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本研究科修了生の杉本岳史さんの研究が「International Journal of Molecular Sciences」に原著論文として掲載されました

2021年度にスポーツ健康科学研究科博士課程前期課程を修了した杉本岳史さんが、スポーツ健康科学部 教授 橋本健志先生、大阪工業大学 教授 中村友浩先生、藤里俊哉先生、講師 横山奨先生、立命館大学理工学部 教授 小西聡先生らと共同で取り組まれた研究論文「Investigation of Brain Function-Related Myokine Secretion by Using Contractile 3D-Engineered Muscle」が、「International Journal of Molecular Sciences」に原著論文として掲載されました。

https://www.mdpi.com/journal/ijms/special_issues/Adipokines_Myokines_Exercise

https://www.mdpi.com/1422-0067/23/10/5723

 

プレスリリースはこちら

https://www.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=537640&f=.pdf

https://www.ritsumei.ac.jp/profile/pressrelease_detail/?id=660

 

脳機能関連マイオカインである乳酸、IrisinCathepsin BCTSB)は、脳の活性化に関与する脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を制御する上流因子であり、運動により骨格筋から分泌されます。しかし、IrisinCTSBが筋収縮によって分泌されるかどうかについては、未だ明確な結論は出ていません。三次元骨格筋培養細胞(以下、3D-EM)は、骨格筋収縮がIrisinおよびCTSBを分泌させるか否かを明らかにするのに貢献する可能性があります。従来の 2D 培養細胞では、薬物添加により運動を模倣することでIrisinおよびCTSB分泌を検討したものの、機械的な「筋収縮」を模倣できていません。我々は、電気刺激(EPS)により誘発される筋収縮がIrisinおよびCTSBの分泌に及ぼす影響を3D-EMで検討することを目的としました。

C2C12筋芽細胞と1型コラーゲンゲルからなる3D-EM2週間分化させ、EPS無しのコントロール群とEPS群に分け実験を施行しました。その後、培地中のIrisinCTSBの分泌量を測定しました。その結果、Irisin分泌量はEPS後に有意に増加しました。しかし、CTSB分泌量には両群間に有意な差は見られませんでした。本研究により、Irisinは収縮筋由来のマイオカインである可能性が示唆されましたが、CTSB3D-EMにおけるEPS誘発筋収縮刺激では分泌されないことが明らかとなりました。

 

近年、動物倫理問題の観点から、再生医療のみならず健康科学分野においても、組織工学に基づく「動物フリー」の新規3次元培養モデルの利用が求められています。本研究では2D培養細胞よりも成熟している3D-EMでのマイオカイン分泌を検証するプラットフォームを確立しました。近年、多数のマイオカインが運動に応じて産生され、体内を循環して標的組織や臓器に作用する「真の万能薬」として機能しています。特にIrisinの生理的性質については、例えば、様々な組織や臓器の維持に役立つ健康効果が示唆されています。このように、EPSによるマイオカイン分泌の効果を検討することは、健康に役立つ運動処方の開発に役立つと考えられます。それだけでなく、栄養素材や薬剤添加はマイオカインの分泌に関連することから、3D-EMによるマイオカインなどの運動誘発性分泌因子に関する多角的な研究が進めば、運動の重要性を示すだけでなく、運動の実施が困難な慢性疾患患者に対する創薬・栄養素の開発への貢献が期待できます。


(ニュース)20220523-1