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NPOは社会における「炭鉱のカナリア」
レントゲンを撮って診断し、課題をあぶり出す

取材時期:2021年

インタビュー

NPOは社会における「炭鉱のカナリア」<br class="pc">レントゲンを撮って診断し、課題をあぶり出すのサムネイル
  • 人間福祉研究領域秋葉武教授

研究テーマについて教えてください。

秋葉

NPOについての研究です。NPOの経営や雇用の仕組みなどを調べながら、NPOがどのように存続していくか。主に、ヒト・モノ・カネの研究ですね。基本的に、NPOは民間企業のように大きな収益をあげることができないため多くは自転車操業で、いかに資金調達するか、収入源のマネジメントが課題となっています。

NPOの収益源は大きく4種類あります。成長段階に合わせて、4つの収入源を使い分けています。1つ目が、会員から徴収する会費、寄付金。2つ目が、自治体や民間の財団から得る補助金、助成金。3つ目が、行政からの受託事業収入。例えば、自治体のスポーツ施設を民間に運営委託する際、その運営の受託費ですね。4つ目が、グッズを作って販売するなどの自主事業収入。一例を挙げると、環境保全団体「WWFジャパン」のパンダのロゴのTシャツが有名です。

多数のNPOに関わっていますが、それらの活動は研究に反映されているのでしょうか。

秋葉

現在、NPOの理事に加えて、だいたい年間2団体、これまで合計20団体ほどのコンサルタントを行ってきました。私自身がNPOで働いていたこともあり、研究の上で実践的な活動は不可欠だと思います。

コンサル業務では、最初に組織診断を行い、次に組織開発や人間開発に移ります。組織診断は、人間でいえば健康診断。体調不良の際、病院に行かず自己診断で薬を服用していると、重大な病気を見逃してしまう危険性があります。組織も同じで、レントゲンを撮るように、外部から問題を診断し、課題をあぶり出しています。

多くのNPOは資金不足に苦しんでいて、「どうすれば収入が増やせるのか」と悩んでいます。しかし、悩みの裏には、別の問題を抱えていることも少なくありません。「職場の人間関係が悪いためにビジネスチャンスを逃し、結果として資金不足に苦しんでいる」などです。コンサル業務では、スタッフへのインタビューやワークショップを行いながら、組織の改革を進めていきます。

最近の興味関心は?

秋葉

2020年~22年頃までの大きなテーマは、「新型コロナ禍における、NPOのビジネスモデルの変化」です。新型コロナウイルスの感染拡大は、NPOにも大きな影響を与えました。対面で人と接することが難しくなり、これまでのような活動を続けられなくなりました。

例えば、無料や低価格で子ども達に食事を提供する「子ども食堂」でも、今まで通りの活動ができなくなりました。そこで生まれたのが、「子ども達にお弁当を配達する」という代替案。時短営業の影響を受けた居酒屋から食材を提供してもらうといった、新しい活動も始まりました。

コロナ禍で子どもの困窮が話題になったことで、子どもやシングルマザーに関するNPOには企業や個人から多額の寄付金が寄せられました。一方で、オーケストラなどのアート系NPOは、不要不急として寄付金を切られてしまう傾向があり、厳しい状態が続いています。

ゼミの院生はどんな研究をしていますか?

秋葉

例えば、中国からの留学生が動物愛護のNPOの研究をしています。NPOに関する研究テーマは、時代性を受けて大きく変わる傾向にあり、最近では、動物愛護に関するNPO や、LGBTQに関するNPOが増えてきたと感じています。

NPOは、社会における「炭鉱のカナリア」と表現されることもあります。1900年代初頭、炭鉱労働者は、一酸化炭素中毒の危険から身を守るため、カナリアを伴って坑道に潜っていました。子ども食堂は、まだ子どもの貧困が社会的に問題視されていない時代に、地域の人が複数人で始めた取り組みでした。やがて全国に広がり、メディアに報道されたことで社会的反響を呼ぶことで、政府が調査に乗り出し、子どもの貧困対策法などにつながっています。

近年、社会的関心の移り変わりに応じて、NPOの活動も細分化していると感じます。背景には、インターネットの普及もあるでしょう。地域の小さな課題もSNSなどで拡散されることで表面化し、各地の支援者同士がつながって、組織や活動が生まれやすくなっています。