在学院生・修了生の声

仮面が持つ新たな作用を
映像人類学的な視点から探求

中田 翔子

嵯峨大念仏狂言における仮面の作用 -嵯峨大念佛狂言を事例として-

志望動機

立命館大学大学院・映像研究科に進学しようと思った動機は何ですか?

 映像学部の「卒業研究」を進めていく中で、どんどん学びが面白くなってきてもっと勉強してみたいと感じたことから進学を考えました。大学院でも同じ研究分野を専攻したいと思っていたため、私の研究についてよく理解をしてくださっている先生方がいる立命館大学の映像研究科に進学をすることを決めました。また、自分の研究とは別に、本来学部生が対象の学芸員課程を取りたいと考え始めていました。事務室の職員さんに相談をしたところ、大学院生でも受講できるように取り計らってくださいました。大学院進学を決めた理由の一つに、学生ひとりひとりの声に耳を傾けてくださる職員の方々がいることも大きかったです。
 立命館大学大学院映像研究科には、豊富な機材・設備、熱心に指導してくださる先生方、そして学生のサポートをしてくださる職員の方々という、学びに必要な環境が揃っており、大学院選択に迷いはありませんでした。

研究内容

研究内容を教えてください。

 私は学部の3回生の時に仮面を着けたパフォーマンス集団と出会い、衝撃を受けました。仮面というモノをかぶっていることで、中の人が私たちと同じ日本人であると分かっているはずなのに、別の民族、または人間ではない何かに感じてしまうほど、仮面の持つ力を感じて、そこから仮面について関心を持つようになりました。その出会いから卒業研究の対象にさせていただき、研究を進めていくなかでもっと仮面について知りたいと思ったため、大学院でも仮面の持つ作用について研究をすることにしました。
 現在の研究対象は、京都嵐山に位置する清凉寺境内にある狂言堂で活動をしている「嵯峨大念仏狂言保存会」です。嵯峨大念仏狂言は、一般的に言われる能狂言とは異なり、すべての演者が面を着け、身振り手振りで表現をする無言劇です。また、演者も囃子も裏方もすべて民間人の手で行われている点も特徴です。その歴史は古く、室町時代から江戸時代には面を着けた狂言が上演されていたということが分かっています。戦後の1963年に一度途絶えてしまいましたが、1975年に保存会が結成され、1986年には国の重要無形民俗文化財に指定されました。
 従来の仮面研究では、仮面の象徴性に関するもの、仮面のエージェンシーについて考察するもの、仮面の他者性について論じたものなどがあります。このように仮面は、用いられる場所、集団、用途によって多様な作用をもたらすものであるため、その集団、地域ごとに独自の作用が存在すると考えられます。そこで私は、嵯峨大念仏狂言保存会で仮面の新たな作用を見つけられると考えています。その作用とは、嵯峨大念仏狂言における仮面が、保存会が活動していく上でのルールとして存在し、また日常を生きていくためのペルソナを脱がせる機能を持っているというものです。私はこの仮説を、人類学的調査方法に基づいて明らかにしていきたいと考えています。

修士論文・制作の構想について教えてください。

 私はこの研究を映像作品と論文という形で提出する予定です。映像作品では、毎週通っている稽古の様子や定期公演といった保存会の活動、また日常での姿を記録し、仮面の作用という目に見えないものを映像という言葉では語ることの出来ない媒体で提示したいと考えています。そして、その分析を論文で行い、芸能やパフォーマンスといった場における仮面の作用をまとめることができたらいいなと考えています。
 この研究は、私一人で出来るものではなく、研究対象の方々のご協力あっての研究です。卒業研究の対象にした方々とも今でも関係は続いていますし、微力ながら活動のお手伝いもさせていただいています。研究のための関係ではなく、研究を超えた関係を築いていけることが、本当の意味でのそのフィールドの研究者となれると思うので、今までに出会った方々との繋がりをずっと大切にしていきたいと思います。

研究を進めるうえで、映像研究科に進学して良かったと思う点は何ですか?

 映像研究科では、どの講義も学生の研究に絡めて進めていってくださいます。第一回目の講義で各々研究について話をし、それを踏まえて先生方がこういうふうに進めていこうと考えてくださるので、本当の意味で学生と先生とが共同で作り上げる講義だと言えると思います。そのため、どの講義も自分の研究に繋がって様々な視点で物事を考えることが出来たので、どの講義も非常に濃い時間を過ごすことができました。また、映像研究科は先生方と学生の距離がとても近いことも特徴だと思います。自分の指導教員ではない先生も、自分の研究について知ってくださっていたりとか、すれ違えば「最近どうだ?」と声をかけてくださる先生も多くいます。そんなアットホームな環境だからこそ相談もしやすく、様々な専門の先生方と話せることでその都度新鮮な意見を頂くこともあり、とても良い環境に身を置くことができているなと日々実感しています。

将来

修了後は、どのような進路を考えていますか?

 大学の卒業研究、そして大学院の修士研究で、映像による記録をしていく中で、何かを残していくこと、そしてそれを広く伝えることに関心を持ちました。そこから博物館のような、モノを収集し、後世に残すために保管し、さらにそれを人々に役立つように活用している場所で働くことができたらと考えています。まだ、具体的に絞ることは出来ていませんが、研究で初めての場所へ行って、そこの人たちと関係を作っていく中で、人と直接つながることが出来る場所が好きなんだろうなと感じています。自分で歩いたり、話したりしていろんな人たちと繋がることができる場所で、映像学部・映像研究科で学んだことを活かすことができる仕事をしたいです。

メッセージ

受験生へのメッセージをお願いします。

 大学院進学を決めた際、正直就職をすべきなのではないかとも考えました。ほとんどの同級生は就職活動をしていたので、大学院へ進学するとみんなより社会に出るのが2年遅れるわけです。しかも、進学したからといって良い就職ができるという保証もないので不安な気持ちはありました。しかし、今大学院で1年を過ごして、進学をして本当に良かったと思っています。大学4年間よりずっと濃い学びが出来、自分のやりたいことにじっくりと取り組むことが出来ます。研究は難しくて大変ですが、好きなことに打ち込めるのはとても楽しいです!もし、もう少し勉強したい、研究を深めたいと少しでも思うならば、是非大学院へ進学して、自分のやりたいことを突き詰めて2年間頑張ってみてください。きっと大学4回生のときには見えていなかった自分の可能性を広げることができるはずです。

在学院生・修了生の声