではないでしょうか。

対談シーン
対談シーン

Civilization Studiesから見た「グローバル」とは?

前川

西洋中心とかアジア中心といったバイアスに無自覚ではいけない。それらのバイアスがどうして生まれたのか、その関係性や複雑な歴史的文脈を知る学びや議論が、GLAのいう「グローバル」だと思います。

廣野

おっしゃる通りだと思います。私が研究対象としている中国に関しても、「新・冷戦」がまことしやかに言われます。これも結局「アメリカ対中国」という二極を軸に考えられており、そこだけでは真実は見えてこない。GLAではそういった世間で当たり前だと思われていることを批判的に捉え、様々な異なる角度からアプローチする思考の道具を提供できればと思います。

山下

前川先生と廣野先生がおっしゃったように、GLAのグローバルは「英語で」とか「海外で」ということを意味するのではありません。特定の中心から世界を見る見方を脱し、世界は複雑で多元的にできていることに敏感であれという思いが込められています。

前川

そのような複雑な社会を素材に学びを展開するGLAは、答えが用意されている高校までの学びとは全く異なります。学生はもちろん、教員も答えを持っていない中で手探りの状態です。だから教員が提供できるのは「答え」ではなく、「多様な視点」しかない。我々がこれまで培ってきたものの見方を伝えつつ、学生と一緒に楽しんだり悩んだりしながら考える。その中で自分なりの発見をする面白さを学生たちは分かってくれていると感じます。

廣野

これまで全く別物だととらえていたものが異なる角度から見ることでつながる。そんな時の学生が見せる目の輝きはやっぱり印象的ですよね。実は私たちが学生からこれまでになかった考え方を教わっていることが多いです。GLAは教員が学生に教えるという形ではなく、共に学びあう「ラーニングコミュニティー」ですよね。

山下

おっしゃるとおりですね。一方的に教えるのではなく、多様な視点を共有するという感覚が強いです。コミュニケーションを通じて、学生たちが曖昧模糊とした自分の思考を説明する言葉を見つけた時の感動に触れた時、学びあいが上手くいったと感じますね。学生の皆さんが私たち教員の伝えた多様な視点というツールを活用し、新たな世界を切り拓いてくれることと期待しています。